蒼火の最前線
10月1日。
以前の実地戦で侵攻を阻まれたマルクト神国は、いまだにヴィアウィシュトック付近で足止めをされていた。
そんな膠着状態を打破するため、今回――「栓抜き作戦」が計画された。
チーム・ブローウィングも、以前の功績からこの一大作戦に参加することになる。
「栓抜き作戦か……誰が考えたんだろうな。こんな重要な作戦にさ」
「重要だからこそ、緊張をほぐすためにやわらかい作戦名にしてるのかもしれませんわ」
それだけ力を入れている作戦らしく、ステラソフィアの他チームや、魔術装騎の姿も多く見える。
「チーム・ミステリオーソにバーチャルスター、ウィリアムバトラー……みんなも来てるんだ」
スズメの呟きに答えるようにイザナ達から通信が入った。
「担当区域が少し遠いのが残念だわ」
「そうね……みんな、頑張っていきましょう」
「やったるさー!」
「アタシらと1番近いステラソフィアのチームは……」
ツバサがそう呟きながら、レーダーを確認する。
すると、ブローウィングのすぐ傍――そこにチーム・ドキドキ マンゴープリンが配置されていた。
「よろしくお願いしますね、チーム・ブローウィング」
「トロピカ先輩たちのチームですか! よろしくお願いします!」
チーム・ブローウィングの担当区域は彼女たちと共に攻撃を開始するようだった。
そして、作戦が始まった。
「わたし達、ドキドキ マンゴープリンが先行しますわ」
「ああ、任せたぞトロピカ!」
チーム・ブローウィングの装騎を追い抜き、先行する4騎の機甲装騎を見ながらスズメが尋ねる。
先頭を行くのは、ドレスのような重厚な装甲に、ホバー移動が特徴的なメタトロン型装騎――グラノーラ・トロピカの装騎クリーム。
そのあとを、ローラーダッシュで駆けるシャムシエル型をベースにしたミルフィーユ・カンミの装騎ストロベリィ、武骨な装甲を纏うバルディエル型をベースにしたバオム・クーヒェンの装騎トルテ。
その3騎をサポートするかのように後ろからついていくガブリエル型をベースにしたラクトレア・アイステミッシュの装騎フレーバー。
ペールオレンジ、レッド、ブラウンにピンクと、鮮やかさとお菓子らしさを持つ4騎の装騎はかなり派手。
その派手さを際立てているのが、装騎の装甲に盛り付けられたキラキラと光を反射する色取り取りのデコレーションだ。
「なんかすっごくキラキラしてる装騎だらけですけど、大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。殊更、今回の作戦に対しては適任だよ」
ツバサの言葉の意味はすぐに分かった。
マルクト神国軍の接近を察知したマジャリナ・ルシリアーナ連合軍は魔電霊子砲による砲撃を開始する。
そんな魔電霊子砲の砲撃が、先行するチーム・ドキドキ マンゴープリンを襲った。
「この程度のアズル砲――効かないですね」
そんな中の1撃が、装騎クリームへと命中する。
本来であれば、強烈なダメージを受けるはずのその1撃――――だが、装騎クリームは物ともせずに魔電霊子の中を突き進んでいった。
「いくらメタトロン型が重装甲とは言っても、魔電霊子の攻撃を受けたら――――」
その様子を目にしたスズメは一瞬考え込むように視線を下へとズラすが、すぐに何か合点がいったように顔を上げて、口を開く。
「対魔電霊子デコレーションですね!!」
その秘密は、チーム・ドキドキ マンゴープリンに施されたデコレーションにあった。
それは、魔電霊子の効果を抑え拡散させる特殊なコーティングがされたジュエル。
その対魔電霊子ジュエルのお陰で、このチーム・ドキドキ マンゴープリンは駆逐装騎ペルーンの魔電霊子砲を防ぐことができていたのだ。
「装騎を可愛くするために付けていただけだけどー、こんなところでお役に立てるなんてねぇ」
「最後は可愛いが勝つのですねぇ~」
「私たちの時代、来てる……」
「そうですねぇ! いやはや、まさかキラデコが役に立つとはー」
アズル武器の使用者、使用国が少なかった以前では、申し訳程度の飾りであったり、このチーム・ドキドキ マンゴープリンのように装騎の見た目を可愛くするために使われていた対魔電霊子ジュエル。
格闘武器は言うに及ばず、通常の射撃武器にも弱い為、使用者が少なかったが思わぬところで日の目を見ることとなった。
「アタシ達もチーム・ドキドキに続くぞ!」
「やっと突撃なんですよォ!!」
今までお預けを食らっていたマッハに火が付く。
「突撃し過ぎるなよ……マジで死ぬから…………」
「ウチらでなんとかカバーしますわ」
「行きましょう!」
突撃するマルクト国軍に、激しく抵抗をするマジャリナ・ルシリアーナ連合軍。
「スズメちゃん、アレはできないのか?」
「無限駆動ですか?」
「そうそう無限駆動。アレが出来ればもっと攻めやすくなるしさ」
「多分、出来ると思います……」
スズメはそういうと、静かに意識を集中させる。
限界駆動の時とは違い、静かな――静かなイメージ。
装騎と自分自身を重ね――――そして、装騎のアズルを感じる。
「来た……無限駆動!!」
強力なアズルが内側から放出され、装騎スパローを包み込んだ。
「状態は万全――それで無限駆動――――それなら……私が1撃、ブチ込みます!」
「ああ、お願いな!」
「ええ! 行きます、スパロー・レイ・エッジ――――大、大、大・切・断!!」
自身の内から湧き出続けるアズルを周囲に固定化させ、それを全てレイ・エッジへと収束させる。
スズメ曰く“巨大な剣”。
傍から見れば、強力な魔電霊子砲。
その一撃が、駆逐装騎部隊の一角に穴を穿った。
「上出来ィ!!」
「でも、この技あんまり使わない方が良いかも……」
驚異的な威力を見せた1撃だったが、既に腕部ブレードエッジが焼き付きかけている。
「そうだな。だけど、このまま接近してブッ叩けば問題ないさ!」
「うおっしゃぁぁああああああああああ、イくんですよォォオォオオオオオオ!!!!」
正面の駆逐装騎を撃破したことで、放火が薄くなったその隙を突いてチーム・ブローウィング、チーム・ドキドキ マンゴープリンの8騎は駆逐装騎の懐へと飛び込んだ。
「行きましょう、ドキドキ マンゴープリン!」
「諒解ですねぇ~」
「叩く……」
「アイマムっ!」
まず接敵したのは先を行っていたチーム・ドキドキ マンゴープリン。
トロピカの装騎クリームがファイアワークス榴弾砲を撃ち放ち、攻撃態勢を整えていた駆逐装騎ペルーンを撃破。
その爆炎に紛れ、カンミの装騎ストロベリィがシザーシールド・ハートアタックに備わった超振動シザー他のペルーンを切断した。
アイステミッシュの装騎フレーバーも右手に持ったスピアランス・スイートドリームを突き刺し敵を固定したところに、左手に持ったチェーンナイフ・フラッペで切り裂き火花を散らす。
そして、クーヒェンの装騎トルテはスパイククラブ・ブロウクンを両手で構え、バットスイングで次々に殴り飛ばしていった。
「よっしゃぁぁぁああああ、ぶっ飛ばしやがるんですよォ!!」
「切り崩せ、ブローウィング!!」
「スパロー、行きます!」
「ウチも斬り込みますわ!」
装騎チリペッパー・カップの極みがキックブレードを叩き込み、装騎スパローがレイ・エッジソードで貫く。
装騎スーパーセルがバーストライフルを撃ちながらチェーンブレードで斬りかかり、それに続いて装騎スネグーラチカも魔力剣撃で華麗な舞を演じた。
『敵、駆逐装騎部隊が撤退をし始めたぞ。叩ける騎体は今のうちに叩いておけ』
「諒解!」
フラン先生の言葉通り、駆逐装騎ペルーンの大部隊は、その一角を切り崩されたことから撤退の動きにかわっていた。
できることであれば、ここで少しでも装騎ペルーンの数を減らしたいマルクト神国軍。
突破に成功した各チームは、追撃を開始する。
そこに――――
「こちらティーガー、異常性反応を確認した。どこの所属だ?」
それはシュヴァルツヴァルト女子学園第1装騎隊の隊長である3年生ティーガーの通信。
見ると、レーダーには1つの異常性反応――それは、ステルス装騎であるサリエル型装騎がその場にいるという証。
だが、その動きはどちらかと言うとマジャリナ・ルシリアーナ連合軍側を支援するような動きを見せている。
「単騎のサリエル型――――まさか! こちらブローウィング所属サエズリ・スズメです。その異常性反応は――――死毒鳥の可能性があります!」
『死毒鳥だと!?』
スズメの言葉通り――――そのステルス騎を駆るのは死毒鳥――――傭兵ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタだった。
「傭兵アルジュ、今回の作戦、お前と契約は結んでないはずだ。どうしてここに!?」
「いやね、ここで借りを作っておけばまた何かといいかと思ってね。“この装騎”の件でちょっと干されちゃったからねぇ」
これはスズメたちマルクト側には与り知れないことなのだが、傭兵アルジュはサリエル型装騎を鹵獲した件で、ルシリアーナ帝国に装騎の研究機関への提出を求められていた。
しかし、その要請を却下した傭兵アルジュはそれ以来ルシリアーナ帝国との契約を破棄させられていた。
「クソ……分かった金は払う」
「そーこなくっちゃ!」
ステルス装騎を得た傭兵アルジュの力は驚異的だった。
レーダーに映るとは言え、カメラ、目視では捉えづらいステルス状態を利用し、超振動ワイヤーによって次々と装騎を行動不能へとしていく。
「傭兵、アルジュビェタ!」
「ワタシの位置を正確に――!? 何者よ」
そこに飛び込んでいったのは装騎スパロー。
無限駆動状態によるアズル感知能力で、傭兵アルジュを的確に捉え、手に持った超振動ナイフの1撃を振りかざす。
「この感じ――――この前の!」
ナイフの軌道、手応え、扱い方から傭兵アルジュは、以前戦ったことのある相手だと直感。
「ステルス使ってるのに正確に狙ってくるねェ。ヒミツはあのアズル――――ってところか……」
装騎スパローの全身から噴き出すアズルを目にして傭兵アルジュはそう呟く。
「今回はルシリアーナに貸しを作るのが目的だし、撤退までの足止め程度で十分。アレと戦うのは――――ヤバそうだしね。ここは撤退させてもらうわ!」
傭兵アルジュは、腰部から何か、1個の球体を取り出した。
「そんじゃ、サラバイ!」
その球体を投げつけた刹那、強烈な煙、閃光、爆音、電流が弾け飛ぶ。
「ッ!?」
それは一瞬――だが、一瞬で十分と言いたげに傭兵アルジュの装騎はその戦場からどんどん離れていった。
追撃をしようにも、撤退をし始めた駆逐装騎部隊の殿が放つ威嚇射撃によって容易には近づけない。
「逃がしたなぁ。死毒鳥も、駆逐装騎も」
『だが、多数の駆逐装騎に損害を与えられ、敵の撤退も確認した。作戦としては十分成功だ。よくやったな』
そうは言うフラン先生だが、この戦いはまだまだ先行きが不安。
「X装騎が早く完成してくれれば良いがな……」
今までの戦闘データを見ながら、フラン先生はそんなことを思わずつぶやいた。