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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ウィリアムバトラーの十字架
14/322

弁当女王決定戦-死神のパーティータイム-

「ABブロック4回戦もそれぞれ終了し、午前中の全日程を終了しました! これより1時間の休憩に入りますっ。しっかりご飯を食べるんだゾ」

観客席に居た人々が、それぞればらばらと散っていく。

「昼休み、ですか」

「ごっはん、ごっはん! ごはんをいただきやがるんですよー!!」

時刻は13時。

これから午後の部が始まる14時までは昼休みとなるらしい。

「それじゃ、第2回弁当女王決定戦を開催しまーす!」

突然、ツバサが発したその言葉。

困惑する1年を差し置いて、自信満々の面持でテレシコワ・チャイカ、ディアマン・ロズ、エール・カトレーンの3年組が歩み出てきた。

その手に持っているのは、包みに入った大きな弁当箱と思しきものだ。

「こ、これは……?」

「ロズとチャイカ、カトレーンが弁当を作ってくるっつー毎年恒例のイベントだよ」

ソレイユが1年組へとそう囁く。

「にゃっはー、楽しみなのですよ~。カトレーン以外」

「こればっかりはミズナ野郎にも同意せざるを得ないんですよ! カトレーンはお引き取り願え!」

「ミズナちゃん、マッハちゃん、2人ともあとで倉庫まで来てほしいとよ」

「ウチはカトレーンの弁当も楽しみやで!」

「り、リーダー…………!」

「どんな爆弾投下してくれるかワクワクしてるで!」

「――もあとで倉庫まで来てくれるとね?」

そんなことをしている間に、ロズが包みを解き始める。

「それじゃ、いつも通り私からで良いわよね?」

ロズの問いかけにツバサが頷き

「去年の優勝者だしね。どうぞやっちゃってください!」

そう言うと、

「りょーかいっ」

ロズは弁当の包みを完全に解いた。

出てきたのは、優麗な薔薇の花が掘られた重箱だ。

その見た目もなかなかの美しさだが、その中身も美しく彩られていた。

「相変わらずロズの弁当はクオリティが高い――」

「ふっ、オレの自慢の妹だかんな」

「も、もう、お姉ちゃんったら……」

食材の栄養と色彩のバランスが取られた豪華な弁当。

そういう事を考えていながら、弁当には是非欲しいハンバーグやソーセージなどの肉類も盛り沢山だ。

ご飯は食べやすいように手のひら大のおにぎりになっており、それらにも十穀米が使われていたりと細かい気づかいが見て取れる。

また、筑前煮や白和えなど、東洋的な料理を多用しているのも彼女の弁当の特徴で、その物珍しさに惹かれると言う部分も高い

その中でも特に美味しいのが、黄金に輝く定番中の定番、卵焼き。

冷めてもなお蕩けるような風味と甘さが絶妙だ――とツバサが言っている。

「流石は前回の覇者ディアマン・ロズ……新歓には負けたくないけど弁当でなら負けても良いっ!」

「あらあらリーダー、ウチが負けると思っていますの?」

そう言いながら包みを開くのはテレシコワ・チャイカ。

チャイカの弁当箱は大きく広いシンプルな白雪色の弁当箱だ。

「でもチャイカの弁当は……」

「ま、不味いんですか」

ツバサの呟きを聞いたスズメが思わずツバサの耳元にそう囁く。

「いや、味は最高なんだけど……バランスが、な…………」

「ちょっとそこ、聞こえてますわよ!」

「うおうっ、ご、ごめんなさい!!」

「すっ、すみませんっ!!!」

「ウチだって前回の敗因を生かした弁当を作ってきたのですわ。これがウチの作ってきたお弁当ですわ!」

何やらいつもよりも気合の入りようとテンションの高まりようが違うチャイカ。

そんな彼女が堂々と開いた弁当箱――そこにあったのは……肉だった。

「って去年と同じ肉オンリーイベントなのですよ!!!」

「オンリーイベントとは失礼ですわ! ちゃんと他のものもはいってますわよ!」

「そうだぜミズナ――これはただの肉じゃない……これは、肉巻きおにぎりだ!!!」

「なん、ですと……」

そういえば、よくよく見てみると肉の形状が丸みを帯びており、中に何かが包まれているようだ。

「ど、どうして肉巻きおにぎりなんですか……?」

「去年は肉しか入ってなくて、ミズナちゃんがせめてご飯は欲しいって言ったから――だと思うぜ」

「あ、ああ……」

ソレイユの耳打ちにスズメは理解はした。

納得はしていないが。

「肉は主食! ご飯なんていらねーんですよ!!」

そう言うマッハは――だが口元を涎で濡らし、今にも肉巻きおにぎりを掴み去っていきそうだ。

「前回もマッハちゃんには大好評だったことは言わずもがな」

「そうでしょうね……」

ヒソヒソと思い思いの会話する周りに構わず、ツバサが最後の選手へとその手を向けた。

「それではお待たせいたしました! 降臨、満を持して!! 世紀のリーサルウエポン料理人エール・カトレーンの弁当の登場だ!」

その言葉を聞いて、緩んでいた2年生以上の表情が引き締まる。

1年はそんな上級生の姿を見て直感した。

本当の戦いはここからだ、と。

「リーサルウエポン料理人とか言うんじゃないとよ!!」

「だってカトレーン! 前回のアレは無いって!!!!」

「あぁあああああもう、そんなん言うなら実物であっと言わせてやるとよ!!」

そう言ってカトレーンが開けた弁当箱――そこにあったのは……

「普通、だと――!?」

「おお、じょーとーさ!」

「本当! もう先輩達も驚かさないでくださいよ!」

驚くツバサに、イヴァとサリナの目が輝く。

ロズほどの豪勢さも、チャイカほどのインパクトも無いが、オーソドックスな内容のお弁当。

バランスもそこそこ綺麗に取れており、素朴な見た目が逆にその魅力を引き立てる。

「ホンマや! 普通に食えそうな色してる!」

「色って……去年はどんなのだったんですか……」

「これ、写真。去年の」

先ほどからずっとスズメに抱き付いたままのヘレネがポケットから一枚の写真を取り出し、スズメに見せる。

そこに映っているのは、明らかに食欲をそそらない色味をしたナニか。

青や緑で彩られ、どこかネオンライトを連想させる。

食べ物というよりは、発光物だった。

「何で写真を持っとっちょね!」

「ユニークだから」

「確かに去年のは傑作だったよなぁ」

「うーん、カトレーンのインパクトがある弁当期待してたんやけどなぁ」

「まぁ、もしもそうなっていたら、去年みたいにウィリアムバトラーに処理させてましたけどね」

ロズがにこやかな顔を言いながらそんなことを口にする。

まぁ、チームでやったことはチームで連帯責任。

「仕方ないわよね」

「ウィリアムバトラーにって去年はウチとカトレーンしか食ってないやん!!」」

「あんなん食えん。死ね」

卒業したウィリアムバトラーの元チームリーダーも、その弁当を見ただけで逃げ出したと言う逸品である。

「そういえばマッハちゃんも食べてたな」

「思いだしたくない、思い出したくないんですよ……」

青い顔で震えだすマッハの姿から、余程のものだったと予感させる。

「今回は思ったより安心して食べれそうだぜ」

「そうやな」

「それじゃ、さっさと食べようか!」

ツバサが手際よく、それぞれに皿や箸、手ぬぐいを配った。

「飲み物は何が良いです?」

クーラーボックスを軽々と担ぎながら、ディアマン・ロズが尋ねる。

「緑茶を頼む」

「アップルティーはありませんの?」

「ミルクでももらってやるんです!」

「あっ、な、何があるんですか?」

「ロズ、ウーロン茶あったよな」

「まずは美味い水をくれなのです!」

「わたしが入れたメロンソーダを……」

「オモロイの一つ頼むで!」

「残ったヤツからテキトーに選ぶとよ」

「マスター、オススメ。一つ」

「さ、さんぴん茶がほしいさ!」

それぞれが思い思いの飲み物を注文する。

「み、見事にバラバラですね……」

苦笑するスズメをよそに、ロズはクーラーボックスを開く。

そこにはギッシリ入った飲料缶。

ロズが手際よく、その中から飲み物を見つけ出し、手渡していく。

「よ、よくそんな種類豊富に入ってますね……」

「スズメちゃんもどうしても欲しいのがあれば明日から持ってくるわよ?」

「あ、ありがとうございます。あっ、そのココア頂けます?」

「はいどうぞ」

「ちゃんとさんぴん茶も入ってるさ!」

「ジャスミンティーやけどな――しっかし、なんやこの濃厚豚骨醤油ドリンクって……なんや……」

「だってオモロイものって言ったじゃないですか?」

「オモ、ロイ――?」

「いい気味。お似合い、へっぽこに」

「誰がへっぽこやぁ!!!」

それぞれの手に飲み物が行き届いたのを確認すると、ツバサが声を上げる。

「それじゃあ、皆! この食事を頂けることに、我らが主に感謝をもって――いただきます」

「いただきます!!!」

群がる様に、弁当へと手を伸ばすブローウィング、ウィリアムバトラー、バーチャルスターの12人。

「あ、この卵焼き本当に美味しいです!」

「ありがとうスズメちゃん」

「カトレーンの弁当美味しいな!」

「そ、そう言ってもらえて嬉しいとよ」

わいわいと楽しく食事をすするめる一同。

だが事件はしばらくしてから起こった。

「マハもカトレーンのやつ頂くんですよー!! ……ぐに?」

マッハが口に入れた揚げ物。

その食感にマッハは首を傾げた。

瞬間、マッハの顔が青くなっていき、汗が噴き出す。

「ど、どうしたマッハちゃん?」

「このプレッシャー……去年の、再、来」

それだけ呟くと、マッハが突然倒れこむ。

騒然となるその場で1人の顔色が変わった。

「――エール・カトレーン…………!」

「ひやっ!?」

それは、普段は無表情で落ち着いているモード・ヘレネ彼女だった。

彼女の瞳がカトレーンに突き刺すような視線を送っていた。

「やっぱりカトレーンか――でも、オレは何とも……」

「アタシもだ」

「わ、私も……」

「イヴァもさ」

「や、やっぱりって失礼とよ!」

「カトレーン、入れたな? 自分で作った料理」

「うっ」

ヘレネの言葉に一同は首をかしげる。

「カトレーンが入れた? 自分で作った料理、を……?」

「カトレーン弁当。カトレーン、作ってない。作った、私が」

その瞬間、面々に衝撃が走る。

そう、今日この場に持って来たカトレーンの弁当はモード・ヘレネが作ったものだった。

「カトレーン弁当、クソ。食べさせられない。食べたくない。だから作った、私が――――――95%は」

「95%!!??」

しかし料理が趣味のカトレーンが、自分の料理が全く入ってないことに不満を感じない訳は無い。

「弁当に違和感。私は分からなかった。でも、気付いた、今。量……増えてる」

「カトレーン……?」

「リ、リーダー!? リーダーだって楽しみにしてるって――」

「食べれんもんより食べられるもんの方がええんは当然やろ!!」

「そ、そんなぁ!」

それから、カトレーンの弁当はカトレーン本人で食べることになったのであった。

「で、でもヘレネちゃんの手作り料理食べれただけで幸せ――かも? ぐふっ」

「死ね」

青ざめた顔で横になるカトレーンとソレを介抱するウィリアムバトラーの面々。

「これは今回もロズの優勝かな……」

対して、気絶したマッハを抱えながらツバサがそう呟いた。

そうこうしている間に時刻は14時を迎え、後半戦の幕が開かれた。


挿絵(By みてみん)

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