今日は何の日
「どうしたのイザナ? そんなにそわそわして……」
日曜日の朝。
普段とはどこか違うイザナの様子に気づき、リコリッタがそう言った。
リコリッタの言葉に、イザナは慌てて首を横に振りながら、
「そ、そんなことないわよ」
と言うが、どこかおかしいのは目に見えて明らか。
しかし、特に詮索する気もないリコリッタは
「体調が悪いとかじゃなかったらいいけど」
といつもどおりイザナの前にココアを出す。
「ありがと」
それを受けとり、一気に飲み干すとどこか気合いを入れた表情でイザナはチーム・ミステリオーソの寮室を後にした。
それとなく、チーム・ミステリオーソの寮室入口にある郵便受けに目を向けながら。
「おはよう」
寮の前の広場のベンチで横になるイザナに掛けられたその声。
イザナは慌てて跳び起きるが、そこにいた生徒の姿を見て、明らかにガッカリした表情を浮かべる。
「おはよ、サリナ」
「ナニよその顔……」
「別に……」
そういうイザナだが、サリナにはその理由が分かっていた。
「スズメちゃんだと思ったんでしょ?」
「そう、だけど……」
「スズメちゃんからチョコもらいたいんでしょ?」
「は? チョコとか興味ねーし」
「本当は?」
「きょ、興味ねーし」
そう、この日は2月14日バレンタイン。
親しい人などに贈り物を送る日だった。
そんな中、イザナはスズメからのチョコレートを待ちわび、このようにソワソワしているのだ。
「アンタは男子か!」
「うっさいわね。欲しいわよ。スズメからチョコもらいたいわよ。これでいい?」
「何でちょっとキレてるのよ」
「キレてないわよ」
「全く……」
イザナの態度に、サリナは呆れるようにため息をつく。
「しっかし、せっかくのバレンタインだというのにトキメキも何もないわね」
「何を急に」
「バレンタインの定番っていったら何かわかる!?」
「定番?」
イザナの言葉に首を傾げるサリナ。
イマイチ合点のいってないサリナに対して、イザナは「そんなことも分からないの?」と言う視線を向けた。
「バレンタインの定番と言えば――まずは靴箱! 登校して靴箱を開けるドキドキ、下校の時に靴箱を開けるドキドキ!」
「ステラソフィアは土足だから靴箱ないけどね」
「次に机! 机の中にチョコが入って無いか探す楽しみ!」
「ステラソフィアには自分の机って無いけどね」
「そうなのよ……なんでステラソフィアにはトキメキポイントがないのよ!」
「トキメキポイントて……」
「おまけに今日は日曜日だし」
イザナの言う通り、今年のバレンタインは日曜日だった。
授業なども無く、仮に机や下駄箱があったからと言って、わざわざ入れにくるなんてこともないだろう。
「そんなヒラサカさんにプレゼント。はい、チョコ」
「……もしかして、本命?」
「何よその嫌そうな表情! 友チョコよ」
「そう、それならもらうわ」
サリナの言葉に、露骨に安心した表情を浮かべるイザナ。
「それと悲報なんだけど」
「何よ?」
そこにサリナがこんなことを言った。
「多分、スズメちゃんはチョコを用意できてないと思うわよ」
「はぁ!? 何でよ!!??」
サリナの言葉にイザナは叫び声を上げる。
「さっき、スズメちゃんにチョコを渡しに行ったんだけどね、今日がバレンタインだって忘れてたみたいで」
「……忘れてたの?」
「ええ。マッハ先輩から借りたゲームに夢中になってて」
「……カスアリウス・マッハァ!!!!」
「先輩を呼び捨てにしないの」
サリナの言う通り、悲しいかなスズメはマッハから借りたギャルゲー、トリコロールガールズにハマってしまっており、バレンタインなど完全に忘れ去っていたのだった。
「つまり、今年は、諦めろ、と……?」
「そうなるわね」
サリナの言葉にがっくりと肩を落とすイザナ。
「で、でも、ほら、買いチョコでもいいんだったら今からでも貰えるかもしれないじゃない?」
その姿があまりにもあまりだったので、思わずサリナの口からそんな言葉が出てしまう。
「そうよね!」
単純にも、サリナの言葉でイザナは立ち直った。
「今日1日くらいはちょっと期待してみるわ」
「そ、そう、頑張ってね……」
その後、スズメからチョコを貰えたのか――――それは……