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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアな夏休み
129/322

戦掠大作戦!

「よく集まってくれたな後輩共」

7月もついに終わりを迎えるその日、サエズリ・スズメ、ヒラサカ・イザナ、エレナ・ロン・サリナ、リサデル・コン・イヴァの4人はどういう訳かカラスバ・リンに呼び出されていた。

「本日、マルクト国軍がロメニア皇国への侵攻作戦を予定しているのを知ってる?」

「そういえばそういう話もありましたね……ですけど、その作戦にステラソフィアは関係無いんじゃ……」

「そうだエレナ。その作戦にステラソフィアは関与しない。しかし、その作戦に先んじて私が指揮する先行部隊を組織することになったのだ」

「先行部隊、ですか?」

サリナの言葉にリンは頷く。

「実は先日、1人のロメニア軍将校を捕虜にしてな。その人物からロメニアの“秘密重要拠点”の情報を手に入れた」

「秘密重要拠点――――!」

リンが口にしたその言葉に、4人は驚きであったり、感嘆であったり、四者四様の表情を浮かべた。

「と、言う事は――私達が先行部隊としてその“秘密重要拠点”攻略に行くって言う事なんですか!?」

「その秘密重要拠点って言うのは、具体的に何なの?」

瞳を輝かせるスズメに対して、イザナが平坦な眼差しでリンへと問いかける。

「それは秘密よ。何てったって“秘密重要拠点”ですもの」

「その言葉の響きが胡散臭いのよね」

「確かにね……それに正式な命令では無いですよね? 私達が承諾する必要は無いし、それこそ私達じゃなくてもっと強い先輩達とかに任せるべきだと思いますし」

「でも、“事実上ステラソフィア最強の騎使”は行く気満々見たいだが?」

リンの言葉通り、スズメはその言葉の響きに魅了されてしまったのか、やる気満々だ。

加えて、スズメと思考回路が似ているイヴァもスズメと一緒に何やらはしゃいでしまっている。

「だってその拠点を落とせば、マルクトの力にもなりますし、何てったって重要拠点ですよ! これは燃えるじゃないですか!」

「だからよー! 本体と独立してる先行部隊なんてまさにヒーローのポジションだばーよ!」

結局、この2人だけ行かせるのも心配だと言う事でイザナとサリナもついてくることになった。

「今回の作戦は極秘――他言無用よ。扱い上も“存在しない作戦”となるわ。だから敵に――そして味方にさえ見つからずに目的地に潜入する必要がある。だから、今回は全員この装騎に乗ってもらうわ」

リンの言葉と共に、スズメ達の目の前に2騎の装騎が輸送されてくる。

「これは……」

「PS-S-Sサリエルさー!!」

PS-S-Sサリエル。

新入生歓迎大会ではチーム・リリィワーズ4年ナガトキヤ・ライユが装騎キラのベースとしていた装騎だ。

その最大の特徴は――

「この装騎のステ――」

「サリエルのステルスで拠点に潜入するんですね!!」

「そうよ」

平然とそう答えたリンだったが、その眉間に浮かんだ微妙なしわからスズメにセリフを被せられたことに対して少しむっとしているよう。

「それでは各自サリエル型に武装を。作業が済み次第出撃するわよ」

「諒解!」

「アイマムさー!」

ステラソフィア学園都市のマスドライヴァー・ダーウィーズから、ミュンヘン基地のマスキャッチャーへ。

更にそこのマスドライヴァー・イオナを使用し、マルクト神国とロメニア皇国の戦闘の最前線であるボローニャへと移動。

そこから、“徒歩”によってフィレンツェ郊外にあるとある田舎町を目指すというのだ。

嵐の様にプロイェドウ・ボイシュチ 地を進みヤコ・ボウジェ♪」

戦闘を行くリンに続き、意気揚々と歌を歌いながら着いていくスズメ。

サリエル型のステルス機能は、リアクターへの負荷が大きいため今はまだ使用していない。

周囲の反応などに警戒しながら、慎重に、慎重に目的の町へと進む。

祖国へ捧ぐヴェヌイェ・ジヴォト 我が命ナ・ドモフ・ナーシュ♪」

――――慎重に?

「一応コレって極秘任務ですよね」

「そうだ」

「スズメちゃんが全力で行進歌を歌ってるんですけど大丈夫なんですか……?」

「まぁ、問題ないだろう」

声高らかにズピーヴァーメ・ピーセン 歌声を上げフラシテェ♪ 進めポイヂュメ!」

「「進めゲーエン!」」

スズメの歌に、綺麗に合わせてくるイザナとイヴァ。

そんな二人に、サリナが

「何でそんな綺麗に合うのよ貴女達」

と突っ込んだ。

装騎は騎使のオブルニェニー・ヴォヤーツィ 誇りなりピーハ・リチージュー♪」

「各騎、ステルスの使用準備だ。町に入るぞ」

「「「「諒解!」」」」

その町は、閑散とした町だった。

秘密重要拠点だと言うが、そんな雰囲気は全く感じさせない静かな田舎町。

その町の中央に、目的の施設はあった。

石造りで神殿のような豪華さだが、倉庫として使われているらしい建物。

今回の作戦はその建物を護衛している装騎の撃破、そしてその建物内にある“重要物資”を奪取することだという。

「では各自、作戦通りに」

「「「「諒解!」」」」

作戦はこうだ。

まずはステルスで各騎とも町へ侵入する。

そして、まず1騎がステルス状態で先行偵察と言う事で目標施設の元へと行き、護衛の装騎の数を報告。

「こちらエレナ騎、潜入したわ。今から護衛の装騎のデータを……キャァッ!?」

不意に、サリナの反応が途絶えた。

「サリナちゃん!?」

全員に一気に走る緊張。

それと同時に、サリナから1つのデータが送られてきた。

それはその場にいる護衛装騎のデータ。

ロメニア皇国勢の装騎プロセルピナ型4騎、そして――――

「ベロボーグだと!?」

そのデータを見てリンが声を漏らす。

リンが何を考えたのか――それはスズメ達にも分かった。

「まさか、死毒鳥ピトフーイですか!?」

いくらベロボーグがマルクトの民間騎並の性能を持っているとはいえ、サリナがそう易々とやられるはずは無い。

つまりこれは――――傭兵ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタが居るのではないかと言う予測をさせるには十分だった。

「相手がピトフーイなら良いんだがな」

そんな状況に於いて、リンのその言葉の真意はイマイチ測り兼ねる。

だがリンはすぐに言った。

「各自、基本的な作戦は予定通りだ。リサデルとヒラサカはプロセルピナを襲撃して陽動しろ。私とサエズリでエレナの救出及びベロボーグの撃破に向かう」

「「「諒解ッ」」」


「まっさかヒマ潰しに仕掛けていたトラップが役に立つなんてねぇ」

地面に倒れ伏したサリナのサリエル型を見下ろしながら、傭兵アルジュは呟いた。

「しっかしロメニアめ……マルクトの侵攻に備えてワタシを雇いたい……とか言いながらこんな辺境でよく分からん倉庫のお守りをさせるなんて腹立たしいわ」

そんな独り言をつぶやいている間に、遠くから銃撃音が響き渡ってくる。

「しかしまぁ、やっとこさマルクトと戦闘出来るってことね」

銃撃音が響き渡るその場へと自らの駆る黒いベロボーグ――チェルノボーグを向かわせようとしたその時、突然、傭兵アルジュのチェルノボーグはその場を飛び退いた。

「流石ね死毒鳥ピトフーイのアルジュビェタ」

「その声――聞き覚えあるね。確か――」

「西の国境で」

「ああ。ワタシからしたら東の時か。いけ好かないヤツッ!」

リン・サリエルの持つエグゼキューショナーズチェーンソーと、チェルノボーグの持つ超振動トゥルスがぶつかり合い、火花を散らす。

「あの時の借り、返してあげるッ」

「借り? ――――今日は他にも借りを返したい子が居るのよ」

「――――ッ!!」

不意に背後からチェルノボーグへと空気の揺らぎが襲い掛かってくる。

「うおっと危ない!」

その1撃を紙一重でかわしながらそんな余裕の声をだす傭兵アルジュ。

そんなアルジュに対して、背後から攻撃した“借りを返したい子”は叫んだ。

「サリナちゃんは!」

そう、スズメだ。

たった1言だったが、その言葉でアルジュは把握する。

「ちょっと電撃を走らせただけ。騎使は死んでないって」

実際、サリナのサリエル型を見たところ大きなダメージはなさそうだ。

電撃と言うアルジュの言葉からも、何かしらの魔電霊子アズル攻撃を受け、騎使が気絶してしまったとかそういうことなのだろう。

「それは……良かったです!」

そう安堵の言葉を言いながらも、超振動ナイフを振り払うスズメ。

「くっ――威勢だけじゃないわ。この子、強い」

アルジュはそう言いながらも、彼女自身もスズメとリンの2人を相手にして、性能が明らかに劣るチェルノボーグでしのぐ。

「どうやら、本当に死んでは無いみたいね」

「サリナちゃん!」

リンの言葉通り、サリエル型のコックピットハッチを開き、ふらつくように装騎から降りるサリナの姿があった。

アルジュの言葉だけではなく、実際にサリナの生存を確認しスズメも、そしてプロセルピナ型を殲滅しているイザナとイヴァも改めて安堵の表情を浮かべる。

だが、そんな中、リンは少し焦ったような表情を浮かべた。

「全く、何でこんな田舎にアナタみたいな凄腕の傭兵が配備されていることだか」

「激しく同意よ! ワタシだって配備されたくて配備された訳じゃないんですゥ。かーっ、傭兵の悲しきサガかな」

その言葉を聞いて、リンは何かを閃いたようだった。

「ねぇアナタ、ロメニアからいくら貰ってるの?」

不意にアルジュにそう尋ねるリン。

それも、その声がスズメ達には聞こえないように固有の回線でだ。

「後金7万!」

「それでアナタ、あの建物に何が入ってるか知ってて守ってるかしら?」

「あの建物――?」

それは今回の奪取目標が保管されているという建物。

どうやらアルジュはその建物に何が保管されているのか分からないという。

雇われだから当然ではあるが。

「あの倉庫には酒やシガレット、麻の葉に香辛料、鉱石や魔石シュトーネが保管されてるのよ」

「!!」

「その筋で売れば、アナタの安日給なんて軽く超えられるかもしれないわね」

「つまり、倉庫の物品山分けで、アンタ達を見逃せ――そういうこと?」

「少し違うわね……」

リンの呟きと同時に2騎の装騎が近づいてきた。

そう、護衛のプロセルピナ型装騎を全滅させてきたイザナとイヴァのサリエル型装騎だ。

「私達がアナタを見逃すって言ってるのよ」

「クッソ、本当にイケ好かないヤツね……」

傭兵アルジュは暫く周囲に目を向けると1言。

「分かったわ」

それからリン達は装騎のわずかなスペースに奪取した物品を積み込む作業を始める。

「本当にこんな木箱が重要な物品なんですか?」

その内容を知らないスズメ達は、若干不満げな声を上げながらも荷物を運び出し始める。

「ちょっとアンタ、出来ればワタシのチェルノボーグに積むのも手伝ってくれないかしら?」

「何でわたしが……」

そして、更に不満そうに荷物をチェルノボーグへと運ぶサリナ。

それから暫く、

「で、あの傭兵はどこに――――」

不意に姿が見えなくなった傭兵アルジュの姿にサリナが周囲を見回したその時。

装騎の機動音が突如として鳴り響く。

その音は、チェルノボーグなどの他国製装騎の割には静かな――――

「ってあぁぁあああああああああ!!!???」

動き出していたのは、先ほど霊子電撃トラップで機能停止になっていたサリナの乗っていたサリエル型だった。

『いやぁ、貴重な品物にレアな装騎までもらえるなんてねぇ。有難ヂェクユ!』

いつの間にか、サリエル型に乗り込み、霊子電撃で機能がダウンしていた装騎を復旧。

さらに装騎自体のコンピュータをハッキングし、稼働させたのだ。

追いかけようにも、不覚ながらリンも含め全員が装騎から降りている状態。

成すすべも無いまま、傭兵アルジュはサリエルのステルス機能で姿を消すと、その場を走り去っていった。

「チッ、一杯食わされたか。抜け目の無いヤツだ」

リンはそう顔を顰めながら、1つの木箱から取り出したシガレットケースから煙草を1本取り出すと、口にくわえマッチで火をつけた。

「あ、あの……カラスバ先輩、どうしましょう」

装騎を奪われたサリナが恐る恐るリンに尋ねる。

「装騎の件は問題ない。私達の作戦は“存在しない作戦”私達が使ったのは“存在しない装騎”だからな。死毒鳥に渡ったのは痛手だが……」

「それもありますけど……」

「帰り道の話だな」

そう言いながらリンがチラっと目を向けたのは放置されたチェルノボーグ。

つまり、リンは装騎が無いならチェルノボーグに乗って行け、と言ってるのだ。

その様子を見ていたスズメが

「それなら、私が乗っても良いかな?」

と名乗りを上げる。

「もう好きにして」

色んな意味で疲労困憊な様子のサリナの言葉に、スズメは嬉々としてチェルノボーグへと乗り込んだ。

「ヤバいな――――そろそろ撤退するぞ」

「「「「諒解!!」」」」

リン率いるチームがその場を撤退したそのすぐに後、荒らされたその町をマルクト国軍の本体が通り過ぎて行った。


「って言う事があったんですよ!」

「あー……スズメちゃんも騙されちゃったか」

「――――騙され?」

そんな作戦があった夜、スズメは夕飯を食べながら今日あったことをツバサとチャイカに話していた。

「いや、あの人って結構なヘビースモーカーなんだけどさ。タバコってなかなか手に入らないから“作戦”と称して他国へ掠奪に行くのよ。あと酒な」

「マジですか!?」

「マジよマジ。アタシも騙されたし……しかも今回は死毒鳥ピトフーイまで居たんだろ?」

「そうなんですよ! 本当、死ぬかと思いましたよ!」

正確には(サリナが)死んだかと思った、の方が正しいのかもしれない。

「うぅ……でも、なんか悔しいですね。まぁ、チェルノボーグが貰えたのは、嬉しいですけど」

「チェルノボーグ貰ったの!?」

「はい、“存在しない作戦”なので、チェルノボーグの鹵獲も“存在しない事実”ってことで。ほかのみんなは完全に徒労みたいなモノですけど……」

「今度から悪い大人には騙されないように気を付けるのですわ~」

「そーします……」


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