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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
リラフィリア:曰く付きの編入生編
213/322

リラフィリアのイレギュラー

「おい、やつらだ! やつらが来るぞ!!」

それはある朝のことだ。

突如として、1人の男子生徒がそう叫びながら教室へと駆け込んでくる。

その言葉でざわめきが教室中に広がった。

「やつらって何ですか?」

事情の知らないスズメは首を傾げる。

「やつらって言ったらやつらだよ!」

「まさか本当に!? 久々の登校じゃない」

「だから何のことなんですかーっ!」

レオシュとカナールの様子から、相当恐れられているらしい。

結局、何が何だがわからないスズメに、いつも通りの余裕の態度でカレルが言った。

「このリラフィリアにはチーム・イレギュラーズというならず者部隊がいるのさ」

「チーム・イレギュラーズ……いかにもな名前ですね。そんなにすごいんですか?」

「ああ。何でも、カナンの不良グループの頂点に君臨する4人で作られたチームでな、どうしてこの学校にいるのか、どうやって入ることができたのか、色々と謎なチームなんだよ」

そんな彼らがこれから登校する、ということで騒ぎになっているようだった。

「邪魔すっぞォ!!」

ガン!!

と激しい音がして扉が思いっきり開かれた。

そこに立っていたのは4人の男女。

まず1人目は、様々な色のメッシュが入った派手な頭の男子生徒。

「ファイアワークスのヒバナ!」

リーゼントを突き出した強面の男子生徒。

「アリゲーターのシュヴェイク!」

長く伸びたスカートに、髪に編み込みが入った女子生徒。

「チェーンソーのハヅキ! そして……」

流した黒髪にとんがったグラサンが特徴的な男子生徒。

「チャンプー!!」

スズメはその男子生徒の姿を見ると、たたたたと駆けだす。

「チャンプ、チャンプじゃないですかー!!」

「な、サエズリ・スズメェ!? 何でお前ぇがここに!!??」

「ああ、そーいえば編入生が来るとか噂されてたっけな」

驚くチャンプに、ハヅキがそう言った。

「編入生!?」

「そう言えば、チャンプってリラフィリアとか言ってましたね。すっかり忘れてました!」

先ほどから、やけにフランクに――しかも、チャンプというニックネームで彼のことを呼ぶスズメの姿に周囲は騒然となる。

何よりも、スズメと話すチャンプの姿が、今まで多くの生徒が抱えていたイメージとは異なるものだったからなおさらだ。

「だから名前で呼べっつってんだろ!!」

「名前、名前ですね。えっと確か……村田?」

「ムルタ! ムルタ・リーガル!! 何回このやり取るする気だテメェ!!」

そんな2人やり取りを見て、やっとカナールが口を開いた。

「あの、サエズリさん。もしかしてムルタ・リーガルと知り合いなの?」

どこか恐る恐る言ったカナールの言葉に、スズメはあっけらかんと言う。

「はい! お友達です!」

その言葉に、流石のラヴィニアまでどこか怯えた様子。

「ムルタ・リーガルって言ったら、泣く子も黙る天下の不良なのよ、アンタ莫迦なの!?」

「最近のカナンじゃ、子どもに大人気で泣く子も笑顔になるみたいですね。掲示板で有名ですよ」

「おい、やめろやめろ!!」

「カシラ――コイツァやばいですぜ……」

スズメの言葉に脂汗を流しながら、シュヴェイクがそんなことを口にする。

ヒバナやハヅキも同じ――――どうやら彼らは知っているらしい。

チャンプ、ムルタ・リーガルが子ども相手にサンクチュアリ・バトル・オンラインの初心者講習をしていることを!

「……リーダー、ここはフケよう」

ついにはヒバナがそんな提案をしはじめる。

「もしかして逃げるんですか……?」

「は、はぁ!? 逃げねーし!!」

「コレはやべーな。ウチらのリーダーさんが完全に手玉に取られてやがる。サエズリ・スズメ……中々の女だよ」

何故かついには感心しはじめたハヅキに、ヒバナとシュヴェイクも腕を組みながら頷いた。

「で、どーすんだチャンプ? ……あ」

「おいハヅキ……お前ぇ今チャンプって……」

「チャンプー、授業受けましょうよ!」

「じゃかあしい!!」

そこで、不意に扉が開く音。

教室に入ってきたのは、マーキュリアス・フレダだった。

フレダは教室にいるチーム・イレギュラーズの姿を見て少し目を見開く。

「あら、イレギュラーズじゃない! もしかして、今日は授業受けていってくれるの!?」

どこか期待の込められたフレダの眼差しに、基本的には良い人であるチーム・イレギュラーズの4人は遂にこの部屋から出る機会を失った。

「でも、イレギュラーズって装騎バトルはすごいよね」

「そうなんですか?」

機甲装騎の授業の準備をしているとき、レオシュがふとそう言った。

「そうなのよ。装騎の腕だけならこの学校でもトップクラスなのよね」

カナールもそう言うことから、よっぽど強いらしい。

「まぁ、俺達王者のチーム――ウレテットには敵わんだろうがな」

「サエズリさんいるからね」

自信満々でそう言うカレルに、カナールが冷静なつっこみを入れる。

「そう言えば、チャンプと生でバトルしたことありませんね」

「もしかして、イレギュラーズとバトルする気なのかしら……?」

スズメの言葉に、カナールは苦い表情を浮かべながらそう言った。

「ダメ、ですかねぇ」

「いや、良いじゃないか。フレダに提案してみよう」

「フレダ先生、だよ」

「本当にやる気なの!?」

ナチュラルに先生を呼び捨てにするカレルにレオシュがつっこむ中、カナールは本当に嫌そうだ。

「何、俺達なら勝てる。イレギュラーズにだってな!」

「勝てるかもしれないけど、そうじゃないでしょ!」

カナールが心配しているのは勝ち負けでは無かった。

スズメがチームに入り、その戦績は良くなってきているが殆どがスズメの戦果。

そこで、リラフィリアでもトップクラスのチームであるイレギュラーズに戦いを挑むとなると、スズメを擁したことで成り上がりをしようとしているのではないかと言うあらぬ噂を立てられることを嫌ったからだった。

スズメに対するいじめの主犯であったラヴィニアとは和解出来たが、スズメを快く思わない者はまだリラフィリアには存在し、最弱チームであるウレテットがスズメの力を利用してトップチームを倒そうとしていると思われたらチーム・ウレテット自体が何かしらの標的にされる可能性もある。

「怖いのか?」

「怖いわよ!!」

そんな様子を見て、スズメは何かを感じた。

何かを感じたスズメは、心の中で頷くと口を開く。

「わかりました! チーム・イレギュラーズと戦いましょう!!」

「よく言った!!」

「はぁぁあああああああ!!!???」

斯くして、チーム・ウレテットとチーム・イレギュラーズの試合が実現した。

「さぁ、行くぞ。我に続け!!」

試合が始まって早々、一気にイレギュラーズ目がけて駆け出すカレルの装騎イェストジャーブ。

「あのバカ! 早速!?」

「ど、どうするスズメちゃん!?」

慌てた様子のレオシュにスズメは冷静に言った。

「私に作戦プランがあります」

「どんな?」

「カレルさんに続いてガンガン行きます!」

「それって作戦プランなの!?」

「及び腰になったら負けです! ここは、カレルさんの勢いに乗りましょう」

そう言うと、装騎イェストジャーブに引き離されないように、一気に駆け出す装騎スパロー・パッチワーク。

「……ッ、どうなってもしらないわよ!」

「いつも負けてばっかりなのに、今更どうなるもこうなるもないね」

先を行く2人にカナールは怒鳴りながら、そしてレオシュは苦笑しながらその後を追いかける。

「こちらイェストジャーブ、敵を発見した!」

「フンッ、正面から突っ込んでくるなんざぁ、飛んで火にいる夏の虫じゃあ!!」

「――撃つよ」

そう言いながら銃器を構えたのはヒバナの装騎オフニョストロイ。

ローラー移動と胸部拡散霊子砲が特徴的なシャムシエル型装騎に、ロケット砲と榴弾砲、さらにファイアフライを装備した火器満載の装騎だ。

「返り討ちにしたれ!!」

「諒解」

装騎オフニョストロイのロケット砲、榴弾砲、ファイアフライが一斉に起動する。

そして、火を噴いた。

「うおぉおオ!?」

響き渡るカレルの叫び声。

装騎オフニョストロイの放った弾丸が爆炎と砂埃を巻き上げ、カレルの装騎イェストジャーブの姿が掻き消える。

「あんの莫迦!!」

「やったか!?」

黒く立ち上る煙が晴れたその後、そこには――

「……ふっ、神回避」

「私が引っ張りましたからね……」

装騎スパロー・パッチワークのワイヤーアンカーに引っ張られ、転倒した装騎イェストジャーブの姿があった。

「はぁあぁああああ」

「グッジョブ、スズメちゃん」

安心したようにため息を吐くカナールに、にこやかにスズメを褒めるレオシュ。

「チッ、避けられたか……じゃが!」

「行くよっ!」

「やっちまいやしょう!!」」

片膝をつき、テインライフルを構えるリーガルの装騎イリーガル。

そして装騎オフニョストロイの援護を受けながら、両手にチェーンソーを構えたハヅキのソウキ、そして両手の圧潰式咬拳ナックルバイトでファイティグポーズを取るシュヴェイクの装騎ジュヴィーカトの2騎。

転倒する装騎イェストジャーブに向かって襲い掛かる。

「ああもう、手間のかかる!」

カナールはエッジボウを構えると、ハヅキのソウキへとその矢先を向けた。

「レオシュ、サエズリさん、お願い!」

「もちろん!」

「いくよっ」

ハヅキのソウキのチェーンソーと装騎スパロー・パッチワークのチェーンブレードがぶつかり合う。

そして、レオシュはウェーブソードを装騎ジュヴィーカトへと閃かせた。

「へぇ……意外と、強いです!」

「アタシラはロクな戦いをしてないんだ! バトルの腕に自信はあるよ!」

2本のチェーンソーを巧みに操るハヅキ、だがスズメもチェーンソード1本でその斬撃をいなす。

スズメの表情はどこか楽しそうだ。

対して、レオシュとシュヴェイクの戦い。

レオシュの斬撃をやすやすとかわすシュヴェイクの装騎ジュヴィーカトの動きは柔軟。

「くっ、また外れた」

「んな単調な攻撃……当たんねェスよ」

「!! ニェムツォヴァーさん、レオシュさんの援護を!」

「やろうとしてる……けど。動きが、捉えれらない!」

レオシュの動きと装騎ジュヴィーカトの動き――その両者の予測がつかず、エッジボウの一撃を放てないカナール。

そこに――――

「動きが止まっとるぞォ!!」

「しまっ」

装騎イリーガルのテインライフルにより遠距離射撃により、カナールの装騎が撃破された。

「ニェムツォヴァーさん!」

「カナール!?」

「最後方から1番遠い相手を倒すとは――やるな」

「言ってる場合!?」

気を取り直し、冷静にそんなことを言うカレルに、カナールの代わりにレオシュがそうつっこむ。

「さて、そろそろ王者キングの戦いを見せてやろうか!」

そう言うと、カレルは装騎イェストジャーブをスズメとレオシュの間を抜き、一気にヒバナの装騎オフニョストロイへと突っ込ませた。

「カレルさん、待って!」

右手のチェーンブレードで、ハヅキのチェーンソーを受け止めながら、左腕のワイヤーアンカーで再び装騎イェストジャーブを掴む。

「2度目!?」

そして、装騎イェストジャーブを手繰り寄せた。

「そんなコトをしているヒマがあるのかい?」

そう言ったのはハヅキ――両手の塞がった装騎スパロー・パッチワークを仕留めようと、その1撃を閃かせた瞬間。

ゴゥ!!

激しい音と衝撃にハヅキの装騎が揺らされる。

「なに!?」

「……痛いじゃないか」

それは装騎スパロー・パッチワークの手繰り寄せていた装騎イェストジャーブが、ハヅキのソウキへとぶつかった衝撃。

「そこです!」

その隙を狙い、装騎スパロー・パッチワークはチェーンブレードをハヅキのソウキに突き立てた。

「――――レオシュさん!」

スズメは咄嗟に左手にバーストライフルを装備。

レオシュを助けんとその銃口を装騎ジュヴィーカトへと向ける。

だがそこには――すでにナックルバイトによって引き裂かれたレオシュ騎の姿があった。

「いってェ!!」

間髪入れずに装騎スパロー・パッチワークはバーストライフルを連射――装騎ジュヴィーカトを撃破する。

「……っ間に合わなかった!」

「ダチが2人やられたか――しかし、まだまだこれからじゃあ!! ヒバナ!」

「撃つよ」

「カレルさん、散開してください! ブースト機動で、シャムシエル型の周りを回るように!」

「ふっ、任せろ」

2手に分かれるように駆ける装騎スパロー・パッチワークと装騎イェストジャーブ。

「チャンプ、こっちです!!」

スズメは装騎イリーガルに向かってバーストライフルを発砲する。

「そんな手にはのらん!」

だが、装騎イリーガルは装騎スパロー・パッチワークを無視して装騎イェストジャーブへと駆けた。

「ヒバナ、まずは“ルニャーク”を落とっぞ!」

「諒解」

装騎イリーガルのテインライフルと、装騎オフニョストロイの銃撃が装騎イェストジャーブを狙う。

「ふっ、2対1か――――良いだろう! 相手をしてやろう、この俺様がな!!」

二刀のオリエンタルブレードを構え、威勢よく啖呵を切るカレルの元へと銃撃が放たれた。

「こういう時のパターンは決まっている。正面に突っ込む、そうすれば当たらない! それに――カッコイイ!!」

そう言うと、装騎イェストジャーブは一気に2騎の銃撃に向かって突っ込む。

「バカですか!?」

ついぞスズメの口からもそんな言葉が放たれる。

「……っ、ですけどあのシャムシエルが背を向けている間に…………!」

「背を向けたら危険なのは百も承知よ!」

一気に前に出た装騎スパロー・パッチワーク――そこで見たのは、正面から待ち構える装騎オフニョストロイ。

更にはその斜め後ろで、テインライフルを構える装騎イリーガル。

「ハマった。今じゃ!」

「撃つ撃つ」

「まだです!!」

一気に放たれる2騎の装騎からの銃撃、砲撃。

装騎スパロー・パッチワークは――――小型な体を生かして、装騎オフニョストロイの足元へと低く滑り込んだ。

それと同時に両腕のワイアーアンカーを装騎オニョフストロイの両足へと絡め、一気に手繰り寄せることで体勢を微妙にずらし、砲撃を少し上へと向けさせる。

そして、

突貫斬りチャージスラッシュ!」

チェーンブレード1撃で装騎オニョフストロイを機能停止に。

その爆炎に紛れ込み、一気に装騎イリーガルへと肉薄。

「あの攻撃を避けたんか!? さすが……サエズリ・スズメ!」

「すごい良いチーム……さすがはチャンプです!」

装騎イリーガルは、咄嗟にテインライフルの先に取り付けられた超振動銃剣を起動させる。

装騎スパロー・パッチワークはその手に持ったチェーンブレードを構える。

装騎イリーガルの超振動銃剣の1撃が――装騎スパロー・パッチワークへ――――いや、

「隠し玉のサブマシンガンじゃあ!!」

装騎イリーガルの膝関節から突如として銃撃が放たれた。

それは装騎イリーガルのベース騎であるラドゥエリエル型装騎の標準武装である体各所の隠しマシンガン。

「良い、使い方ですね」

スズメはそう褒めながら、装騎イリーガルの背後からチェーンブレードを突き刺した。

「ふぅ……ワイヤーアンカーが無かったら負けてたかもしれませんね」

予め地面に突き刺していたことから、急回避を可能とした左腕のワイヤーアンカーを回収しながらスズメは呟く。

こうして今回のウレテットVSイレギュラーズは、ウレテットの勝利で幕を下ろした。

「ふっふっふ、さすがはスズメくん! さすがは俺様! 今日も祝杯だな!」

「わたし達……全然役に立ててないじゃない」

「本当、だよね」

やけに浮かれるカレルの傍で、どこか暗い表情をしたカナールとレオシュがそう言った。


「ズメちん、チャンプと戦ったんだー。っていうか、登校してきたんだね」

「うん。意外と強いよチャンプは! 他の人もね」

「チャンプ……ケチャップ?」

「ケチャップじゃないよ~」

スズメとロコヴィシュカ、アナヒトが夕飯を食べながら会話をしていると、ふとベランダに続く窓の方からコンコンと音が聞こえてくる。

「ズメちん、なんか変な音しない……?」

「音?」

ロコヴィシュカの言葉に、だがスズメは首を傾げる。

「アナちんは聞こえる?」

「…………聞こえる」

「え、そう?」

ロコヴィシュカに尋ねられたアナヒトは頷いた。

2人の言葉にスズメは耳を澄ましてみる。

すると、確かに聞こえた。

コツン、コツンと窓を小石が叩くような音。

「確かに……聞こえるね」

「ズメちん、ちょっと見てくるね!」

ロコヴィシュカはそう言いながら、そっと窓を開く。

そこには、

「にゃあ」

猫が居た。

「猫……?」

首を傾げるロコヴィシュカの後ろから、スズメがその猫を覗き込む。

どこかふてぶてしい表情で、全体的に肉付きの良い猫。

スズメはその猫に見覚えがあった。

「……もしかして、フニャちん?」

「ニャア!」

その猫――フニャトはスズメの言葉に返事をした。


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