チャンプ再び
ステラソフィア星礼祭、2日目。
フニーズド・ロコヴィシュカはその日も星礼祭へと足を運んでいた。
前日は結局、技術科のコクテンシ・ヒバリと夜遅くまで装騎について話をしてしまい、家に帰れなくなったロコはチーム・ブローウィングの寮室に泊めてもらったのだった。
「今日も盛況みたいだねー」
ロコは装騎喫茶で軽食ランチを食べながら、スズメと雑談を繰り広げる。
「そういえば、ロコちんはリラフィリア機甲学校に通ってるんだよね」
「そうだよ」
「リラフィリアってどんな所なの?」
「やっぱ、テレシコワ中やこことは全然雰囲気違うかな。不良もいるし……」
「そうなんだ……ちょっと怖いね」
「よっしゃ、あと1回じゃ。あと1回だけ引いてやるぜ!!」
「おお、お客さん行くねぇ! 5000ペニーゼ入ったよぉ!!! レッツ、11連!」
「なにか盛り上がってるね」
ふと、周囲のざわめきと熱狂が2人の意識にとまる。
「サリナちゃん、どうしたの?」
たまたま近くにいたサリナへと尋ねるスズメ。
「どうやら、ガチャに大金をはたいてる男の人がいるみたいね。それをトワイちゃんが煽っちゃってすごいことになってるみたい」
「ガチャってあの1回500ペニーゼのあれですよね……やっぱり、やる人っているんですね」
ロコの言葉に、スズメもサリナも頷いた。
「って、アレ……あの人」
「え、あの人って……うわ、マジ?」
そこでふと、スズメとロコがその男性の姿に気付くと、それぞれがそんな声を上げる。
「私、ちょっと行ってくるね!!」
「ええ!? ズメちんっ!!」
スズメを呼び止めるロコの声も虚しく、スズメは“その男性”の元へと駆けていった。
「チャンプー! こんな所で何してるんですかー?」
「うおっ、お前ぇはいつぞやの……本物のサエズリ・スズメ!!」
その男性とは、以前、ゲームセンターで戦ったことのあるリラフィリア機甲学校生だという少年ムルタ・リーガル、通称チャンプだった。
「チャンプは私の偽物に会ったことでもあるんですか……?」
「ねーけどよ。っていうか、チャンプって呼ぶんじゃねえぞオラ!!」
「前は自称してたじゃないですかー!」
「う、うっせーぞオイコラっ!」
黒歴史を掘り返されたように、どこか恥ずかしさを隠すように声を上げるチャンプ。
「名前で呼べよ名前で!」
「えっと確か――村田?」
「ムルタ! ムルタ・リーガル!!」
「チャンプほどしっくり来ないですね……」
何やら変なやり取りを始める2人の傍で、ロコがスズメの袖をくいくいと引っ張り、耳元でささやいた。
「ズメちん、それくらいにしたほうが良いんじゃない……?」
どこか怯えるような表情を浮かべるロコにスズメは首をかしげる。
「この人なんだよぉ。リラフィリア機甲学校にいる不良って……喧嘩も絶えないし、問題ばっかり起こしてるっていう……」
「おい、聞こえてんぞオラァ」
「ひぃっ、殺される!」
そんなロコの言葉に、チャンプが上げた声――それにロコは怯えたように、目に涙を浮かべた。
「大丈夫だよー。私が思うに、この人そんな悪い人って感じしないし」
「んだと!? 俺はワルだぜ! ガキにゲームの順番を譲らないくらいのワルなのはテメェも知っとるやろ」
「田舎のなんちゃってヤンキーみたいな感じですよ。プラヴダ中は意外とこういうキャラ多かったし、ちょっと慣れてるんだよね」
「誰がなんちゃってヤンキーじゃ!! いいか、俺はカナン東部の不良組織を牛耳る――」
「話を聞いたら結構面白いこと聞けそうですしね!」
「話を聞けコラァ!!!」
「ズメちんのそういうところはちょっと尊敬できるかも……」
チャンプの言葉を馬耳東風、本人そっちのけで彼の個人的な印象について話すスズメに、ロコも呆れと尊敬を覚えてくる。
「いいか? 俺は泣く子もさらに泣き出す大悪党――なめた口をきくと……」
「お、リーガルじゃん。お前がこんなところ来るなんて……明日は星が落ちるな」
「げっ、ツ、ツバサさん!?」
「ってアレ、ツバサ先輩――? チャンプと知り合いなんですか?」
「チャンプ? ああ、SBOか。そうそう、アタシも大会とかよく出てるしさ」
そう笑うツバサに、リーガルはどこか「不味い」という表情を浮かべてる。
その理由はすぐにわかった。
「んじゃ、リーガル。今度の日曜の初心者講習楽しみにしてるからな!」
そう言い置いて去っていくツバサの背を見ながら、リーガルはどこか気まずそうに宙を仰ぐ。
「チャンプ、初心者講習してるんですかー!?」
「う、うっせぇ!!!!!」
「なんだー、やっぱり良い人なんじゃないですかー。ロコちんも少しは怖くなくなったよね?」
「そう、ですね」
「別に怖くなくなる必要はねーんじゃぁ!! まったく、なんてタイミングだよ。厄日かよ!!」
「お客さん」
頭を抱えるリーガルの傍で、ふと今まで黙っていたトワイが口を開いた。
「ムーンサルト・ストライク体験券。当たっちゃったよ」
スズメとチャンプが会話を繰り広げる間でとっくに終わっていた11回連続ガチャが当たっちゃっていた。
「はぁ!? マジかよ」
そう声を上げながらも、どこか嬉し気なチャンプ。
「と、いうことでスズメちゃん!」
「当たったならしょうがないですねー。複座ユニットに換装してください!」
その後、ムーンサルト・ストライクを体験したチャンプの悲鳴が響き渡ることになる。