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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
記念日を祝おう
198/322

4年に1度の日

2月29日。

4年に1度のその日、ステラソフィア機甲科校舎には生徒だけではなく、様々な作業員の人が出入りしていた。

「なんか今日、変な人多いね?」

そんな怪しげな人々を不審な目で見る1人の女子生徒がいた。

彼女はチーム・サザンクロス所属の1年生アガベデ・クルックス。

今回は、彼女に物語の焦点が当たることとなる。

「な、なんでだろうねっ!?」

クルックスの言葉にどこか慌てた様子でそういうのはチーム・ソルフェージュ所属の1年生アオハル・メウ。

彼女はどうして今日、こんなに人が多いのか――その理由を知っていた。

「でも、まさかこんなことになるなんて……」

「何か言った?」

思わずそう口をついてしまった言葉。

「な、何でもないよルクルク!」

しかし、クルックスには聞こえていなかったようで少し安心する。

どうしてメウがこんなに慌てているのか――――そのきっかけは少し前まで遡る。

「え? クルックスさんの誕生日って2月29日なの!?」

「……そうだけど」

少し驚いたようにそう言うサリナに、クルックスは「だから何?」と言うように淡泊に応えた。

「29日って4年に1度しかないんですよね……?」

スズメの問い掛けに、首を縦に振ったのはメウ。

「だから、ルクルクは4年に1度しか誕生日できないんだよね!」

「え、そうなの……!?」

驚くスズメにうんうんとメウは頷く。

「いや、嘘だって」

「だからルクルクはまだ3歳なんだよねー! 次の誕生日で4歳だぁ!」

そう言うクルックスをよそにメウの言葉は続いていく。

クルックスとメウは仲が良かったが、メウのこういう所には辟易としていた。

そんな話があった後、クルックスのいないところで再び1年生達が集まり何やら計画を練る。

それは、クルックスのサプライズバースデーの計画だった。

話合った結果、29日の夕方に機甲科1号館1階の体操室を貸し切って、1年生達でお楽しみ会をしよう! ということで話が付き、そして日にちが進む。

クルックスの誕生日を控えたその日、メウの耳に突如としてこんな情報が知らされた。

「あの、メウさん……クルックスさんの誕生日のことだけど……」

「どーしたの?」

その情報を齎したのはスズメだった。

どこか申し訳なさそうな表情を浮かべるスズメにメウは軽く尋ねる。

その時は(スズメちゃんは参加できないのかな?)程度にしか考えてなかったのだが……。

「昨日、たまたまクルックスさんの誕生日のことを、その、先輩に言っちゃったんだけど」

「先輩に? それでなにか問題でもあったの……?」

「えっと……それを聞いたチャイカ先輩が、なんか、その、変に気合い入れちゃって……」

スズメがそう言った所で、急にメウとスズメの近くにトレーラーが止まった。

そのトレーラーにはテレシコワ財閥のロゴマークが印されている。

そして、そのトレーラーから何やら大量の作業員の姿が。

作業員は1号館1階の体操室に向かって“何か”を運び始める。

「え、えっと、あの……これは、ナニ?」

流石のメウも大量の作業員たちに戸惑いが隠せない。

スズメも、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべている。

「テレシコワ財閥の、方々です」

「そ、それは分かるんだけど……」

「チャイカ先輩に、その、クルックスさんは29日生まれって言ったら……『ということは、4年に1度しかお誕生日が来ないのですわね……分かりましたわ! ウチが盛大なお誕生日ができるように手配しておくのですわ!!』と」

「それで、こんなことに……?」

「はい――――とりあえず、みんなお楽しみ会は予定通り行うつもりでいるみたい。ちょっと豪華になっちゃったけど……」

「わ、わかった……それじゃあ、予定通りルクルクを呼び出すねっ」

「お願いします」

そして、今に至る。

「あ、そうだー。わたし、体操室にわすれものしちゃったんだったー」

「最近、体操室使ってないのに何で」

「い、いいい、いいじゃん! すげーじゃん!」

そして、メウがクルックスを連れて体操室に入った――その時、

「お誕生日おめでとう!!!!」

体操室で待ち構えていた1年生たちがそうクルックスに言葉をかけた。

「…………ああ、そういえば誕生日だっけ」

だが、クルックスは驚いた様子も、嬉しがってる様子もなく、ただただ冷淡な眼差しをメウへと向ける。

「あー、もう、ルクルクぅ~! もっと喜んでよ! 喜んでよォ!!」

寧ろ、懇願するようにメウは叫び声を上げた。

そして、1年生たちもそんなクルックスの姿に若干調子を崩される。

「こんな体操室貸し切って、しかも、無駄に準備までして――――ヒマなの?」

止めにクルックスの口から飛び出した言葉。

その言葉に、スズメの口から思わずこんな言葉が飛び出した。

「確かに、テレシコワ財閥って何でもやりますよね!」

「やっぱヒマなんじゃないの?」

「いやいやいや、仕事だからやってるんでしょ」

「よくわからんさー」

それを機に、ざわざわと周囲の1年生たちの中で、何故かテレシコワ財閥の話が始まる。

その様子を見ていたクルックスは思わずため息。

「なんでそういう流れになるわけ……?」

結局、会も始まる様子がないまま、雑談が始まる中、

「って、みんななんで雑談ターイムになってんの! みんなでパーティーしよーよパーティー!」

メウの言葉に、話を始めてた1年生たちはハッと我に返る。

「そうね。テレシコワ先輩がホテル・テレシコワの豪華オードブルを用意してくれてるのよね」

「そうなんですよ! チャイカ先輩はささやかですが~とか言ってたけど」

「ホテル・テレシコワ……ってあの一泊ウン百万もする…………本当、変なヤツばっか」

先ほどからため息が尽きないクルックスだが、どこか楽しい気分も感じ始めていた。

「よっしゃ、ルクルクの気分も乗ってきたところで!」

「別に乗ってないし」

「みんなでまずは御馳走をたべよー!!」

「おー!!!!」

そして、それぞれが好きな料理を取りはじめ、食べ始める。

メウもクルックスへと料理を取って運んできた。

それを食べたクルックスの口から思わず出た言葉。

「おいしい……」

「うわ! ルクルクが本音を素直に言うなんて珍しい!!」

「本音じゃ、ないし」

「またまた~。今日は、ルクルクの人生で最高の1日になったんじゃない?」

「そんなことない」

「えー、でもルクルク楽しそうだよ? ――うげっ」

突然、クルックスの手がメウの頭を叩いた。

「べつに…………いつも、楽しいし」

「もー、何するのぉ!?」

クルックスの呟きは、メウの声にかき消される。

「いっつも肝心なことは聞いてないよね」

「何が?」

「何でもない」

クルックスの誕生日会という名目も忘れ、騒ぐ1年生たちの中、クルックスとメウはいつも通り、2人で料理を食べ続けた。

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