ハンマー・トゥ・フォール
ゴウっとブーストを吹かせ、スウィートレディが突っ込んでくる。
「正面から!?」
スパローは両手に握ったウェーブナイフを構える。
ウェーブナイフの刃が僅かに振動を初め、相手を切り裂く準備をした。
振り下ろされるスウィートレディの右腕を、軽々とかわすスパロー。
その瞬間――カチッ――――ゴゥウウン!!!!
「キャッ!?」
「外したァ――」
地面に叩きつけられた腕が――いや、その腕に設置された爆薬が豪炎を上げる。
次は左腕が薙ぎ払うように遅い来る。
「くっ」
スパローはそれも素早く、宙返りをするようにして避けた。
「面白いね――サエズリ・スズメェ!!」
スウィートレディは一旦身を引くと、素早く腰部のストックから何かを取り出し、それを右手に設置する。
そう、スウィートレディのアームハンマー・ハンマートゥフォール用の爆薬だ。
「いっけいけぇ!!!」
「あんなの――先に腕を切り落とせばっ」
縦横無尽に振るわれるスウィートレディの両腕を避けながらスズメはチャンスを伺う。
相手の動きは一見無茶苦茶――腕の1本くらいは簡単に取れるだろう。
だが――
「相手の腕1本取れても、代わりにスパローが破壊されちゃう……!」
「どうしたどうしたァ!? ボクを止めてみな!!」
スズメはスウィートレディのハンマートゥフォールを避けながらも少しずつ後退してく。
それは、追い詰められている――訳ではない。
「どうしてこんな開けた場所で私達を待ち構えていた――? ソレは――そう」
「いっけぇ!!」
刹那、スウィートレディの振りかぶった左腕が一本の木に辺り、爆炎を上げる。
「森の中じゃ、木に当たって満足に動かせないですからね――!」
気付けば先ほどの広場と森の境までスパローは後退していた。
「いけっ!」
そのまま、スズメはスパローを沈み込ませ、すれ違いざま、スウィートレディの左腕を一閃した。
「そしてこのまま――」
スウィートレディの背後を取ったスパローがその身を切断しようとしたその瞬間だった。
「さ、させませぇーん!!」
「――――っ!!」
不意に、ベストフレンドが何かをスパローへと投擲した。
咄嗟の判断でスズメはスパローの右手のナイフをソレへと投げつける。
ゴオオオゥゥウウウウウン!!
強力な爆炎を上げて広場の中央で爆発が起きる。
そう、サーティーナインの持っている爆弾をベストフレンドも装備していたのだ。
「どけぇ!」
「キャッ!?」
その隙に、スウィートレディがスパローを押しのけベストフレンドの傍へ退避する。
爆炎が晴れた後――そこにはベストフレンドの能力で両腕を修復したスウィートレディの姿があった。
「サエズリ・スズメェ――這い蹲れ」
「くぅ、来る――――!!」
「――――そして、死ね!!!」
それから、スウィートレディの猛攻は続く。
スウィートレディがアームハンマーで襲い掛かり、その腕が破壊される度に、ベストフレンドが援護攻撃でスパローを抑えつけ、その隙に回復する。
その攻撃に、スズメは中々状況を打開出来ずにいた。
「ハッハハ!! 誰もボクを止めることはできない! この、今ァ!!」
その猛攻を凌ぎながら、スズメは気付いた事があった。
「スウィートレディの修復頻度が、増えている……?」
そう、スウィートレディがアームハンマーによる攻撃をして修復するまでの間が狭まっている。
簡単に言うのなら、スウィートレディの碗部パーツの耐久性が明らかに落ちてきているのだ。
「よく見てみると……ハンマートゥフォールに微妙な傷が残ってる…………」
ベストフレンドの修復能力、それは万能のものでは無かった。
装騎のナノマシンを刺激し、修復するような信号を出すことで破損した装騎のパーツを修復をするのがベストフレンドの機能。
しかし、それはあくまで応急手当にしかならず完全に修復することは不可能だったのだ。
「なるほど――チャイカ先輩」
「ついに出番ですの?」
「はい――――ここから一気にあの2騎を突破します!」
実は、もうとっくの昔にチャイカと挟撃する準備は出来ていた。
しかし、まだどんな隠し玉を持っているのか分からず、あまつさえ、格闘戦に弱いスネグーラチカを一気に叩かれる事を恐れ待機させていた。
スネグーラチカの武器がスナイパーライフルと言えど、それはレーダー範囲外から狙撃できるようなものではなく、あくまで射程が長めのライフル。
レーダー範囲ギリギリから狙撃できるかどうかと言う微妙な武器だ。
加えて、フィールドは森林。
そうなれば、結局は接近せざるをえない。
「チャイカ先輩は狙撃位置に――」
「諒解ですわ!」
スネグーラチカは、あらかじめサードパーソンビュアーと魔力索敵を使い探り当てていた広場までの狙撃が容易な地点へと移動を始める。
サードパーソンビュアーとは装騎が標準装備している機能の一つで、周囲の地形や、自騎を解析し、3Dによる俯瞰視点の映像を表示させる機能だ。
主に狙撃時や索敵時に距離や方角を測る時に用いる事が多く便利な機能だが、あまりに遠方であるとタイムロスが生じ、正確な判断が出来なかったり遠方の敵の動きに注目し過ぎて自騎周辺の警戒を怠りがちになりうると言う欠点はある。
「行きます!」
スパローは左手に持ったウェーブナイフを投げ放つ。
それはスウィートレディの右腕に突き刺さった。
「この程度のダメージ――関係無いね!」
「チャイカ先輩!!」
「行きますわ!」
瞬間、スネグーラチカが遠方から放った弾丸、それがスズメがスウィートレディに突き刺したナイフに命中した。
「何だ!?」
スズメが突き刺したナイフに、スネグーラチカの狙撃の一押し。
その僅かな傷が広がり、スウィートレディの右腕が崩壊した。
「――っ!! テイラー先輩、こ、後方に敵がぁ!」
「何ィ!? ――スネグーラチカ……テレシコワ・チャイカか!! クッ、ボクの装騎を回復させたらジャンヌはスネグーラチカの方に行け! 良いな!?」
「でっ、でも――――!」
「いいから行くんだよ!!」
「はっ、はい――――」
再び爆炎が上がる。
「また修復――! でも、そう何度も――――!!」
今度こそはとスパローは爆炎に飛び込んだ。
視界は暗く、何も見えない――だが、悪寒を感じスパローはその身をひねった。
ドォゥゥン!!
先ほどまでスパローが居た場所を何かが叩きつける。
「クッソゥ――今度こそ、今度こそ仕留められると思ったのに!!」
「実際、危なかったですけど――でも!」
スパローは大腿部から予備のナイフを取り出し装備する。
「これで、終わりです――!!」
そのままスウィートレディにその刃を閃かせた。
「2本脚の死神と恐れられるボクが――」
「装騎って全部2本脚じゃ……」
「煩い!!」




