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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:動乱編
161/322

我の国からの来訪者

「おい、ぬし等」

ある平日、ステラソフィア中央街でデザートを食べていたスズメ達に1人の女性が声を掛けてきた。

キリっとした目に異様な迫力を醸し出す、圧倒的な存在感を持った女性。

「主等は“キシ”とか言う者か?」

「キシって……騎使? はい、そうですけど……」

首を傾げながらもそう答えたサリナに、その女性は「矢張やはりな」と鼻を鳴らすと、言った。

「主等に壱対壱の決闘を申し込む」

突然のその言葉――――まさか、街で話しかけられた女性に突然決闘を申し込まれるとは思いもしなかったのだろう。

「何、喧嘩屋? それとも辻斬り? 迷惑なヤツね」

「其の様な小物では無いわ。吾は羽張国ハバリノクニの王であるぞ」

「我――――もしかして、我国ワコク?」

「我国っていうと、東の果てのあの?」

「機甲装武の国さー」

「アナタ――名を名乗りなさい」

凄まじい迫力を放つその女性にも負けない勢いで、女性へとそう問いかけるイザナ。

そんなイザナを目にし、

「主、中々の胆力だな。良いだろう――吾は羽張国の統治者たる菊月家当主、菊月・雫キクヅキ・シズクである。主は?」

とその名を名乗った。

「私はヒラサカ・イザナ。なんてことは無い、ただの一般人よ」

だが、イザナの名に雫はわずかではあるが表情が変わる。

「ほう、比良坂……吾の臣下と同じ名か」

「臣下……」

「其れに其の名の響き――主は我らの国の血を引く者か」

「そうね。なるほど、私の果てしなく遠い親戚が、遠い東の国でアンタみたいなヤツに仕えちゃってるってわけね」

実際イザナのヒラサカとルーツが同じなのか――それは分からないが、雫の家来に「比良坂ヒラサカ」と言う者がいるらしい。

そして、その事実と、どこか偉そうな雫の態度にイザナは言った。

「アンタ、すっごいムカツクわね」

「良いぞ、相手をしてやろう。掛かって来い――比良坂」

「私を相手にしたこと――後悔させてあげるわ」

それぞれが装騎、装武を呼び出す。

「あのカードは何なの?」

スズメがそう尋ねたのは、雫が手に持っているカード。

「あれは、来賓用レンタルガレージのカードキーね」

雫は他国の者であり、マルクト神国にガレージを持たない。

その為、国からガレージを借りているのだ。

やがて、イザナの機甲装騎と雫の機甲装武がその姿を現した。

「これが本場の機甲装武ですか!」

「此れこそ吾が装武――自在天王ジザイテンノウである」

まさに甲冑! と言った様子の雫の装武自在天王。

幾重にも重ねられ繋げられた緋色鋼ジェラニウム製の装甲は重厚さを感じさせる。

腰に差した2本の刀と、その背には2丁の先込め式赤色魔石発射機構(マーダーロック)銃を背負っていた。

「っていうか、ヒラサカさんの装騎って……」

一方、イザナの装騎は見慣れたアイロニィ――その姿ではなかった。

かと言って、ヒラサカ家保有の装武ヒラサカでも無い――――この装騎は、

「ヘルメシエルX! イザナちゃんの新型!?」

「ふっ、装騎クロックワーク・アイロニィよ!」

それは装騎アイロニィを継承したイザナの新型装騎クロックワーク・アイロニィ。

「さすがに最新装騎を使うのは大人げないさー」

「勝てば良いのよ」

イザナは雫に対して容赦する気は全く無いようだ。

斯くしてイザナと雫の戦いは幕を開ける。

「獲る」

最初に動いたのは、雫の装武自在天王だった。

刀を1本、その手に構えると凄まじい速さで装騎クロックワーク・アイロニィと距離を詰める。

「速い……っ!」

その1撃を何とかその手にしたナイフ・アメノムラクモで受け止めたイザナだが、雫の速さに驚愕が隠せない。

「迷い無く突っ込んできた……戦う前から私の動きを読んでいるみたいに」

「戦いは“速さ”よ。神速の異名を持つ吾が戦技――受けよ」

「戦いは速さ、ね――――上等!」

だが、イザナも負けてはない。

「――カマイタチ」

風となった装騎CWアイロニィが装武自在天王の横を吹き抜ける。

「笑止」

その刹那、ギィン! と刃のぶつかる音が響いた。

そう、イザナのカマイタチの刃が受け止められたのだ。

「最近不振ね――――でも、まだよ! インディゴ・ドライブ……!」

カマイタチを防がれたCWアイロニィは、そのままインディゴシステムをドライブさせることでアズルの輝きを纏うと体を装武自在天王へと向ける。

そして、ナイフのリーチでは明らかに届かない――――はずなのに、装騎CWアイロニィはその手に持ったナイフ・アメノムラクモを閃かせた。

「テカゼ……」

薙ぎ払った装騎CWアイロニィのその手に握られたナイフ・アメノムラクモに、アズルの輝きが灯る。

そして、ナイフ・アメノムラクモから伸びたアズルの風が、装武自在天王に向かって解き放たれた。

「ほう……」

装騎CWアイロニィの1撃が、装武自在天王へと命中する。

しかし、肩部のシールドを多少焼き払っただけのようだが、しかし予想してなかったダメージだったのだろう、雫が感嘆の声を漏らした。

「中々やるではないか――其れに……面白い能力を持っている」

口元を歪め、愉しそうな表情を浮かべる雫。

「良いだろう……吾が最高の1撃、受けてみよ」

「最高の……? 手加減して私が倒せるだなんて思っていたの?」

「ふっ――そうだな」

雫は静かに頷くと、不意に装武自在天王の体が紅い輝きに包まれる。

「これは……カーマインシステム……!」

「吾が自在天王の『紅威クレナイ』の力を知れ」

カーマインシステム――我国では『紅威クレナイ』と呼ぶその力が発揮される。

武使の士気などに反応し、装武の力を極限まで高めるその能力――その果ては知れない。

そして、もう1本の刀も抜くと、静かに2刀を構えた。

「侵掠すること火の如く……」

「素直に構えを取って技を出すなんて、迎え撃てと言わんばかりね! 突き崩すわ」

「ふっ――――壱火・国士無双」

「アタノカゼ……!」

刀を両手に閃かせ、装騎CWアイロニィに向かって突っ込んでくる装武自在天王へと向かっていく。

そんな装武自在天王に向かって、イザナの装騎CWアイロニィは、背部にストックされていたバトルライフル・クライシスビートを両手に構え、アズルを最大にまで注ぎ込んだ。

そして――――激しく仇なす風のような銃撃を装武自在天王へと浴びせた。

ダガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!!!

激しい銃撃に物ともせず、装武自在天王は炎のような霊子マーダーを纏って駆けてくる。

「止められない……!?」

「燃やし尽くせ……吾が刃よ」

「くっ、アメノムラクモ!!」

装騎CWアイロニィの蒼い霊子アズルと、装武自在天王の紅い霊子マーダーが混ざり合い、ハイドレンジアの色どりへと変わりゆく。

激しく混ざり合った魔電霊子が紫雲のように、二騎を包み込み――――その姿を隠した。

そして、紫色の輝きが収まったそこには――――――

「オーバー、ディスチャージ……」

「紅と蒼が引かれ合ったか……」

強烈に放出されたアズルとマーダーが引き合い、互いの装騎、装武の限界を超えたエネルギーを過剰に放出。

その結果、両者とも魔電霊子の生成が間に合わず、電力バッテリー切れとなりその機能を停止させていた。

「引き分けか……ふっ」

「チッ、納得いかないわね」

それぞれの装騎、装武から降りた2人が静かに顔を合わせる。

「吾相手に中々の健闘であった。比良坂」

「正直、不満なんだけど。再戦よ!」

「吾もそうしたいではあるが――――そろそろ時間なのでな」

「何、逃げるの?」

イザナの挑発に、だが雫は動じない。

「吾も決着を望むが…………別に野試合をする事が此の国に来た目的では無いのでな」

「雫殿はどういう理由でマルクトまできたばー?」

雫の言葉を聞いたイヴァがそんなことを雫に尋ねた。

「吾は、此の国の王への謁見を求めて此の地へと降りた」

「この国の、王……? ってそんなんいたっけ?」

「シャダイ・コンピュータのことじゃないのかしら」

サリナの言葉を聞いた雫が瞳をわずかに見開く。

「ほう、此の国の王とは演算装置なのか?」

「もしかして、知らないで来たんですか……?」

「ふっ、中々面白い国だ――――世界は広い、な」

雫はそう笑うとスズメたちへと背を向け、その場を去っていった。

「何か凄い人ですね……」

最後の最後に、スズメがポツリと呟いた。


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