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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
間近ですよクリスマス
169/322

イザナがデート!?

「すみません、ヒラサカ・イザナ様に用があるのですが」

月も12月に変わったとある放課後、スズメ、イザナ、サリナ、イヴァ、ユウレイの5人が学内のカフェラウンジで雑談をしていた時、1人の少女が声を掛けてきた。

「……誰?」

「同じ1年生のフィルマメント・ルイースヒェンさんよ。チーム・アマリリスの」

イザナのいつもの返しに、サリナがそう言う。

チーム・アマリリス所属の1年生フィルマメント・ルイースヒェン。

薄く青みがかった長髪の穏やかな物腰と気品を感じる少女だ。

「ご紹介、ありがとうございます」

ルイースヒェンはサリナに恭しく頭を垂れた。

「で、用ってなんなのよ」

そんなルイースヒェンを急かすように、イザナがそう尋ねる。

「申し訳ありません」

イザナの態度にも丁寧に頭を下げると、ルイースヒェンは本題へと入った。

「実は先日、とある男性の方からアプローチを受けたのですが……」

「アプローチ? 告白されたの?」

「はい。とても熱心な様子でしたので、淡泊にお断りする――と言うのも悪いと思いまして、“お付き合いをしている人がいる”とお断りしたのですが」

「何、彼氏に会わせろだとか、彼氏がどれだけアンタを愛してるか見せろとか言い出したの?」

「はい。全く持ってその通りでして……それで、ヒラサカ様に殿方役をと思いましてお声掛けしたのです」

「何ソイツ、必死過ぎて引くわ……」

半ば冗談で言ったことだったのか、本当にそう言う理由だということを知り目に見えてドン引きするイザナ。

「きっと、クリスマスが近くて焦ってるんでしょうね……」

そんなイザナに対して、サリナが冷静なコメントを発した。

「そんな面倒くさい男と話さないといけないなんて嫌よ」

「そうは言っても、せっかくの頼みなんだし聞いてあげたらどう?」

明らかにやる気のないイザナに、サリナは何とか承諾するよう説得する。

そんな中、スズメがふとした疑問を口にした。

「ところで、どうしてイザナちゃんなの?」

スズメの問いにルイースヒェンは静かに頷き言う。

「ヒラサカ様は容姿も端麗で、殿方役を務めるのに申し分ないと思いましたので。問題ごとが起きても頼りにできそうですし」

「確かにイザナちゃんなら度胸もあるし、厄介ごとにも強いよね」

「じょーとーにメイクすればデージイケメンになると思うばーよ!」

「そう……?」

盛り上がるスズメとイヴァの言葉に首を傾げるのはイザナ自身。

「でも、1つだけ問題があっちゃいますよねー」

ふと、そう言ったのはユウレイ。

「あら? そちらのお方は……?」

「友達友達! コスプレ好きの子なのよ!」

ユウレイが誰なのか、なぜステラソフィアの制服を着ているのか、などそんなことを聞かれそうだと察知したサリナが慌ててそう取り繕うと、話を進めさせた。

「で、問題って?」

「イザナちゃんって結構ブスっとしてるし」

「失礼な」

「愛とか恋とか興味無さそうで」

「失礼な」

「カッコよくて強いだけでそれ以外ボーイフレンドとして褒められるところなんて無さそうですよ!」

「失礼な!」

「いったぁ!?」

3度目にしてついにイザナの手がユウレイへと延びる。

「それに短気ですしぃー!」

痛む頭を押さえながら、涙目でユウレイが更にそう付け加えた。

「まぁ、確かに多少の演技指導とかは必要になるかもしれないわね」

「そんなことしなくてもキッチリ務めて見せるわよ」

「と、言うことは――――」

「あ」

サリナに対して放ったイザナの言葉――それは、ルイースヒェンの頼みを承諾するということだった。

ただ、イザナはユウレイやサリナに続けてそう言われ、半ば対抗心のようなものからそう言っただけで承諾するつもりは無かったのだが、

「ヒラサカ様、有難うございます!」

そう何度も礼を述べるルイースヒェンの姿を見ていると断る訳にも行かなそうだ。

と言うことでイザナ達は打ち合わせをするためにチーム・アマリリスの寮室へと来ていた。

「ようこそお越しくださいました。チーム・アマリリスのお部屋へどうぞですの」

そう迎えてくれたのはチーム・アマリリス所属の4年生カルフンケル・シュリーセ。

ルビーの髪留めが黒髪に映える女性で、丁寧に礼をするとイザナ達をリビングへと通す。

「客人方、お紅茶をどうぞ」

リビングへと腰かけた5人の元へダージリンティーを運んできたのはチーム・アマリリス3年ペルゼーンヒェン・ルーエプラッツ。

ブロンドの髪を揺らしながら微笑みを浮かべながら、それぞれへと温めたカップを配り始める。

「お菓子もいかが?」

そう言いながら、大量のお菓子が入った缶ケースを持ってきたのはチーム・アマリリス2年アウゲンシュテルン・エレオノーレ。

エレオノーレは他の3人と比べるとどこか活発な印象がある。

彼女達がこのチーム・アマリリスのメンバーだった。

「それでは、ヒラサカさんにどういう男性を演じて貰うかの会議を始めます」

お菓子と紅茶を飲みながら、サリナの進行で早速打ち合わせが始まる。

「やっぱり、イザナちゃんはクールな雰囲気だから、そう言う方向を前に出した方が良いんじゃないかな」

スズメの意見にサリナが頷いた。

「そうね。わざわざチャラくしたりする必要は無いわね」

「クールだけど、根っこはアチコーコーって感じにすればじょーとーさ!」

「イザナちゃんってそう言う部分あるからね」

「……そう?」

「そうだよー」

イヴァの言葉も合わせて、イザナが演じる男性の基本的な性格設定は決まった。

「ルイースヒェンちゃんの性格や好みも知っていた方がよろしいと思いますの」

「そうですわね。アタクシ達がしっかりと教え込んであげますわ」

「それならば、わたしが問題集を作成してきましょう」

そう言いながら、シュリーセ、ルーエプラッツ、エレオノーレの3人が何やら相談しながらSIDパッドへの入力を始めた。

「衣装もそろえちゃわないといけないですよねー」

「そうね。メイクもどうしようかしら」

「イザナちゃん長髪だからそれも考えないといけないよね」

「この際、バッサリ切っちゃえばいいばーよ」

「それは嫌」

そして、イザナの役作りが始まった。

「それで、イザナちゃんの役名何にする?」

「そうね……何かいい名前無いかしら」

「…………バスカス・シュタインさー!」

「バスカス・シュタイン?」

「何か頭に浮かんだばーよ」

「じゃあ、バスカス・シュタインで良っか」

それから暫く――――神都カナンのカナン中央駅と言う駅の正面。

そこにルイースヒェンと男装したイザナ改めシュタイン――そして、ルイースヒェンに熱烈なアプローチを掛けているという男性の姿があった。

男の名はデマヴェント・フリードリヒ――サラサラとした茶髪が特徴的な、どこか物腰の軽い男性だ。

「君がフィルマメントさんの彼氏?」

「ああ、バスカス・シュタインだ」

「俺はデマヴェント・フリードリヒ。ふぅん」

フリードリヒはシュタインと名乗ったイザナの姿を頭の先から足の先まで目を通す。

黒い長髪は結わえ、身長は上げ底で増。

服装はシュリーセの父親が営むという超高級服飾店カルフンケルから借りてきた最高級スーツだということだ。

イザナのクールな雰囲気に合わせ、そしてお嬢様であるルイースヒェンにも見合うような身分を感じさせるようにということでその服装だった。

「こんなカタブツそうなのが君の彼氏?」

「堅物だなんて……シュタイン様はとてもわたくしを大切にしてくださります……!」

「シュタイン、君は本当に彼女を愛しているのか? 俺にその愛の強さを見せろ。俺が納得できればすぐに彼女から手を引くさ」

ルイースヒェンが少し心配したようにイザナへと向ける。

それは影でその様子を見守っていたスズメ達も同じ。

「イザナちゃん、上手くできるかな……」

「少し不安ね……」

イザナは、ルイースヒェンへと「大丈夫」と言うように頷きかけると口を開いた。

「それなら、まずはお前がルイースヒェンへの愛を言ってみろ。どれだけ彼女を愛しているのか」

「良いだろう」

フリードリヒは頷くと、言った。

「俺が彼女と初めて出会った時、その姿が稲妻のように俺の眼差しを焦がしたんだ。世にも美しい女性――その輝きは俺の心を燃やし、火の流れが俺の血を焼き尽くすようだった!」

「安い」

「何だと!?」

力説するように熱く語ってくれたフリードリヒの言葉を、イザナは一蹴。

「それなら、お前の愛を伝えてみろ」

イザナはそっとルイースヒェンの手を握ると、1言。

「ルイースヒェン――――好きだ」

「キタァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

影で声を殺しながらも叫ぶスズメ達。

結構楽しそうである。

もともと女性人気も高いイザナ――――彼女に見つめられ、愛の言葉を囁かれたルイースヒェンはぽうっと惚けた様子。

「そして、もう一つ――――」

今度は、フリードリヒの方へ向き直ると言った。

「アンタに言い寄られてる時のルイースヒェンの困った表情――――そんな顔をさせている時点で、アンタの愛なんてそこが知れてるのよ!」

「イザナちゃん、キャラ忘れてる忘れてる!」

そんなことを言っても、イザナには聞こえないのだが。

そしてその勢いに圧されたのかイザナの女言葉にも気が付かず、打ちひしがれたように膝をつく。

「フリードリヒ、本当の愛を知って出直してきなさい」

「出直させて来ていいのかな……?」

「本当の愛って」

「イザナちゃんおもしろいですねー」

「だからよー」

まぁ、何だかんだあったが、フリードリヒは結局ルイースヒェンのことは諦めた――――

「フィルマメントさん。俺は――――貴女に本当に相応しい男になって、出直してきます」

訳では無いようだが、とりあえずその身は引いた。

さて、ここから2人に進展があるのか――――それは神のみぞ知る。

「でもあんまり演技指導した意味なかったねー」

「それもそうね」 

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