Welcome! Girl!
「カラスバ・レイくんのために歓迎会を開こうじゃないか!」
それは唐突なカレルの1言から始まった。
「良いんじゃない、歓迎会!」
「そうですね! どうせならみんなも呼んで……」
「うん。面白そうだね」
「私も賛成ね。やりましょうか」
突然、4人の会話に割り込んできたもう1つの声にスズメたちは驚いて顔を向ける。
「フレダか」
「先生を付けなさい」
そこにいたのはクラス担任のマーキュリアス・フレダ。
スズメたち4人の会話を聞いていたのだ。
「レイちゃんは周りから1歩引いてるような所があるし、クラスのみんなと仲良くなれるようなきっかけを作れないかと思ってたのよ」
「なるほどな。まさに好都合と言う訳か……流石は俺様だ」
「……莫迦は置いとくとして、それで具体的にはどうするかを考えないといけないわね」
「歓迎会自体は、クラスホームルームの時間を使って構わないわよ。どうせやること無いし」
「テキトーですね……」
「ギュッと詰め込んでも抜けるものは抜けるのよ」
クラスホームルームとは毎週木曜日、1番最後の時間割に割り当てられている特別な授業時間だ。
生徒の自主創造力を養う為という名目で、クラスでの取り組みを自由に定め、それに取り組むために設けられた時間だった。
「歓迎会ってことは、まず何か出し物は欲しいですよね」
「そうだね。みんなで何かやる?」
「あまり手の込んだことを考えてる時間は無いわよ」
「俺様に任せろ。盛大に祝ってやる」
「カレルくん。あまり派手過ぎたり、騒音を出すようなものはやめてほしいわね。前に鬼ごっこをした時でさえ怒られちゃったんだから」
「オーケストラなら良いだろう?」
「そういうのがダメだって言ってるのよ」
「……ダメなのか」
目に見えて落ち込むカレル。
余程の自信があった案だったらしい。
「それに、そこまで豪勢だとレイちゃんにだって気を遣わせちゃうかもしれないわ」
「金ならあるのだが……」
そうぼやきながらも、真剣な表情でカレルは考える。
発想はおかしいが、こういうカレルの真面目さは評価できる点だった。
「ウレテットで何か1つっていうのは確定で良いと思うわ」
「うん、そうだね」
カナールの言葉にレオシュが頷く。
「でも、それだけだと物足りないですし……」
そんなスズメの言うことも尤も。
「あ、そうだわ。貴方達4人とも、1人でやる出し物も考えて来なさい」
「え、1人で……? クラスみんなの前で、1人で……?」
カナールが明らかに嫌そうな表情を浮かべる。
カナールはあまり人前で目立つのが好きなタイプではなかった。
「なるほどな。他人の力を借りずに己が力のみでクラスを愉しませろ、と言うんだな」
「ちょっと硬過ぎるけど、そういうこと」
「1人でかぁ……ボクに何ができるかな」
理由も無く自信満々なカレルに、少し困ったような表情のレオシュ。
そんな中でスズメは言った。
「分かりました。私の最高の持ちネタを本邦初公開しましょう!!」
そして、カラスバ・レイの歓迎会当日。
教室前部に備え付けられたモニターの前で、紙コップを手にしたカレルが立っている。
今回の進行役を買って出たカレルは、クラスメイトの注目を浴びてどこか気持ちよさげ。
「と言う訳でだ、カラスバ・レイという新たな同士に――乾杯だ!」
『乾杯!!』
クラスメイトの掛け声と共に、各々が手にする紙コップが高々と掲げられた。
その中には、買い出し班が買って来た様々なジュースの中から、それぞれが好きなジュースが入れられている。
「今回の歓迎会だが、我々チーム・ウレテット――そして有志の諸君がそれぞれ出し物を考えてきた。存分に愉しむがいい」
えらく雑な司会進行の中、モニターに歓迎会のプログラムが表示された。
ある意味でこの歓迎会のメインとなる時間がやってきたのだ。
「それでは最初の出し物は、我らがチーム・ウレテットの麗しき射手――」
「う、麗しいとか!」
「――もとい、無慈悲なる狩人ニェムツォヴァー・カナールの登場だ!」
「殺すぞ」
明らかな殺気を放つカナールにも、カレルは動じない。
「それでは諸君、窓の外を見てくれ」
カレルに指示され、一同は窓へと顔を向ける。
開け放たれた窓――その向こうに、小さな、丸い、何かがあった。
予め設置されたカメラがその丸い物体を捉え、その姿をモニターへと映し出す。
それは的だった。
「此れからこのカナールがあの的を見事射て存じ上げるぜ。上手くいったらご喝采を!」
カレルの言葉の終わりを確認すると、それなりの距離がある的に向かい、カナールは持参していた弓を構える。
ふぅと静かに息を吐き、精神を集中させる。
「ちなみにだが、外れた場合のブーイングは俺に言うのはお門違いだ」
「変なこと言って気を逸らさせないで!!!」
「何、お前なら簡単だろ?」
「ふん」
カレルの言葉に鼻を鳴らしながらも、その瞳は真っ直ぐと的へと向けられている。
一瞬の沈黙――――その後……射た。
「命中だぁ!!」
的の中央を射抜いた矢――その1射にクラス中から拍手が沸き上がった。
「ま、ざっとこんなもんよ」
「お次は我らが微笑みの爆弾、ジュルヴァ・レオシュだ! さて、何を見せてくれるのか」
「えっと、それじゃあ、手品でもしようかな」
そう言うとレオシュはさっとトランプを3枚取り出した。
「スズメちゃん、お願いしても良いかな?」
「はい!」
レオシュに呼ばれてスズメが前に出る。
「ここに3枚のトランプがあるよね。それぞれ、どのカードがあるかな?」
「えっと、クラブの4、ハートのクイーン、スペードのエースですね」
「うん、そうだね」
スズメの言う通り、スズメから見て左からその順番で並んでいる。
その手札の様子はカメラでモニターにも映し出されている。
「それじゃあ、これを裏返しにするよ。スズメちゃん、ハートのクイーンを引いてくれるかな?」
「ハートのクイーンですね! 分かりました、では……」
スズメはそう言うと、真ん中のカードを一気に抜き去った。
「ハートのクイ……あれ?」
ハートのクイーンだと思って引いたスズメの手には、なんとジョーカーが握られている。
「え、真ん中のカードってハートのクイーンでしたよね!? レオシュさん、ちょっと見せてください!」
動揺するスズメに、レオシュは微笑みながらその手札を見せる。
その手に残っているのはクラブの4とスペードのエースの2枚のみでハートのクイーンは何処にもない。
「わわわ、すごいです!!! どんなトリックを使ったんですか!?」
子どものように瞳を輝かせるスズメにレオシュは苦笑しながら、その手に残った2枚のカードをそっとずらした。
すると――――
「うわっ!? スペードのエースに切り取られたハートのクイーンが!!??」
そのマジックの種は至極簡単。
スペードのエースに切り取ったハートのクイーンを貼りつけ、その間にジョーカーを差し込む。
そして、差し込まれたジョーカーが見えないようにクラブの4で隠す――というマジックだった。
それからも、ミカンを空中に浮かせると思ったら親指で持ち上げてたり、人体浮遊と見せかけて両手で体を支えながら片足と頭を上げてるだけだったりと、小ネタ的な手品を披露し、レオシュの番は終了した。
「次は我らが尖刃、変幻自在のトリックスター、サエズリ・スズメだ!」
「ついに……私の出番ですね!」
カレルの紹介に、何やらやる気マンマンのスズメ。
「今回、スズメくんは今まで1度も披露したことのないとっておきを見せてくれるそうだぜ!!」
「はい、見ていてください! 私の、とっておき!!」
一同に注目される中、スズメはその前に立ちすぅっと深呼吸をすると、言った。
「それでは、機甲装騎のモノマネをしまーす!!」
響いたその声に――一同の頭の中に「?」が浮かぶ。
そんな空気もお構いなしに、スズメは“機甲装騎のモノマネ”とやらを始めた。
「最初に機甲装騎が起動するときのモノマネをします!」
そう言うと、スズメは徐に膝をつく。
「ヒヒョ。ぴぴぴぴぴぴぴ、ひゅふん。しゅぅぅぅぅうううううううううううううピパパ。ぐぅん!!」
騎使認証をクリアし、各項目のチェックが終了すると、機甲装騎の関節ロックが外れ――機甲装騎が、起動した。
関節のロックが外れ体が一瞬緩むと同時に、スズメはその体を起こす。
「ジャキーン!!」
最後、スズメはそう言いながらその体をグッと伸ばすとその場に仁王立ちした。
決まった。
そう思ったスズメだったが、何故かクラスメイトからの反応はない。
「あ、ジャキーンは演出的なヤツでモノマネとはちょっと違いましたね」
そう言うことではない。
「次はブースト移動するジェレミエル型装騎のモノマネしまーす! シュォーン、グゥン!」
スズメはそう言いながら背中を突き出し、構える。
どうやらその背のブースターに光が灯ったということらしい。
「グォォオオオオオオオオオオオ!!!!」
そして、その叫び声と共にスズメは思いっきり教室を走り回る。
「ズギザガァアアアア!!!」
一通り走り回ると、モニターの前でブレーキ音と共に急停止。
そして、「どうですか?」とでも言わんばかりにチラッとクラスメイトの方へと目を向けた。
………………
支配するのは沈黙。
「じゃあ次! ホバー移動するメタトロン型! グゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウガ――――」
先ほどと恰好こそは似ているが、脚部のホバーを意識してるのだろう、さっきよりも脚にどこか力が入っている。
「――――――ギュゥン! ゴゥン! ガゴォオオオン!!!」
そして体を左右に捻りながら、転回をしているところをイメージしたような効果音を口で付け足す。
「えっとえっと、シャムシエル型装騎のローラーが空回りした時のモノマネしまーす! ブブブブブブブブブ、ギュイ、キャキャキャキャキャキャ!!」
「あれが生き恥ってやつね……」
そんな様子を見ながら、カナールが頭に手を当てながらため息を吐いた。
「と言うことで、次に俺様からカラスバ・レイくんへの祝いの言葉を贈ろうと思う」
「……は?」
そう言ったのはカナール。
カレルも何かパフォーマンスか何かをするのだと思っていた所、カレルはどうやらこの言葉だけで済ませようとしているらしい。
「ちょっと待ちなさいよ。アンタもなんかやるんでしょ?」
「ああ、祝辞だ」
「それだけ?」
「それだけだ」
カナールは徐にその弓を構え、矢を番える。
「アンタ、アレだけオーケストラがなんだとはしゃいでおいて、本番になったらソンナの!?」
「おい待て。オーケストラが呼べないということから俺様にでもできることが無いかと考えた結果であってだな! おいおいおいおい、待て待てカナール。冗談ではないぞ!」
「大丈夫。これは先がゴム球になってるヤツだから」
「いやいやいやいや、全然大丈夫じゃない――ぐはぁっ!?」
カナールの放った1撃で、カレルは見事ノックダウンした。
「カ、カラスバ・レイくん……我々は、キミを、歓迎、する…………ガクッ」
最後にそれだけ口にすると、カレルはそのまま、項垂れ動かなくなった。
「死して屍拾うものなし……」
「生きてるけどね」
カナールの呟きにレオシュが朗らかな笑みを浮かべながらつっこんだ。
「さて、最後の出し物だが」
「復活早いですね……」
「我々チーム・ウレテット――そして、我らと親交の厚いチーム・カヲリ及びチーム・ハルバートの12人による某有名なダンスだ。楽しみ給え」
曲が流れ、それぞれが軽快なステップを踏み始める。
センターに立ち、意気揚々とカッコつけるカレルに、その傍でニコニコしながら相方を務めるレオシュ。
モノマネで負ったキズがイマイチ治りかけてないようなスズメに、カレルの件でまだイライラしているようなカナール。
そしてその背後、やりたくなかったものの色々と借りと因縁があり、参加せざるを得なくなってしまったチーム・カヲリ、チーム・ハルバートの8人がバックダンサーを務めた。
ダンスは意外にも大盛況で幕を下ろす。
そして最後、クラスメイトの注目を浴びながらレイが正面に立っていた。
その手にはマイクを持ち、最後に1言、カレルから任されたのだ。
「えっと、あの……」
戸惑うように顔を左右させるレイ。
「レイちゃんがんばって!」
そんなレイにスズメが一言。
「気の利いたこと言う必要なんか無いわよ!」
「そうそう。おつかれさまでしたーとかさ」
「存分にやり給え」
それに続いて、カナール、レオシュ、カレルがレイへとエールを送る。
レイはすぅと深呼吸――そして、静かに口を開いた。
「あ、あのっ、えっと……きょ、今日は、わたしの為に、こんな――楽しいことをして、くれて……その、ありがとうごザイマシタッ」
最後の方は緊張で声が裏返りながらも、必死でその思いを伝えたレイ。
そんな彼女に注がれた拍手と共に、レイの歓迎会は幕を下ろしたのだった。