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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
リラフィリア:曰く付きの編入生編
217/322

飛翔する鳥たち

朝のホームルームの前。

スズメは紙に何やら図のようなものを描いている。

「スズメちゃん何書いてるの?」

「ウレテットの新しいフォーメーションだって」

レオシュの言葉に答えたのはスズメではなくカナール。

カナールの言う通り、スズメが描いているのはチーム・ウレテットのフォーメーションだった。

「はい。私とレオシュさんがトップ。ミドルにカナールでボトムにカレルさん……今のウレテットですとこれがベストだと思います」

スズメの示した図に、だがカナールは難しそうな表情を浮かべる。

「確かに良いフォーメーションだと思うんだけど……」

最後列ボトムだなんて、カレルが聞き入れるとは思えないよね」

そうなのだ。

前に出たがりのカレルにしてはこのフォーメーションには不満しか出ないだろう。

「だから、なんとか説得したいんですけど……難しいですかねぇ」

「アイツ、人の話は全然聞かないしね。何かお灸でも据えられたら言うことも聞くかもしれないけど」

「カレルを最後方にしたちゃんとした理由とかあるの?」

腕組みをするカナールの側で、レオシュはスズメへと尋ねた。

「あの莫迦が前衛だと邪魔だからじゃないの?」

「確かに困った戦い方をする人ですが……私はカレルさんの仲間を見る目は確かだと思うんですよね」

それは、今までの出来事などでのカレルを見てスズメが思ったことだった。

ずっとカレルとチームを組んでいるカナールとレオシュもスズメの言葉に頷く。

それは3人の共通認識だった。

「ですから、後方から私達の様子を見ながら、調整してくれるような役割が1番良いと思ったんです」

「なるほどね。つまりはコントロールか」

「そうなりますね」

トップアタッカーとしてスズメとレオシュ。

ミドルサポーターとしてカナール。

ボトムコントロールとしてカレル。

「スズメちゃんって本来はコマンドーだよね? アタッカーでいいの?」

「どうするかは様子を見てから考えます」

「ま、スズメがコマンドーとして動くのは、今の私たちには辛いってのもあるでしょ?」

「正直……そうですね」

「だよね……」

コマンドーはチームから離れ単体で動くことも多いポジションだ。

1人で敵チームに発見されないよう偵察をしたり、万一バレてもそこから生還する能力が必要。

その為、隠密技術や戦闘技術には高いものが求められる。

逆にそのチームメイトも、コマンドーが単体で動いて数が押されている状況で戦闘をこなさなければいけない場合もある。

つまり、コマンドーを擁するチームは、チーム全体の技量と連携というものも求められるのだ。

「一先ず、この案をカレルさんに……」

「おはよう諸君」

その時、タイミングをはかったように登校してきたのはカレルその人。

「お、良いところに来たわね」

「どうしたカナール? それにみんなも」

カレルを待っていたスズメたちに囲まれ、カレルは微妙な困惑を見せる。

「実はチーム・ウレテットの新しいフォーメーションを考えてみたんです」

スズメはそう言いながら、先ほどまで描いていたフォーメーションの図をカレルへと見せた。

「ほう、ウレテットの新しい陣形か……スズメくんとレオシュのツートップで、カナール…………おい」

案の定、カレルは明らかに不満を含んだ声を響かせる。

「俺が最後尾ボトムだと!? 一体どういう了見だ!」

「カレルさんの能力を考えての配置です。カレルさんには仲間を引っ張る力があります、ですから……」

「引っ張る力がある――それは確かだ」

「アンタ、自分で言う?」

「だが……いや、なればこそ俺はトップを務めるべきだろう!!」

「そうじゃないんです! カレルさんには私たちを1歩引いた目線で見て貰って――」

「断る」

聞く耳を持たないカレルに、スズメは小さくため息を吐き、レオシュは苦笑を浮かべた。

そんな3人の間に響くカツカツカツカツと言う音。

明らかにイラついている様子のカナールだ。

「何でもいいからカレル、アンタは1回スズメちゃんの言うことを――」

「そうだ、カナール、レオシュさん、ちょっと特訓の成果を見せてくださいよ」

物凄い剣幕で捲し立てようとしたカナールを遮るようにスズメが言う。

「……分かったわよ」

真っ直ぐにカナールの目を見てくるスズメの姿に、カナールはその場からは身を引いた。

昼休み。

スズメたちチーム・ウレテットは屋内練習場へと来ていた。

装騎スパロー・パッチワークに相対するのは、装騎ニェムツォヴァーとレオシュ=バルディエルの2騎だ。

スズメ対カナール・レオシュという1対2の試合をカレルは観戦席でふんぞり返りながら見ている。

「バトル・スタートです!」

「行くわよレオシュ!」

「うんっ」

一気に駆け出す装騎スパロー・パッチワークとレオシュ=バルディエル。

その背後でカナールはエッジボウに矢を番えた。

装騎スパロー・パッチワークとレオシュ=バルディエルが交差するかと思ったその瞬間。

「先制攻撃!」

カナールの装騎ニェムツォヴァーが引き絞った矢を解き放つ。

その一撃に合わせて、レオシュ=バルディエルは咄嗟に回避行動。

スズメの視界が突然開いた――かと思うと装騎ニェムツォヴァーの放った矢が現れる。

「へぇ!」

スズメはどこか感嘆するような声を上げながら、チェーンブレードを振り払いエッジボウの矢を打ち払った。

それと同時に、ワイヤーアンカーを射出し地面に突き刺す。

「ポチャーテク・ロマーヌ……っ」

装騎スパロー・パッチワークがワイヤーアンカーを利用し、急回避をした後の空間をレオシュ=バルディエルの持つ霊子杖ムソウスイゲツが貫いた。

「しまった」

必殺の思いを込めた1撃を回避され、レオシュは明らかな動揺を浮かべる。

次撃を準備していたカナールも、装騎スパロー・パッチワークの機動に対応できていないようだ。

咄嗟にその鏃を装騎スパロー・パッチワークへと向けるが……

「面白いこと思いつきましたよ!」

その時には装騎スパロー・パッチワークは中空へと舞い上がっていた。

さらに両腕のワイヤーアンカーを天井へ向けて射出――――ワイヤーの張力をコントロールし、空中での軌道を変えながら装騎ニェムツォヴァーへと近づいていく。

「ちょっと、そんなのアリ!?」

そう言う間に、装騎スパロー・パッチワークは装騎ニェムツォヴァーの目前。

「スパロー・キックバンカーです!」

装騎スパロー・パッチワークの足の裏からパイルが飛び出すと、装騎ニェムツォヴァーを貫いた。

機能を停止する装騎ニェムツォヴァーを蹴り飛ばし、宙返り。

「カナール!!」

味方が撃破されたことに、レオシュは叫び声を上げた。

そんな合間にも、レオシュ=バルディエルを狙って装騎スパロー・パッチワークは駆けている。

「そんなヒマはありませんよ……っ!」

チェーンブレードの一閃が、レオシュ=バルディエルを切り裂いた。

バトルが終わり、フィールド横にチーム・ウレテットの4人は集まる。

「カレルさん。今のバトルどうでした?」

「そうだな……」

スズメの問いにカレルは難しい表情を浮かべながら考える。

「最初の勢いは良かったな。だがしかし、策を崩されてからの焦りが見えすぎだ。特にレオシュ」

「う……確かに、そう、かもね…………」

「カナールはレオシュとの連携に気をとられ過ぎてないか? 1歩引いた場所にいるんだ。スズメくんの動きもしっかり見ていれば、その動きを封じられていたかもしれないぜ」

「それは……反省しているところよ」

それからもカレルの指摘が続く。

やれ攻撃を外した、味方が撃破されたくらいで一々反応が大きすぎるだとか、1か所にとどまり過ぎだとか、俺がいないと何もできないだと……。

「最後のだけは否定してやりたいわ」

「そう思えるくらいカレルが力になれば良いけどね」

「やっぱりカレルさん、よく見てるじゃないですか!」

「……揚げ足取りが得意なだけじゃないの?」

スズメの言葉にカナールがそう呟くが、ヘタに触れると話がややこしくなりそうなのでスズメはスル―。

「そのカレルさんの確かな目を信頼して、もう1つアドバイスが欲しいんですけど……」

スズメはSIDパッドを取り出すと、そこに戦闘データを表示した。

簡単に作られた3Dモデルが、ある戦闘の流れをなぞる様に動くシミュレーションデータ。

その内、トップを務める仮にAとされている装騎をスズメは指さし言う。

「これを見て、この人をカレルさんならどう改善するか聞きたいんです」

シミューレションデータを真剣な表情で見つめるカレル。

意外と、こういう部分はマジメのようだった。

1つ見終わると、スズメが今度は違う戦闘データを見せる。

そんな感じで幾つかの戦闘データを見ていたカレルは、かなり表情を歪めて顔を上げた。

「コイツ、ダメダメじゃないか」

カレルの第1声に、カナールは思わず顔を背ける。

レオシュも口元を固く結びうつむいている。

「どこがダメなんですか……?」

そう真剣な表情のスズメにカレルもまた真剣な表情で頷いた。

「まずチーム戦だって言うのに仲間を放っておいて突出するなんてナンセンスだ。それに伴うだけの実力があれば良いが、コイツはまるでなっちゃいない」

カナールとレオシュの肩が、わずかにだが震える。

「仲間の動きもまるで解っていないし、コイツ自身の戦い方からは現実的なバトルスタイルというものが見えない。実力不相応に前に出ることしか考えていないように見える」

「だったらどうした方が良いですかね?」

「俺様が思うには、まずは色んなポジションを経験してみるべきだな。後方から味方の動きを観察して、その中でどう戦えるか今一度考えなおしてみるべきだ」

自信満々にカレルがそう評したところで、

「……っ、あははははは!」

堪えきれなくなったカナールが大声で笑いだした。

その傍で、レオシュも肩を震わせ笑っている。

「何がおかしい?」

カレルの問い掛けにも答えられないくらい笑う2人の代わりにスズメが答えた。

「今の戦闘データ、全部カレルさんのですよ?」

「…………は?」

スズメの言葉にカレルは信じられないという表情を浮かべている。

「これが俺の戦闘データだと? 本気で言ってるのか?」

「嘘だと思うんでしたら、装騎イェストジャーブの戦闘データを見てみてくださいよ。と言うかカレルさんって過去のバトルのデータを見返したりしないんですか?」

「ああ、俺は完璧。所謂パーフェクトだからな!」

「本ッ当、アンタ莫迦ね」

「見返して反省してるならあんな戦い方にはならないよね」

レオシュの言葉にスズメも「確かに」と頷く。

「カレルさん、さっき自分で言ったこと覚えてますか?」

「……俺がパーフェクトって処か?」

「違うわよ莫迦。さっき言った批評よ」

「…………ああ」

覚えていることを残念に思うように躊躇いながらも、カレルは素直に頷いた。

「カレルさんが言ったこと、実践してみませんか?」

「俺が後ろに下がるのか?」

「そうよ。言っておくけど、アンタを虐めようと思って言っている訳じゃないんだからね」

「ボク達にとってカレルがいないとダメだってくらい頼れるリーダーになってほしいんだ」

「それは言い過ぎだけど、そう言うことよ」

今まで、自由に自分のしたいことだけを見てきたカレル。

そんなカレルは今、自分自身と見つめ合わないといけない時が来ていた。

「言ったことはやる。俺はそういう男だ」

「はい! カレルさん、よろしくお願いします!!」

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