反逆の足音
「輸送用トレーラーが悪魔派からの襲撃を受けているだと!? 守備チームもいるんだろう?」
「はい。ですが連絡が全くつかない状況で……」
神国騎使ナイツ・ノートレスの元に突如として舞い込んだそんな情報。
「輸送って何を運んでいたんだ?」
「Xミカエル型に装備一式を……」
「そんな大事なものをトレーラーで輸送だって!? 地下の輸送ルートを使えば良いのに……」
「そう言われましても」
「そうだな。こうしてるヒマも惜しい。すぐに出るぞ」
「諒解!」
ナイツ・ノートレス率いる装騎部隊がマスドライヴァーによって、その問題の地点へと飛び立った。
「いるな――――あの悪魔派……何度か見たことあるヤツらだな」
「データ照合……悪魔派組織グローリアの装騎です!」
ノートレスの言葉に、ナイツ隊の唯一の女性であるニュルンベルク・リアエが答える。
「神の栄光だなんて……すごい名前ですね」
「全くだよ。彼らの上にはどんな神がいるのかな……さて、交戦するぞ」
「諒解!」
ナイツ隊が操る装騎はXミカエル型。
敵には見たことのない機甲装騎もいれば、マルクトの軍用騎と思しき装騎もいるが、単純な性能だけ考えれば負ける相手ではないだろう。
普通ならば。
そして、グローリア一派の装騎の中には、以前チーム・ブローウィングが交戦した「人形」と「操舵輪」の姿もあった。
そう、あの装騎たちもこのグローリアに属する装騎だったのだ。
「あいつらは戦い慣れている――それに、何れも優秀な騎使たちだ。各員、くれぐれも気を付けろ」
ナイツ隊のメンバーそれぞれが交戦を始める。
「あれはナイツ・ノートレスの部隊か……相変わらず行動が早い」
一方、こちらは悪魔派組織グローリアの一派。
バルディエル型の軍用騎に乗った男性が、新たに現れたマルクト神国のチームを目にしてそう呟いた。
この男性が、悪魔派組織グローリアのリーダー、通称キング。
「キング、どうする? アイツらつえーぞぉ。オマケにX装騎に乗って来ちゃってるぜ」
「そうだな……ジョーカー、お前はXミカエルを出来るだけ素早く運べ」
「りょーかい」
モウドールの指示を受け、このグローリアのメインチーム・クインテットに所属する青年、通称ジョーカーがXミカエルの運搬を急ぐ。
「エース、クイーン。ジョーカーが離脱するまで時間を稼げるか?」
「はい」
「当ったり前」
キングの言葉に、静かに頷きながら諒解するエースに、自信満々にそう言いきるクイーン。
「さーて、あたしの魔術の力、見せてあげるわ」
「クイーン、熱くなり過ぎないように……」
「分かってるよ。エースもね」
「うん」
そして、エースとクイーンの機甲装騎がナイツ隊との交戦に入った。
「エースとクイーンが交戦に入った」
「マジか、オレの可愛いお姫さまは大丈夫かね~」
「エースの心配をするよりも、今はX装騎の心配をしろ。内通者を使ってわざわざ地上ルートで輸送させたんだ」
「オレたちが襲うために、でしょ。わかってるわかってる。その努力、無碍にはしないさー」
非常にノリの軽いジョーカーの態度に、だがキングは特に反応しない。
いつもこんな感じなので慣れてしまったのか、呆れてしまったのか。
「ジャック、Xミカエルのリンクの切断はできたか?」
五重奏と言うからには、モチロンあと1人メンバーがいる。
ジャックはXミカエル型のコックピットで何やら作業をしていた。
「あと少しだよキング。3、2、1……よし、シャダイとのリンクを切断。これでシャダイコンピュータからの追跡はされないはず」
「分かった。すぐに我々の地下ルートを使用して135へと輸送しろ」
「諒解諒解! そんじゃ、ミカエル動かしちゃうよジャックくん」
「ああ、頼むよ」
交戦中のエースとクイーンは、数的にも装騎の性能的にも不利ながら、持ち前のスキルと、そしてクイーンの扱う魔術によってナイツ隊を食い止めていた。
「このミカエル型を鹵獲して、研究して、予想通りだったらついにあの作戦ができるんだよな?」
「ジョーカー、無駄口はよくないんじゃない?」
「まぁまぁ、あとはこのまま地下ルートに乗るだけだし、ちょっと話くらいさせてくれよー。お姫様もいなくてヒマでヒマで」
「はぁ」
ジョーカーの言葉にジャックはため息を吐きながらも言う。
「キングはそうだって言ってただろ。対マルクト用の兵器も用意できたし、彼女にもその予定で知らせてある」
「遅くても3月末に、だっけね。OK分かった分かった。再確認OK」
「こちらジャック。地下ルートに入った。もういいよキング」
「分かった。エース、クイーン、撤退しろ。天使は頂いた」
「諒解……」
「おつかれさん! それじゃ最後に1発、ぶっぱなします!」
クイーンはその言葉と共に、魔力を練った。
魔力が強力な風を作り、そして、放たれる。
強烈な風によって巻き上げられた砂埃や衝撃――――その1撃にナイツ隊の装騎が耐えている間にグローリアはその身を消すのだった。
「――――敵装騎、ロスト。……逃げられました」
「チッ、相変わらず逃げ足の速い……!」
逃走したグローリアに悪態を吐くノートレス。
「まんまとXミカエルを奪われてしまいましたね……」
「見たところ、輸送チームの姿も無い……貴重な新型騎を地上ルートで運ぶということも考えると……」
「まさか、悪魔派がXを奪取するために予め仕組まれたモノ、ってことですか……?」
「そうだ」
「まさか!」
「だけど、最近はこう言うことが多すぎる。悪魔派が軍用騎を使っていることと言い」
「内通者が?」
「いるんだろう」
アリエの言葉に頷くノートレス。
その言葉にアリエは驚愕の声を上げた。
「まさか! シャダイコンピュータの目を掻い潜ってそんなこと!」
「……本当、マズいよな」
だが、一騎使であるノートレスにはどうしようもない。
軍の上層部も、そしてシャダイコンピュータもこのことはとっくに気づき、対策を講じているはず。
「嫌な予感しかしないな……」
ノートレスはポツリとそう呟いた。