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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
リラフィリア:曰く付きの編入生編
221/322

ワガハイはフニャトである

朝。

なんてことの無い日常の始まり。

「おはよう、フニャちん!」

彼女はサエズリ・スズメ。

私の今の主人であり、私を“フニャちん”と呼ぶこと以外は特に不満がある主ではない。

日課のランニングから帰ってくると、私と、そして同居人たちの朝ごはんを作り始める。

「フニャちん、ロコちんを起こしてきて!」

「にゃあ」

私が入った部屋の中――布団の中で丸くなっている1人の少女がいた。

彼女はフニーズド・ロコヴィシュカ。

我が主人の幼馴染であり、見ての通り朝が弱い。

コイツは猫か?

こんなことをする義理は無いのだが、主人の命とあれば仕方ない。

私は布団の上に飛び乗り、徐に――

「ふぅぇぇぇえええああああああ!!!???」

盛大な叫び声と、噴火するように勢いよく飛び上がる布団の上から私はさっと退避する。

ロコヴィシュカは暫く息を整えていたが、落ち着くと私の方をみて言った。

「お、おはよ……フニャちん」

「にゃあ」

ロコヴィシュカを足代わりに、リビングへと出るとそこにもう1人の少女ができたての朝食を前に座っていた。

「……おはよう」

どこか惚けたような声で我々を迎えたのは最後の同居人アナヒト。

身寄りの無い少女らしく、行き場のないところを我が主人が引き取ったと言うことは聞いている。

「へぇ、各国で新型装騎開発競争が激化だって」

「ってことは、色んな装騎が出てくるってことだよね」

「ねー。楽しみだよねー。アナヒトちゃんも楽しみだよねー!」

「……うん」

テレビを見ながらの賑やかな朝食。

最初の頃は昔と違い慣れないことも多かったが、最近では人間を観察する、ということが楽しくなってきていた。

「イェストジャーブ財閥がうな屋チェーンを買収……」

「ズメちんどうしたの?」

「な、何でもないよ……うん」

それから暫く、3人は支度を始める。

それぞれ学校と言う集会に行くのだ。

「アナヒトちゃんの制服姿――やっぱり可愛いね」

「ズメちん、ソレ毎朝言ってる……」

「スズメ……今日は友だちと、学校、行く」

「うん、気を付けてねアナヒトちゃん!」

「それじゃ、わたし達も行こっ!」

「フニャちん、行ってくるね!」

「行ってくるー!」

「……バイバイ」

私は誰も居なくなった部屋を後にし、麗かな陽気の下、街中を散策する。

暫く行くと、緑に覆われたどこか気持ちの良い場所へと来ていた。

周囲を見回すと、様々な人間たちがゆったりと、或は忙しなくしている。

ここはどうやら、公園のようだ。

思わずあくびが漏れる。

私は、ここで昼寝をすることにした。

穏やかな陽気に小鳥の囀り――吹き抜ける風の心地よさに身を任せていると、ふと私の元に近づく足音が私の耳を突く。

その足音はどう考えても友好的ではない。

「おい、ここは俺の寝場所だぜ……」

突如、私に投げかけられた声。

体を起こすとそこには、血の気の多そうな1匹の黒猫の姿があった。

「俺の名前はビリー。テメェの名は?」

「名は無いが……主からはフニャトと呼ばれている」

「“飼い猫様”か。ここらに来たのは初めてかい?」

「そうだな……」

「ならば教えてやる。俺はここらでも名の知れた猫のビリー様だ。そしてここは俺の指定席。うっかりこの場所で昼寝しちまったやつは俺の爪の餌食になったぜ。言いたいことはわかるだろ?」

「断る」

「俺とやり合おうっての?」

「それも良いかもな」

私の言葉に痺れを切らしたのかビリーと名乗った黒猫は飛びかかってくる。

威勢は十分。

だが、それ故に単調。

ただ少し、体を逸らして回避すればいいだけ。

そして相手が勢い余ったそこに――――拳を叩き付ける。

「主であれば、ニャオニックネコパンチとでも名付けるだろうな」

私の1撃を受けたビリーは、体を起こしながら叫んだ。

「テメェ……た、ただものじゃねーな。どこの出だ!?」

「元々はカナンにいた」

「カナンの三毛猫……? なっ、テメェまさか、噂の一匹狼ローンウルフか!?」

「私は猫だが」

「んなこたぁ、分かってんだよ。まさか噂の一匹狼が飼い猫になってたなんて……」

「どうした、私の拳は生温かったか?」

「…………っ、今日のところはここを明け渡してやる」

ビリーは逃げるようにその場を去る。

やれやれ、やっと落ち着ける。

私は再びその場にうずくまると、微睡の中に身を委ねた。

「ほう、なかなか威厳のある猫だな」

気付けば、何やら見知らぬ男が私を覗き込んでいる。

「他の猫共と違い、怯えている様子も、懐いている様子も無いな……ここらの王者キングか?」

男は徐に手にしていた鞄――主やロコヴィシュカが持っているのと同じものだ――に手を伸ばした。

その中から取り出されたのは、やけに巨大な缶詰。

「ほれ王者キング――いや、俺様がキングだから……クラールとでも呼ぼうか」

私を勝手な名前で呼ぶその男は、更にナイフを取り出すと缶詰を開け始める。

それは猫缶のようだ。

猫用のご飯を詰めた缶詰――それもやけに高そうなものだ。

「ほら、これでも食えクラール。俺様の飼い猫……ドリューのおやつだがお前には相応しいだろう」

この男が何を考えているのか分からないが、頂けるものは貰っておくべきだろう。

私はそっと缶詰に近づき、害が無いか確かめる。

うっ……これは…………私は思わず顔を背けてしまった。

「どうしたクラール!? 最高級キャットフードだぞ!!??」

最高級、か……どうやら私には合いそうもない。

「アンタ何してんの」

「おお、カナールか。いやここに王者クラールの名に相応しい猫を見つけてな」

「へぇ、三毛猫ね。確かにどこか歴戦の勇士感はあるけど……」

「だがコイツ、俺様の最高級キャットフードを食べんのだ」

「っていうか何でキャットフードなんて持ってんのよ」

「これはドリューのおやつだ」

「ドリューって……アンタ、チーターにキャットフード上げてんの?」

「ドリューは猫だぞ……?」

「あんなデカくて斑点模様の猫は居ない!」

なんだか賑やかな人間たちだ。

そう思っていると、その後から見覚えのある人物が歩いてきた。

「2人とも何してるの? あ、ネコ?」

「おう。そうだレオシュ。なかなかの威厳のある猫だろう」

「ネコ? ……あれ、フニャちん?」

「にゃあ」

それは我が主人、サエズリ・スズメの姿だ。

私は主の元へと駆け寄ると、その腕に抱かれる。

うむ、このポジションが意外と締まりが良い。

「フニャちん、お散歩してたの?」

「にゃあ」

そうだが、1つ言わせてもらうとフニャチンではない。

「良かったねー」

「その猫、スズメくんの猫なのか!?」

「うん、フニャトって名前なんだけど、可愛く呼んでフニャちん!」

「ほうなるほど……よろしくな王者クラールフニャちんよ」

「よろしくね。フニャちん」

カレルとレオシュとが何故か私へと握手を求めてくる。

その後ろで、変な顔をしているカナールが言った。

「その、フニャチンって呼び名はどうかと思うんだけど……」

だが、その声は私以外には聞こえなかったようだ。

「にゃあ」

カナール、私も同じことを思っている。


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