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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:年末年始編
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ヒラサカ家の挨拶周り

「全く……なんでこんな面倒くさいことを…………」

「イザナ、私たちヒラサカは本来外様(とざま)の者。故にこの国マルクトの方々に挨拶をするのは――」

「分かってる。分かってるって」

イザナを諭すようにそう言うのは、イザナに大人の魅力を足したような、品の良さが全身から出ている和服の女性。

彼女はイザナの母親――ヒラサカ・イズモ。

イズモのその言葉にウザったそうに手をヒラヒラと振りながらもういいと体で示す。

そんなイザナの姿も和服姿であり、どうやらコレがヒラサカ家の正装らしい。

風の装飾が為された装騎輸送用のトラックに揺られながら、イザナとイズモはとある家へと訪れた。

「ニェメツ家か……」

それはヒラサカ家が交流のあるマルクト神国の名家の内の一つニェメツ家。

大きな格子状の門の先に、ちょっとした校舎くらいの大きさがある屋敷が見える。

イズモが門の傍に設置されたチャイムを鳴らすと、暫くして1人の少女が姿を現した。

「ヒラサカ家の方々、ようこそいらっしゃいました」

恭しくお辞儀をするのはイザナと同じくらいの少女。

このニェメツ家の長女であり、名をニェムツォヴァー・カナールと言った。

イザナは彼女に見覚えがあった。

実際、ヒラサカ家とニェメツ家は何度も交流している為当たり前なのだが。

カナールの案内によりニェメツ家の屋敷へと通されるイザナとイズモ。

とても綺麗に整えられているニェメツ家の庭をイザナは見回す。

中央に据えられた優雅な噴水が特徴的な庭に、綺麗に手入れがされた花々が美しさに色付けしている中を通り、ニェメツ家の屋敷にイザナとイズモは足を踏み入れた。

「明けましておめでとう御座います」

「おめでとう御座います」

ニェメツ家当主ニェメツ・ヨセフとその娘ニェムツォヴァー・カナール、ヒラサカ家当主ヒラサカ・イズモとその娘ヒラサカ・イザナが互いに挨拶を交わし、頭を下げる。

「では、挨拶はこれくらいにしてニェメツ家の誇る武闘場へと案内いたしましょう」

ニェメツ・ヨセフはそう言うと、言うイザナとイズモを母屋から少し離れた場所にある装騎用の武闘場へと案内する。

これより、マルクト神国の貴族――――その中でも、騎使として軍務に就いていた一族同士で行う儀式が始まろうとしていた。

「今回の討ち初め式、貴女が出なさい」

「…………わかりました」

非常に不服そうな表情を浮かべながらも、イズモの言葉に従い、このニェメツ家の屋敷まで運んできた機甲装騎――――いや、イザナミ型機甲装武ヒラサカへと乗り込む。

対して、ニェメツ家も長女であるニェムツォヴァー・カナールがニェメツ保有の装騎へと乗り込んだ。

「あの機甲装騎は……旧チェスク製の装騎ズラトヴラースカね」

装騎ニェムツォヴァーはチェスク共和国製機甲装騎ヴゾル25ズラトヴラースカを元にした装騎。

「金髪の乙女」の名を冠するその機甲装騎はマルクト装騎で言うとアサリア型とアブディエル型の中間のような機甲装騎だ。

細身の体に柔軟な可動部から、軽やかな戦闘を得意とする。

装騎の中でも旧型に属するが、だからと言って軽くは見れない。

何故なら、見た目こそ旧型の装騎ズラトヴラースカだがその性能は改修に改修を重ねた結果、現行装騎にも劣らない能力を有しているからだ。

「ニェメツ家は確か、元チェスク共和国の親マルクト派だったかしら」

そう、このニェメツ家は元々、チェスク共和国と呼ばれるマルクトの隣国だった国の騎使であった。しかし、当初からマルクトの貴族と懇意にしており、マルクト神国がチェスク共和国を侵攻した際も、素直に支配を受け入れた親マルクト派と呼ばれる一派がニェメツ家だ。

それとは別に、マルクト神国の支配を受け入れられずマジャリナ王国やルシリアーナ帝国に逃れた人々もいるのだがそれは置いといて。

「それでは、ニェメツ家とヒラサカ家による討ち初め式を開始する」

ニェメツ・ヨセフの言葉で、その式は始まった。

「行くわよ……」

先に動いたのはイザナの駆る装騎ヒラサカ。

装騎ヒラサカは鉾を構えると、装騎ニェムツォヴァーへと突撃する。

「来たっ!?」

いきなり正面から突っ込んでくる装騎ヒラサカにカナールが驚愕の声を上げた。

装騎ニェムツォヴァーの武装はエッジボウと呼ばれる近接戦闘用の刃がついた弓。

矢をつがえ装騎ヒラサカに狙いを定めようとしていたカナールだったが、狙いが付けられないと判断するや即座に矢を破棄する。

そして、エッジボウを構えながら装騎ヒラサカと距離を取ろうと下がり始めた。

「……いつでも自分の間合いで戦えるとは思わないことね」

そう呟くイザナだが、カナールの転身も中々のもの。

装騎ヒラサカと装騎ニェムツォヴァーの間合いは、互いの武装の有効射程外と絶妙な距離を維持する。

だが、そんな状態のまま戦いを膠着させることをイザナは許さない。

「この距離なら……十分間合いよ」

装騎ヒラサカは不意に赤光を吹き上げ、紅威カーマインシステムを発動させたことを示した。

「イチジン――」

イザナはそう呟くと、装騎ヒラサカが手にした鉾を構え――――装騎ニェムツォヴァーへと投げつける。

「な、投げ槍……っ!?」

装騎ヒラサカが鉾を投擲することを予測してなかったのか、カナールはあからさまに動揺の色を見せた。

装騎ヒラサカの投擲した鉾は、装騎ニェムツォヴァーの右大腿部へと突き刺さる。

「そして、止めよ」

その鉾の柄に装騎ヒラサカの蹴りが命中。

脚部を破壊された装騎ニェムツォヴァーは地面へと崩れ落ちた。

「これまで!」

「ありがとう、ございました……っ」

「ありがとうございました」

こうして、ヒラサカ家とニェメツ家の討ち初め式は終わりを迎えたのだった。

「相変わらずヒラサカ殿の息女の腕前には驚かされますな」

「少しばかり行儀の悪いところは玉に瑕ですが……」

「うちの娘は少しばかり型に嵌りすぎるからな。その大胆さはイザナ殿の持ち前でありますよ」

そんな会話を交わすヨセフとイズモの傍で、カナールとイザナも言葉を交わす。

「お手合わせ、ありがとうございました」

「……不服そうね」

「別にそういう訳ではありません。ですが、あの場面でどう動けば良かったのか――考えてしまいまして」

「私なら逆に突っ込むけど?」

「そう、でしょうね」

「ま、仮にあの時アンタが接近戦に切り替えたとしても――――私には勝てないけどね」

「イザナ」

「ゐっ……分かってる分かってる。口を慎むわよ」

「全く、本当に口の悪い子で申し訳ありません」

それからも暫く言葉を交わし、イズモとイザナはニェメツ家を後にする。

「んで、あと何軒くらい行くのよ?」

「そうね。ディアマン家、エレナ家にパプリカ家――――まだまだあるわ」

「……かったるい」

「イザナ」

「はいはい、口を慎めばいいんでしょ」

そんなイザナの様子にイズモははぁとため息を吐く。

イザナの正月はまだ終わりそうにない。

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