この物語はフィクションです。お風呂と言ったらサービスです
それは1月21日木曜日の出来事。
イザナのこんな一言から、物語は始まる。
「女湯を覗きに行きましょう!」
「…………頭でも打ったのかしら?」
イザナの言葉にそう表情を歪めるのはサリナ。
それもそうだ。
女湯など女性であるイザナであれば覗く必要は無く堂々と入っていけるから。
「何言ってるのよ。こっそりバレないように覗くって言う所にロマンがあるんじゃない!」
「ヒラサカさんはどんなロマンを追い求めてるのよ……」
「スズメよ!」
「それは予想できてたけど……」
この時間、実地戦に出ていたチーム・ブローウィングが帰還し大浴場でバスタイムをしているという。
その情報を聞きつけたイザナが、たまたま近くにいたサリナを誘っての覗き計画。
「善は急げよ。行くわよ」
「どう考えても悪だし。って言うか、アタシまで巻き込まないで!」
と、言うことでイザナとサリナはステラソフィア大浴場の裏手へと来ていた。
「大浴場を覗くなら、あの排気用のスリットから何かしらの手段で覗くしかないわね」
イザナの言う通り、大浴場の建物には排気用の小さな隙間が刻まれており、中が覗けそうになっている。
だが、そのスリットは細く、さらに高所にあるため普通に中を覗くのは難しい。
何やら覗きの算段を立て始めるイザナの傍で、結局着いてきてるサリナはため息をついた。
「全く……あら?」
そんな時、サリナの瞳が1人の人物を映す。
それは、レンズの先に上を向いた奇妙な細長い物体が取り付けられたカメラを構えるステラソフィア機甲科の制服を着た少女。
「あの人は確か――――」
「あ、メスパックン!」
「アーチペラゴ・ミュティレネですしー!!」
それは以前スズメを盗撮していたチーム・ミコマジック所属の1年にして新聞部のイザナ公認変態アーチペラゴ・ミュティレネ。
イザナに見つかったミュティレネの表情は、明らかに動揺の色を見せていた。
「もしかしてアンタ――また盗撮かしら」
「盗撮じゃないですしー! 取材ですしー!!」
「へぇ」
ミュティレネの言葉に、イザナが睨みつける。
つかつかと歩み寄ってくるイザナに、少しずつ後退りしていくミュティレネ。
イザナはミュティレネの目の前にくると言った。
「ちょっとアンタ、ソレ貸しなさいよ」
「い、嫌ですしー」
「良いから良いから。私も大浴場を覗きたいだけだし」
「……ほ、本当ですし?」
「ええ、アンタにも手を出さないわ。ここにいるサリナに誓ってね」
「何でアタシに誓うのよ……」
変態2人の会話を聞いていたサリナがそう言うが、どうやらミュティレネは納得したようだ。
「ヒラサカ殿に言われたらしょうがないですしー」
渋々と、だがミュティレネがイザナへと手にしていたカメラを渡した。
「へぇ、これ面白いわね。中で鏡に反射させてるのね」
「そうですしー。潜望鏡とかと原理的には同じようなものですしー」
細長いロッドを大浴場の中が覗けるスリットまで伸ばすと、カメラのデジタルディスプレイに大浴場内の様子が映し出された。
「おお、見える見える。スズメちゃんとチャイカ先輩が背中の流しっこしてるわ」
「中の音が拾えるようにマイクも持ってきてますしー」
「準備良いわね。頼むわよ」
「いやいや、ちょっとアナタ達――――さすがにこれ以上は」
止めようとするサリナだったが、
「ヘタなことをするとメスパックンの餌食になるわよ?」
「……!?」
イザナのよくわからない脅しに、サリナは動けない。
そんな中、マイクのセッティングも終わり、イザナはヘッドフォンを耳につけ、カメラの画面を見ながら中の様子を観察し始める。
「でも、チャイカ先輩って胸大きいですよね……」
「よく言われますわ」
ヘッドフォンから聞こえるそんな会話に、イザナはどこかソワソワとし始めた。
その音は、サリナやミュティレネには聞こえないがカメラのディスプレイに映る様子から想像することは出来る。
自分の大きな胸を、両手で挟むように持ち上げるチャイカ。
「ちょっと触ってみたいですねー」
「触ってみても良いですわよ」
そう冗談交じりで言うスズメだが、チャイカはあっさりと許可を出した。
「本当にいいんですか……?」
「女性同士ですし、ウチとしては全然問題ありませんわ」
チャイカの言葉に、スズメはどこか恐る恐るチャイカの胸へと手を伸ばす。
その掌がチャイカの豊満な胸に触れた瞬間。
「うおっ」
スズメがそんな声を出した。
「おお、おおおお!? おおおおおおお!!」
自分にはない未知の触感に、何やら興奮を隠せないスズメ。
思わず夢中になってチャイカの胸を揉みだす。
暫くして、ハッと我に返ったスズメ。
「す、すみません!」
「いえいえ、気にって頂けたのでしたら嬉しいですわ~」
「でも、どうやったらそんなに胸が大きくなるんですかねぇ」
「スズメちゃんは胸が大きくなりたいんですの?」
「チャイカ先輩程――とは思わないですけど、それなりには大きくなりたいですよ!」
スズメの言葉にチャイカは微笑むと、ふと、スズメの背後へと回った。
「――?」
不意に、チャイカの手がスズメの胸へと伸びる。
「胸は揉んだら大きくなるってよく言いますわ」
「えっ、ちょっ、チャイカ先輩!」
楽しそうにスズメの胸を揉みだすチャイカの姿に――――イザナは――――
「イチャイチャしてんじゃねえ!!!」
思わず、カメラを地面に叩きつけていた。
「ああああああああああ!!!!!????? ヒラサカ殿ぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」
地面に転がるカメラを拾い上げようとするミュティレネ。
だが、それより先にイザナの足がカメラを踏みつけ、破壊した。
「ヒラサカ殿ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!????????????」
「サリナ、帰るわよ」
「…………いや、あの、えーっと」
その場を立ち去ろうとするイザナに、ミュティレネが必死の形相で口を開く。
「ヒラサカ殿! 何でカメラを壊してるんですしー!!」
「もともとカメラは壊すつもりだったのよ。それがつい思わず壊しちゃっただけで結末に変わりはないわ」
「何言ってるんですし!? 見逃してくれるんじゃなかったんですしー!!??」
「アンタは見逃すって言ったけど、カメラを見逃すなんて言ってないじゃない」
「あんまりですし!!!」
「確かにあんまりね……」
ミュティレネの悲惨さにサリナも同意せざるを得ない。
だからと言って、ミュティレネの味方をする気もないようだが。
「一つ言っておくと――――」
「?」
「今の私を邪魔しない方が良いわよ」
表情はいつも通りのイザナ。
だが、どこか奇妙な迫力を感じ、ミュティレネは口を閉ざした。
「全く、こんなことなら私も大浴場に行けばよかったわ……」
そう悪態をつきながら、イザナはサリナを連れて大浴場の裏から姿を消した。
「こんなことなら、自分が踏まれたかったですしィ……」
そして、微妙にズレたことを言いながらミュティレネもその場を後にした。