事前情報・シーサイドランデブー
「さて、ブリーフィングをするぞ」
選手控室でブローウィングの4人は円になって腰を下ろしていた。
「シーサイドランデブーは『戦いは威力』を称するだけあって、高火力武器を使う装騎が多いのが特徴、って言うのは前も言ったな」
「壊し屋、ですね」
「ああ、そうだ。それも、何れも厄介な相手だと言う事は昨日の試合を見て分かってるだろう」
「爆弾どかーん! で、めっためたーだったんですよ!!」
「そ、そうだな……」
ツバサが手に持ったSIDパッドにデータを表示する。
全身に装備されたジャイロロケット砲に、14mmキラークイーンガトリングを構える重装甲の装騎。
PS-U3ウリエルをベースにした4年マーキュリアス・クイーンの装騎ラプソディ。
体中に閃光弾、煙幕弾と様々な爆弾を装備し、トラップ爆撃などにも長ける装騎。
PS-Ba3バルディエルをベースにした3年アストリフィア・サツキの装騎サーティーナイン。
「この二騎は地味に硬くて、ジャイロロケットだとかガトリングだとか、爆弾だとか面倒くせえ武器を沢山持ってるのが厄介だね」
「PS-U3ウリエルベースってことは、カルテットブースターの急加速にも注意ですね」
「一昨年だっけな、ラプソディの体当たりを食らったがアレはキツいぞ……」
「ウチが1年の時でしたわね」
「え、そうなんですか!? そ、その時は――」
「勿論勝ったよ。楽勝さ」
「本当に楽勝でしたの…………?」
「あー、うん、まぁ……と、とりあえず、サーティーナインのトラップ攻撃には注意しろよ」
「トラップなんて、マハが全部蹴散らしてやるんですよ!!」
全員の頭の中に、前回同様、開始早々爆弾の海に突っ込み撃破されるチリペッパーの姿が浮かんだのは言うまでも無いだろう。
「マッハちゃん……今回は弾倉背負って5mmショットマシンガン持っていけ」
「!!?? 5mmショットマシンガンってあんな失敗作を持っていかせやがるんですか!?」
「な、なんなんですか5mmショットマシンガンって……」
「リーダーが去年作った武器ですわ」
「つ、作った……?」
「いやな、なんか装弾数すっげー多くして、ひたすら弾をばら撒ける銃欲しいなーって思ってさ」
「何を思ったか、マハ必殺の18mmインパチェンスショットガンをマシンガンに改造しやがったんですよ!!」
「18mmショットガンを5mmマシンガンに改造って……」
その結果――なのかどうか分からないが、装弾数は使用弾丸の口径もありかなりの数を誇る。
ただし、威力、集弾性、その他もろもろが圧倒的に使えなく、ある種、豆鉄砲より酷い。
「良いだろ! マッハちゃんはどうせキックブレード使うんだしさ」
「うぅ……それはそうだけどですー」
マッハは不服のようだが渋々と申請を出し始める。
国の装騎輸送ルートと、ワシミヤ・ツバサ個人の輸送ルートの直結申請をし、チリペッパーと共に5mmショットマシンガンを輸送させるように手配したのだ。
「マッハちゃんはソレ持って、ひたすら弾をばら撒きながら、いつも通り相手に蹴りをかましてやればいい」
「今年はまだ木以外に蹴りを入れられた姿を見ていないですわ」
「チーム内対抗戦も、ウィリアムバトラー戦も散々だったからな」
「う…………いーんですよ! 今回こそ汚名挽回してやるんですよ!!」
「そうだな、挽回には良い状態に戻すって意味もあるもんな。また勉強したなマッハちゃん」
「あ!!!! ――――――そ、そぉーなんですよぉ! マハは常に進化してるんですよぉ!!!」
自分の言い間違えに気付き、顔を真っ赤にしながらも、必死に胸を張るマッハ。
今回こそはこの子の活躍に期待したいところだが……果たして。
「でまぁ、脅威――ていうか、奇妙な装騎が2年と1年の装騎だなぁ」
「ハンマートゥフォールとあの修復機能、ですね」
PS-Z2ゼルエルをベースにした2年ナイト・テイラーの装騎スウィートレディ。
両腕に装備された対装騎用炸薬式アームハンマー・ハンマートゥフォール。
その圧倒的な力をモロに食らえばどんな装騎であっても1撃で沈むことは間違いない。
特に、軽量機の多いブローウィングだとそれは致命的だ。
「PS-Z2ゼルエルは元々長腕の奇形装騎の一体ですけど……そこにアームハンマーだなんて圧巻ですね」
「お、スズメちゃんサリエルは知らないのにゼルエル知ってるんだな。アレは去年ナイト・テイラーが初めて搭乗した新型装騎なんだが」
「近所のプラモ屋のお姉さんに教えてもらいました!」
「プラモ屋にお姉さんか、なるほど」
ツバサが何に納得したのか分からないが、誰もそれには触れない。
「そして修復機能を持った新型、ですね……」
「ステラソフィアネット内で情報を集めて見た所、アレはPS-Ha1ハニエルという装騎らしいな」
「PS-Ha1ハニエル……」
装騎に仕込まれたナノマシンを刺激することで破損したパーツを修復するPS-Ha1ハニエルをベースにした1年ディーコン・ジャンヌの装騎ベストフレンド。
「修復機能には驚きましたけど、この装騎自体には、そこまで強力な兵装は無さそうですね」
前日の試合でベストフレンドが使った兵装は12mmファーフナーライフルとストライクハープーン。
「でも、この銛が気になるな……」
「銛…………」
ベストフレンドが持った棒状のソレ、ストライクハープーンは先に返しが付いており、突き刺した相手が逃れにくいようになっているらしかった。
しかし、その銛自体はかなり細身でしなりがあり、それほどの威力は考えられない。
「相手の動きを止めている間に、他の装騎の火力で破壊させる、とか……?」
「そうなのかねぇ……」
「まあ、今考えても分かりませんね」
「そりゃそうか――とりあえず、気を付けて欲しいのは、サーティーナインのトラップと、スウィートレディのアームハンマーだ。と言っても、他の装騎も十分に油断ならない相手だ」
ツバサの言葉に一同が頷く。
「それじゃ、次も――勝つぞ!!」
「オーッ!!!」
そして、新歓2日目2回戦、チーム・シーサイドランデブーとチーム・ブローウィングの試合時刻がやってきた。