トップチームを倒せ!
「カレルさんもコントロールに入ってくれると言っていることですし、どこかのチームと対戦したいと思っているんですが……」
「何で今日に限って対戦相手になりそうなチームがいないのよ!」
「本当だよ」
放課後。
普段であれば知り合いが何人か残っていてもおかしくないのだが、今日に限って対戦相手になりそうなクラスメイトが居なかった。
「あの不良グループが不登校なのはいつものことだけど、何で今日はラヴィニア達もさっさと帰っちゃってるのよ」
「なんでも、チームで用事があるとかで断られちゃいましたよ」
「あのハルバートがチームで用事ぃ? なんか胡散臭いわね」
「だが、ハルバートの4人が揃って学校から出るのを見たぞ」
「へぇ、珍しいこともあるもんだね」
ラヴィニアとジェッシィの2人はよく行動を共にしているが、“新参”であるヴァープノとシノリアもプライベートで一緒にいるというのは珍しいことらしい。
「どうする? 他の機甲科クラスの人に頼んでみる?」
「ポジションと動きの確認ができれば良いので、シミュレーターでもいいとは思いますけど……」
「お困りのようね」
突如として掛けられた声にスズメたちは声の主へと顔を向ける。
「カヲリ!」
そこに立っていたのはヴォドニーモスト・カヲリ率いるチーム・カヲリの4人だった。
「貴女達、対戦相手をさがしているのでしょう? ワタクシ達が相手になってあげてもよろしくてよ」
「ほう、チーム・カヲリか。クラスではトップの精鋭チーム。良い練習相手になるな」
「アンタまだそんなこと言えるのね……」
現実を突きつけられてなお、尊大な態度はブレないカレルに、カナールは呆れてため息を吐く。
「カヲリがそんなこと言ってくれるなんて珍しいね」
「ワタクシから言ってあげないと、貴女はどうせワタクシを頼ったりしないでしょう?」
「そんなことは……でも、そうだね」
親し気ではあるが、どこか互いに棘のあるようなやり取りをする2人を、事情は知らないチーム・ウレテットの3人は不思議な表情で見ていた。
「何だ、スズメくんとカヲリくんは友人ではないのか?」
「何でそう思えるのよ」
「いや、ラヴィニアの件の時、スミレくんに犯人探しを手伝ってもらったんだ。彼女のことだからカヲリくんの指示だろう? だからてっきり」
「あの時、カヲリもそんなことしてたんですか!?」
対して、ラヴィニア事件の時、カレルがどのように証拠を集めたのか詳細は知らないスズメが驚きの声を上げながら、カヲリへと目を向ける。
「貴女を倒すのはワタクシだから気に入らなかっただけよ!」
「もー、カヲリーダーは相変わらず素直じゃないなー」
「うっさいミカコ!」
「ス、スズメさん達が困っているのを見て、カヲリ様は協力してあげたいと思っているんです」
「ナオ!」
「私たちは、仲間」
「……スミレっ」
そんなやり取りを見てスズメの表情が完全に緩まった。
「分かった。カヲリの好意、喜んで受けさせてもらうね」
「素直にそう言っておけばいいのよ」
「……それで結局スズメとカヲリってどういう関係なの?」
「それは追々話します。とりあえず今は――バトルをしましょう!」
そしていつもの屋内練習場。
チーム・ウレテットとチーム・カヲリの8人とそれぞれが登場する8騎の装騎が初期ポジションについていた。
チーム・ウレテットは装騎スパロー・パッチワークとレオシュ=バルディエルの2騎を先頭にし、装騎ニェムツォヴァーが中段、最後方に装騎イェストジャーブが構える。
対するチーム・カヲリはカヲリが操るミーカール型装騎、ヴォドチュカを先頭に、3騎のミカエル型装騎がその後を追う形になっていた。
「それでは、行くぞ諸君!」
バトルスタートの合図と共に、カレルが号令をかける。
「カレル、一応言っておくけど、アンタはアタシの後ろだからね!」
「ああ、不本意ではあるが仕方あるまい」
そして暫く、交戦距離へと入った。
カヲリがトップを務める装騎スパロー・パッチワークとレオシュ=バルディエルを見て呟く。
「イェストジャーブがトップではないのね。ありえないわ」
「本当だ……レアなバトル、ですね。うわっ、ニェムツォヴァーが」
まず先手を取ったのは装騎ニェムツォヴァー。
矢を複数撃ち放ち、チーム・カヲリへと威嚇射撃を行った。
「ミカコ!」
「りょーうかい!」
カヲリの命を受け、ミカコ=ミカエルが構えるのはスナイプライフル・ボロヴィチュカ。
その狙いは――装騎ニェムツォヴァーだ。
「カナール、敵のスナイパーが動くぞ!」
「!!」
その動作をカレルがいち早く察知。
指示を受け、カナールの装騎ニェムツォヴァーがミカコ=ミカエルの放った弾丸を避ける。
「さぁて、行くぜ野郎ども!」
ミカコ=ミカエルの銃撃への反撃として、装騎イェストジャーブが新たに扱う突撃銃M64を撃った。
様々な補助機器が取り付けられゴテゴテしたM64の外観は、コントロールとしてチームボトムに甘んじることになったカレルの最後の抵抗だった。
「みなさん、勢いづいていきましょう!」
「そうだね、楽しもう!」
装騎スパロー・パッチワークはチェーンブレードを、レオシュ=バルディエルは霊子杖ムソウスイゲツを構える。
2人はチーム・カヲリのトップを務めるカヲリの装騎ヴォドチュカへと一気に駆け出した。
「2騎で真っ先にワタクシを倒すつもりなのね。よろしくてよ!」
装騎スパロー・パッチワークの斬撃と、レオシュ=バルディエルの一撃は――空間の歪みに御される。
「魔力障壁――――レオシュさん。下がってください!」
「あっ……!」
「さぁ、しっかり味わうのだわ。マジック・リベンジ!」
2騎が身を引いた瞬間、魔力の衝撃が一気に吹き抜ける。
僅かに回避が遅れたレオシュ=バルディエルの体をその魔力波が打ち付けた。
「くぅっ、ごめん、スズメちゃん!」
「まだ掠めただけです!」
「そ、そうだね……」
カヲリは主にカウンターを得意としている。
そのことはレオシュも承知ではあったが、つい反応が遅れてしまっていた。
「ナオ、“ウグイス”がカモよ」
カヲリの指示はほとんど飾り。
そう言う前に、ナオ=ミカエルが担ぐ“ランドセル”の狙いはレオシュ=バルディエルへと向けられていた。
「ペンシル、撃ちました!」
ナオ=ミカエルの肩越しに開いたランドセル――そこにズラリと並ぶのはペンシルと呼ばれるロケット弾だ。
ペンシルは、レオシュ=バルディエルに向かって一気に撃ち放たれる。
「レオシュさん!」
そのペンシルに向かって、装騎スパロー・パッチワークのバーストライフルが放たれ、命中――そして爆炎。
「ぐぅ――助かったよ」
ペンシルが巻き起こした爆風に圧され、爆炎に焼かれながらも直撃しなかった分、軽傷だ。
「最初の魔力衝撃で体勢を崩した相手を素早く狙い、攻撃する……良い連携をするな」
「何か打開策無いの!?」
感心するように呟くカレルにカナールが怒鳴った。
「まぁ、待て……」
じっと戦局を見つめるカレル。
カレルは自分自身で言った通り、この役割を全うしようとその瞳を戦場に光らせる。
「ミカコ、カナールを釘づけにしなさい。ナオはそのままワタクシの援護に。スミレは慎重に」
「りょーぅかい!」
「わ、わかりました!」
「御意」
「さぁ、ど派手にお行きましょう!」
カヲリの命に従い、それぞれのチームメンバーは動いた。
ミカコはカヲリ達の援護を挟みつつもカナールとの遠距離戦を。
ナオはランドセルからのロケットペンシル弾での援護射撃を。
そして、スミレは交戦する3騎を尻目にその身を退かせる。
(スミレさんが退きましたね……)
その姿をつぶさに見てとるスズメだが、敢えて何も言わない。
「行くわよ。ティラニカル・ショックウェーブ!」
そこに叩き込まれた、カヲリの強烈な魔力衝撃。
その一撃は、巨大な津波のように暴れ狂う魔力を伴ってチーム・ウレテットを襲う。
「っ……なるほど」
衝撃に備え、その身を固くするチーム・ウレテット達。
見てくれこそは派手で強大だが、その大魔力波で破壊的な力を維持できるほどの魔力を一気には放出できない。
実際、この1撃はチーム・ウレテットにダメージを負わせることが目的では無かった。
「さぁ、狩りのお時間よ」
「オーケィ。理解したぜ」
その衝撃が通り過ぎた隙を狙い、装騎ヴォドチュカ、ナオ=ミカエル、ミカコ=ミカエルが攻撃体勢に入った瞬間、カレルが口を開く。
「カナール、9時の方向に全力射撃だ」
「……信じるわよ!?」
「ああ!」
一瞬、何か言おうとしたカナールだが、素直に弓を引き絞りながらその体を真横へと向けた。
そこには――
「! スミレ騎!!」
「……勘付かれた」
「いや、見てたのさ。俺様はしっかりとな!! ミカコ騎は任せろ、やっちまえカナール!」
カレルの言葉通り装騎イェストジャーブはM64ライフルをデタラメにミカコ=ミカエルに向けて撃ち放つ。
その攻撃は当たりはしない――だが、ミカコ=ミカエルが装騎ニェムツォヴァーを攻撃するタイミングさえ送らせられればいい。
放たれた装騎ニェムツォヴァーの矢。
その1撃は――真横から強襲しようとしていたスミレ=ミカエルを撃破した。
「や、やっ――」
「次はミカコ騎だ!」
「判ってるわよ!」
喜ぶ間もなくカレルの指示が飛ぶ。
「す、スミレちゃんがやられました!」
「へぇ、敢えて引き寄せて撃破した――ってことなのかしら?」
「か、カヲリ様、意外と冷静ですね」
「そうよ?」
装騎ヴォドチュカに対して、装騎スパロー・パッチワークとレオシュ=バルディエルが駆け出した。
「魔力障壁は前後からの挟撃に弱いから――やっぱり挟み撃ち?」
「そうですね。ただ、ナオさんの動向には注意しないといけませんよ」
「ならば俺様が指示を出そう」
「カレルさん、カナールさんの方は――」
「わたしは良いから、1番の脅威はカヲリでしょ?」
それぞれが装騎の中で頷くと、装騎スパロー・パッチワークとレオシュ=バルディエルが弾けるように2手に分かれ、装騎ヴォドチュカを挟む。
「挟み撃ちね。と言ってもコッチも同じ――ナオ!」
「は、はい!」
「言うまでもないわね?」
「レオシュさんを狙います!」
装騎スパロー・パッチワークと装騎ヴォドチュカがぶつかり合い、魔力の壁が閃き揺らぐ。
その隙を狙い、レオシュ=バルディエルが霊子杖ムソウスイゲツを構え、装騎ヴォドチュカの背後から襲いかかった。
「い、いきます!」
「レオシュ、ナオ騎が発射体勢に入った。後ろに2歩下がれ」
「わかった!」
ナオ=ミカエルが扱うペンシルは、あくまで真っ直ぐにしか飛ばすことができない武装。
その為、ペンシルの先がどこを向いていて、どのようにレオシュを狙うのか予測できればどう避ければいいのか把握するのは容易い。
特に“優秀な目”を持っているカレルにとっては。
ペンシルの斉射は装騎ヴォドチュカの背後、レオシュ騎の目前を通り抜けていく。
「よ、避けた!?」
「それだけじゃありませんよ!」
「ああ、決めてやれ。ムーンサルト・ストライクだ!!」
「ムーンサルト――」
装騎スパロー・パッチワークは一気にその身を跳躍させ、空中で体を捻りながらナオ=ミカエルの背後へと着地した。
「ストライク!!」
そして、チェーンブレードの一閃によってナオ=ミカエルの機能を停止させる。
それと同時に、
「葬送行進曲」
レオシュのテフニカが炸裂し、装騎ヴォドチュカの機能を停止させた。
「こちらニェムツォヴァー。ミカコ騎を撃破! もしかしてーー勝った?」
「ああ、勝利だ。俺たちのな!!」
「やっ、やった!!」
スズメだけの力に頼らず、やっと掴めた勝利にチーム・ウレテットは湧き上がる。
そんな3人をよそに、スズメとカヲリの2人が相対していた。
「カヲリ、ありがとう」
「別にいいのよ。ただ……」
カヲリはその拳をスズメの胸に突き当てると言う。
「今度は本気でやり合えるように鍛えてきなさい」
「うん。いつか全力でやろうね!」
チーム・ウレテットは今、新たな1歩を踏み出した。