ルシリアーナの悪足掻き-Zrádná Pitohui-
マルクト神国がルシリアーナ帝国本土に侵攻してからすでに半月程が過ぎた1月7日木曜日。
しかし、ルシリアーナ帝国軍の激しい抵抗に合い、いまだマルクト神国はレーニングラットやモスカウ市と言ったルシリアーナ西部の防衛ラインを突破できずにいた。
ルシリアーナ帝国は、対マルクト戦に備え着実に主力装騎であるP-3500ベロボーグ、A-85ペルーンの改良を進めている。
それに加え、ルシリアーナ最大の脅威はその数。
領土内へと侵攻したことにより更なる膨大なルシリアーナ帝国軍と、そして、この季節特有の厳しい寒さによりマルクト神国軍は足止めを食らっていたのだった。
そんな状況の中、チーム・ブローウィングはモスカウ市侵攻作戦へと参加していた。
「相変わらず、すごい数――すごい抵抗だな」
「ですわね……そこがルシリアーナ帝国の強みですしね」
装騎メゾサイクロン、装騎スネグーラチカЛを駆りルシリアーナ帝国軍の装騎ベロボーグ、駆逐装騎ペルーンを撃破しながら、ツバサとチャイカがそんな会話を交わす。
「どんどんブッ叩いて行けばいーんですよォ!」
「そうは言っても、さすがにこれだけの数だと……っ」
ガンガンとルシリアーナ装騎をレーザーキックブレードで切断していくマッハの装騎ジェイペッパーをレイ・エッジによる魔電霊子射撃で援護するスズメの装騎スパロー2R。
さらに、ルシリアーナの主要都市であるモスカウと言うだけあって、迎撃装置も多数。
それらを破壊し、その攻撃を凌ぎながら、ルシリアーナの大群を抑えるというのはさすがに骨の折れる仕事だった。
そんな状況をさらに悪化させる知らせがブローウィングへと入る。
「! ラインカッツェ学院高校の第17機甲チームが装騎大破で撤退……これは――――死毒鳥ですわ!」
「ピトフーイだって!?」
その感覚は死毒鳥ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタのサリエル型装騎のもの。
レーダーでは異常性反応を示していることからステルス機能を発揮していることが分かる。
「この状況でピトフーイか……」
「苦しくなりますね……」
「どうしますの? ピトフーイと――交戦いたします?」
レーダーを見ると、やはり多くのマルクト部隊はピトフーイとの交戦を避けたいらしく、その場から撤退する部隊が多い。
ヘタな実力では、敵は単騎と言えども返り討ちにされるのは必至。
そういう行動に出ることは仕方のないことではあった。
そんな状況でツバサは口を開く。
「チーム・ブローウィングはピトフーイを抑える。って言っても、倒す必要は無いし、無理する必要もない。いいな?」
「分かりました!」
「ガンガン行くんですよォ!」
「ええ、そうしますわ」
ツバサの言葉に他の3人は頷いた。
チーム・ブローウィングはピトフーイと交戦へと入る。
「いくら異常性反応で位置が分かるって言っても、ステルスが機能してると厄介だな……」
「私なら無限駆動で位置を掴むことができますけど……」
「ウチも魔力探知で何とか分かりますわ。しかし」
「なーんにも見えねーんですよォ!!」
「なんとかステルスを機能できなくすることはできないもんかな……」
ツバサの呟きに――ふとチャイカが何かを思いついた。
「そうですわ。サリエル型装騎のステルス機能は周囲の光を屈折させることでその姿を隠すもの――――その欠点は、ステルス機能の使用者からも外の様子が確認できないことですわ」
「でも、サリエル型装騎はその欠点を回避するために、体の一部カメラにはその屈折機能が働かないんですよね? あ、そうか!」
「ええ、そのカメラを破壊することができれば相手の目は塞がれステルスを解除するしかなくなりますわ」
チャイカの言葉にスズメも合点が言ったように、感嘆の声を上げる。
「なるほど――それに賭けてみるか……アタシがワイヤーエッジでピトフーイの動きをできるだけ封じるからそこで――――」
「ええ、ウチが魔力衝撃でカメラを破壊してみますわ」
「分かった――――それじゃあウィンドブロウ作戦、開始だ!」
「「「諒解!!!」」」
「うおっしゃぁぁぁあああ、かっ飛ばすんですよ!!!」
装騎ジェイペッパーが久々にファイティングショットガンを両腕に構え、我武者羅に撃ち放ちながらピトフーイの異常性反応へと接近する。
「ナニ、あのマルクト装騎――――コッチに突っ込んでくるなんて! でも、あの単調な動き……鴨ね」
「火食鳥・マッハなんですよォ!!」
嬉々とした表情を浮かべるアルジュビェタは、その手に持った柄から超振動ワイヤーの伸びたスティレットを構える。
「せいやっ!」
「うおっ、何なんですかァ!?」
ピトフーイがスティレットを振り払うと、その柄から延びた超振動ワイヤーが撓り、まるで鞭のように装騎ジェイペッパーへ向かって襲い掛かってきた。
ピトフーイはステルス機能を使用して透明になってるとは言え、その範囲には限りがある。
歪んだ虚空から急に黒いワイヤーが飛び出してきたことにマッハは驚きの声を上げるが、間一髪、鞭のようなワイヤーを回避した。
「大体の位置は掴んだな――――マッハちゃん、無理すんなよ!」
そんなマッハの装騎ジェイペッパーを援護せんと装騎メゾサイクロンがバーストライフルをワイヤーの伸びた辺りへと発砲しながらブースト移動で一気に駆け寄る。
レーダーとカメラを交互に睨みながら、透明なピトフーイの姿を必死で追う。
「ピトフーイが移動してますわ――」
チャイカの魔力探知とスズメのアズル探知による支援も受けながら、何とかピトフーイのいる場所を絞り、迎撃する。
「ナニコイツら――――他のヤツらと違ってコッチの位置を掴んできてるね。それにあの蒼い光を出してる逆脚型……ヴィアウィシュトックで会った本物のスパローか」
そう言いながらも、ピトフーイも負けてはいない。
以前のマルクト装騎とは段違いに性能の違うX装騎4騎を相手にしてなお、互角の戦い。
ステルス状態では飛び道具は扱えないものだが、超振動ワイヤーによる範囲攻撃で可能な限り射程をカバー。
何もない場所から放たれる突然の攻撃に、チーム・ブローウィングも攻めあぐねる。
「少しだ、少しで良いからピトフーイの動きを止めるんだ……」
自分にそう言い聞かせるようにツバサは装騎メゾサイクロンのアズルウィングを展開し、周囲に羽撃き攻撃を加える。
「範囲攻撃をすればイイってもんじゃ――――」
そこでふとアルジュビェタは気づいた。
装騎メゾサイクロンの羽撃きは、意図的にピトフーイを避けて撃ち放たれたことに。
「何か来るっ!?」
「魔力衝撃――――ですわ!!」
装騎メゾサイクロンが羽撃き攻撃により、ピトフーイの周囲にアズルの羽を打ち付けたその瞬間――――図った訳でも無いがツバサの意図を素早く察したチャイカの装騎スネグーラチカЛがピトフーイへと魔力衝撃を撃ち放った。
「チィ!!」
放たれた魔力の衝撃に、アルジュビェタのサリエル型装騎はその体を揺らされる。
「やったか!?」
「カメラが損傷!? コレがヤツらの狙いか! でも――――まだまだ視界は…………はっ!!!」
魔力衝撃の波が去った後――――そこにアルジュビェタのサリエル型装騎が姿を現せた。
「ピトフーイが姿を現しましたわ! どうやら作戦は――――待ってください!」
「どうしたチャイカ!?」
「…………チャイカ先輩、この感じ!」
気づけば、ピトフーイと装騎スネグーラチカЛ、装騎スパロー2Rは同じ方向へとその顔を向けていた。
すぐにツバサとマッハもレーダーの反応で理解する。
「コードD1――――ディープワン!」
その戦場に突如現れたのはディープワン――――それも、どこか装騎ベロボーグの面影を持ったディープワンだった。
それだけではない――――さらにそのディープワンの数は10騎はいるだろうか?
「何だ――このディープワンの数……マジかよ」
「ディープワンがこんな数出てくるなんて聞いてねーんですよォ!!」
「これは……P-3500の反応がどんどんD1コードへと変化していきますわ」
「ベロボーグがディープワンに……あっ」
ふとスズメの頭によみがえる“はじめての実地戦”での出来事。
「装騎が――ディープワンに、変わる」
驚愕の声を上げるのはチーム・ブローウィングの4人だけではなかった。
「あのディープワン――――ベロボーグとの同化型!? それにあの数――――まさか」
アルジュビェタが何かを理解し、声を上げる。
「まさか、ルシリアーナ帝国め……偽神教と手を組んだのね!!」




