ユウレイちゃんの卒業制作
それは4年生の卒業式も無事終わった後日のことだった。
「卒業式はワシミヤ先輩大泣きしてたけど、大丈夫だったの?」
「終わった後にみんなで外食したんだよね。その時ももうずっと泣いてて……」
「ワシミヤ先輩って意外と涙もろいのね……」
スズメとサリナがそんな会話をする中1人、どこか神妙な表情を浮かべている少女がいた。
「何マジメな面してんのよユウレイ」
それはユウレイ。
イザナの言葉に、ユウレイはハッとしたような表情になる。
「悩みでもあんばー?」
「実は――――わたし、あの卒業式を見て思ったことがあるんです」
いつものおちゃらけた様子のユウレイとは打って変わって見るからに深刻そうな表情。
さすがの4人も、ただならない雰囲気を感じてユウレイの顔を覗き込んだ。
「わたしって、1年生の、本当になりたての時に病気で死んじゃって……それからもトイレから出られなくてステラソフィアの卒業式って参加したのが初めてなんですよね」
そう話し始めるユウレイの口調は、思いの外深刻そう。
「本当なら、わたしだってフランちゃんとかレイニちゃんと一緒にもうとっくに卒業してて――――」
「え、もしかしてユウレイちゃんってフラン先生やレイニ先生と同期なの!?」
「そうですよ?」
そう、ユウレイはステラソフィア第11期生。
同じ11期生として、このステラソフィアで教師をしているチューリップ・フランデレン、ニーベルング・レイニなどがいる。
ユウレイは彼女たち講師と同級生だったのだ。
驚く一同を尻目に、ユウレイは自分の話へと戻る。
「わたし――――もう、ステラソフィアを卒業しちゃいます!」
ユウレイがした突然の告白。
「ステラソフィアを、卒業ですか?」
「――――つまり何、成仏するの?」
「ステラソフィア以外を住処にするのかしら……?」
「旅に出るば?」
その言葉の意味を図りかねた4人がそれぞれユウレイへと問いかける。
「それは――――わたしには分からないです!」
そう言いきるユウレイに、一同は思わずずっこけそうになる。
「でも、わたしはこのステラソフィアを卒業して、次のステップに踏み出さないといけない……そんな気がしちゃうんですよね」
「本気なの?」
「本気です!」
イザナの問い掛けに、ユウレイは即答。
彼女の瞳の奥にある力強さを見ても、彼女の思いは本物のようだった。
「それじゃあ――本当にやる? ユウレイちゃんの卒業式」
そう口にしたのはサリナ。
「あまり大掛かりなことはできないと思うけど、どこかの部屋で、みんなでね」
「――――よいんですか!?」
「みんなも、いいわよね?」
サリナの問い掛けに、一同は静かに頷く。
どこか奇妙な胸騒ぎを感じながらも、ユウレイの思いを受け止めたいと、みんなそう思っていたのだ。
「あ、でも――――」
ふと、ユウレイが口を開く。
「ちょっとだけ、心残りがあるんです」
「心、残り……?」
「このステラソフィアには、七不思議って無かったりするじゃないですか」
「怪談はいくつかあるわよね」
サリナの言葉に、たまたまそういうことに詳しくならざるを得なかったポジションのイザナが頷いた。
「今、よく聞く怪談は1つ目“トイレのユウレイさん”」
「これはわたしのことですね!」
「2つ目“幽霊倉庫”」
「一緒に調べに行きましたよね!」
「3つ目“クイックシルバー現象”」
「ソレイユ先輩が新聞部の隠し撮りをクイックシルバーって言うって言ってたわね……」
「4つ目“夜の校舎に響くうめき声”」
「ドラゴンスレイヤーさー!」
「5つ目“独りでに服を縫うミシン”」
「ハロウィンの時のだよねぇ」
「この5つが、ステラソフィアで最近噂されている怪談ね」
「そう言えば、7個は無いね」
スズメの言葉にユウレイが激しく頷く。
「そうなんですよ! あと1つ――――何か怪談が欲しいじゃないですか!」
「何であと1つなのよ」
「七不思議は、7つ目を知ったら不幸になるとかそういうのが定番だったりしちゃうじゃないですか!」
「ああ、確かによくあるわね」
「なのであと1つ! わたしは七不思議最後の1個をこのステラソフィアに残して行きたいと思ってるんです!」
「5つの内、2つはアンタの仕業だけど」
イザナの言う通り、「トイレのユウレイさん」とハロウィンで冥土服を縫っていたユウレイの姿が目撃されて生まれた「独りでに服を縫うミシン」の怪談はユウレイの所為で生まれた怪談ではあった。
「それはそれとして、わたしは卒業制作がしちゃいたくてですね!」
「ふぅん……」
明らかに面倒くさそうな表情を浮かべているイザナ。
「その言い方だと考えてきたのかしら?」
サリナの問い掛けにユウレイは首を大きく縦に振る。
「はい! それはですね――――」
ユウレイが考えてきたステラソフィアの怪談とはコレだった。
「グラウンドに現れる幽霊装騎――――ってどうですか!?」
「意外とマトモね」
「ステラソフィアっぽいわね」
「面白そうですねー」
「だからよ!」
だが、その怪談を作ってきたと言っても、それを広めなくては意味が無い。
それはユウレイも理解している。
「それで、その噂を広める手助けをしちゃって欲しいんです!」
その結果、そうなることは想像に難くないことだった。
「手助けって具体的になにをすればいいのかしら?」
「面倒なことはやりたくないわよ」
積極的な協力姿勢を見せるサリナに、正直な感想を口にするイザナ。
「噂を広める具体的な方法は、実は考えちゃってるんです!」
ユウレイはそう言うと、その方法を実現するための協力を4人に申し出る。
その日から暫く――――ユウレイが計画した、噂を広めるその日が訪れた。
それは、ステラソフィア機甲科の修了式の日だった。
「退屈……」
「ねー」
「だからよー」
「こらこら……」
隣同士で腰かけるいつもの4人は、そう言いながらもユウレイの計画の実行日が今日だと言うことでどこか落ち着かない部分がある。
「っていうか、本当にやる気かしら」
「やる――――んでしょうね」
そんな話をしているその時だった。
ゴゴオオオオオオウゥゥウウン!!!
地響きが外からステラソフィア機甲科の講堂まで響く。
「本当に来た!?」
「でーじなとん」
このことを知っていたスズメたちでも、思いの外の衝撃に思わず驚きの声を上げる中、それを知らない他の生徒たちに混乱と緊張が走ったのは言うまでもないだろう。
今の音は事故?
それともまさかの敵襲!?
そんな思いが機甲科生たちに走った。
そして、機甲科生たちはその異常を確かめようと、講堂を後にし、その騒音の原因を確かめようと駆ける。
外に出、グラウンドへと辿り着いたとき一同が目にしたもの――――それは……1騎の機甲装騎の姿だった。
「これがユウレイちゃんの機甲装騎なんだ……!」
「おー、メタトロン型さー!」
そこに佇んでいるのは、ユウレイちゃんが生前使っていたというメタトロン型装騎セヴンワンダーズ。
突如現れた機甲装騎の姿に生徒たちがざわめく。
だが、次の瞬間――――
「消えた」
ユウレイちゃんの装騎セヴンワンダーズは突如として消え去った。
そう、今現れた装騎セヴンワンダーズはユウレイちゃんが何かしらの方法で現せた幻影。
「……ユウレイの装騎」
ふと誰かが呟いた1言。
「幽霊?」
「幽霊装騎――――」
「うわぁ、すっごーい」
その一言をきっかけに、そんな言葉が機甲科生たちの間に広まっていった。
装騎が突如として現れ、そして消え失せる――――そんな事実を目にしたこともあり、その言葉を受け入れざるをえない。
ユウレイの計画は無事成功に終わった。