壊し屋の女王
一方、ラプソディとサーティーナインを追いかけたツバサのスーパーセルとマッハのチリペッパー。
進むたびに、マッハの放つ5mmショットマシンガンの弾丸が爆弾を起動させ、爆炎をまき散らす。
「あら、強引な突破ですね。あんまり綺麗じゃないわ」
爆弾を無理矢理に処理しながら突っ込んでくる2騎を見ながらクイーンが静かに呟いた。
「…………」
「サツキどうしました?」
「………………」
「コッチに向かってる装騎がスズメちゃんじゃないことが不満なんですか?」
「――――!」
レーダーに映る2つの光点を見ながら静かにサツキの装騎サーティーナインがその身を動かした。
「準備は十分?」
「……」
「良いでしょう。では、サツキは下級生の応援をしてきてください」
「――!?」
「構いません。貴女の力が本当に必要なのは彼女達でしょう。行きなさい」
「――!!!」
クイーンの装騎ラプソディのカルテットブースターに火が付き、ラプソディは急加速。
スーパーセルとチリペッパーを迎え撃つように発進する。
クイーンの言葉を受けたサーティーナインはそれとは動きを別にし、スウィートレディやベストフレンドと合流しようとその場を離れた。
「マッハちゃん、ショットマシンガンは?」
「もう弾切れなんですよぉー!」
「そうか……あと少し持って欲しかったが……ソレはもう捨てておけ!」
「諒解!」
チリペッパーは弾が切れた5mmショットマシンガンとその追加弾倉を投げ捨てる。
「クイーン達……結構奥まで逃げやがって」
「スズメ後輩はもうとっくに交戦状態に入ってやがるんですよ!」
「早いな……おっ、マッハちゃん、正面から来てるの分かるな? そろそろ接触するぞ!!」
「オッケェなんですよぉ!」
不意にビービーと警告音が鳴り響く。
「ヤバイ、来るぞ!!」
前方からシュルシュルと音を立てラプソディのジャイロロケットが飛翔する。
「マッハちゃん――ロケット砲はアタシに任せろ、そのまま行けぇ!」
「アイマーム!!」
スーパーセルの放つ12mmバーストライフルがジャイロロケットを撃ち落とす。
その刹那、前方から弾丸が放たれる。
「うおっ」
「うっひゃぁ!!」
咄嗟に二手に分かれるようにかわすスーパーセルとチリペッパー。
それはラプソディの放った14mmキラークイーン・ガトリングのものだ。
「マッハちゃんはそのまま駆けろ! そしてヤツに蹴り入れてやれ!!」
そう言うと、ツバサはブースト機動で駆けながらラプソディの左側面を、チリペッパーはラプソディの右側面を進み、挟み撃ちを狙う。
「しっかし、サーティーナインはどうした? さっきまで居たはずなんだが……」
正面に見えるのはラプソディ1騎のみで、レーダーにもサーティーナインの反応が無い事に疑問を感じるツバサ。
「確かにシーサイドランデブーの常套手段はラプソディが引き付けてる間にサーティーナインがトラップを仕掛けてそこにおびき出すっていうのが普通だが……」
だが、今回はそのような気が無いように感じる。
ラプソディからも誘導する気が感じられず、ここでスーパーセル、チリペッパーともに落とすつもりだと感じた。
「いけぇ!!」
タタタタタタ
スーパーセルの12mmバーストライフルがラプソディへと放たれる。
しかし、流石は重装甲型のPS-U3ウリエルをベースにしているだけのことはある。
多少のダメージはあるようだが、大きな打撃にはならない。
「相手をしましょう! ワシミヤ・ツバサ!!!」
ラプソディは左腕に構えたキラークイーン・ガトリングをスーパーセルへ向けると、銃撃を放つ。
それを木々を利用しながらかわすスーパーセル。
スーパーセルへと気を取られているその隙に、チリペッパーがラプソディの背後の木々から現れる。
「貰ったんですよぉぉおおおおおおお」
チリペッパーの膝の部分に光が走る。
チリペッパーの固定兵装、膝部レーザーキックブレード。
その蹴りは、あらゆる装騎の装甲を切断する。
だが、チリペッパーが飛び出した瞬間、その背後の木々でピッと小さな音が鳴った。
刹那、チリペッパーを押し出すように爆炎を上げる木々。
「サーティーナインの爆弾か!?」
「うひゃぁぁぁあああああ!!??」
爆風にチリペッパーはラプソディの元へと押し出される。
これはサーティーナインが持つリモコン式の爆弾で、タイミングを見計らいラプソディが起動させたのだ。
「マッハちゃん――!!」
ラプソディはクルリの身を捻らせると、キラークイーン・ガトリングの銃口を爆風に押されるチリペッパーへと突き刺した。
ガガガガガガガガガガガ
キラークイーン・ガトリングの接射を受け、チリペッパーは機能を停止した。
「うぎゃぁぁああああ、面目無いんですよコノヤロォ……!!!」
スーパーセルは右手に持った12mmバーストライフルを腰ストックへと収めながら、空いている左手で腰に差されたチェーンブレードを逆手で引き抜く。
そのまま、チェーンブレードを可動させ、ラプソディへと切り掛かる。
「甘いっ」
そこにサーティーナインが仕掛けた爆弾の1個を起動する。
地面に設置された爆弾から飛び出してきたスーパーセルを焼き尽くさんと火柱が吹き上がる。
「あぶねっ」
スーパーセルは右手のアンカーを木に射出、引っかけるとその力で進路を急速変更。
スーパーセルのギリギリ背後で爆弾が爆発。
その爆炎にラプソディも巻き込まれるが、ラプソディはこの程度のダメージは何とも思っていないだろう。
「さすが重装甲騎――過程より勝利が重要ってか!?」
「そうね、勝利さえあれば、その過程は帳消しに出来るものね! ――でも、やられたわね」
そう言うラプソディの左手に装備されたキラークイーン・ガトリングは炎を上げ使い物にならないことを示している。
そう、ツバサは爆弾を避けるその瞬間、左手に構えたチェーンブレードでラプソディのキラークイーン・ガトリングを切り裂き、使用不能にしていた。
「サーティーナインはどうした?」
「あら、サツキちゃんが居なくても私が貴女を倒しますよ。丁度貴女への借りもありますしね」
「借り――? 一昨年の新歓のことか!?」
「もちろんです! 勝負に負けたのは良いんです。ですが、手からすっぽ抜けたチェーンブレードがたまたま私に刺さって機能停止なんてやってられないんですよ!!」
「あー、あったなそんなこと……」
「今回こそ、負けません! 一騎打ちよワシミヤ・ツバサ――!」
「良いぜ、来い、マーキュリアス・クイーン!!」
スーパーセルは左手に持ったチェーンブレードを右手に渡し、構える。
ラプソディもその腰からチェーンブレードを引き抜き構えた。
ギィィイイィイイイイィイイイイイイイイン
一段と激しい音と火花を散らしながら、2騎のチェーンブレードがぶつかり合う。
ギィィイイイン! ギィィン! ギィィイイイイイイイイン!!!
互いに正面からの斬り合い。
それは激しく、熱く、何度も続いた。
不意に、ラプソディがスーパーセルから距離を取ったと思うと、ジャイロロケットを撃ち込んでくる。
スーパーセルは、アンカーを使った変則機動でそれをかわし、ラプソディに肉薄。
ギィイイイイイイン!
そこを狙い、ラプソディがチェーンブレードを閃かせる。
それを受け止めるスーパーセルは、不意に先んじて木々に突き刺しておいたアンカーを巻き取った。
「――何ですって!?」
急にスーパーセルからの抵抗が無くなり、一瞬バランスを崩すラプソディ。
「そこだ――!!」
その隙に、スーパーセルはチェーンブレードでラプソディを切り裂いた。
「クイーン、どうしてもっと爆弾とジャイロロケット使わなかったんだよ」
「一騎打ちだって言ったでしょ? ちょっと使った分はアレよ。貴女のアンカーの分よ……」
ラプソディの機能が停止する。
「スズメちゃんとチャイカは健在か……待ってろよ――」
スーパーセルはスパローとスネグーラチカが居るであろう方向へとブースト機動で駆けた。




