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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:動乱編
163/322

アイドル戦争

「スズメちゃん、ちょっと頼みたいことがあるの」

場所は神都カナンにあるとある高級喫茶店。

ムーンリット・カノンに呼び出され、スズメはそのお店へと足を運んでいた。

「私に頼み事――――もしかして、脅迫状のことで、ですか?」

カノンの用事にスズメは心当たりがあった。

スズメとカノンは、何時ぞやの乱入装騎を撃破した時から何度か会ったり連絡を取り合っており、そんな中で何度かカノンから脅迫状について相談されていた。

「脅迫状の犯人を突き止めるんです?」

「それはもう判ってるの」

「判ってるんですか」

「うん。スズメちゃんが帰ろうとした時に、私の控室に入ってきた女の子、覚えてる?」

カノンの言葉に、スズメはしばらく宙を仰いでいたが、

「いえ、全然」

と言った。

「スズメちゃんはブルーメって読んでる?」

「ううん、でも確か女子高生向けの装騎雑誌ですよね」

「うん。これがそうなんだけど」

普段から男性向けの装騎雑誌しか読まないスズメに、カノンは1冊の雑誌を取り出すとその表紙を指さす。

そこにはカノンと――そして、もう1人ゆるふわとカールした明るい茶髪の女性が映っていた。

「この人が、脅迫状を送ってきた?」

「アプフェリス・アーキュリアーーファンからは“アーきょん”って呼ばれているアイドルなの」

端正な顔立ちに明るい性格で中高生を中心に人気があり、装騎アイドル以外にもモデルなども務めるアイドル、アーきょん。

カノンと同じ雑誌に載ることも多く、“表向きには”仲の良い最高のライバル――と言う触れ込みである。

「犯人が判ってるってことは、問い質しに?」

「それもしたの。もうこんなことはして欲しくないってね。彼女もすぐに謝ってたんだけど……」

「解決、したんじゃないんですか?」

「解決――したんだったら良いんだけど。なんか嫌な予感がするのよね」

「嫌な予感ですか……」

「彼女のことだから証拠が出るまで認めないんじゃないかと思ったけど、あまりにもあっさり認めたところがちょっと腑に落ちないの」

「それから脅迫状は来てないんですか?」

「来てないけど……アーきょんからこんなメールが来たんだ」

そう言うと、カノンは一通のメールをスズメに見せた。

そのメールは、カノンがアーきょんを問い質したその翌日にカノンへと送られてきたメールだという。

「ノンノン、本当にごめんね。こんど、一緒に食事に行こう。アーきょん……」

「それで今日、一緒に食事に行くことになったんだ」

「今日ですか」

「うん。今日」

2人が一緒にご飯を食べる予定のお店はこの神都カナンにあるレストラン・エーリカ。

有名人も多く利用する有名店だ。

「食事――くらいなら行ってみてもいいんじゃないですか?」

「食事だけなら、ね」

「どういうことですか?」

「実はご飯を食べた後に一緒に映画を見に行こくことになって」

「ミラヰビルのですか?」

「ううん。実はカナンの外れに、隠れた穴場スポットの映画館があってね。そこに行こうってアーきょんが」

その映画館の名前はキノデフィルミル。

シュロスマウアー・マイシュテルと言う男性が1人で営む小さな映画館で、他国との交流が難しいマルクト神国の中でも珍しく外国の映画作品を輸入し上映していることから一部のマニアから人気がある映画館だ。

その映画館自体に問題は無いのだが、1番の問題はその立地にあった。

その場所は、人通りも少なく閑静な裏路地の奥にあるらしく、いうなれば闇討ちをするには格好の場所。

「思い過ごしだったら良いんだけど、あんなことがあった後だし、さすがに不安で」

アーきょんが、あまりにも呆気なく罪を認め謝ったということも、逆にカノンの不安感を増大させていた。

カノンの知ってる彼女の本当の性格としては、そんなあっさり負けを認めるとは思えなかったからだ。

「なるほど――――確かにちょっと怪しいですね。分かりました。私に任せてください!」

と、言うことでその日、カノンはアーきょんの呼び出しに応じ、レストラン・エーリカへと向かった。

さすがにスズメも一緒に同席することは出来ないので、そんなカノンを離れた場所から護衛する。

だが、今回の件はスズメ1人でも不安があると言うことで助っ人を呼び出していた。

「むむむむむ、スズメ後輩は良い人材に目を付けたんですよ!」

「はい、マッハ先輩のこと頼りにしてますよ!」

スズメが助っ人として呼んだのはカスアリウス・マッハだ。

ムーンリット・カノンのファンでもあるマッハは、カノンと会えると言うただそれだけの条件に釣られ、あっさりと今回の護衛を引き受けてくれた。

「マッハ先輩はアーきょんさんのことは知ってますか?」

「モチロンでやがりますよ! イマドキギャルのシャレオツなファッションで、モデルとしても人気のある装騎アイドルなんですよ!」

レストランで雑談をしながら食事をするカノンとアーきょんの姿をそれぞれの装騎の望遠カメラで眺めながら、スズメとマッハも雑談を繰り広げる。

「今の所、怪しい動きはありませんね」

「やっぱり、メインは路地裏だと思うでやがりますよ」

「マッハ先輩もそう思います?」

「あそこは喧嘩をするには打って付けの場所でやがりますからね。マハも中学時代はよく暴れてたでやがりますよ」

カナンの不良であれば、その名を知らない者はいないとも言われる伝説の不良“鬼蹴りのマハ”が言うのだから打って付けなのだろう。

「っていうか、何でそんな場所に映画館があるんですかね……」

「穴場感が出したいだけだと思うんですよ」

やがて、カノンとアーきょんが食事を終え、移動を始めた。

「移動ですね。私たちも着いていきましょう!」

「モチロンでやがりますよ」

スズメとマッハは装騎から降りると、路地裏へと入っていく2人の後を追跡する。

しだいに人々の喧騒が遠のき、道もどんどんと薄暗くなってきた。

「仕掛けるなら――この辺りでやがりますね」

マッハの読みは――――

「きゃあ!?」

当たってしまった。

突如上がった悲鳴はアーきょんのもの。

カノンとアーきょん2人の進路を妨げるように現れた、7人の明らかにガラの悪い男達の姿。

「おうおう、そこのべっぴんさん」

「ちょっと俺らと茶でもしない?」

カノンとアーきょんの腕を掴みながら、そんなことをいう不良たち。

「ノンノン、どうしよう……」

そう怯えたようにいうアーきょんだが、チラりと一瞬その視線を不良たちへと向ける。

それにカノンは気づいていないだろうが、スズメとマッハは確信した。

「アイツら――グルですね」

「野郎……グルでやがりますね」

そして、そんな状態でありながらも、カノンはキッとガラの悪い男達を睨みつけると、

「お断りします」

とキッパリ言い放った。

そんなカノンの態度に、口元に笑みを浮かべる不良共。

そしてそれはアーきょんも――――こんな状況になっても、カノンは気丈に振る舞うと分かっていてやっているのだ。

「ああ? いいじゃんね。ちょっとウチらとコいよぉ」

不良の1人がそう言いながら、カノンの腕をグッとつかみ上げようとしたその時。

「うぉらぁぁああぁあああああああ!!!!」

その不良の後頭部を、マッハが蹴り上げた。

「誰だッ!?」

「テメーらに名乗る名前はねーんですよォ!!!!!」

マッハは倒れ伏した男の上に仁王立ちし、残った不良たちを睨みつけ啖呵を切る。

「こんのアマ! 女だからって容赦しねぇぞ!!!」

そう叫びながら、マッハへと飛びかかる不良。

「うぐぁ!?」

そんな不良の元へ何かが飛来し、顔面にブチ当たった。

「全く、女だからって甘く見てると痛い目見ますよ」

そう言うのは、スズメ――――その手には木製の投擲用ナイフを持っていた。

小型な上に刃は無いが、中に重りが仕込まれておりそれなりの重量を誇っている。

今、不良の顔面に投げつけられたのもソレだった。

「こんアマぁ!!」

「ブットバス!!」

「うおいらぁ!!!」

残った5人の不良共は完全に怒りを露わにし、スズメとマッハへ飛びかかってくる。

「スズメ後輩は無理しやがるんじゃねーんですよォ!」

「はいっ! 援護は任せてください!」

そんな不良たちの中へと1人突っ込んでいくマッハ。

強烈な蹴りを、的確に急所へと蹴りこみ、最小限の動きで不良を仕留める。

そんなマッハを援護するように、スズメもナイフを投擲。

「スズメ後輩!」

「マッハ先輩!」

スズメは投擲し、不良に当たったことで宙を舞うナイフを手に取るように跳躍する。

そのスズメの跳躍に合わせてマッハも跳んだ。

そのまま――

「「反転ダブルキック!!」」

スズメとマッハが互いを蹴り合い、2方向へと射出されるように飛び蹴りを放った。

マッハの蹴りは的確に弱点を狙った強烈な2撃で、不良1人をノックダウン。

スズメの蹴りはマッハほどの力強さはないものの、不良を蹴った勢いで再度跳躍――――空中で体を捻りながらナイフを投擲しとどめを刺す。

そして不良共は最後の1人を残して、倒れ伏した。

残った不良も、特にマッハの剣幕に押され明らかに戦意を喪失しているのが分かる。

「さぁ~って、どーしてこんなことをしやがったか理由を教えやがるんですよ」

ズンと、最後の1人へと歩み寄るマッハ。

小さな体ながら、異様な迫力を醸し出している。

「オ、オレたちはただカワイコちゃんとお茶を――」

「正直に答えろオラァ!!!!」

「オ、オレたちはそこの女に頼まれただけだ!」

「な、何なのよアンタ達!!」

不良の言葉に、アーきょんが明らかに狼狽しながら叫び声を上げた。

急に現れて作戦を邪魔したスズメとマッハに困惑していたところに、止めを刺されたようだ。

「な、何よコレ!? あ、解った! コレ全部アンタ達が仕込んだことなんでしょ!?」

「ソレはテメーの話じゃねーんですか? テメーがコイツら呼びつけてカノンちゃんに痛い目合わせようとしたんじゃねーんですかァ!」

「ハァ!? なんで私がそんなことしないといけないのよ!!!!」

「テメーはカノンちゃんに脅迫状を送ったり、ライブを邪魔したりもしてたらしいじゃねーですか」

「なんのことよ!!」

「しらばっくれるんじゃねーんですよ!!」

「カノンさんの話によると、認めたらしいじゃないですか」

スズメの言葉に、アーきょんは首を横に振る。

「アレはトラブルを起こしたくないからそう言っただけだよ! そこまで言うなら証拠を見せてみろよ!! 証拠を!!!!」

「証拠ならあるわ」

不意に、第3者の声がその場に響いた。

凛とした声を響かせたのは1人の女性。

「ユヅさん!」

カノンのマネージャー、ユヅだった。

「ユヅさん、もしかして調べが……?」

「ええ、ついたわ。知り合いに頼んで、いろいろ情報を集めてもらったの。あとはそこの不良たちのケータイでも見れば1発じゃないの?」

そう言いながら、ユヅがタブレットの画面を全員に向かって見せつける。

そこには、色々小難しいことが書いてあるが、それがその証拠なんだろう。

「最初の脅迫状事件で捕まった男性も、アーキュリア、アナタの指示でやったと言ってるわ」

「たったそれだけの証拠で何になるってんだよ!!!」

「そう、私個人の力でもここまで調べられる。警察に頼んでないのはカノンの温情だと知りなさい」

「ッ!!!!」

本来、こんな事件は警察に頼めば1発で解決してくれるだろう。

だが、カノンは最初の脅迫状の時点でアーきょんが犯人だと勘付いていた。

多少の軋轢はあれど、カノンにとってアーきょんは友達――そう思っていた。

だから、あくまでユヅと共に個人的に調査していたのだ。

「ったくマジかよ。ざっけんなよ!!」

アーきょんはがっくりと膝をつくと地面をガツンと殴りつけた。

「アーきょん」

そんなアーきょんにカノンがそっと近づく。

「これからも、私と友達――そしてライバルでいてくれる?」

そう言いながら差し出されたカノンの右手。

「……分かったわよ」

アーきょんはそう言いながら、カノンの手を握り返した。

それから、5人で映画館で映画を見て、その日は終わった。

「これで解決しやがったんですかね」

「さぁ……」

その後、カノンとアーきょんの関係がどうなるか、それはまだ分からない。

だけど……

「でも――――カノンさんなら大丈夫ですよ」


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