ステラソフィアコンテスト
星礼祭3日目。
結局、初日からの3日間この学園祭にお邪魔することになったロコは最終日最大のイベントであるステラソフィアコンテスト会場へと来ていた。
場所はなぜか屋外演習場――ステラソフィアの新入生歓迎大会などでも使われたその場所だ。
どうして、そこでやるのか――その理由はすぐにわかる。
「みんなー元気ー? ミウラ・リタでーす!!」
チーム・ソルフェージュのミウラ・リタがマイクを手に屋外演習場に設置されたステージの上に立っている。
「今日はステコンに来てくれてありがとー!! それじゃあ、ステコンについて説明するね!」
ステラソフィアコンテスト――それは、ミスコン――――では、ない。
ステラソフィアは機甲女学園の名を持つ女学園――つまり、これは機甲装騎コンテストだった。
参加者を募り、1次の書類選考、2次の面接選考を経て選ばれた5組がこのステージに立つことができる。
「それでは、ステコンを始めまーす! パチパチパチパチ!! 今回、ステージに立つ栄光を手にした参加者はこちらの5組!」
そういうと、ステージ上に設置された特設モニターに5騎の機甲装騎の姿が映し出された。
機甲装騎を評価するという点から、複数人で1騎の装騎を仕上げると言うことが可能なためチーム参加となっている。
評価ポイントはデザイン、機能性、独創性、パフォーマンス点などいろいろな要素から観客がポイントを入れ、その得点にによって順位が決まるシステムだ。
「それではまず、見た目審査です! 5騎の機甲装騎に登場してもらいましょう!」
リタの言葉に従い、地を鳴らしながら5騎の機甲装騎がステージの近くへと歩いてきた。
「エントリーナンバー1番! 装甲に散りばめられたジュエルデコがかわいらしい! チーム・パフェコムラードのアサリア型装騎プリズムです!」
細身なアサリア型装騎をベースに、大量の対霊子ジュエルでキラキラにデコレーションされた装騎プリズム。
本来は、パフェコムラード所属の1年パプリカ・セスの装騎だが、チーム・パフェコムラード全員でデコレーションしているのでチームでの参加ということになっている。
「全身のジュエルに、ハート型のシールドが乙女チックで可愛いですね。女の子の心をつかんで離さない――そんな装騎だと思います」
そして、次の装騎。
「エントリーナンバー2番! 見よこの機能美! これが本当の機甲装騎! 士官科装騎愛好会のバルディエル型装騎PS-BCです!」
頑丈でありながら軽装騎にカテゴライズされるバルディエル型装騎をベースに、ステラソフィアの屋外演習場に合わせた迷彩塗装に、長距離魔電霊子砲を携えた姿はまさに森に隠れるスナイパー。
さらには、背後から毛のように茂るギリーネットによってさらに自然の中に溶け込むことが可能となるという。
「自然に潜む脅威を体現するような、凶暴さを秘めた戦う女の機甲装騎ですねぇ。では次に行ってみましょう!」
次に出てきたのは普通のヘルメシエル型装騎。
「エントリーナンバー3番! 一見普通!? いやいや、そうじゃないんです! イスキ・エルダ探偵事務所のヘルメシエル型装騎キリフダです!」
リタの紹介を受けた瞬間、装騎キリフダから様々な光が放たれる。
それは、装騎キリフダの体中に隠された魔電霊子ホログラムの輝き――――そうこの装騎キリフダは魔電霊子ホログラムを纏うことで姿を変えたり、光の演出をすることが可能となっていた。
「見た目だけではわからない。内に秘めた強い輝きを感じさせる装騎です!」
そして、次の装騎が前に歩み出る。
それは、逆に曲がった脚部が特徴的な機甲装騎――――そう、スパローだった。
「エントリーナンバー4番! ウワサの装騎が甘いデザインでステコンにもムーンサルト・ストライク! スパロー・ディスコと呼んでください! スズメと愉快な仲間たちのハラリエル型装騎スパロー・ディスコです!」
元々、どこかチョコレートケーキやモカケーキのような色合いであったスパローをチョコレートケーキをイメージしたデコレーションを盛りつけた装騎スパロー・ディスコ。
フルーツをイメージした対霊子ジュエルや、プレッツェル・スティックのようにも見えるスモーク・ディスチャージャー、クッキーのようなリアクティブアーマーなどでチョコパフェ感をアップさせている。
「見るからに美味しそうな装騎のケーキ! さぁみなさん、召し上がれ! では、次の装騎です!」
今度の装騎は、お菓子をイメージしたデコレーションでどこかスパロー・ディスコとも似てるコンセプトだが――
「エントリーナンバー5番! 今年もこの日が近づいてきましたね。お菓子の魔女っ娘装騎爆誕です! 教職科よい子の装騎教室チームのイスラフェル型装騎ウィッチ・O・ランタンです!」
お菓子はお菓子でも、ハロウィンをイメージしたまるで“コスプレをしたような”機甲装騎だった。
コウモリの翼や、カボチャの装飾。
オレンジや黒を基調として、イスラフェル型装騎を可愛い魔女に仕上げている。
「この季節に合わせた、可愛い装騎! 票をくれなきゃイタズラするぞと言いたげですねぇ。以上、5組5騎の機甲装騎が参加となりました!」
それぞれの紹介が終わり、最初の審査点が入れられる。
見た目審査の名の通り、見た目だけで気に入った装騎に票を入れるという形式で、投票は入場者に配られた携帯端末ステラソフィアパッドやそれぞれ学生が持つSIDパッドでの投票が可能だ。
「それでは次の審査に行ってみましょう!!」
次は実技ということで、観客の前でそれぞれがパフォーマンスをする審査だ。
「それではエントリーナンバー1番の装騎プリズムからパフォーマンスをしてもらいましょう」
リタの言葉に従い、チーム・パフェコムラードの装騎プリズムが現れた。
その両足には、何やらスケート靴のようなものをはいている。
「ヒメー頑張ってーっ!」
その背後から響く声は、チーム・パフェコムラードの残りの3人――乗っているのは1年生パプリカ・セスらしい。
装騎プリズムは先輩たちからの声援に頷くと、音楽が会場に鳴り響く。
そして装騎プリズムはおもむろに足を1歩踏み出した。
スケートブレードにアズルが走り、地面をわずかに融解させる――――そして、スケート靴をはいた装騎プリズムが地面を滑り出す。
スケートリンクの上で踊るダンサーのように舞い踊る装騎プリズム。
スケートブレードから漏れ出すアズルの輝きが、その踊りの演出をする。
そしてしばらく、曲の終わりとともに装騎プリズムは恭しく頭を垂れ、そのパフォーマンスの終わりを知らせた。
「チーム・パフェコムラードの装騎プリズムでした! では、エントリーナンバー2番の装騎PS-BCのパフォーマンス、どうぞ!」
リタの言葉の後、1個の射撃用ターゲットが姿を現した。
その射撃用ターゲットは――――その刹那、一瞬で破裂するように破壊される。
次に、また新たな射撃ターゲット――今度は左右に動くようになっていた――――それが、やはり次も突如破壊され塵となった。
今度は上下に動くターゲット――それを破壊。
そして最後に、真っ白な鳩の足に付けられたターゲット――それだけを撃ち抜き鳩の舞を後にパフォーマンスは終了した。
「あ、これだけ? ああ、そうなんだ。次はエントリーナンバー3番の装騎キリフダ、お願いします!」
「行くぜ……」
装騎キリフダは観客の前に現れると、拳を固め静かに構えを取る。
装騎キリフダの放つストレートパンチ――それに霊子ホログラムが炎のホログラムを纏わせた。
その炎が拳から装騎キリフダの体に燃え移り、黒い装騎キリフダの体を赤く染め上げる。
次に、装騎キリフダが蹴りを放つと緑色の疾風のエフェクトが走り、今度は装騎キリフダが美しい緑色に染まった。
それからも、舞うように虚空を殴り、蹴る装騎キリフダの動きに合わせて霊子ホログラムが色鮮やかな演出を施す。
最後は、拍手喝采をもって装騎キリフダのパフォーマンスは幕を下ろした。
「おお、見た目ではわからない秘めたパワー、見せてくれましたね! 次はエントリーナンバー4番の装騎スパロー・ディスコの登場です!」
装騎スパロー・ディスコが静かに礼をする。
「サエズリ・スズメ、スパロー・ディスコ行きます!」
スズメの気合を入れるような声とともに、装騎スパロー・ディスコがチョコアイスバーのようにも見えるものを手に持った。
すると、にわかに会場内に響き渡る音楽。
これは――――
「呼んでいるこの声♪ 心を手繰り寄せる♪ かけがえのない思い、輝く星になる♪」
音楽に合わせ、スズメが歌を歌い、装騎スパロー・ディスコがダンスを始める。
装騎アイドル、ムーンリット・カノンの新曲「星空Calling」だった。
スパローのダンスに合わせて、スパロー・ディスコの体中に仕込まれていたサイリウムが光を放ち始める。
「君へ届けたいんだって♪ 輝きたいんだって♪ 星々とそこまで行くよ♪ いつか消えてしまっても、この声、この光が私の思いを届けるよ♪」
スズメと装騎スパロー・ディスコのパフォーマンスは観客の拍手をもって終了した。
「ムーンリット・カノンの新曲“星空Calling”ですねぇ。スズメちゃんはこのためにヒミツの特訓をしていたそうです。では最後、装騎ウィッチ・O・ランタンの登場です!」
元気に観客へと両手を振る装騎ウィッチ・O・ランタン。
装騎ウィッチ・O・ランタンも多くの装騎と同じようなダンスパフォーマンス――だが、少しだけ違うところがあった。
振りは可能な限り簡単に、そして、装騎ウィッチ・O・ランタンの騎使である教職科4年アルスト・ロメリアがこんなことを口にした。
「みんなも一緒に踊ってみよう!」
学園祭と言うことで、親子連れとかも多いこの会場で、家族連れを狙った作戦のようだ。
そして実際、小さい子などは楽しそうに踊り始める。
「観客参加型のパフォーマンスありがとうございました! これにて実技審査は終了です。この投稿によって今回のステラソフィアコンテストのベストワン装騎が決まります! では、投票お願いします」
リタの言葉に従い、観客たちが続々と票を入れ始める。
そして、しばらく――――
「結果が出ました! では、結果を発表しましょう!!」
横一列に並んだ5騎の装騎――その順位がいま、発表されようとしていた。
「では、5位から発表します! 第5位は――――士官科装騎愛好会の装騎PS-BC!」
リタの発表と共に、装騎PS-BCが画面に表示される。
すると、装騎PS-BCは悔しそうに項垂れ、傍についていたその他のメンバーにも落胆の表情が見えた。
だが、観客含め、ほとんどの人が(そりゃそうか)という表情を浮かべている。
「では次は第4位――――イスキ・エルダ探偵事務所の装騎キリフダです!」
4位は装騎キリフダ。
「装騎キリフダは実技審査のポイントは高かったんですけど――見た目審査でポイントを落としたのが辛いですねぇ」
「やれやれ――俺達の“切札”がいま一歩及ばなかったか」
「だから僕は見た目も気にしたほうが良いと言っただろう」
そんな会話をするエルダとデレチャの2人。
後悔先に立たずではあるが。
「では3位――おっと、これは……スズメと愉快な仲間たちの装騎スパロー・ディスコがここに来ました!」
「ここでですかぁー!!」
「1位、2位と僅差! 装騎バトルでは負けなしと言ってもいいスズメちゃんが競り負けました」
いくら国民的アイドルとはいえ、実技パフォーマンスを個人の趣味だけで押したのが敗因だろうか。
「そしてついに2位と1位の発表です! 残ったのはチーム・ドキドキマンゴープリンと教職科よい子の装騎教室チームです! 勝利の栄冠を手にするのは――――」
そして、その結果が出た。
「第2位は――――チーム・ドキドキマンゴープリンの装騎プリズムです!! 実はこの会場、中学時代にフィギュアスケートをしていたパプリカ・セスちゃんのファンが意外と居たようで、2位に輝きました」
装騎スパロー・ディスコが負けた原因のさらにもう1つでもある。
「と、いうことは第1位は――教職科よい子の装騎教室チームの装騎ウィッチ・O・ランタンです!!」
人々の歓声から、その人気の高さがうかがえる。
1位に輝いた教職科よい子の装騎教室チームは商品を貰い、そのコンテストは終了した。
「ズメちん、惜しかったね……」
「うぅ……だけど、完敗だったよ。観客を沸かせて、一体になる――本物のパフォーマンスを見せつけられちゃった……」
少し消沈しているようでもあるが、スズメのその表情には笑顔が浮かんでいた。
こうして、このステラソフィア星礼祭は終わりを迎えた。