My Transform
「行くわよレオナ」
「うん、カレラ」
ステラソフィア学園都市。
そこに周囲から一層の注目を浴びる2人組の姿があった。
片方、レオナと呼ばれた白雪色の長髪を靡かせる女性は兎も角、その隣にいるカレラへと向けられる視線には一種の怪物を見るような色が秘められている。
服装こそステラソフィアに於いて全く違和感を生じるはずの無い進学科の制服を着こみながらも、濃い化粧、高めの身長、どこか不釣り合いな見た目からその異様な雰囲気を漂わせているのだ。
「人々からの熱い視線……美しさって罪ネ」
「単純に化粧濃くてヘンだから注目の的になってるだけだと思うんだけど」
レオナの指摘はまさにその通りなのだが、カレラは言った。
「何言ってるのよ! この完璧なメイク――絶世の美女に他ならないわ!」
何やらメイクに異様な自信を持つカレラは矢継ぎ早に口を開く。
「睫毛にはレディのプライド! 色鮮やかなフェアリィ・フェイス! 高めのハイヒールを鳴らして街に溢れるノイズを消すのよ!」
盛りに盛った睫毛に濃く塗られたチークと口紅。
そして、制服に似合わない高級ハイヒール。
自身で言うようにそれが彼女の自信そのものだった。
「何言ってるかよくわからないよ……」
そんな2人が足を踏み込んだのはステラソフィア進学科の敷地内。
「レオナ、部室棟って何処かしら」
「えっと……進学科校舎の裏だね。このまま校舎に沿って歩けば……」
「それよりも、校舎の中を突っ切っていった方が早いわ。行きましょう」
「ええ……」
休日と言えどもステラソフィア女学園は全寮制。
つまり、常に多くの生徒が滞在している。
視線をひたすらに向けられているのは今までと同じだが、その色に警戒色が強くなってきていることにカレラは全く気づいていなかった。
「やっぱりマズいんじゃ……ヘタしたら警察沙汰だよ」
「何言ってるの。何の違和感も与えてないわ。ほら、こんなに歓迎ムー……ド」
カレラの表情が僅かにひきつり、その額に汗が一滴流れ落ちる。
レオナも笑みを浮かべているが、明らかに穏やかではない。
何故なら、目の前には箒やモップ、デッキブラシを手にしたステラソフィア進学科生の姿があったからだ。
「変質者だ!!」
進学科3年ドリュー・スピーダ。
「殺せ!」
進学科2年ハルトマン・ルールカ。
「生かして帰すな!」
進学科4年アイゼンハワー・ローゼン。
「やっちまぇ!」
進学科1年フリート・イゾルデ。
「待ちたまえ、話せばわかる!」
『問答無用!!!!』
突然飛びかかってくる4人のステラソフィア進学科生。
「くっ、逃げるわよレオナ!」
「う、うん!」
脱兎のごとく踵を返すカレラとレオナの2人。
「逃げたぞ!」
「追えー!!」
「他にも召集をかけろ!」
「ぶっ殺せー!!」
その後をステラソフィア進学科生も追いかける。
「だぁ、もうこのハイヒール、邪魔よ!」
「口調はそのままなんだね」
走りながら一気にハイヒールを脱ぎ捨てるカレラに、どこかズレたつっこみをするレオナ。
2人は進学科校舎の外周に沿うように、逃げながらも進学科部室棟を目指して駈けていた。
「ソフトボール部、ハンドボール部に伝令! バンダースナッチに投擲用意! ……撃てェ!」
進学科4年ローゼンの号令で、グラウンドの方から多数のボールが投げ放たれる。
「バンダースナッチって何よ!」
「あはは、変なコードネーム付けられたね」
「陸上部はいないの!?」
「それが……今日は中央公園で練習があるみたいで」
進学科4年ローゼンの言葉に、進学科3年ドリューが答えた。
「今、近くで練習をしてるクラブアクティビティは?」
「SFCがいます!」
「ならば、SFCを呼びなさーい!」
「SFC……? 特殊部隊か!?」
「特殊部隊の部活って何だろうね」
校舎の角を曲がったところで部室棟が目に写る。
レンガ造りの建物で部室棟とは言え、立派な屋敷という感じだ。
「さすがはステラソフィアだね」
「一気に駆けこむわよ!!」
簡単するレオナに、カレラは一気に加速体勢に入った。
その時だ。
「SFCさんじょーぉ!!」
突如として1人の女子生徒が2人の目の前に飛び出してくる。
「何ッ」
胸元に星印のステラソフィア校章が輝くサッカーユニフォーム姿の女子生徒。
彼女――進学科2年ラビ・カリナは足でキープしたサッカーボールを思いっきりカレラに向かって蹴りつけた。
「SFC――ステラソフィアサッカークラブなんだね」
「あと少しなのに!」
カリナの蹴りはなったボールを避けながら、悔しそうにカレラが叫ぶ。
「でも、体格ではこちらが上よ! あのサッカーガールを一気に振り払いましょう!」
「待ってカレラ!」
レオナがそう言った瞬間、カレラの顔面――すぐ横を強烈な風が吹き抜けた。
いつの間にか背後に立っていた、どこかクールな雰囲気の女子生徒。
進学科2年フェアリア・タイニー・ツンがカリナの蹴ったボールを受け止め、カレラに向かって蹴ったのだ。
「運が良い」
「アタシも加勢しよう!」
呟くツンの傍から一気に駆け出し、ツンの蹴ったボールを受け止めるステラソフィアFCの3人目。
教官科3年ロンメル・ユリア。
ステラソフィアFCの3人によるカレラ・レオナ包囲網が完成していた。
「何とかスキを狙って……」
「…………させない」
更には部室棟の前に1人の少女がどっしりと構える。
ステラソフィアFCのゴールキーパーで進学科3年トルスタヤ・アレクセエヴナ・ダーリヤ。
終いには、他の進学科生徒も追いついてきた。
それぞれ得物を手にした女子生徒たちがその輪を狭めていく。
思わず身構えるカレラとレオナ。
ガスッ
「グハっ!?」
ボコッ
「待ちたまえ諸君!」
ズガッ
「ギヴギヴギヴギヴ!」
見る見るうちにカレラはボコボコに。
ウィッグやメイクが剥がれ落ち、その場にはボロボロになったカレルの姿が残された。
「大丈夫だった!?」
「変なことされてない?」
「脅されてたんだよね……?」
一方レオナ――そう、言うまでもなく女装したレオシュなのだが、彼の方には手が指し伸ばされる。
どうやら彼女たちは、カレルに脅されここまで案内させられた女子生徒だと思っているようだった。
「え、えっと……」
「アレ、カレルさん……? 何してるんですか?」
レオシュがどう返答するものか悩んでいると、よく見知った声が聞こえてくる。
「スズメちゃん」
「え、もしかしてソッチは――――」
進学科の部室棟。
「第七装騎部」と言う表札がかかった部室にチーム・ウレテットの姿はあった。
「アンタ達、何で女装して来てるのよ」
頭を押さえ、深いため息を吐きながらカナールが尋ねる。
それに痛む傷に顔をしかめながらもカレルが平然と答えた。
「ステラソフィアは女子校だろう。男が来たら目立つじゃないか」
「現地集合にしたわたしが莫迦だったわ……」
「全く……レオシュさんは兎も角、カレルさんの女装なんて生体兵器ですよ」
「スズメくん、何を言ってるんだ! 睫毛にはレディのプライド! 色鮮やかなフェアリィ・フェイス! 高めのハイヒールを鳴らして街に溢れるノイズを消すのよ!」
「アンタ莫迦?」
「何言ってるのかよく分からないですよ……」
「レイくんなら解ってくれるだろ!? このレディの美学を!!」
「えっと……さすがにこれは、酷いと思います……」
「キーッ! どうして誰も理解してくれないの! 邪魔しないで茶化さないで、気安く話しかけないでっ!!」
「カレル、楽しそうだね」
「そう、でしょうか……?」
レイにまで否定され悔しそうなカレル。
そんなカレルの頭をとりあえず1発叩いたカナールが言った。
「とりあえず、メイクは落としてきなさい! 大体、何のためにステラソフィアに来たか分かってんの!?」
「ワタクシ達の美しさを見せつけるためでしょ!? ね、レオナ!」
「シミュレーターをやりに来たんだよ」
「レオナまでワタクシを裏切るつもり!?」
「シミュレーターをやりに来たからね」
何やら喚くカレルを他所に、残りの4人はシミュレーターをする準備を始める。
「今度こそ、最大プリズム自分を磨いて、ワタクシの美貌で世界を虜にしてみせるんですから!」
「色んな意味で動機がおかしくなってるよカレル……」
「良いから、莫迦はほっといてやるわよレオシュ」
「あ、うん!」




