トラブるメーカー
ごぉぉぉおぅぅううん!!
とある休日、ステラソフィア学生寮に響き渡る謎の轟音。
「な、何の音ですか!?」
突然のことに慌てるスズメにツバサが言った。
「ああ、チーム・アイアンガールズのヤツらかなぁ……」
「久々ですわね」
平然とそういうツバサとチャイカにスズメは尋ねる。
「チーム・アイアンガールズ?」
「ああ、アイアンガールズは物作りが好きな生徒が多いチームなんだけど、たまに発明品が爆発したりするんだよな」
「ここのところは無かったですわよね。また何か新しい発明でも思いついたのでしょうね」
「そうだな……よっしゃ、ちょっとアイアンガールズの所に行ってみるか!」
そう言うと、ツバサは身を沈めていたソファから立ち上がった。
「スズメちゃんも行くか?」
「はい!」
と、言うことでスズメとツバサの2人はチーム・アイアンガールズの寮室へと足を運んだ。
「おいっすー」
そう言いながら寮室を開けるツバサ。
それと同時に黒煙と強烈な臭いが2人を襲った。
「うわっ……すごい煙ですね!?」
「そ、そうだな……」
さすがにツバサも瞳に涙を浮かべながら口元を腕で覆っている。
「やぁ、ツバサくんじゃないか」
そこに1人の生徒が声を掛けてきた。
体中を黒く煤で染めながらも、平然としているその生徒。
「よっ、トワ。また何か作ってるのか?」
チーム・アイアンガールズの4年生シュタルケス・トワ。
このアイアンガールズのリーダーだった。
「今回は新型の鯛焼き機の発明だよ。ツバサくん」
トワはこんな状況になりながらも、飄々とした態度で余裕を見せる。
「正確には焼き上がりをセンサーで感知。音声によって適度な焼き上がりを知らせる機能を付けた鯛焼き機ですけどね」
そう補足したのはまるで助手のようにそばに佇んでいた3年生ディーネ・ホフナ。
「さすがにそれだけでこんな爆発は起きないだろ……」
トワとホフナの言葉を聞いたツバサがそう言うと、トワは待ってましたと言わんばかりに素早く口を開いた。
「そう。普通、鯛焼き機がこんな爆発を起こすなんてあるものじゃない。その秘密はこの鯛焼き機に使われている動力なんだが、実はこの鯛焼き機、持ち運びも想定していてだね」
「げっ」
饒舌に話始めるトワにツバサはしまったという顔をする。
「君たちなら魔電霊子と呼ばれるものにアズルとマーダーと言う2種類の魔電霊子が存在することは知っているだろう。このアズルとマーダーは似た性質を持ちながら、相反する性質も持っているんだ」
「あの……ツバサ先輩、あの先輩、何かすごい勢いで喋ってますけど」
「あ、ああ、ごめん。地雷踏んだ」
「リーダーはこうなると止まりませんからね」
いつものことなのだろう。
ホフナも表情を変えずに「もう諦めなさい」とでもいうような表情を浮かべていた。
「そんな互いに喰らいあうアズルとマーダーの2つを完全に結合することで新たな魔電霊子を生み出せるという論文があるんだが、実はその新型の魔電霊子を生成する実験をしていてだね、この鯛焼き機には――」
「もうお帰りになりますか?」
「そ、そうだな……スズメちゃ――――スズメちゃん?」
ホフナの言葉に頷いたツバサがスズメに目を向けるとスズメは何やら感心したような表情でトワの言葉を聞いている。
「スズメちゃん……?」
「なるほど! だからハイドレンジアリアクターを搭載しても出力的には普通の装騎と変わらない――場合によっては落ちるんですね!」
「話が分かるヤツがいるじゃないか! そう! だからそういうロスを無くして両者の利点を取り入れた魔電霊子を作りだせればエネルギーの効率もアップするし――」
「これはダメそうですね」
仕方がないので、ツバサは暫くアイアンガールズの寮室に腰を落ち着けることにした。
「お茶を持ってきたのですー」
そう言いながら出てきた丸眼鏡を掛けた生徒がお茶の入ったビーカーを出す。
「お、サンキュー」
ツバサはクレアからビーカーに入ったお茶を受け取り、躊躇なく口へと入れた。
この部屋でお茶がビーカーなどに入って出てくるのは当たり前だった。
たまにフラスコに入って出てくることがあることを考えれば、ビーカーなど普通のコップと大差ない。
「キミは1年生だよな?」
「あっ、はいです! チーム・アイアンガールズ1年、リ・クレアなのです」
「クレアちゃんか。クレアちゃんも何か実験したりしてるの?」
「はいです!」
ツバサの言葉に、クレアはどこか瞳を輝かせる。
やはり、彼女もトワなどと同じタイプの人間だった。
「いまは電動自動車模型を限界まで軽くする実験をしてるです!」
「肉抜き作業か……」
煙が晴れた室内を見回すと、部屋の中央に何やらコースが設置されているのがツバサの目に入る。
どうやらそれが自動車模型を走らせるためのコースらしい。
実験と言っても、人それぞれ好きなことをしているのだろう。
その室内は雑多に入り乱れ、どこがどうなっているのかもわからない。
「なぁホフナ。トワが新型リアクターの実験しているのは分かるんだけど、なんで鯛焼き機なんだ?」
ふと、ツバサは思ったことをホフナへと問いかけた。
「それはですね」
「ただいまー。鯛焼き買って来たぞ」
「ラングが鯛焼きを食べたいと言ったからです」
今帰ってきた生徒が鯛焼き機の開発のきっかけを作った少女。
2年生のラング・フィアトが鯛焼きの入った袋を抱えて帰宅した。
「鯛焼き機はどーなった?」
フィアトは分かり切っていながら、ホフナにそう尋ねる。
「失敗しました」
「だろうね」
フィアトはそう言うと、鯛焼きを頬張った。
「みんなも食べる?」
そして、鯛焼きをホフナやクレア、ツバサに差し出すとそれを受け取り3人も鯛焼きを食べ始める。
電動自動車模型のモーター音が鳴り響き、トワとスズメが何やら話をする中、ツバサは黙々と鯛焼きを食べ続けたのだった。