9月の海はクラゲの海
ざざぁん……ざざぁん……響き渡るは波の音。
ざざぁん……ざざぁん……時期は9月を迎えども、暑さの残るこの時節。
しかし、この砂浜に居るのはたった2人の少女。
そんな2人の少女は何か話をしているようだ。
「だから私が言ったのよ。そんなんだから、いつまでも情けないままなのよって」
「へぇ、そうなんだぁ」
何やら熱心に話す黒髪の少女に、軽く相槌打つ金髪の少女。
2者とも話をしながらも、向ける視線は水平線のその向こう。
一体どんな話をしているのだろう?
興味をそそられる。
「しっかし本当、ヒミコはバカよ。この前もツチノコを見つけるとか行って出て行ったのよ」
「あー、ツチノコねぇ」
「ツチノコを探しに行った筈が、帰ってきたらビッグフットの足跡を見つけたとかほざくし」
「ビッグフットってくらいだし大きい足跡なのかな」
「どうせ装騎の足跡よ。ヒミコはバカだから」
黒髪の少女はヒミコと言う名の相手に溜まっているものがあるのか、ひたすらひたすらひたすら愚痴る。
「そういえば、自販機なら近くにあったよね」
「バス停の近くにあったわね……んで、ナギったら夏休みの宿題を本当ギリギリにはじめて、私も自由研究に付き合わされることになって本当ムカツクわ……」
ふと金髪の少女がそう口にする。
この辺りには人もほとんどいないが、そういえば自動販売機と呼ばれるソレを見たことあるのを思い出した。
「そうなんだー。ちょっと飲み物買ってくるね」
「ええ。全く何で私がアイツの自由研究なんて手伝わないといけないのよ本当! だからふざけて都市伝説でも調べればって言ったんだけどソレで褒められたとかムカツクわぁ。ムカツクわぁ!!」
「そうなんだ」
「そうなのよ!!」
金髪の少女が飲み物を買いに行っても、喋りを止めない黒髪の少女。
「ところで、なんかこういう砂浜見てたら、古墳を作りたくならない?」
「コフン……?」
「前方後方墳とか双方中円墳とか」
黒髪の少女はそう言いながら、砂を手元に集め始める。
「てつだう?」
「それじゃ、こんな風に四角くなるように砂を集めて頂戴」
「うん」
わたしと黒髪の少女の手によって、どんどんコフンというものができていった。
四角にちょっと変わった四角がくっついたような砂の山。
2人で一緒にどんどん大きく、どんどん大きくしていく。
「しっかし……せっかく海に来たからにはちょっと泳ぎたかった気もするわ」
ポツリと黒髪の少女は呟いた。
わたしは海へと目を向ける。
そこには無数に漂うくらげの姿。
人にこういう時でも泳ごうとするものはいない。
「なんでこんなにクラゲがうようよしてるんだか」
「9月の海はくらげの海だから」
「そうなの?」
「くらげ、きらい?」
「嫌いじゃないけど――見てる分には面白いし」
「よかった」
やがて、ぜんぽーこーほーふんとか言うものがあらかた完成した時。
「イザナちゃんお待たせ!」
金髪の少女が戻ってきた。
「あれ、スズメどこか行ってたの?」
「飲み物買いに行くって言いましたよ!」
「そうだっけ……?」
「それで、その子は?」
「その子?」
イザナと呼ばれた黒髪の少女はふとわたしの方を顔を向ける。
「アンタ誰?」
「イザナちゃん、さっきまで仲良さそうに話してなかった……?」
どうやら、イザナちゃんはわたしのことをこのスズメちゃんと言うこと間違えてお話をつづけていたらしい。
「アナタ、ここら辺の子? 名前は?」
「なまえ?」
「私はスズメ。こっちはイザナちゃん」
「スズメちゃん、イザナちゃん。わたしは……」
わたしは首をかしげる。
「なんか変わった子ね」
「迷子、とかなのかな……?」
「こんなところで迷子とか詰みじゃん」
「ねぇ、アナタのお家はどこ?」
スズメちゃんの言葉に、私は答えた。
「ここ」
「ここ? ってことはやっぱり地元の人なのかな?」
その時不意に、イザナちゃんの懐からアラーム音が鳴り響く。
「スズメ、時間よ」
「うん、バス停に行かなくちゃね!」
2人の言葉から、このスズメちゃんとイザナちゃんはバスが来るのを待っていたということをわたしは知った。
「かえるの?」
「うん、キミも大丈夫――?」
「だいじょうぶ」
「本当に? 迷子とかじゃないんだよね」
「うん」
「スズメ、行きましょう。次のバスを逃したら今日は野宿よ」
「うん、分かってるって! それじゃあね」
「ばいばい」
手を振るわたしに手を振り返しながら、スズメちゃんとイザナちゃんはバス停へ向かって駆けていく。
その2人の姿を見送った後、わたしは足を海へと向けると、その中へと帰って行った。