戦場からの離脱
「偽神教は――――ワタシがブッ潰すッ!」
不意にピトフーイがディープワンに向かい転進。
ステルス機能を再度使用し、透過する。
「まだカメラが生きてたのか!? ――――だけど」
「ピトフーイの反応がディープワンの方に行ってますわ。ディープワンは味方、ではないのでしょうか」
ピトフーイとディープワンの戦闘を確認するとチャイカがそう呟いた。
「そう言えばクイーンの報告にあったな。傭兵アルジュビェタはディープワンに敵意を抱いてるってさ」
「確かにありましたね……今の状況だと味方、だと考えても良いんですかね」
「敵の敵は味方――とも限らないけど……ディープワンの殲滅を優先だ。いいな?」
「「「諒解!」」」
ステルス機能により姿が見えないことを利用し、ディープワンの学習能力を回避しながら1騎1騎確実に仕留めていくピトフーイ。
その傍で、チーム・ブローウィングの4騎もディープワンの殲滅へと乗り出した。
『アルジュビェタ! ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ!!』
ディープワンと交戦するピトフーイにふと通信が入る。
その通信は、このモスカウ市防衛を任されたルシリアーナ帝国軍司令ソビャーニン・ゲオルギ。
一連のルシリアーナ防衛戦に於いて、装騎では通行不可能と思われていた湿地帯を利用しての奇襲攻撃などでマルクト神国軍の侵攻を抑える防衛の要である人物の1人。
「アンタら――ッ! 偽神教と手を組んだわね!?」
『それがどうしたと言うのだ? 悪の王国から自国を護るため致し方のないことだ』
「くっ……アンタらはあの組織がどういうモンか分かってるの!?」
『理解はしているつもりだ。これ以上“友軍”に対する戦闘行為を行うのであれば以後、貴君を敵と見なす』
「ッ……構わないわ! 端っから当てにしてないしね」
そんなやり取りがあったのも束の間。
「ピトフーイからルシリアーナ所属の識別信号が――――消えましたわ」
「何だ? 離反?」
「分かりませんが……」
「とりあえず、今はディープワンを倒すことを考えましょう!」
「うおっしゃぁぁああああああああああああ、ブッ飛ばすンですよォ!!」
「対D1戦闘の基礎を忘れるんじゃないぞ! GO! ブローウィング」
「「「「GO!!」」」」
X装騎のインディゴドライブによる高出力攻撃などもあり、ディープワン殲滅自体は以前と比べ非常に楽にはなっている。
だが数の多さと、ディープワンの持つ学習機能と言う懸念はあった。
「と言っても、今は何とかディープワンを倒すしか無いのですわ」
「見せる手は最小限だ!」
「マハは蹴って蹴って蹴りまくるんですよォ!!」
「サエズリ・スズメ、奇襲します!」
アズルウィングで切り裂く装騎メゾサイクロン、リディニーク・ザ・ヴァースで的確に撃ち抜いていく装騎スネグーラチカЛ、ひたすら蹴りによって焼き切っていく装騎ジェイペッパー、そして、数の多さに便乗しながらレイ・エッジソードで切り裂く装騎スパロー2R。
そして、次第に互いをサポートし合うような形になっていくピトフーイとチーム・ブローウィングの4騎。
両者にその気は無くても、事実上の共同戦線となっていた。
「ステルスを――使い過ぎた!?」
だがそんな中、不意にピトフーイがアズルを体から噴き出す。
そしてインクが水で洗い流されるようにステルス機能が解除された。
それは恐らくステルス機能の長時間使用での過負荷による故障。
さすがのピトフーイも度重なる戦いに疲弊の色を見せ始めている。
「……さすがにここまですわね。撤退命令ですわ!」
「くそっ――――また突破できなかったか」
「そろそろ消耗も気になりますし……やっぱり退くべき、ですよね」
「マハはまだまだヤれるんですヨォ!!」
「なぁ、ピトフーイ!」
退却命令が出たことで、他のマルクト神国部隊も撤退を始める中、ツバサがアルジュビェタへと通信を繋いだ。
「何よアンタ!」
通信からどこか鬼気迫る声がツバサの耳をつんざく。
「そのサリエル型はこれ以上の戦闘は無理だ! アタシらも援護するから撤退しろ!」
「ツバサ先輩!? よいのですか……?」
「いいっていいって――まぁ、アイツが素直に聞き入れてくれたらだけどな」
ツバサの通信に、アルジュビェタはどこか迷うような素振りを見せる。
「ディープワンは――偽神教は潰さないといけない……でも」
アルジュビェタは勝てない戦いはしない主義――――そうなると言われずとも分かっていた。
そして、私情を現実で抑え込むことができると言う部分もアルジュビェタが今まで生き残ってこれた理由でもある。
「利用できるものは利用する主義……その申し入れ、受けてあげるわ」
その後、チーム・ブローウィングとピトフーイはモスカウ市から撤退。
チーム・ブローウィングはステラソフィアへと帰投し、ピトフーイはどこかへと姿を消したのだった。