不審者警報発令中!?
「そういえば、最近学園都市内で変な人が居るという話を聞きますわ」
ステラソフィアに帰ってきたスズメがブローウィングの寮室でくつろいでいる時、ふとチャイカがそんなことを口にした。
「変な人ぉ?」
怪訝な表情でそういうツバサにチャイカは頷く。
「何でも、大きな旅行鞄を引きずりながら、学園都市内の色々なお店で限定グッズを買い漁っている男性がいるとかなんとか」
ステラソフィアは女学園だが、その学園都市は男子禁制と言う訳では全くない。
ステラソフィア学園都市は神都カナン内の1区と言う扱いで事実上は関係者、無関係者も含め、多くの人々が行きかう1都市として機能しているからだ。
従って、外部からの旅行者も珍しくは無いし、そういった外部の者向けに学園都市内限定グッズを販売しているお店は多々ある。
「これからミドウ先輩んとこ行こうと思ってたんだけど……」
「あらあら、もしかしたら噂の変な人と鉢合わせしちゃうかもしれませんね」
「ミドウ、先輩……?」
「ナカモズ・ミドウ先輩、アタシの1個上の先輩でステラソフィアを卒業した後は学園都市にある土産屋の手伝いをしてるんだよ」
聞きなれない名前に首を傾げるスズメに、ツバサがそう付け加えた。
「でも、どうしてお土産屋さんに?」
「そう言えば言ってなかったっけか。今日はなんと、チーム・ブローウィングの4騎がセットになったプラモデル――ブローウィングセットが発売される日なんだ! だから記念に買おうと思ってさ」
「つまり、スーパーセル、スネグーラチカ、チリペッパー、スパローのセットってことですか!」
「ああ、しかもそれぞれの戦いを再現できる特殊エフェクト付だからな」
「へぇ! なんだか、私も欲しいです!!」
「それじゃあ、一緒に行くか!」
「はい!」
「それならウチもご一緒しますわ」
「よっしゃ、じゃあ土産屋寄った後昼飯でも食べに行くか!」
「そうですわねぇ」
「やった!」
と、言う事でスズメとツバサ――それにチャイカも一緒に、ステラソフィア学園都市でも機甲科寄りの場所にある元ブローウィング、ナカモズ・ミドウが働くという土産屋へと足を運んだ。
ホシゾラ土産店と言う名の土産屋の扉を開くと、カランカランと扉に取り付けられたベルが店内に鳴り響く。
「いらっしゃいませぇ」
そうにこやかな笑みを浮かべながらスズメ達を迎えたのは、ナカモズ・ミドウその人だ。
緩やかなウェーブがかった金髪を揺らすエプロン姿の優しげな女性。
「あぁら、ツバサちゃんにチャイカちゃんじゃなぁい。それとぉ……その子はもしかして、スズメちゃぁん?」
「は、初めまして、サエズリ・スズメですっ」
「ご丁寧にどぉもぉ。わたしはナカモズ・ミドウですぅ。スズメちゃんと会えるなんて嬉しいですぅ」
そう言いながら、ゆったりと握手を求めるミドウ。
その握手にスズメが答えると、ツバサが口を開いた。
「ミドウ先輩、ブローウィングセット置いてます? アタシの分とスズメちゃんの分で2つ欲しいんですけど」
「はいはい、プラモデルコーナーは此方ですよぉ~」
ミドウに引き連れられ、ホシゾラ土産店の一角、プラモデルコーナーへと連れてこられた。
そこで、ふと1人の男性の姿が3人の目に入る。
「あれ、あの人――」
そこには、この夏場にも関わらずスーツに身を包み、大きな旅行鞄を引きずる透き通るようなミルキーブロンドの髪が特徴的な40代後半と思しき男性の姿があった。
「大きな旅行鞄の怪しい男性……ってもしかして…………」
「ええ、そんな気がしますわね……」
不審な視線を向けられるその男性は、だがそんな視線を意にも介さずブツブツと何やら呟きながらブローウィングセットの箱に見入っている。
暫くして、ブローウィングセットを買うと決めたのか箱を抱えると、今度はその隣にあるステラソフィア生の特集コーナーへと足を向け始めた。
「ブローウィングのファンでしょうか?」
「もしかしたら、ブローウィングの誰かのファンかもしれませんわ」
「面白そうだな、ちょっと覗いてみる?」
「あらあらぁ、困らせない程度にしてくださいよぉ~」
ツバサに釣られるように、スズメとチャイカ、そしてミドウまでもこっそりとその男性の背後からその男性を見張りはじめる。
男性はキョロキョロとステラソフィア生のコーナーを見回しながら、何枚かのブロマイドやらキーホルダーやらを手に取った。
「もしかしてあの方はスズメちゃんのファンの方なのでしょうか?」
その手に取ったものはスズメや装騎スパローに関連するモノばっかり――その様子を見たチャイカがそんなことを口にする。
「そうっぽいな……ブローウィングセットを取ったのもスパロー目当てか」
「わ、私のファンですかぁー!?」
他のブローウィングメンバー含めたステラソフィアメンバーには目もくれず、スズメの関連商品ばっかり買っていく姿を見るとスズメのファンだという可能性は十分に高い。
「スズメちゃん、声をかけて上げたらどうだ?」
「ファンサービスですわね」
「ええ!?」
ツバサとチャイカの提案に戸惑ったような表情を浮かべるスズメ。
だが、
「そう、ですね……!」
何か思うことがあったのか、スズメはそう気合を入れるとその男性の元へと足を進めた。
「あ、あのー」
スズメの声に気付いた男性がスズメの方を振り向く。
スズメとその男性の視線がぴったりと合った瞬間――スズメとその男性の表情がパッとなった。
「お父さん!?」
「おっ、スズメじゃないか!!」
なんと、ステラソフィア学園都市を練り歩く変な人とはスズメの父親、サエズリ・シュパチェクその人だった。
「お父さん!?」
「お父様!?」
ツバサとチャイカの声が重なる。
「何か玩具を買いに行ってるとは聞いてたけどステラソフィアに来てたの!?」
「ステラソフィアに限定グッズがあると聞いていたからねぇ。やっと休みが手に入ったからスズメのグッズを買いに来ていたんだよ」
「親バカか……」
「ですわねぇ」
スズメの父親は結構人の良さそうな男性だった。
そういえば、スズメと同じ髪の色をしているとツバサとチャイカは思った。
「初めまして、スズメちゃんのお父さん」
「初めましてですわ」
その男性の正体が判明し、ツバサとチャイカがスズメとスズメ父の前に姿を見せる。
「おや、キミたちは」
「アタシはチーム・ブローウィング――スズメちゃんと同じチームのワシミヤ・ツバサです」
「同じく、テレシコワ・チャイカですわ」
「機甲科の先輩達だよ、タチーネク!」
「おお、そうか! いつもスズメがお世話になっています」
「こちらこそ、スズメちゃんにはお世話になりっぱなしですよ」
「ですわねぇ。スズメちゃんはすっごく良い子ですし」
スズメを褒められて、気分の良さそうなスズメ父。
結構単純に、思っていることが表情に出るタイプのようだ。
「いやぁ、本当、新歓の時にはスズメちゃんに助けられてばっかりで」
「お父様も自慢の娘なのでしょうねぇ」
「そうですね。立派に育ってくれて、本当に嬉しい限りだよ……」
そんな会話をしながら、レジで精算を済ませる。
「ありがとうございましたぁ~」
「ミドウ先輩また来ます!」
「お待ちしてますよぉ~」
ミドウ先輩に別れを告げるとスズメ、ツバサ、チャイカにスズメ父を加えた4人で店を後にした。
「そういえばもうお昼時だな」
そうつぶやくスズメ父に、
「だから、これからファミレスでも行こうかと思ってるんですよ」
「もともとそのつもりで出てきましたしねぇ」
「うん!」
とツバサとチャイカが応え、スズメが頷く。
「それなら、タチーネクが奢ろうか?」
「本当!? さっすがタチーネク! もちろん先輩達もだよね!」
「ああ」
「おお、お父さん太っ腹! ゴチになります!」
「ありがとうございますわぁ!」
それから、4人でファミレスに行き他愛のない雑談をした後、スズメは父親と別れたのだった。




