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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:溢れ出る個性編
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アボカド

「実は、サリナに告白しておきたいことがあるの」

とある放課後、サリナを呼び出したイザナは真剣な表情でそう言った。

「実は、私――――――――アボカド、食べれないのよ」

「え!? 本当なのイザナちゃん!?」

「本当よ。リアルよ。マジなのよ」

「一大事じゃないの!!」

一見、いつも通りの真顔に見えるイザナだが、その額には僅かながら脂汗。

どうして、2人がこんなにも動揺を見せているのか――――それは、少し前まで遡る。

「実は最近、アボカドにハマってるんだ!」

「おおー、アボカド! あまり食べないけどイヴァも好きさー」

「アボカド美味しいわよね」

スズメの言葉に、そう同意するイヴァとサリナ。

そんな中、イザナも言った。

「私も大好きよ。スズメがアボカドで料理でも作ってくれたらそれこそ至高ね」

と。

そのイザナの言葉に、スズメは瞳を輝かせる。

「それなら今度、私お気に入りのアボカドを使ったサンドイッチを作ってくるね!」

最近、料理が好きだということもあり言ったスズメの言葉。

「でーじ楽しみさー!」

「本当ね」

「…………期待してるわ」

その後、イザナがサリナを呼び出し今に至った。

「アボカドが食べられないって……アボカドのどこがダメなの?」

「決まってるじゃない。あの青臭いサーモンみたいな食べ物……本当意味わからないわ。あの脂っぽさに舌触り――――それでいて緑で野菜なんだか果物なんだかよくわからない存在! あんなの食べれないわ」

「そんな明確に食べられないのに何で大好きなんて言ったのよ……」

「スズメの前でカッコつけたかったのよ!」

爽やかなくらい正直にそう言うイザナにサリナは呆れを通り越して感心すら覚えてくる。

スズメの前で「アボカドが食べられない」と言うカッコ悪いところを見せたくないがために「大好き」だと言い張り、自らを窮地に陥れているイザナ。

そんなイザナに対して、サリナはキッパリと言った。

「でもね、素直に食べられないって言ってた方がどう考えても良かったでしょ」

「……そう、かしら」

「そうよ! スズメちゃんはイザナちゃんの言葉であれだけ気合い入れてサンドイッチを作ってくるって言ったのに……後になって、やっぱ食べられないだなんて言われたらどう?」

「…………とても傷つく、と思うわ」

「そう。スズメちゃん、本当にショックを受けると思うわ」

「……う」

サリナの言葉が耳に痛い。

だが、過ぎ去った時は戻らない。

「なんとかする方法は、無いの?」

「それはもう、イザナちゃんが頑張って食べるしかないんじゃないの?」

「食べるのは嫌!」

「正直ね……と言っても、自分でやったことなんだから……あたしが魔法でも使ってイザナちゃんをアボカド好きにできるわけでもないし」

「できないの?」

「できないの!」

「なんとかして欲しいんだけど……」

「自分でなんとかしなさい」

「なんとかしてよー」

「自分でなんとかしなさい!」

「自分でなんてムーリー!」

「子どもじゃないんだから……!」

暫くそんな感じで言い合っていたが、流石にこれ以上の進展は無理そうだと分かると、互いにハァとため息をついた。

ため息の後の暫くの沈黙――――その沈黙をイザナがふと破る。

「サリナ、サンドイッチってことはアボカド以外にもパンとか野菜とか入ってるのよね?」

「スズメちゃんがどんなの作ってくるのか分からないけど、そうなんじゃないの?」

サンドイッチと言ったら何種類かの具材を挟むイメージがある。

最近、料理にハマってる部分もあるスズメのことということも考え、まさかパンとアボカドだけということはないだろう。

サリナはそう思った。

「アボカドは無理でも、野菜とかとも一緒に食べて食感とか舌触りとかを誤魔化せれば……」

「でもアボカドって以外と強くない? 特に舌触りとかは……どんな感じで仕上がるのか分からないんだけど」

「そこは賭けではあるわね……何かソースとかが一緒だと尚良いんだけど」

いろいろと思索するイザナ。

だが、なかなかこれだという方策は見つからないらしい。

そんなイザナにサリナ半ば「そろそろ諦めたら?」と思いはじめとうとうこう言う。

「もう、腹を括って食べるしかないんじゃない。さっきから言ってるけど!」

「だけど」

「スズメちゃんの手料理よ? スズメちゃんが丹精込めて作った手料理!」

「スズメの――手料理……」

「想像してみなさいよ。スズメちゃんがイザナちゃんの為に一生懸命サンドイッチを作ってる姿を」

サリナの言葉に、イザナは宙を仰ぐ。

そして、想像する。

スズメが自分の為にサンドイッチを作ってくれる姿を。

「パンから野菜からアボカドから――――全てスズメが素手で切って盛り付けて挟んだサンドイッチ……スズメの素手の柔らかさから伝わった温もりを持ったサンドイッチ……」

「何でそんなに素手ってことを強調するのかしら……」

どこかうっとりとした表情でそう言うイザナに対し、サリナは少し引いたような表情で呟いた。

「スズメのいろんな物が詰まった結晶…………そうね、スズメの作ったサンドイッチを食べるということは、スズメの愛情を――延いてはスズメを頂くということ…………私、分かったわ」

「え、あ……何が?」

「スズメを頂き、スズメと重なり、スズメと一つになる――――そう思えば、アボカドもスズメの一部だと思える。大好きなスズメの一部なら全て受けれることができるってことがね」

「そ、そうなんだ…………」

完全に引いてるサリナをよそに、イザナは拳を固めて宣言する。

「私、スズメを美味しく頂くわ」

「スズメちゃんが作ったサンドイッチを――でしょ……」

「そう、サンドイッチを、よ」

そう決心したイザナの表情には、どこか恍惚とした光が灯っていた。

その翌日、スズメが作ったサンドイッチを無事食べることができたイザナだったが、それ以来、アボカドを食べる度に美味しいとは全く別の意味で恍惚とした表情を浮かべるようになったらしいがそれはまた別の話。


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