集まれ、野郎ども!!
「久々の休暇だな……って言っても、休暇なんて貰ってもやることないんだよなぁ」
そんなことを呟きながら神都カナンをぶらつく1人の男性がいた。
彼は、マルクト神国軍の騎使ナイツ・ノートレス騎使隊長。
かつて、実地戦でチーム・ブローウィングと共闘したこともある国軍騎使の中でも有数の実力を持つ青年だ。
今回、半年振りに休暇を貰ったのだが、正直何もやることがなくただただ街をぶらつく。
「こんなんだから休みは要らないって言ってるんだが……まったく」
街を歩いていても仕方がないので、基地に戻ってシミュレーターでもしようかと思い始めたころ、ノートレスの目に何やらいがみ合う2人組の姿が目に入った。
「んだよ、もしかしておっさん、ボクに負けるのが怖いの?」
「誰がおっさんじゃ! ガキだからって許さねーぞオラァ!」
その2人は、片方はサングラスにどこかオラついているような男性、もう1人はどういう訳かツインテールを揺らす小学生くらいの少年。
「まぁ、待ちたまえグラサンくん」
ノートレスはそんな2人の間に悠々と割って入る。
「誰だオラッ」
「オレはマルクト神国軍騎使隊長ナイツ・ノートレスだ。キミは――――おや、見覚えがあるな」
「ナイツ・ノートレス……? あっ」
ノートレスはサングラスの男性にどこか見覚えがあるらしく、サングラスの男性はノートレスの名前に聞き覚えがあるようだ。
「もしかしてテメェは、この前の実地戦で……!」
「ああ、そうだそうだ。キミはリラフィリア機甲学校の生徒だね? 名前は確か……村田?」
「ムルタ! ムルタ・リーガル!!」
そうナイツ・ノートレスとムルタ・リーガルは先月――ルシリアーナ帝国領への侵攻作戦時に面識があった。
リーガルが所属するリラフィリア機甲学校チーム・イレギュラーズの参加した作戦は、マルクト神国軍のナイツ隊との共同作戦だったため、そのブリーフィングで顔を合わせている。
「それでムルタくん。何で揉めてるんだ? こんな子どもと」
「子どもじゃねーし! ヘブンズフィールド小の疾風ナギ様を舐めんな!」
「わかったわかった。それでどうして揉めてるんだ?」
荒ぶるナギの様子を宥めながら、ノートレスは2人のトラブルを聞きだした。
それは、こんな話だった。
「このおっさん、機甲装騎は手数だって言うんだぜ? 機甲装騎はやっぱりスピードだろスピード!」
「何言うてんじゃ! 多種多様の武器を使いこなせるのが装騎の特徴だろうが! やっぱ手数やろうが!」
つまり、この2人は自身の装騎論の食い違いで喧嘩に発展していたのだ。
「なるほど――ナギくんは装騎はスピード、ムルタくんは装騎は手数――――そう主張し合っている訳なんだね?」
「そうじゃ! あのサエズリ・スズメだっていろいろな隠し玉を使ってMVKに輝いたんだぜ。装騎は手数よ!」
「何言ってんだよ! スズメお姉ちゃんはあの決断力とスピードだろ! おっさんの目は節穴なの?」
「まぁまぁ、待ちたまえ」
ヒートアップする2人にノートレスは言った。
「装騎を駆るスピード、あらゆる状況に対処する手数――――オレが思うにはどちらも甲乙付けがたい大切なことだと思うよ」
2人の喧嘩を仲裁しようと、そう口にしたノートレスだったが、それが逆に2つの火を炎とする。
「うっせーんだよオジサン! ボク、そうやってあやふやにしよーとするヤツ大ッ嫌いなんだよね!」
「おうおう、男同士の戦いに首突っ込むんじゃねぞワレ!」
「!? いや、だが周りの迷惑にも――――」
「そんなに言うなら――」
「装騎バトルじゃ――!!」
「はぁ!?」
と、言うことで――――どういう訳だろうかヒラサカ・ナギとムルタ・リーガルの2人とナイツ・ノートレスの装騎バトルが勃発したのだった。
ヘルメシエル型装騎シナツを操るナギ、ラドゥエリエル型装騎イリーガルを操るナギ・リーガルチーム。
対するナイツ・ノートレスが操るのはミカエル型装騎ノートレス。
2対1と言うノートレス不利の状態から、そのバトルの幕が上がる。
「先手必勝だぜ!!」
“戦いはスピード”を自称するナギの装騎シナツがいの一番に駆け出した。
手にしたシールドナインライフルを撃ち放ち、ヘルメシエル型装騎の機動性を生かし装騎ノートレスへと急接近。
「へぇ、悪くないじゃないか」
バトルも始まり、気を入れ替えたのか接近するナギの装騎シナツにノートレスは余裕そう。
装騎ノートレスはバーストライフルを構えると、装騎シナツへと発砲した。
「早速交戦か――――ならば、俺は……」
装騎ノートレスと装騎シナツが交戦している間、装騎イリーガルは装騎ノートレスを挟撃するように背後へと回り込む。
「さーって、奇襲してやるぜ」
先行した装騎シナツが装騎ノートレスを引き付ける間に装騎イリーガルが奇襲するという作戦。
正確には、その場その場の判断の結果そうなっただけで作戦とは呼べない代物だったが、リーガルはその作戦で行くことにした。
「行くぜェ! ヘブンズフィールド小の疾風、ナギ様の力を見せてやる!!」
シールドナインライフルを撃ちながら、装騎ノートレスに距離を詰める装騎シナツの射撃は姉であるヒラサカ・イザナに負けず劣らず正確。
「正確過ぎる射撃だね。まだまだ経験が足りないよ」
悪くはない射撃―――だが、数々の戦闘を経験してきた本物の軍人であるノートレスには今一歩及ばない。
装騎ノートレスはバーストライフルを装騎シナツへと撃ち放つ。
その一撃は――実は装騎シナツには命中しえない弾丸だったのだが、その1撃を回避しようと装騎シナツが身を捻った。
その瞬間。
「これで1つ」
攻撃動作に移る前からそう呟いたノートレス。
その直後、左腰部にストックされていた超振動両刃剣カリバーンを左手で抜き取ると、逆手のまま装騎シナツへと薙ぎ払う。
ナギの装騎シナツは機能を停止した。
装騎シナツを切り払った流れのまま、クルリと背後を向いた装騎ノートレス。
その目の前には、今まさに装騎ノートレスの背後から奇襲攻撃を仕掛けようとしていた装騎イリーガルの姿がある。
「なんじゃて!?」
その存在を知っていたように――――いや、彼は確かに知っていた。
知っていたからこそ、右手に持ったままのシールドナインライフルの銃口を装騎イリーガルへと向けたのだ。
そして、発砲。
「うおおおおお!?」
その銃撃を回避してはいるものの、奇襲を仕掛けようとしたつもりが、逆に奇襲をされた――――そんな感じでリーガルは慌てる。
その間、装騎ノートレスは装騎イリーガルへと急接近。
「そして1つ」
そのまま、順手に持ち直していた左手の超振動両刃剣カリバーンの刺突攻撃により装騎イリーガルの機能を停止させた。
「つ、強い……」
「クッソぅ!」
「伊達に神国の騎使をしているわけじゃないんだ。2人がかりだからって、チームワークもちぐはぐなキミたちには負けないさ」
2人がかりで負けたということがよほどショックだったのか、ナギもリーガルもこれ以上の言葉が出ない。
「ナギくん。先手必勝――戦いはスピード――とは言うけれど、ただ無鉄砲なだけではダメだ。早く仕掛ければ早く状況が変わる――――だから、その状況の変化に合わせた素早い状況判断も必要になる」
「…………ふんっ」
「ムラタくん。戦いは手数――いろいろと手を用意していれば状況の変化に対応することもできるだろうけど、作戦を生かせる状況を自分で作りだすことも大切だよ。その為には迅速な行動、そして仲間との連携が必要になるんじゃないかな」
「…………チッ」
「とりあえず、今日のところは2人とも喧嘩をやめたまえ。今回のバトルはオレが勝ったんだからね」
「しょーがねーな……」
「わぁーったよ……」
2人の喧嘩は丸く収まった――訳ではないだろうが、今日のところはこれ以上のトラブルは起きなさそうだ。
「さて、キミたち」
これで話は終わりかと思ったところで2人に投げかけられたノートレスの言葉に、ナギとリーガルの2人は首を傾げる。
「これから基地でシミュレーションでもしようかと思ってたんだが、どうだ? 見学でも」
「は?」
「あ゛?」
「将来有望なキミたちに色々と為になることもあるだろう。そう見込んで誘ってるんだ。良いだろ?」
「ま、まぁ、どうせヒマだし」
「しゃーねーぜ……バトルにも負けちまったしな」
ノートレスに煽てられどこかしら嬉しそうな2人――――その後3人は神都カナンのマルクト軍基地の見学へと向かったのだった。