激動の戦場-Létavice Stellasophia-
「先ほど敵が使用した魔術は、周囲の霊力を1か所に集め、その濃度を高くする魔術ですわ」
ステラソフィアへと一時帰還したステラソフィア生。
そこでは緊急でブリーフィングが行われていた。
「通常ではありえない濃度の霊力にインディゴシステムが耐えられなくなり、その過負荷で自壊したと考えていいのですわ」
それは先ほど敵が使用した魔術についての話合い。
「なるほどね。駆逐戦闘と見せかけてインディゴシステムの発動を誘発。そして発動したところでその魔術を使用し行動不能に――――って感じかぁ」
チャイカの言葉をツバサはそう纏める。
「X装騎を鹵獲して、技術の利用に対抗手段を編み出す……厄介な敵だぜ」
ソレイユがそう呟いた。
「敵の動きは速い。再出撃を急ぎたいですね」
「ええ、そうね。このまま引き下がるなんて美しくないわ」
ライユに同意するクイーン。
そこに、通信が入る。
「お――本部から通信! 機甲装騎の運搬が完了だとよ!!」
ソレイユの言葉に、ステラソフィア生の間に小さな歓声が広がった。
「それじゃあ各自の機甲装騎に乗りこんで再出撃か」
「そうね――次の戦いはカナンのすぐ傍になりそうね」
「最終絶対防衛線か」
「後には退けない戦いね」
「背水の陣……」
「とりあえず行くぞ!」
そして、ステラソフィア生は新たに運搬されてきた機甲装騎へと乗り込むことになる。
「見た目は旧式ですけど、性能は結構上がってるんですよね」
スズメは装騎スパローを見ながらそう呟いた。
「そうみたいですわよ。X装騎はあくまで試験騎……何かあった時の為に、旧式も改良を重ねていたみたいですの」
「差し詰め、スパロー1,5ってところですね」
「スズメちゃんって名前付けるの好きだよな……」
「マハは付けてもすぐ忘れちまうんですよ!!」
そんなことを言いあう出撃風景はいつも通りのもの。
そしてそれぞれは、懐かしの機甲装騎に乗りこんだ。
「それじゃあ行くぞ、ワシミヤ・ツバサ、スーパーセルGO!」
「テレシコワ・チャイカ、スネグーラチカ、行きますわ!」
「カスアリウス・マッハはチリペッパーで出るんですよォ!!」
「サエズリ・スズメ、スパロー。行きます!!」
「「「「GO! ブローウィングGO!!」」」」
「前方にマルクト装騎を確認したわ! アレは――――ステラソフィア!? コンラッド!」
神都カナンを目指し進撃する悪魔派組織グローリア――――その一員である女性、ミラ・ローラが前方に現れてた機甲装騎の反応を見て声を上げた。
「素早い再出撃、再布陣だな……さすがはマルクトと言った所か」
その装騎部隊を目にしてこのグローリアのリーダー、コンラッド・モウドールは唸る。
「わたしの魔術で機甲装騎を使用不能にしてやったのに……!」
「想定の範囲内だ。最悪のシナリオだがな」
モウドールの言葉に、どこか緊張した雰囲気が流れる。
「割り切れ。これは戦争だ」
「コンラッドもね」
「分かってるローラ。ヴェニム隊、テレミス隊は俺達に続け」
「諒解さ!」
「いいよ……」
「ミラ隊は魔術支援だ」
「諒解よ」
モウドールの指示に、それぞれが答える。
「各自、“お姫様”をシャダイの元まで送り届けるんだ。全力でな」
「オレの可愛いお姫さま、このヴェニム・レイボルトが全力でお守りしますよ」
「レイ――今そんなこと言ってる場合かい?」
「おいおいテレミス・ロイくん。こういう時こそお姫さまにカッコイイ所を見せるべきであってだな――」
「アンタ達煩い! お姫様も気が散るわよ。ねえ、マリア?」
ローラにそう問いかけられ、戦車を駆る一騎の装騎に乗る少女――サクレ・マリアが言った。
「別に気は散らないわ」
「作戦目標はシャダイコンピュータの破壊だ」
「「「「諒解」」」」
「“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”――って言うよな」
「ええ、まずはあの馬――――チャリオットを潰すのが先決ですわね」
「そうだな。チャイカ、1発目お願いできるか?」
「ええ、行きますわ――――魔術、砲撃!!」
チャイカの魔力を纏った強烈な砲撃。
その1撃が、グローリア戦車の内の1両を破壊する。
「やはりまずは足を潰してきたか……各自、迎撃しろ!」
対してグローリア戦車も激しい砲撃を撃ち込んできた。
未だに榴弾砲を使用しているのは、何を意図してのことなのか。
しかし、激しい砲撃にステラソフィア装騎の一部もダメージを受ける。
「機動力では我々の方が勝っている! 各自、一気に接近して榴弾砲を叩き込め!! セラドニウム製の装騎相手ならば騎使が死ぬことはそうそうないはずだ」
「死んじゃったときは?」
「割り切れ」
「りょーかい!」
コンラッドの言葉に、そう軽口で返すレイボルト。
割り切る以前に、攻撃することには一切の躊躇を見せないレイボルトの1撃が、チーム・テクノリリック2年ミランデル・リリカの装騎ウーファーに叩き込まれた。
「リリカ!?」
同チーム4年ヴォーセ・テルミンが呼びかけるが応答はない。
「まさか死――――」
「いや、騎使が気絶しただけ、だろうが――――」
周囲では他のステラソフィア装騎も次々と動きを止める姿が見える。
グローリア戦車の放った榴弾による熱と衝撃で騎使が気絶し、反応が無くなっていたのだ。
そして、そんな状況――――今まで体験したことのない敵の強さを感じ、茫然と佇む装騎の姿も何騎か。
気づけば、戦いを続行するステラソフィア装騎の数は半数にも満たなくなっていた。
「ステラソフィア装騎の半数は戦意喪失か……所詮学生だな。だが――ヤツが言っていたことが気になる」
そんな中、ステラソフィア装騎のディスプレイに一つの文章が表示された。
[Kämpfen?・Nicht Kämpfen?]
「何だこんな時に、この表示――」
「戦うか、戦わないか――なんのことですの?」
「意味があるんでしょうか……」
「戦うに決まってやがるんですよォ!!」
首を傾げるチーム・ブローウィングの3人にやる気満々の1人。
「きゃぁああああああ!!!!」
その一瞬の静寂を切り裂くように、通信から悲鳴が聞こえた。
「何だ!?」
突如として、何騎かのステラソフィア装騎から蒼白い輝きが放たれ、その装甲にスリットが現れる。
Gurrrrrrrrrrrrrrrhhhhhhhhhhhhhhhhhhh
まるで咆哮のような激しい機動音を鳴り響かせ、グローリア戦車へと襲い掛かった。
「トロピカ、どうした!?」
グローリア戦車へと突然攻撃を始めた装騎の一騎であるメタトロン型装騎クリーム――――チーム・ドキドキ マンゴープリン4年グラノーラ・トロピカへとツバサが声を掛ける。
「分からない、分からないけど、装騎が――――勝手に、勝手に動いて!!」
「何!?」
グローリア戦車の激しい砲撃を物ともせず、激しい獣のような動きで回避する装騎クリーム。
メタトロン型装騎の特徴であるホバーによる高速機動をしながら、グルりグルりと回転しながら一気にグローリア戦車へと接近。
「お願い止まって! 止まって止まって止まって止ま――――」
刹那、グギッと激しい音が通信からステラソフィア生の耳を突いた。
それと同時に、トロピカの声は聞こえなくなる。
その後、装騎クリームはグローリア戦車に撃破されたのか――――その反応が消失した。
「やだ、もう嫌だ! 戦いたくない!」
「撤退を――――え、何、装騎が動かない!!」
「戦いたくないのに――装騎が言うことを、きかないィっ!!」
それに続き、戦いを拒否した装騎たちが続々と自動操縦に切り替わっていく。
「まさか――さっきの問い掛けは……」
何かを察したツバサがそう呟やく。
驚愕するステラソフィア生――――だが、驚きが隠せないのは敵グローリアも同じだった。
「あれが――――」
「ええ、アポストルシステム――――騎使を犠牲にしてまで装騎の力を引き出す悪魔のシステムよ」
コンラッドの言葉にそう答えたのは1人の女性。
「……来たか」
コンラッドの言葉に続き、中空から突如として一騎の機甲装騎がその戦場へと降り立つ。
細身の体に巨大なバックパック――ルシフェル型装騎の意匠を引き継いだ機甲装騎。
「あれは――――装騎、コクヨク」
「カラスバ先輩ですか!?」
サマエル型装騎コクヨク――チーム・ブローウィングOG、カラスバ・リンの装騎だった。
「カラスバ先輩! もしかして――助けに……」
ツバサがそう言おうとした瞬間――――装騎コクヨクはエグゼキューショナーズチェーンソーを振りかざすと、
アポストル状態のチーム・パフェコムラード4年クオリア・ミドルの装騎サンデーを破壊する。
その1撃は、ステラソフィア生に最後の精神的打撃を与えるには十分だった。