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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
リラフィリア:曰く付きの編入生編
216/322

黄鳥の羽撃き

その日、スズメはバーリン市内のゲームセンターへと足を運んでいた。

「今日の引きはあまり良くなかったですね……」

ニャオニャンニャーのゲームを軽くやった後に、なんとなく覗いてみたサンクチュアリ・バトル・オンライン。

そこでスズメはかなり良い動きをする騎使を目にした。

扱う装騎はバルディエル型――――その手には霊子杖ムソウスイゲツ。

「騎使名は……Oriolusですか」

Oriolusと戦うのは、Regulusと言う名の騎使で使用装騎はラファエル。

バーストライフルを両手に構えるRegulusに対して、武装は霊子杖ムソウスイゲツのみのOriolusが臆することなく突っ込んでいく。

強烈なバーストライフルの雨の中、霊子杖ムソウスイゲツを用いたアズル技でその銃撃を防ぎ、一気にRegulusとの距離を詰めた。

そして、強烈な霊子杖ムソウスイゲツの1突き。

そのままアズルの力で剣のような鋭さを得た霊子杖ムソウスイゲツの薙ぎ払いでRegulusを撃破した。

「思い切りも良いしすごい……ちょっと荒すぎますけど…………」

スズメがそう呟く傍で、SBOの筐体から1人の男子が姿を見せる。

その男子は、チラっとスズメの方を見るとその両目を見開いた。

「レオシュさん!」

その男子とはスズメと同じチーム・ウレテット――ジュルヴァ・レオシュだった。

「スズメちゃんってこういう所来るんだね」

「レオシュさんこそ。ビックリしましたよ! さっきSBOやってましたよね」

「え、あ、ああうん」

スズメの言葉にどこか動揺したようなレオシュ。

「レオシュさんはOriolusって名前ですよね?」

「え!? いや、その――なんでそう思うの?」

「Oriolusってジュルヴァのことですし。レオシュさんがそう聞くってことは、やっぱりそうなんですよね」

苦い笑みを浮かべるレオシュから、スズメは完全に確信する。

あのOriolusがレオシュだと言うことを。

「あんまり人には知られたくなかったって感じですね」

「……まぁね。スズメちゃん見たよね? ボクの戦い方」

「はい! 普段と違ってすっごくカッコよかったですよ! 実際のバトルでもあんな感じで動けばもっと活躍できるのに!」

「ゲームと現実じゃ、全然違うからね」

謙遜するレオシュに、だがスズメはそうは思わない。

「やっぱり、レオシュさんってそういう所が損してると思うんですよね」

「損?」

「はい! チーム・ウレテットでもあんな風に戦ってみましょうよ! 私も協力しますから!」

そう提案したスズメに、だがレオシュは首を横に振った。

「スズメちゃん、ごめん」

「どうして、ですか……?」

「ボクは……戦えないんだ。あんな風に」

「レオシュさん。私とバトルをしてください!」

「だから、ボクは戦えないって……」

「良いじゃないですか。ただの遊びですよ遊び」

スズメの誘いに渋っていたレオシュだったが、終ぞ頷く。

「分かったよ。バトル、しようか」

場所はバーリン市内のバトルフィールド。

装騎スパロー・パッチワークと相対するのは、レンタルのバルディエル型装騎。

その手には普段のようなストライダーライフルとウェーブソードではなく、SBOの時と同じく霊子杖ムソウスイゲツが握られている。

「サエズリ・スズメ、スパロー。行きます!」

「ジュルヴァ・レオシュ――戦うよ」

そして、スズメの装騎スパロー・パッチワークとレオシュの装騎バルディエルの戦いが始まった。

装騎スパロー・パッチワークはバーストライフルを手に持つと、レオシュ=バルディエルに向かって銃撃する。

バーストライフルの銃撃に攻めあぐねるレオシュ=バルディエル。

「レオシュさん、来てください! 私の元まで!!」

「くっ、そうは言っても……こんなのっ」

「ならば、こちらから行きます!」

不意に、装騎スパロー・パッチワークが一気にレオシュ=バルディエルとの距離を詰めた。

バーストライフルを素早くストックすると右手にチェーンブレードを構え、振り払う。

「うわっ」

咄嗟にその1撃を回避するレオシュ。

「レオシュさん、そんな動きじゃダメですよ!」

「ダメって言われても……っ」

「もっと楽しみましょう!」

「楽、しむ……?」

「これは授業じゃないです。戦争でもないです。遊びなんです! 遊びは楽しまないと損ですよ!」

「遊び……そう、だよね」

レオシュ=バルディエルが霊子杖ムソウスイゲツにアズルを走らせる。

「遊び、なら……っ」

そして、霊子杖ムソウスイゲツを突き出した。

「おっと! 良い1撃ですっ」

その突きを咄嗟に回避する装騎スパロー・パッチワーク。

だがそこに畳みかけるようなレオシュ=バルディエルの攻撃が迫る。

霊子杖ムソウスイゲツを叩き付けるように横薙ぎに払った後、剣を握るように綺麗に持ち直し連撃。

そして、長刀を扱うように回転させながら霊子杖ムソウスイゲツを振り降りろした。

「うわっ!?」

最後の1撃で、攻撃を回避し続けていた装騎スパロー・パッチワークのチェーンブレードを叩き、その刃を溶かしさる。

「アズルを纏った攻撃は、私のチェーンブレードじゃ受け止められない……回避し尽くすしかっ」

葬送行進曲スムテチュニー・ポホド

スズメがそう呟いた瞬間――目の前には流星群のような霊子杖ムソウスイゲツの閃きが走っていた。

その軌跡を見極め、ダメージを受けながらも機能停止だけは避けようと防ぐ。

「レオシュさんの本気の攻撃――――さすがです! 私も、全力で行きます!」

アズルを纏った強烈な打撃が装騎スパロー・パッチワークを襲い、スズメはそれに耐える。

打つ、防ぐ、打つ、防ぐ、打つ打つ打つ、耐える耐える耐える。

腕がひしゃげ、足が抉られ、頭部を焼かれながらも、スズメは冷静にその技を見極め、反撃の機会を伺っていた。

「そこです!」

レオシュ=バルディエルがその霊子杖ムソウスイゲツを逆手に向けた一瞬のスキを狙って、スズメは装騎スパロー・パッチワークをレオシュ=バルディエルへとぶつける。

「うわっ、体当たりっ!?」

怯むレオシュにスズメは容赦なく突っ込んでいく。

その衝撃で、装甲が崩れ、ダメージを受けていくのは元々ダメージが大きい装騎スパロー・パッチワークの方。

だが、それにも構わない。

それと同時にスズメの伝家の宝刀ウェーブナイフを取り出す。

「電光・一閃・烈風!!」

瞬間、装騎スパロー・パッチワークはレオシュの視界から消え失せた。

その後レオシュの体を襲う上空からの強烈なプレッシャー。

「秘伝――銀風交叉アージェントガスト・クロス!!」

銀風交叉の一撃を受けて、レオシュ=バルディエルはその機能を停止した。

「やっぱり強いね、スズメちゃんは」

「レオシュさんこそ! あんな技まで使えるなんて……やっぱりレオシュさんはすごいです!」

「すごい、か……そう言われたの、初めてだよ」

レオシュの言葉にスズメは理解する。

「レオシュさんも、色々辛いことがあったんですね」

「まぁ、ね」

つまり、レオシュはスズメと同じだった。

「出る杭は打たれるって言うしさ。ボクは――そうなるのが怖かったんだ。最初はね」

「最初は?」

「気づいたらボクは何もできなくなっていたんだよ。本気を出すことも、自分を出すことも、そして、どんどん出せなくなっていって……気づいたら何をするにも怖くなってきて、辛くなってきて……」

「…………」

「でも、そうだね……スズメちゃんと比べたら、なんてことはないことかもね」

暫くの沈黙。

そんな中、スズメがそっと口を開いた。

「それでも……それでも、ウレテットの為に、力を貸してくれることをお願いしたい、です」

「どうして?」

「……私は素の私を受け入れてくれる人たちと出会えたから、いつでも自分らしく行こうと思えるようになりました。最初は、本当の自分を隠そうとして、必死に自分を殺していました。だけど、そんなことをしなくて良いって――いろんな人たちが教えてくれたんです」

スズメの頭に浮かぶのは、ステラソフィア女学園に入学したその日のこと。

ワシミヤ・ツバサ、テレシコワ・チャイカ、カスアリウス・マッハ……ステラソフィアで出会った色々な人たちのこと。

そして、スズメを暖かく迎えてくれたチーム・ウレテットのこと。

「私はこの暖かいウレテットが大好きです。だから、もっとみんなで輝けるチームにしたいんです!」

「やるのは、難しいことだと思うよ?」

「そうかもしれませんね……だけど、みなさんが協力してくれないと、何も始まりません」

「そうなんだよね。ボク達だってずっと解ってた。だけど、誰もやろうとしなかったから何も変わらなかったんだよね」

レオシュはすうっと瞳を閉じて、息を吐いた後に言った。

「スズメちゃん、ボクも協力するよ」

「一緒に、ウレテットを最高のチームにしましょう!」

「うん」



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