激突! スズメVSカナール
「サエズリさん――話があるの」
ある日、スズメはカナールに呼び出された。
どこか神妙な面持ちのカナール――カナールはスズメの表情を見て言った。
「わたしの言いたいことは――わかる、みたね」
「さぁ? わかりませんよ。どんなことでも――言ってもらわないと」
だがスズメは首を横に振る。
「どうして勝手なことばっかりするの?」
それは、ここ最近のスズメの行動のことだった。
チーム・イレギュラーズとのバトル以降、スズメとカレル――2人の判断によって他クラスの機甲科も含め、様々なチームと戦い、勝利を収めているチーム・ウレテット。
だが、カナールにとってはそれが不服だった。
「理由を、知りたいんですか?」
「知りたいわよ」
「それなら――バトルをしましょう」
装騎バトル用の屋内練習場。
そこに2騎の機甲装騎が相対していた。
「あの装騎――ズラトヴラースカ?」
この戦いで、カナールが乗り込む機甲装騎は普段使っている学校所有のアブディエル型ではなかった。
武装こそ同じエッジボウだが、その装騎は旧チェスク共和国製機甲装騎である金髪の乙女。
「わたしの本当の装騎――ニェムツォヴァーよ」
これはカナールの実家であるニェメツ家が保有する、家の名を与えられ、家の象徴となる機甲装騎。
「なるほど――本気、ってことですね」
スズメはそう呟くと、装騎スパロー・パッチワークのウェーブナイフを右手に構える。
「サエズリ・スズメ、スパロー。行きます!」
一気に駆け出す装騎スパロー・パッチワーク。
それを迎え討たんと矢を番える装騎ニェムツォヴァー。
「くっ……狙いが、定まらないっ」
しかし、奔放に動く装騎スパロー・パッチワークの姿にカナールは翻弄される。
「ああもうっ!」
カナールは矢を収めると、素早くエッジボウを近接戦闘に備えて構えた。
ギィイイイイイイイイイ
激しい火花を散らしながら、ウェーブナイフとエッジボウがぶつかり合う。
「カナールさんは、何が不満なんですか?」
ふと、スズメがそうカナールへと問いかけた。
「バトルでは全戦全勝。最下位だったチーム・ウレテットは着実に成績を上げてます」
「目立ちすぎなのよ! 貴女、ラヴィニアから酷い虐めにあったことを忘れた訳じゃないでしょう? 悪目立ちし過ぎたら、またああいう輩に目を付けられるの!」
装騎ニェムツォヴァーはウェーブナイフの刃とはぶつかっていない方の刃を装騎スパロー・パッチワークへと押し付けんと手首を捻る。
一気に前進する装騎ニェムツォヴァーに、押されて後退する装騎スパロー・パッチワーク。
「そう、かもしれませんね」
「うぁ……っ!?」
ここで、装騎スパロー・パッチワークが装騎ニェムツォヴァーを蹴り飛ばした。
「真っ先に標的にされるのは私――ですが、ヘタをすればウレテット全員が標的にされるかもしれません」
淡々とそう言うスズメに、カナールは苛立ちを隠せない。
「ぐ……分かってるじゃない!! 一体どういう了見でこんなことをしているの!?」
怯んだ装騎ニェムツォヴァーは、一旦距離を置く。
そして、素早くエッジボウに矢を番えると、装騎スパロー・パッチワークに向けて撃ち放った。
真っ直ぐに装騎スパロー・パッチワークに向けられた矢の1射。
それを、装騎スパロー・パッチワークはウェーブナイフで弾き飛ばす。
「ニェムツォヴァーさんはこのままで良いと思ってるんですか?」
スズメは言う。
「私は、ニェムツォヴァーさんたちは――チーム・ウレテットはもっともっと、良いチームになれると思っています。ですけど、足りないものも多い……」
「そんなの――判ってるわよ」
「判ってることは解っています。それなのにアナタ達は行動を起こそうとはしない」
「わたしはこれでも――――っ、ああもう! 解ってる。解ってるわよ……」
カナールは解っていた。
何故、自分が弱いのか、チームが弱いのか。
そして、それをより良い方向へと変えようと思いながらも、思ったように行動できない自分に対しての苛立ちも感じていた。
「わたしは、わたしは……」
カナールは、矢を3本――一気に弓へと番える。
そして、射った。
「前に、進みたいって――――ずっと、ずっとずっと……」
更に装騎ニェムツォオヴァーは矢を番え、射る。
何度も何度も矢を番え射ながら、装騎ニェムツォオヴァーは装騎スパロー・パッチワークへと一気に駆けた。
「向かって――来る」
そう呟くスズメの表情は、どこか明るい。
装騎スパロー・パッチワークは矢の雨を避け、ウェーブナイフで弾きながらも装騎ニェムツォヴァーを迎え討たんと構える。
そんな装騎スパロー・パッチワークの頭部を狙って放たれた矢――その1撃を空いた左手で掴み取ったその瞬間。
「いっけぇぇええええええええ!!」
装騎ニェムツォヴァーのエッジボウが装騎スパロー・パッチワークを引き裂かんと振り払われた。
その1撃は、装騎スパロー・パッチワークの左腕を斬り飛ばす。
だが――
「良い感じじゃないですか」
ウェーブナイフの1撃が、装騎ニェムツォヴァーの機能を停止させた。
「私はニェムツォヴァーさん達が、自分から本気で変わろうと思って欲しくて――その、あんな無茶なことをしていました。それは――謝ります」
バトルが終わり、屋内練習場のベンチに腰掛け汗を拭きながらスズメが言った。
「……何で謝るのよ」
カナールはムッとしたような表情を浮かべながら、スズメへと冷えたスポーツドリンクを手渡す。
スズメはそれを受け取り、静かに頭を下げた。
「やっぱり、無理矢理過ぎ――でしたよね。怒らせちゃいましたし」
「まぁ、そうね。最初から言ってくれたら――――ううん、それだと結局は形だけで、本当に変わろうとは思えなかったかもね。まぁ、それは良いけど――」
カナールは意地悪な笑みを浮かべる。
「さっきのバトル。手加減してナイフ1本だけで戦ってたのはムカつく」
「だったら、本気でバトルしましょうか?」
「100%負ける自信があるわ」
「もっと思い切って戦ったらわかりませんよ?」
「思い切って……?」
首を傾げるカナールにスズメは頷いた。
「ニェムツォヴァーさんは型に嵌りすぎなんですよ」
「……よく言われる」
「それに、1撃1撃を確実にしようとし過ぎなんです」
「……確かに」
「カナールさんの実力自体はかなり上位だと思いますよ。ステラソフィアでも通用するくらい」
「それは無い」
「ありますって! ですけど、やっぱり思い切りが無いんですよ。チーム・イレギュラーズと戦った時だって、ニェムツォヴァーさんがレオシュさんを援護出来てれば、状況は少し変わってたかもしれません」
「だからって――味方に当たったりしたら本末転倒じゃない」
「ニェムツォヴァーさんの実力なら、当てないだけの力があると思いますよ。ただ、自信がないだけ。自分でも分かってるんじゃないんですか?」
スズメの言葉にカナールは押し黙る。
解ってる。
ずっとずっと解ってた。
それでも実行できなかったのは、失敗するのが怖かったから――そして、自分の本当の弱さが露呈するのが怖かったから。
「わたしは――確かにできる、そう言う気持ちはある。でも、もしやって失敗したら。やって実は自分にはできないってことが分かっちゃったら――――それが、怖くて……怖くて」
「やってみないとわかりませんよ。やってダメだったらその時は――仲間がいるじゃないですか」
「仲間……」
「私が言うのも、変ですけどね。ですけど、私に仲間に頼る大切さを思い出させてくれたのは、ニェムツォヴァーさん達――チーム・ウレテットなんですよ?」
スズメが口にしたはラヴィニアの虐めをただ1人で受け止めようとしていたスズメへとチーム・ウレテットが手を差し出してくれたことへの感謝の気持ちだった。
「仲間と力を合わせれば、ずっといい方向へと変えられる。そう教えてくれたのは、アナタ達じゃないですか」
「……そうね」
カナールは気づく。
カレルが言っていたのも、こう言うことだったのかもしれないと。
ラヴィニアの件では、スズメを助けたくてカナールはカレルの提案に乗った。
今、スズメはカナールを助けたいと思ってこんなことをしている。
「チーム・ウレテットは――運命共同体、か」
「運命共同体?」
「カレルのバカが言ってた」
ふと、カナールは胸を張ると、声を低くして言った。
「“スズメくんが背負おうとしているものを、俺達も背負えなくてどうするっ! 遠慮をするなーっ!”ってさ」
「カレルさんの真似、似てますねー!」
「でしょ?」
ひとしきり笑いあった後、スズメが口を開く。
「私にも、ニェムツォヴァーさんの悩みを一緒に背負わせてください。小さいことでも」
「サエズリさんも1人で抱え込もうなんてしないでよ」
頷き合う2人――その2人の間には芽生えた絆が感じられた。
「ニェムツォヴァーさん。みんなで一緒に強くなりましょう。誰からも実力を認められるだけの、最高のチームに!」
差し出されたスズメの手――カナールはその手へと静かに手を伸ばす。
そして、言った。
「“ニェムツォヴァーさん”って言いづらくない?」
「それなら“スズメ”って呼んでくださいよ」
「それでスズメ、まずは何からしよっか?」
「そうですね――手始めに、カナールが私を倒せるようになりましょうか」