一つの決断
「サエズリ・スズメか……いいところで会ったわね」
「カラスバ先輩?」
ステラソフィア機甲科の校舎――次の授業の準備をしていたスズメに1人の女性が声をかけてきた。
マルクト神国中央憲兵団の憲兵長であり、ステラソフィアの1期生であるカラスバ・リン。
何やら、手のひら大の記入用紙を持っているのが見える。
「サエズリ・スズメ、アナタにこれを渡しておくわ。サヤカのところまで持っていってちょうだい」
「分かりました。……何ですかコレ?」
リンから渡された用紙には“在学確認票”という文字が見える。
「サヤカからも説明があるとは思うけど――実は先日の“天空の檻”作戦で……戦死者が出たのよ。学生の中にね」
「学生に――ですか」
「幸い、ステラソフィアからの死者は無いけど、死者が出ることなんて私たち以来よ。お偉いさんは大慌て。それで今回のコレよ」
「在学確認票……」
それは、実地戦への参加資格のある全ての高等学校へと配られていた。
このまま機甲科及びそれに準じる学科に所属を続けるか、同学内の他学科へと移籍するか、それとも、学校をやめ他校へと転入をするか……。
「いい機会だわ――サエズリ・スズメ、アナタに1つ言っておくことがある」
「何ですか?」
どこか、マジメな表情を見せるリンに、スズメは不思議な胸騒ぎを覚える。
そんなスズメをよそに、リンが言った。
「アナタ――これを機にステラソフィアをやめなさい」
「えっ!?」
胸騒ぎがしていた――とはいえ、まさかリンの口からそんな言葉が出るとは思わなかったスズメは驚きを隠せない。
「どうして、ですか――?」
「前々から思ってたのよ。アナタは騎使には向いていない」
その言葉――スズメにとっては初めて言われた言葉――それがスズメの胸を抉る。
「いや、違うわね――アナタはステラソフィアにいるべきじゃないわ。もっと、バトルゲームとか、パフォーマンスとかそういうのに力を入れている学校に行くべきよ」
「そんな……!」
「強制はできないけど――でも、アナタにとってはここをやめた方が身の為になるわよ」
リンはそう言うと、「仕事が残っているから」と口にし、その場を後にした。
授業が終わり、在学確認票のことで頭がいっぱいだったスズメは気分転換にカナンの街を歩いていた。
「ニャー」
ふと、聞き覚えのある声に、スズメは足元へと目を向ける。
「フニャちん……?」
そこにいたのはフニャト――そして、
「マリアさん……」
サクレ・マリアだった。
「スズメ、どうしたの?」
スズメがどこか暗い表情しているのを目にし、マリアが優しくそう問いかける。
「実は――――」
スズメはフニャトを抱きながら、今日あったことをマリアへと話した。
在学確認票のこと、リンに言われたこと、そして、どこか迷っている自分がいること。
「このまま実地戦に参加すれば、もしかしたら私たちも死んでしまうかもしれない――カラスバ先輩は心配して言ってくれてる――とは思うんだけど」
「そうね……私も、スズメに危険なことはして欲しくないわ」
「マリアさんも、そうなの?」
「辛いことを言うようだけど――」
そういうマリアの表情から、真意はイマイチ読み取れない。
「でも、私に強制はできないね…………」
ふと、マリアの表情がどこか寂しげになる。
それはなぜか――分からない。
ただ、スズメはマリアのその表情に、リンの影を見た気がした。
ただ、マリアは何かを決心したように、最後に一言、こう言った。
「スズメ、ただ――後悔しない道をじっくり考えて」
「――――はい」
そして、場所は変わりカナン地下のアズル・リアクター街。
スズメとアナヒトの2人は、ひのきの林を食べていた。
「私、このままステラソフィアにいても大丈夫なのかな……」
「スズメは、やめたい? ステラソフィア」
「やめたく――は無いけど」
「なら、それでいいよ」
「それで、いい?」
スズメの言葉にアナヒトはただ笑顔を浮かべながら頷いた。
「そうだね」
「どうやら、ステラソフィアに機甲科をやめたい人はいないみたいね」
機甲科1年生の全体授業で、サヤカ先生がそう言った。
その場にそろっているのは機甲科1年生32人。
「それじゃ、残ってくれたアンタらに朗報よ――――アンタたちにちょっと早いクリスマスプレゼント――この時期ならハロウィンかしら? まぁ、ソレがあるわ」
サヤカの言葉に、首をかしげるスズメたち機甲科1年生。
「具体的に言うと――――本日、このステラソフィアに新型の機甲装騎が配備されたわ」
その言葉を聞き俄に教室が沸き立つ。
「新型装騎の詳細は各自のポータルページで確認できるわ。調整作業もあるし、この後はサポートパートナーの元へ行きなさい。では、今日の授業はここまでよ」
「新型、装騎!」
スズメは教室を後にするとサポートチーム第3班――――コクテンシ・ヒバリの元へと向かった。