ロヂナ・スズメの休日
「気持ちいいね、フニャちん!」
「にゃあ~」
朝、日課のランニングをするスズメと、そんな彼女についてきたフニャト。
軽くランニングを終え、アパートへと帰ってくる。
「フニャちん、私はシャワー浴びてくるから、ロコちん起こしてね!」
「にゃあ」
スズメはそう言うと着替えを用意してお風呂場へと足を運んだ。
対するフニャトはサッとロコヴィシュカの部屋へと駆け込む。
よくできた猫である。
「ひぇょあぁぁぁあああああ!!??」
スズメがシャワーから出てくるとそんな叫び声が聞こえてきた。
「おはよう、ロコちん!」
「お、おはよー、ズメちん……」
着崩れたパジャマを引き寄せながら、部屋からロコヴィシュカが出てくる。
ロコヴィシュカは意外にも朝が弱かった。
「おはよ……」
ロコヴィシュカの叫び声で目が覚めたのか、目をこすりながらアナヒトも部屋から出てくる。
「アナヒトちゃんも起きたんだー。それじゃあ、朝ごはんにしようか!」
「そう、しよっか」
「……うん」
今日この日、スズメ、アナヒト、ロコヴィシュカの3人はこのバーリン市内で行われる装騎展に行く予定だった。
「ニャッ」
「フニャちんも装騎展行くの?」
「にゃあ」
「分かった、一緒にいこうね」
そして、3人と1匹はアパートを出て、歩いて装騎展の会場であるバーリン基地へと足を運ぶ。
この装騎展はマルクトが共和国へと変わり、今まで使われていた装騎技術の他国への公開と言う意味合いも含め、神国時代の装騎の他、現時点での試作騎や各国装騎を集めたイベントだった。
「思ったよりいろんな装騎がいるね!」
「本当! 見て見てズメちん、あっちにいるのはマジャリナ王国のラドカーンだよ!」
「わ、あのベロボーグはラトガラント軍仕様だ」
「ヘレーニア共和国製駆逐装騎ゼウスだって、すごいねー」
盛り上がる2人の背後からフニャトを抱きかかえながら、やや戸惑ったような視線を向けるアナヒト。
そんなアナヒトの視線に気づいたスズメとロコヴィシュカはあっと言う表情を浮かべる。
「あっ、ごめんアナヒトちゃん!」
スズメはアナヒトの元へと駆け寄り謝ると言った。
「出店とかもあるから、何か食べよっか!」
「……うん」
スズメの言葉にアナヒトは首を縦に振る。
「そうだね。アナちん、何食べる?」
「パスタ」
「パスタ……?」
見るとアナヒトの言う通りパスタを出している出店があった。
それも、屋台でパスタを作っている少女の動きがまたすごい。
複数の鍋を用い、様々な種類のパスタを同時に茹で、調理し、盛り付けし、お客に提供。
お金を受け取り適切な金額のお釣りを素早く出す。
殆どはそのパフォーマンスだけで客寄せしているようにも思える。
「パスタのロレンツォ……なんかすごいね」
その様子を見てスズメもロコヴィシュカも圧倒されたような表情。
「あのお店のパスタ、食べる?」
「うん」
そう言うアナヒトの表情は輝いていて、よほど興味があったのだろう。
興奮した様子でパスタを作る少女を見つめるアナヒト。
そんなアナヒトの姿に気づいた少女が言った。
「見てるの、楽しい?」
「うん」
「そうか」
ふと、アナヒトが少女に尋ねる。
「お姉さん、すごい」
「ふふ、すごい、ですか。ありがと」
「お姉さんは、どうしてこんなことできる?」
「わたしはアルバですから」
「わたしはアナヒト。こっちはフニャト」
「にゃあ」
アナヒトとフニャトの様子を見て少女は笑う。
「わたしはピピ。よろしく」
「ピピ? アルバじゃないの?」
「ピピが名前、アルバは――職業みたいなものです」
「なっとく」
そんな会話をしながらも、テキパキと料理を作っては出していく。
「アナヒトちゃんは何食べる?」
列に並んでいたスズメとロコヴィシュカがやっとカウンター前まで来ると、先にカウンター横で張り付いていたアナヒトに尋ねた。
「……オススメは?」
「今日のオススメはペスカトーレかな」
「じゃあソレ」
「毎度あり」
展示装騎が良く見える休憩席でスズメとロコヴィシュカ、フニャトを抱いたアナヒトはペスカトーレを食べる。
「機甲装騎って国によってもちょっとした特徴があっていいよねー」
「そうよね。最近は人型じゃない装騎の研究とかも始まってるんだってさ!」
「人型じゃない装騎かぁ……だったらネコ型装騎とか欲しいなぁ。フニャちんと装騎バトル、してみたいなぁ……」
スズメの言葉にロコヴィシュカは思わず笑ってしまう。
「ロコちんなんで笑うの!?」
「ううん。ズメちんらしいと思ってだよ~。でもそうだね。フニャちんもズメちんと装騎バトルしてみたい?」
「にゃあ!」
タイミングよくそう鳴き声を上げたフニャト――彼の返事はスズメと戦いたいと言ってるように2人は感じた。
「アナちんも装騎を練習して、みんなでバトルするのも良いんじゃないかな」
「それいいね! 私と、アナヒトちゃんと、ロコちんとフニャちん――丁度チームができるよ! どうかなアナヒトちゃん?」
「……良いね」
「決まり! それじゃあ、装騎バトルの練習しようか!」
夜。
スズメもアナヒトも寝静まり明かりが消えた後――ただ1つだけ明かりの灯る部屋があった。
そんな部屋の中、ロコヴィシュカは机に向かい紙に何かを描いている。
「にゃあ?」
「フニャちんも興味あります?」
「にゃあ」
ロコヴィシュカの問い掛けに、フニャトは鳴き声を上げた。
「PADとか使えたら良いんだけど……さすがに買えるだけのお金はないからね」
PADなどの情報端末は非常に高価。
今では一般階級に対しても広まりつつあるとは言え、それでも容易には手を出せない。
スズメの持つSIDパッドを借りても良かったが――慣れているということで、ロコヴィシュカは手描きで何かを描いていた。
「今日思いついたアイデアだよ。コッチはJ型兵装を元にした武器でしょ、コレが霊子剣内蔵型のナイフで、それに機甲装騎レフのアイデアスケッチ!」
その紙をまじまじと――本当にまじまじと見ているのかはわからないが、フニャトが見つめる。
「がんばって造ってみるから――楽しみにしてね!」
「にゃー」
今日の休日はロコヴィシュカに炎を灯したようだった。