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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ロメニア防衛線
164/322

フロレンツを守れ!

11月19日木曜日。

隊長カピターノ! カピターノ・ロレンツォ!! 出てきてくださいよ!!」

1人のロメニア皇国兵が、安置された機甲装騎のコックピットハッチの扉を叩きながら何やら声を上げている。

彼の名前はジュセッペ。

このロメニア皇国フロレンツ防衛部隊ロレンツォ隊の副官的存在だ。

ジュセッペの声に、そのハッチが開きどこか軽率そうな男性が姿を見せた。

「なんだよジェッポ。せっかくロムのカワイコちゃんと電話をしてたのにさ。何か?」

彼がこの部隊の隊長ロレンツォ。

見た目の通り、女性好きでどこかノリが軽い。

「敵襲ですよ敵襲! マルクト神国が侵攻してきたんですよ」

此処フロレンツに……ついに来たか」

「何カッコつけてるんですか! マルクトですよマルクト! あのスピードならすぐにでも我々の隊と接触しますよ!」

「解ってる。ジェッポ、みんなにすぐ準備をさせてくれ。迎撃装置もフル稼働だ。良いな」

「諒解!」

ジュセッペが他の部隊の仲間へと命令を伝えに走り去った後で、ロレンツォは静かに自らが乗っていた装騎を見上げる。

「さて、俺の新しい彼女はどこまでやってくれるかね」

ロレンツォ隊の防衛している都市フロレンツはマルクト神国に長らく支配されていたところを、「天空の檻作戦」に連なる一連の反抗作戦により奪還。

それから、対マルクト神国への迎撃拠点の1つとして整備が進められていた。

一時は優勢に見えた反マルクト諸国だったが、ケッテングリート作戦によって新型装騎が配備されてから再び襲撃の脅威にさらされていた。

そして今回、マルクト神国軍が再びこのフロレンツを手に入れようと侵攻してきたということだ。

「カピターノ、ユピテル部隊準備完了です!」

「迎撃装置部隊も問題ありません」

「絶対にマルクトを近づけるんじゃないぞ!」

「諒解!」

対マルクト用に整備されたこのフロレンツ――建物を利用した防壁に、中央はわざと防壁は作らず、広場のように開けた都市中心へと誘い込むようになっている。

そしてその中央には、駆逐装騎ペルーンの技術を利用したロメニア皇国の新型装騎ユピテルが12騎配備されていた。

さらに、都市のあちらこちらに対装騎を想定したカノン砲やカタパルト、バリスタが備え付けられており迎撃態勢は万全。

あくまでこれは、都市中央部――ロレンツォ隊の布陣であり、その周囲の別部隊もまた駆逐装騎ユピテルや各種迎撃装置を構え、マルクト神国軍との戦闘に備えている。

やがて、マルクト神国軍がフロレンツ郊外へと差しかかり――都市内へと侵入してきた。

「来ましたよカピターノ!」

「解ってるさ。迎撃装置部隊、フォーコ!!」

ロレンツォの号令によって、マルクト神国軍に向かって、カノン砲、カタパルト、バリスタの砲撃が浴びせられた。

「カノン隊は榴弾、カタパルト隊はヘヴィボム、バリスタ隊は徹甲榴弾だ」

「諒解!」

機甲装騎の装甲は魔電霊子武器や超振動武器、レーザー武器以外での貫通は難しい。

しかし、その衝撃であったり熱を完璧に防ぎきることはできない。

そのため、火薬を内蔵した榴弾武器や、重量のある物体を飛ばし、投げつけて装騎の破壊ではなく騎使パイロットのダウンを狙う――――それがマルクト迎撃戦での定石とされている。

投石器カタパルトが脅威となるのもその為であり、このフロレンツはそう言った迎撃装置をふんだんに備え、効率よく扱えるように整備されていたのだ。

そして、絶え間ない攻撃によって怯んだところを駆逐装騎ユピテルの魔電霊子砲によって撃破する。

「上手く行くといいですが」

「何、誰かがしくじらなければマルクトもすぐに帰ってくれるさ。そして俺も、カワイコちゃんの元に帰るっと」

「何言ってるんですか。あの新型――恐ろしい力だって評判ですよ!」

「天空の檻作戦が成功しちゃって調子に乗り過ぎてたんじゃないの? 勝って兜の緒を締めよって言うじゃないの」

「戦う前から緩みまくってる貴方が言いますか!」

「でもほら、見てごらん」

そう言うと、ロレンツォは監視カメラによって捉えられたマルクト神国軍の姿をジュセッペへと送信した。

そこには、迎撃装置部隊の猛攻によって侵攻を防がれるマルクト神国装騎の姿があった。

衝撃と熱量で騎使が気を失ったのか、身動き1つせずに他のマルクト装騎に連れられ後退する装騎の姿もある。

「いくら新型が強いって言ったって無敵のバリアがある訳じゃないし、ましてや相手は学生だ。卑怯に徹してれば負けはしない。とりあえず、ユピテル隊から2騎、防壁に上って狙撃お願いね」

「全く……ネーヴェとブフェーラは壁上の迎撃装置部隊の掩護に回ってください。怯んだ敵は容赦なくぶっ殺していいです」

「諒解さ!」

カメラの越しにマルクトの動きを見ながら「もうそろそろ撤退するかな」などとロレンツォが思ったその時、すごい勢いで4騎の機甲装騎が防壁の中央通路に向かって突撃してきた。

「動きに迷いがない? ネーヴェ、ブフェーラ!!」

「解ってるだ!」

ロレンツォの言葉に反応したのはブフェーラと呼ばれた大柄な男が駆る装騎ユピテル。

防壁の上から迫りくる4騎の機甲装騎へと狙いを定め、魔電霊子砲を撃ち放った。

その砲撃に反応し減速する3騎を追い抜き、白を基調に赤色を纏ったような機甲装騎が1番前へと出てくる。

その機甲装騎が構えるのは2帖の盾――その盾が正面で重なり、まるで1帖の盾のようになった。

機甲装騎から蒼いアズルの輝きが吹き出し、盾からもアズルが吹き出される。

そのアズルが強力な盾となり、駆逐装騎ユピテルの魔電霊子砲を防ぎ切った。

「何だど!?」

ブフェーラ=ユピテルの一撃を防いだ装騎の名はリコリスラヴァーズ・シックス――ステラソフィア女学園チーム・ミステリオーソ所属の3年生クラスタリアス・リコリッタの装騎だ。

新たに姿を現した4騎の機甲装騎とは、チーム・ミステリオーソのものだったのだ。

「ネーヴェ!」

「解ってるさ!」

ブフェーラの言葉にもう1撃、ネーヴェの駆逐装騎ユピテルが砲撃を加える。

連続で放たれた攻撃だったが、その1撃を今度は東洋の甲冑を纏っているような装騎がその手に持った剣で切り裂いた。

2年生レインフォール・トーコの装騎ニューウェイ・トゥ・ザ・スター。

2度目の攻撃も失敗し、だが諦めずに再度の射撃を行おうとした時、ローラー移動をする紅に浅黄色が鮮やかな機甲装騎のカメラが2騎を捉えた。

2人の背筋に悪寒が走る。

そのローラー移動する装騎の胸元が光を放つ。

「しまっ」

その輝きは、アズルの輝き。

強烈な魔電霊子砲が2人を装騎ユピテルごと焼き払った。

装騎フリップフロップ・キネティクス――4年ヒンメルリヒト・ヒミコの装騎である。

「ジェッポ!」

「何ですか!」

「ネーヴェとブフェーラがやられた! マルクトの装騎が4騎――来るぞ、中央通路に狙いを定めておけ!」

「なっ、諒解!」

ロレンツォもそう命令しながら、自らが駆る駆逐装騎ユピテルの銃口を、広場へと通じるたった2つの通路の内の一つへと向ける。

その間も、チーム・ミステリオーソの4騎は通路へと接近していく。

迎撃装置部隊の猛攻も物ともせずにだ。

全騎、蒼い輝き――インディゴシステムを発動ドライブさせ、魔電霊子武器を利用して榴弾やボムを防ぎ、切り払いながら進んでくる。

不意に、灰色で細身の装騎――1年ヒラサカ・イザナの装騎クロックワーク・アイロニィが何やら指示を出すような動きを見せた。

その動きに、反抗するような装騎フリップフロップK――そして、それを仲裁するような動きを見せる他の2騎。

「何をやってるんだ。悠長な……だが、今のうちに」

ロレンツォが支持を出そうとしたその時、不意に装騎フリップフロップKの胸元が光を放ち――――カメラがブラックアウトする。

「気づかれたのか!?」

それは違った。

何故なら装騎フリップフロップKが狙ったのはカメラなんてピンポイントなものではなかったからだ。

ゴォゥゥウウオオオオオオオオン!!!!!!

瞬間、防壁が粉塵と轟音を上げ崩れ落ちていく。

そう、装騎フリップフロップKが狙ったのはカメラではなくソレが取り付けられた防壁そのもの。

その攻撃で、駆逐装騎ユピテル部隊が銃口を向けていた中央入口も瓦礫によって封鎖される。

「あれだけの建築物をぶっ壊すだと!?」

辺りを包み込む粉塵で、視界がうまく取れない。

そんな折、不意にガツン! と何かが地面へと着地するような音が響いた。

「まさか――ジェッポ!」

「何です――――」

ロレンツォの言葉は――だが一瞬遅い。

あの爆発と粉塵に紛れ、瓦礫を乗り越えてきていた装騎CWアイロニィが、手に持ったナイフ・アメノムラクモから伸びたアズルブレードによってジュセッペ=ユピテルを切り裂いていた。

「あの瓦礫をこんな一瞬で乗り越えてきたのか!?」

モチロン、瓦礫をよじ登って行くのではさすがに時間がかかり、こんなすぐには中央へと進行することは出来ない。

装騎CWアイロニィは防壁を倒壊させた後に装騎フリップフロップKの胸部拡散霊子砲ヒルメフラーレ弐式によって可能な限り瓦礫の背を低くする。

そして、装騎Lラヴァーズ・シックスの盾を踏み台にして跳躍――――瓦礫を乗り越えて来たのだった。

「退却だ、退却しろ!!」

ロレンツォが退却命令を出すが、装騎CWアイロニィによって5騎の駆逐装騎ユピテルが破壊される。

あるものはナイフで突かれ、あるものはアズルブレードで裂かれ、あるものはバトルライフル・クライシスビートによって穴を穿たれた。

その間にロレンツォら残った6騎は退却しようと後退していたが、装騎CWアイロニィは彼らを逃すつもりもなく――高速で追撃してくる。

そんな中、1人の騎使がロレンツォへと言った。

「カピターノ――ここは、わたしが」

「ピピ!? 待ちたまえ! 女の子ラガッツァに任せるくらいなら俺が……」

「お願いします。カピターノは――――逃げてください」

ロレンツォの制止も聞かずに、魔電霊子砲を構え前に出たのはこのロレンツォ隊唯一の女性ピピ――“本名”はP3。

視界が制限された状態の中、P3は静かに目を閉じ、耳を澄ませる。

そして、対する装騎CWアイロニィも1騎だけ突出している装騎がいることに勘付いたのか、P3の装騎ユピテルに向かって駆けてきた。

「ヤツは強い――それに君は狙撃が専門だろう。死ぬぞ!」

「わたしは死にません――――“アルバ”ですから」

「何を――――」

P3はそう言うと腰部にストックされていた超振動ナイフを左手に構えるとロレンツォ=ユピテルの四肢を切断。

「ルジャーダ、カピターノを連れて退却を」

「お、おう!」

ルジャーダと言う男が乗ったユピテルが、ロレンツォをコックピットから助け出し、連れて撤退する。

それを見送るP3の装騎ユピテルへと、装騎CWアイロニィがナイフ・アメノムラクモからアズルブレードを発生させ斬りかかった。

その一撃をP3=ユピテルは受け止める。

自らが持つ魔電霊子砲――その先にアズルを固定し、アズルブレードを発生させていたのだ。

ステラソフィア装騎でも、魔電霊子砲をブレードとして扱うことはあるように、実際できないことではない。

しかし、出力が圧倒的に足りていない駆逐装騎ユピテルでは少しでもアズルのコントロールを間違えると過放出オーバーディスチャージへと至る危険がある。

それを、装騎CWアイロニィと戦いながらマニュアル操作で調整をするP3。

それは、『アルバ』と呼ばれる存在である彼女だからできることでもあった。

P3=ユピテルは斬撃の合間に、魔電霊子砲による射撃も絡め、装騎CWアイロニィの動きを防ぐ。

「カピターノのところへは、行かせない」

P3の思いが届いたのか――思い切り突き出したアズルブレードが、装騎CWアイロニィの持つナイフ・アメノムラクモを手から弾き飛ばした。

ナイフ・アメノムラクモは宙を舞い、装騎CWアイロニィの手には武器は見えない。

先ほど使っていたバトルライフル・クライシスビートも格闘戦ということで背部ストックに固定していたからだ。

「殺します!」

P3は手に持っていた魔電霊子砲を放り出すと、予備として持っていた超振動ナイフを構え、装騎CWアイロニィと距離を詰める。

装騎CWアイロニィは動かない――全く微動だにしない。

死を覚悟したのか?

或は――――

ドスッ

鈍い音と共に、衝撃がP3の体を揺らした。

「え……」

気づけば、装騎ユピテルのコックピットは潰れ、自身の体からは赤色の液体が流れ落ちている。

それは、先ほど弾いた――――と思っていたナイフ・アメノムラクモの1撃。

宙を舞ったナイフ・アメノムラクモは偶然だろうか?

装騎CWアイロニィへと止めを刺そうとしたP3の装騎ユピテルのコックピットをあまりにも的確に貫いていた。

「ああ……死んじゃった」

P3は、静かにそう呟くとその瞳を閉じた。

12騎いたロレンツォ隊の駆逐装騎ユピテルも残りはわずか4騎。

しかし、命からがら退却ルートの後方通路へと辿り着いた。

「これで――国に、戻れる」

通路を抜けたロレンツォ隊の残った4騎と5人を待ち構えていたのは、3騎の機甲装騎。

装騎フリップフロップK、装騎Lラヴァーズ・シックス、装騎ニューウェイTS――チーム・ミステリオーソの他の機甲装騎だった。

「嘘、だろ」

武器を構える3騎の機甲装騎――そして、背後からはCWアイロニィが着実に距離を詰めてきている。

勝ち目は――無い。

「だけどよ……!」

ロレンツォが命令を出すまでもなかった。

すぐに残った4騎の機甲装騎は魔電霊子砲を構え、狙いを定める。

そして、アズルの輝きが閃きロレンツォ隊は全滅した。

その後、1番堅牢だと思われた中央が突破され、フロレンツに配備されたロメニア皇国兵は続々と白旗を掲げ投降。

都市フロレンツは、再びマルクト神国の手に落ちることとなったのだった。


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