UvⅦ~Team Uletět vs. Ⅶth PS Club~
「今日は練習試合を申し込んできましたよ!」
「練習、試合……?」
「ほう、腕が鳴るな」
「待って待って、練習試合ってどういうことよ」
とある放課後。
スズメの口から突然出た言葉にカレルを除くウレテット全員に動揺が走った。
「そろそろ、今までとは違った雰囲気のチームと戦いたいじゃないですか! なので知り合いの装騎部にですね……」
「それはそうだけど……っていうかスズメの知り合いってもしかして」
「ステラソフィア女学園の第7装騎部です!」
「ほう、ステラソフィア! 中々骨の有りそうな相手だな」
「って勝てるわけないでしょ!」
「何言ってるんですか! ステラソフィアと言っても進学科の生徒たちですし、ウレテットだって着実に力を付けています。あとは全力を出し切るだけです!」
スズメの言葉にカレルも頷く。
「そうだぞカナール。やる前から諦めてどうする。まずは全力勝負。話はそれからだ」
「…………珍しくまともなことを言ったわね」
「俺様はいつもまともだぜ」
カナールはカレルの頭を小突くと言った。
「分かったわ。受けてやろうじゃないの!」
「レオシュさんもレイちゃんもいいですよね?」
「うん。ステラソフィア装騎部とのバトルかぁ。ワクワクするね」
「い、いっしょーけんめいがんばりますっ!」
と、いうことで所変わってマルクト共和国首都カナンの装騎中央公園。
首都カナンの中央にある公園で、あのマルクト神国崩壊の戦いに於いてスズメがマリアと戦った場所でもある。
かつてシャダイタワーがあった場所は瓦礫の山に変わってこそいるが、一部の生きている施設は現在も利用が可能だった。
そんな施設の内の1つが今回、練習試合のバトルフィールド。
「わぁ、久々に来ましたねぇ。新歓以来です!」
「そっか。ステラソフィアの新歓の決勝はここでやるもんね」
スズメの言葉にイマイチ言葉を返しづらそうな面々を差し置いて、さらっとそう言うのはレオシュだ。
「でもまさか、ここでバトルができるなんてね……」
「は、はい……騎使の憧れ、ですよね。ここで戦うのは……」
レイの言う通り、様々な有名な大会が開催されるこのバトルフィールドで戦うと言うことは名誉あることなのだ。
「待たせたわね」
雑談をするウレテットに、そう声が投げかけられる。
「いえ、早めに来ていただけですから」
ステラソフィア進学科の制服である緋色のブレザーを身に纏う6人組。
彼女たちが今回チーム・ウレテットと試合をする第7装騎部の一同だった。
ウェーブがかった長髪の女性が1歩前に出るとその手を伸ばす。
「ワタクシはステラソフィア女学園第7装騎部部長、ズムウォルト・パーピュアです。よろしくお願いいたしますわ」
そう名乗る進学科4年のズムウォルト・パーピュア。
その手を握り返すのはウレテットのリーダーということになっているカレル。
「俺様はチーム・ウレテットのリーダー、イェストジャーブ・カレルだ。今回は存分に胸を借りるがいい」
「ちょっ、カレル。いくら何でも失礼でしょ!」
「いえいえ。かの有名なイェストジャーブ家の長男様が相手とあってはワタクシ達など足元にも及ばぬ存在ですので」
そうにこやかに笑みを浮かべるパーピュアに、その背後で控える第7装騎部の面々は固唾を飲んで見守っていた。
「パーピュア先輩。私からもよろしくお願いします!」
「ええ、ワタクシたち第7装騎部の根性を見せてあげますわ!」
かくして、チーム・ウレテットと第七装騎部のバトルは幕を上げる。
バトルフィールドは屋内ながらも霊子ホログラムにより様々な岩山が付き立つ岩場に設定されている。
ルールは1番ベーシックな4対4のチーム戦。
チーム・ウレテットはレイ、レオシュのツートップに、ミドルポジションにカナール、ボトムにカレル、とスズメとレイを入れ替えた以外は普段通りのフォーメーションだ。
「行くぞ諸君!」
カレルの号令と共に、レイの装騎バイヴ・カハとレオシュのバルディエル型が一気に駆け出した。
その後をカナールの装騎ニェムツォヴァーが――さらにその後をカレルの装騎イェストジャーブが追随する。
「うわっ、こちらレオシュ。接敵したよ」
「こ、こちらバイヴ・カハ、同じく、です!」
試合が始まって暫く――先頭を行く2人の装騎にライフルとロケットによる砲撃が加えられた。
その砲撃をした2騎の機甲装騎が、第7装騎部が使用する4騎の内の2期だ。
左前方を行くレイの目の前には武骨なデザインが特徴的な旧世代機甲装騎。
「あれは……ブランクフォー、ですか!?」
04装騎J型。
アズルリアクターを搭載したマルクト初の装騎ルシフェルの1世代前の機甲装騎04――それにアズルリアクターを搭載し、近代化改修を施した機甲装騎だ。
「それでは、我々の戦いを見せるとしましょうか」
騎使は第7装騎部所属の進学科3年生ナストーイチヴイ・シーニィ。
「武装は……ストライダーライフル、に……スケーターを付けてます、ね」
両足に履かれた機動力向上用のジェットスケートを目にしてレイが呟く。
対して右前方――レオシュの正面には丸みを帯びた漆黒の機甲装騎。
「黒い、ベロボーグだよ!」
ルシリアーナ帝国製機甲装騎P-3500ベロボーグのブラックカラー――黒神。
傭兵、死毒鳥が使用していたベロボーグのカスタム騎であり、とある一件でスズメの手に渡っていたものを第7装騎部に寄付したものだ。
「そうねモッチー。では――第7装騎部、GO AHEAD!!」
騎使は第7装騎部部長ズムウォルト・パーピュア。
「ラウンドシールドにロケット砲? 前衛なのにこの装備……?」
訝しみながらも、攻撃体勢に入ったレオシュ=バルディエルと装騎バイヴ・カハ。
ウレテットの2騎はそれぞれ、霊子杖ムソウスイゲツと超振動断頭剣を構える。
装騎04Jと装騎チェルノボーグはその様子を目にするや否や、突如として反転。
一気に撤退を始めた。
「に、逃げた……!?」
「誘っているね。間違いなく罠、だけど……」
「ああ、進め。ただし、素早くサポートできるよう、互いを目視できる距離を外れるな」
「諒解!」
逃げるシーニィとパーピュアのを追いかけ先を行くレイとレオシュの2人。
その後をカナールが追い、さらにカナールの後をカレルが追いかける。
視界を遮る突起物を幾つか抜けた先――開けた場所へとレイとレオシュの2人は辿り着いた。
「モッチー、起爆」
「諒解っ!」
パーピュアの指令に、シーニィはトリガーへとへと手をかける。
瞬間、広場を囲む突起物から装騎バイヴ・カハとレオシュ=バルディエルの足元に向かって何かが放たれた。
「わ、こ、これは……」
「トリモチだね」
強烈な粘着性のあるモチにような物体を射出し、敵の動きを止めたり鈍らせる特殊武装であるトリモチ。
それに囚われた装騎バイヴ・カハとレオシュ=バルディエルはその動きが鈍る。
「良いカモです」
「さぁ、喰らいなさい」
そこに装騎04Jの持つストライダーライフルの銃撃と装騎チェルノボーグのロケット砲の爆撃が襲い掛かる。
「……利口な狐っ!」
レオシュは咄嗟に霊子杖ムソウスイゲツにアズルを纏わせ、思いっきり回転――アズルの壁を作りだし、シーニィとパーピュアの攻撃を凌ぐ。
「レオシュ、レイちゃん、今助けるわ!」
そこに近づいてきた装騎ニェムツォヴァーがエッジボウを構え、装騎O4Jへと射った。
「させないわ」
だがカナールの放った矢は投擲された装騎チェルノボーグのラウンドシールドに弾かれる。
ラウンドシールドを投げた瞬間、そのラウンドシールドにはワイヤーが付けられているのが見えた。
「なんだ……? ヤツら、ここで決めようとしているには引き気味だな……それに、残りの2騎の姿が…………はっ!」
そこでカレルは気づく。
第7装騎部のその狙いに。
「総員に通達。敵の狙いは2騎を囮にしての奇襲攻撃だ。一旦退いて体勢を……何ッ!?」
だが、気づくのが遅かった。
最後方の装騎イェストジャーブを狙って、2騎の機甲装騎がその姿を現す。
片や細身の手足が特徴的な軽量装騎シェテル。
その手にはダガーガンと超振動偽杖剣を装備している。
「みつけたぁ……」
騎使はそう言いながら大きなあくびをする進学科4年ハシダテ・ミドリコ。
片や大型のバックパックが特徴的な装騎ルシフェルの第7装騎部仕様。
両手にナックルガードが付いた超振動ナイフ・クイックシルヴァーを構える。
「無事に背後を突けましたね、ブーシュ先輩!」
騎使は進学科2年カシーネ・アマレロ。
「ポップぅ~、ガンガン、イ、こぉー!」
「チィ、カナール! 合流させてもら――――うおっ!?」
ブースターに点火し、一気に装騎ニェムツォヴァーの元へ駆けようとした装騎イェストジャーブ。
だが、不意にその足元に何かが撃ち込まれた。
撃ち込まれたのはダガーガンから放たれたダガー……それも、強力なアズルを放出し、装騎の動きを一瞬だが止めるスパーキングダガー。
「行きます。ハニー・スニクト!」
放電によって装騎イェストジャーブの動きが止まったその隙を狙い――装騎ルシフェルⅦのナイフの一撃が装騎イェストジャーブの機能を停止させた。
「……くっ、済まんな。後は任せたぞ」
「ああもう、司令塔を潰されて挙句に挟み撃ちだなんて……っ!」
「状況は、あまり良くないね……」
カナールは頭を抱えながらも装騎ニェムツォヴァーを反転。
エッジボウに矢を番えると、装騎イェストジャーブを仕留めた装騎ルシフェルⅦに向かって射る。
「レオシュ、レイちゃん、何とかあの2騎を突破できないの?」
「そうは言っても、トリモチが邪魔なんだよね。取り除くだけならできなくもないけど、また撃たれたりしたら意味ないしさ」
「……なら、トリモチを、その、除去するのと同時に、て、敵に威嚇でも攻撃ができれば、その、勝機は?」
「あるかもしれないね。あの2騎の攻撃を一瞬でも止められるような威嚇射撃ができれば、だけど」
レイの言う通り、周囲と進行方向のトリモチを焼き払うなどして効果を無くし、更に2騎の敵装騎の動きを止めるなり、気を逸らすなりできるような攻撃ができれば一気に接近して叩く――ということは不可能では無さそうだ。
しかし、敵2騎の間はかなりの距離があり、ライフルなどで片方に射撃をしたところでもう片方の動きを止められる訳ではない。
これは、足元のトリモチと進行方向にあるトリモチ、さらに左前方の装騎と右前方の装騎――4つの目標を同時に攻撃しなくてはならないという状況だった。
もちろん、カナールからの援護も頼めないだろう。
「……で、できます!」
だが、レイはそう言った。
そして装騎バイヴ・カハのフィンに蒼白い灯が灯る。
「わ、わたしがフィンで威嚇射撃、と、トリモチの除去――同時に、やります。ですからレオシュさんは……」
「うん、頼んだよ!」
「は、はいッ! マトロナエはトリモチの除去、マトレスは威嚇射撃――お願いします!」
「カァ――ッ!!」
レイの言葉に従うように装騎バイヴ・カハ操縦席内の補助席に座するカラスが鳴き、3つの小型フィンと3つの大型フィンが宙を舞った。
「何――あの武装……ロケット?」
「に、しては動きがオカシイです。空中に静止して……。なっ!!」
瞬間、アズルの輝きが4人の目をつく。
マトロナエと呼ばれた小型フィン――マーハ、ヴァハ、マカの3機がトリモチを焼き払い、マトレスと呼ばれた3機の大型フィンの内、ネヴァン、バズヴがそれぞれ装騎04Jと装騎チェルノボーグへと魔電霊子砲を放った。
もう1機の大型フィンであるモリガンと共に、装騎04J目がけて飛び込むのはレオシュ=バルディエル。
更に、レイの装騎バイヴ・カハもトリモチを焼き払う役目を終えた小型フィン・マトロナエと共に装騎チェルノボーグを目指して駈ける。
「葬送行進曲」
「ドゥーム……クライ」
レオシュ=バルディエルによる霊子杖ムソウスイゲツによる連打、そして装騎バイヴ・カハの小型フィン・マトロナエの威嚇射撃と同時の超振動断頭剣の一撃で装騎04Jと装騎チェルノボーグは機能を停止した。
「やったわね! わたしも頑張らないと……!」
カナールはそう呟くと、素早く矢を2射。
2本の矢は装騎ルシフェルⅦと装騎シェテルの前で地面に突き刺さる。
それも、まるで門を建てるかのように。
加速を付けた2騎が、その矢の間を抜けようとしたその瞬間。
「Hrom!!」
「キャッ、何です!?」
「ぷしゅぅ……」
アズルの輝きが走り、装騎ルシフェルⅦ、装騎シェテルを襲った。
一瞬、装騎の機能が停止する。
スパーキングダガーガンなどと同じく、アズル雷撃によるマヒ攻撃だ。
「うかうかしてられないっ」
機能が回復したその瞬間、アマレロは装騎ルシフェルⅦを一気に駆ける。
だが、装騎シェテルは動かない。
「……ブーシュ先輩?」
「ぷしゅう」
「今日は大丈夫って言ったじゃないですか!」
「ふしゅしゅしゅ……」
どうやら先ほどの1撃がミドリコの勢いを削いだようで、通信からは完全にふぬけたミドリコの声ばかりが送られてくる。
こうなったミドリコが使えないと言うことはアマレロも含め第7装騎部はよく分かっていた。
仕方が無いので、アマレロはミドリコの装騎シェテルを置いて一気に装騎ニェムツォヴァーへと向かう。
「当たらない……っ」
ポリフォニックブースターによる強烈な加速力で一気に距離を詰める装騎ルシフェルⅦ。
カナールの装騎ニェムツォヴァーもエッジボウで迎撃するが、凄まじい相対速度の中でも装騎ルシフェルⅦは放たれる矢を避けていく。
「アタック!」
そのまま振り払われた装騎ルシフェルⅦの持つナイフ・クイックシルヴァーを、装騎ニェムツォヴァーのエッジボウが超振動を起動させ受け止めた。
だが、
「ハニー・スティレット!」
アマレロは一気に装騎ルシフェルⅦの体を捻ると、ブースターの勢いも利用して一気に装騎ニェムツォヴァーの脇を抜けていく。
そのまま激しく回転しながら、その勢いを利用してナイフ・クイックシルヴァーを装騎ニェムツォヴァーに突き刺した。
「ニェムツォヴァー、機能停止……っ。後は、任せたわよ」
「うん。レイちゃん!」
「は、はい!」
レオシュは装騎バルディエルの外部装甲をパージする。
弾け飛び、地面に落ちる装甲を後にして、更に加速。
「行って、フィン!」
更にレイの言葉に従い、大小6つのフィンがレオシュ=バルディエルの背中や肩にくっつくと、一気にブースターからアズルを吹いた。
「ロッドジェット・マグナム!!」
霊子杖ムソウスイゲツを正面に構え、まるでロケット弾のようになったレオシュ=バルディエルは装騎ルシフェルⅦへと一直線に駆ける。
「っ……速い!」
驚愕の声を漏らすアマレロだが、不意に装騎ルシフェルⅦの傍を何かが素早く通り過ぎると、レオシュ=バルディエルへとぶつかった。
「ふしゅふしゅふしゅふしゅ……」
「ブーシュ先輩!?」
それは刺突剣状態になったブランドエストックを構えたミドリコの装騎シェテル。
戦意を喪失したかと思われていたミドリコだがにわかに復活――と言うよりも何とか最後の気力を振り絞り、最後の攻撃に出たようだった。
「う、うわ……」
「アレはヤバそうですね……」
紙装甲の装騎同士が全速力でぶつかると言うまさかの展開にレイもアマレロもどこか引いた声を上げる。
案の定、同士討ちで機能停止するレオシュ=バルディエルと装騎シェテル。
戦いはレイの装騎バイヴ・カハとアマレロの装騎ルシフェルⅦの一騎打ちとなった。
「あと1騎か。頑張れよレイくん」
「でも、勝てるのかなぁ……」
撃破されたチーム・ウレテットの3人が固唾を飲んで見守る中、カレルの言葉にレオシュが言った。
「あのカシーネ・アマレロって子、かなり強いって有名だよ」
「そうなの?」
そう首を傾げたのはカナールだ。
「うん。去年開催されたロードライド杯の優勝者だよ」
「ロードライド杯ってあのソロ大会の!?」
ロードライド杯――それはプロ騎使への登竜門とも言われる一大大会だ。
かのサクレ・マリアもこの大会での優勝から一気に名声を上げ、その実力を広く知らしめた。
「大丈夫だ。レイくんならばな」
装騎バイヴ・カハのエグゼキューショナーと装騎ルシフェルⅦのナイフ・クイックシルヴァーがぶつかり合う。
「もう1度……ハニ――――」
「皆、力を貸して!」
アマレロが再度、ハニー・スティレットによる急回避刺突攻撃を行おうとした時。
装騎ルシフェルⅦの背後に、アズルの輝きが閃いた。
「何、ですか!?」
それは撃破された装騎バルディエルから――いや、その背後から飛び立った6つのフィンから放たれていた。
「遠隔武器……!?」
「これで、終わり、ですぅ!」
そしてエグゼキューショナーが止めの1撃。
試合はチーム・ウレテットの勝利で終わった。
「私が出れば勝てたのに」
「オレだって出たかったゼィ!!」
そう垂れるのは今回の試合には出られなかった第7装騎部進学科2年フォルメントール・アニールと進学科4年アキテーヌ・オランジュの2人。
「アナタがあの黒い装騎の騎使だよね」
「は、はい……」
アマレロがレイに手を差し出す。
「また装騎バトル、やりたいです!」
「わ、わたしも……やりたい、ですっ」
「うん、いい感じじゃないですか」
そんな光景を見ながら、スズメは頷いた。