チーム・ウレテット
「今日は新学年と言うことでチーム対抗で2対2の戦闘試合をやってもらうわ」
チュティジュヴァールチュカとは、名前の通り2対2で行う試合だ。
通常では団体戦の一部として組み込まれたり、あるいはチュティジュヴァールチュカ単体で大会が開かれたりする。
しかし今回はチーム4人の内で2人組を組み、先に2勝したチームが勝ちというルールが定められた。
「スズメくんは俺と組め――王者からの命令だ」
「な、何でですか……」
「スズメくんは新人だ。俺が君の実力をこの目でしっかり測る必要があるのさ」
普段通り偉そうなカレルの態度。
「サエズリさん、この莫迦には気を付けなさいよ」
その傍でカナールがスズメに言った。
「どうして、ですか……?」
「いや、コイツ莫迦だから」
「……?」
カナールの言うことの意味がイマイチよく分からないスズメ。
そんなスズメにカナールは言った。
「サエズリさん――アナタの実力、わたしもしっかりと見せてもらうわよ」
意味の分からないまま、チュティジュヴァールチュカの授業が始まる。
「ふーん、アレがサエズリ・スズメなんだ。実際強いの?」
「どうでしょう。ステラソフィア機甲科生の中で唯一生き残ったらしいですが、逃げてただけかもしれませんし」
ふと、そんな2人の会話が聞こえてきた。
それはチーム・ウレテットが試合を行う相手――チーム・ハルバート。
そのチームリーダーであるセケラティッチュ・ラヴィニアと参謀ストロイルク・ジェッシィのドヴォイツェだった。
「本当にそうだったら笑えるわ~」
「その方が賢いやり方だと思いますよ」
「それはそうね。でも、試合で逃げないでよ?」
「逃げませんよ」
笑い声を上げながらそんな会話をする2人。
そんな二人を見るカナールの表情には明らかな苛立ちが浮かんでいる。
「いい気なものよね……」
「本当だよね……ああいうヤツら、嫌いだよ」
カナールだけではなく、レオシュまでそんなことを言いだす。
「最初の試合はわたし達ね」
「うん。頑張ろう、カナール」
その言葉通り、最初に出るのはカナール・レオシュドヴォイツェ。
対するはチーム・ハルバート所属のヴィトリーシェク・ヴァープノとチューリングラット・シノリアのドヴォイツェ。
「では、ウレテット・ドヴォイツェ1対ハルバート・ドヴォイツェ1の試合……開始!」
フレダの号令で試合が始まる。
カナールの装騎はエッジボウと言う近接武器としても扱える弓を構えたアブディエル型。
そして、レオシュの装騎はストライダーライフルにウェーブソードと言う汎用装備。
危なげなく動くカナールとレオシュの2人――2人の動きも悪くなく、ヴァープノ・シノリアドヴォイツェに対して優勢に戦っている。
「と、言うよりも……相手のドヴォイツェの動き、少し悪いですね」
「ヴァープノとシノリアは元々別のチームの所属だったからな」
スズメの呟きに、カレルがそう答えた。
「別のチーム……?」
「最終防衛戦の余波で機甲科をやめる生徒が続出したのは知ってるだろ? リラフィリアでも、その所為でチームの再編があったんだ」
つまり、チームメイトが全て学校をやめて1人残ってしまい、別のチームに入ることになったのがあのヴァープノとシノリアの2人らしい。
もちろん、ということはチーム・ハルバートも2人の生徒がやめていったということになる。
「あ、ってことはウレテットも……」
「ああ、1人やめてしまったんだよ」
ひたすら援護に徹するレオシュに、キッチリと間合いで戦法を変えるカナール。
試合結果はカナール・レオシュドヴォイツェの勝利で終わった。
「カナール、レオシュ、よくやった。褒美をやろう」
「黙れ」
「お疲れさまです!」
「あはは、ありがと」
そして、スズメ・カレルドヴォイツェとラヴィニア・ジェッシィドヴォイツェの試合が始まった。
「サエズリさーん、あんなヤツらぶっ飛ばしちゃってー!!」
「ああ、任せろカナール。この――王者にな!」
「いや、アンタには期待してないから」
そう言うカナールにスズメは苦笑する。
しかし、カナールの言葉からカレルは余程信用されていないらしい。
一体どの程度のものなのか――それはすぐに知ることとなる。
「それでは、ウレテットドヴォイツェ2VSハルバートドヴォイツェ2――試合開始よ!」
「では、行くぞスズメくん! 俺様に続け!!」
「ツバサ先輩と同じジェレミエル……!」
そう言いながらブースト移動で一気に駆け出すカレルのジェレミエル型装騎。
その名もそのまま装騎イェストジャーブ。
オリエンタルブレードを両手に構えた二刀流の戦闘スタイルで、かなり恰好はついている。
「って、待ってくださいよカレルさん!」
その後をスズメの装騎スパロー・パッチワークが追いかける。
「来たわ、ルニャークが!」
「……鳶?」
「俺は鷹だッ!!」
「愚かな……」
1人突出した装騎イェストジャーブに斧槍シュタルケスハーツを構えたラヴィニアの装騎バルディエル、器械弓ラ・オリゾンを構えたジェッシィの装騎シェテルが襲い掛かった。
「ふふんっ、見せてやるぜ。この俺様の――――二刀流ッ!!」
恰好付けながら放たれたオリエンタルブレードの斬撃――――だが、その1撃は呆気なく空を切った。
そして、生まれたその隙を狙い――ラヴィニア=バルディエルの斧槍とジェッシィ=シェテルの器械弓の1撃が装騎イェストジャーブの機能を停止させる。
「……弱ッ!!??」
1人残ったスズメは思わずそう叫び声を上げた。
「ふむ、今日の運勢は最悪だったからな。仕方ないな」
「仕方なくないから」
それでも偉そうな態度を崩さないカレルにカナールがそう突っ込む。
「相変わらずの弱さね――さて、後はサエズリ・スズメただ1人!」
「数では優勢――後は、連携」
ジェッシィ=シェテルは器械弓ラ・オリゾンを構えた。
「驟雨」
ジェッシィの言葉に続き、器械弓ラ・オリゾンから連続で、雨のように矢が撃ち放たれる。
その矢1つ1つにはアズルの輝きが灯っており、いくら弓矢の1撃と言えど命中すれば手痛い。
そんな霊子矢の雨の中を、ラヴィニア=バルディエルは斧槍シュタルケスハーツを構え悠然と進み来る。
「サエズリ・スズメ――ブッ潰してアゲル!」
「そんな動きで!」
「はぁぁぁあああああ!!」
ラヴィニア=バルディエルが斧槍シュタルケスハーツを装騎スパロー・パッチワークに振り下ろさんとした刹那――
「――――え」
ラヴィニア=バルディエルの両腕が装騎スパロー・パッチワークのチェーンブレードによって切り落とされていた。
呆気に取られるラヴィニア――さらに、背後から激しい衝撃がラヴィニアを襲った。
「何ッ!?」
「……っやられた」
それはジェッシィ=シェテルが放った霊子矢がラヴィニア=バルディエルを背後から突き刺さった衝撃。
「ジェッシィ!!」
装騎バルディエルの機能が停止し、ラヴィニアは怒鳴る。
どうしてジェッシィの攻撃がラヴィニアに当たったのか――それは、ジェッシィの装騎シェテルを見たラヴィニアはすぐに悟った。
ジェッシィの装騎シェテルは転倒していたのだ。
そして、その脚部には装騎スパロー・パッチワークの左手から延びるワイヤーアンカー。
「……くっ、まさか、アタシと交戦しているどさくさに紛れてジェッシィの体勢を崩して」
ラヴィニア=バルディエルに矢を当てないように撃っていたジェッシィ=シェテルだったが、ワイヤーアンカーでバランスを崩したその時、射撃の軸がずれ友軍射撃してしまった――ということだった。
そして、あとはもうすでに転び、地面に伏せたジェッシィ=シェテルのみ――――そんな装騎に止めを刺すことは、なんとも容易いこと。
この模擬試合はチーム・ウレテットの勝利で幕を下ろした。
「ふッ……勝ったな。流石はスズメくんだ。褒美をやろう」
そう言うカレルもそうだが、カナールとレオシュの表情にもどこか興奮が浮かんでいる。
「すごいじゃない。やっぱりステラソフィアのMVKは伊達じゃないのね!」
「本当だよ! ウレテットのチームとしての初勝利だね!」
「は、初勝利ですか……」
「不甲斐ない部下達で済まないな」
「1番はアンタよアンタ!!!!」
そう言い合いながらも楽しそうな雰囲気を漂わせるウレテットの4人の元に、ラヴィニアとジェッシィの2人が姿を見せた。
「フン、楽しそうねチーム・ウレテット。念願の初勝利に酔いしれてるって訳? サエズリ・スズメの力を借りないと1勝もできない雑魚たちが」
「ラヴィニアか」
「サエズリ・スズメがそのチームに入れられたのも、弱いアンタ達のテコ入れをするためなんじゃないの?」
「チーム・ウレテットは王者のチームだ。俺達を侮辱することは許さんぞ」
そう言うラヴィニアの言葉にカレルはそう反抗するものの、カナールとレオシュはどこかばつの悪そうな表情を浮かべている。
そんな様子を見ていたフレダは静かにため息を吐いた。
「スズメちゃん、チーム・ウレテットはどんな感じだったかしら?」
それはその日の放課後。
呼び出されたスズメは、フレダにそう問いかけられた。
「そう、ですね……とても、良い人たちだと思いました」
「装騎の腕は?」
「……わ、悪くはないかと」
「あのチーム・ウレテットはね、うちの機甲科の中でもダントツでビリのチームなのよね」
「そうみたいですね……」
フレダの言葉にスズメは苦笑しながら頷く。
「だけど、あの子たちは他の誰以上に素敵な輝きを持っている――そう思うの」
「素敵な輝き、ですか」
スズメは、カレル、カナール、レオシュの3人の姿を思い浮かべる。
確かに――そうかもしれない。
まだ出会ったばかりだが、どこか感じた安心感と3人の真っ直ぐさ。
「あの子たちなら、何の偏見も持たないで貴女を受け入れてくれる――そして、貴女ならあの3人をもっと輝かせることができる……そんな気がしたからあのチームに入れたの」
フレダは言った。
「貴女のことを、貴女達のことを快く思わない人もいるかもしれない。悪く言う人もいるかもしれない。でも、あの子たちを導いて欲しいと、私はそう思っているわ」