スズメのマンゴープリン
「トロピカ先輩!」
「スズメちゃん、どうしたの?」
夏休みのある日、チーム・ドキドキ マンゴープリン所属の4年グラノーラ・トロピカはサエズリ・スズメに声を掛けられた。
「実はトロピカ先輩に頼みがあるんです……!」
「何ですか? 言ってくださいな」
「はい、実はこの前のドキパフェ会で食べたマンゴープリンがとても美味しかったので私も作ってみたいって思ったんです!」
スズメは予てよりそう思いトロピカに声を掛けようとしていたのだが、色々タイミングが悪く、更にトロピカはつい最近までは実家に帰省していた為会う機会が無かったのだ。
スズメの言葉にトロピカはやや思案する。
マンゴー自体は手に入らないことは無い。
ただ、今の時期のマンゴーだと多少味が落ちるのではないか、それで十分なマンゴープリンがつくれるのか――しかし、スズメの表情を見るとトロピカは頷いた。
「分かったわ。それじゃあ明日、チーム・ドキドキの寮室まで来てちょうだい」
「分かりました!」
トロピカの了承に瞳を輝かせたスズメは、居ても立っても居られないような様子でブローウィングの寮室へと帰っていく。
そんなスズメの後姿を見ながらトロピカは微笑むと、
「これは恋の予感がしますわね」
と呟いた。
翌日、チーム・ドキドキ マンゴープリンの寮室へとスズメは来ていた。
「と、いうことで今日はみんなでマンゴープリンを作りたいと思います」
「「「イェーイ」」」
トロピカの言葉に、他のチーム・ドキドキ マンゴープリンのメンバーが声を上げる。
「スズメちゃん、今日は頑張りましょう!」
そうやる気満々なのは1年のバオム・クーヒェン。
「作って作って作りまくる……」
静かにやる気を滾らせる2年ラクトレア・アイステミッシュ。
「今度はミルフィーユも作りましょう~」
もうすでに次回のことを考え始めている3年ミルフィーユ・カンミ。
そんなチーム・ドキドキ マンゴープリンの4人と共に今回のマンゴープリン作りは始まった。
「今回はわたしの実家、グラノーラ青果店が仕入れたコチラのマンゴーを使用します」
そう言いながら取り出したのは、1個のマンゴー。
やや小ぶりながら、しっかりと熟しているようだ。
「基本的にはわたし達が作り方を教えながら、スズメちゃんが手を動かすようにしましょう」
「分かりました! が、がんばります!」
今回、スズメがマンゴープリンを作ろうと思うに至った理由、それはある意味ではトロピカの予想通りだった。
尤も、相手は男性ではなく少女で、恋愛ごとではないのだが……。
そう、スズメは地下街の少女アナヒトにマンゴープリンを食べさせてあげたいと思っていた。
夏休み中、帰省やイベントも色々あってあまりアナヒトの元に顔を出せなかった。
だから、お土産でも持っていこうと考えたのだ。
そんな折、何を持っていこうか考えた時、自分が1口食べて惚れ込んだマンゴープリンを、自分の手作りで持っていこうと考え、今回トロピカに頼むに至る。
「それじゃあ、後は1時間くらい冷やしたら完成よ」
「わぁ、楽しみです!」
思いのほかシンプルなレシピに、トロピカはじめドキドキ マンゴープリンメンバーのサポートもあって、スズメは無事にマンゴープリンを完成されることが出来た。
「このマンゴープリン、可愛くラッピングします?」
「是非!」
トロピカの提案にスズメは大きく頷く。
その様子を見ると、このマンゴープリンがプレゼント用だということは確実のようだ。
トロピカは、保冷剤などと一緒にマンゴープリンを可愛い木製のバスケットへと入れ、布をかけて蓋をする。
「それでスズメちゃん、コレ誰かにプレゼントするんでしょう?」
ラッピングされたバスケットをスズメに渡す直前、スズメの耳元でトロピカが囁いた。
「な、何でわかったんですか!?」
トロピカの言葉に図星を突かれたスズメは慌てた様子を見せる。
「分かりますよ。で、誰に渡すの――――?」
「え、えっと……たまたま会った女の子なんですけど、その子に喜んでもらいたくて」
「彼氏とか狙ってる男性とかじゃないの?」
「ち、違いますよ!!」
「ふふふ、そっかぁ」
予想とは少し違ったが、スズメの言葉からその女の子が大切な存在だということが分かる。
「スズメちゃんががんばって作ったんだから、きっと喜んでもらえるわ」
「はい! トロピカ先輩、それと皆さん。有難うございました!」
スズメは最後にそう言うと、アナヒトに会うために神都カナンへと足を向けた。
そして神都カナンの地下街。
相変わらず酔いそうになるアズルの濃度の中、スズメとアナヒトは2人並んでマンゴープリンを食べていた。
マンゴープリンを口に入れたアナヒトの表情がパッと明るくなる。
「不思議な味がする」
「アナヒトちゃんはマンゴー食べたこと無いの?」
マンゴーの味わいが口の中に広がるマンゴープリンの味。
それを口の中で楽しみながら、スズメはアナヒトへと問い掛けた。
「うん……美味しいね」
「良かったぁ。コレ、私が作ったんだ!」
「スズメが?」
「うん!」
「そうなんだ」
他愛のない会話をしながら、2人で寄り添いながらマンゴープリンを口に運ぶ。
そんな時間を過ごしていたら、アズルの重さも感じなくなってきた。
その日は、夏休みの出来事を一通りアナヒトに話し、その場を後にした。