聖女の来校
「何やこのネコ……ふてこいなぁ」
ステラソフィア機甲科校舎前で、そんな事を言いながらチーム・ウィリアムバトラー4年ロバーツ・ミカエラが1匹のネコと戯れていた。
そこに、帰省の予定を報告しに職員室を目指していたスズメが通りかかる。
「ミカエラ先輩、何してるんですか……?」
「見てみ、ネコや!」
「それは見たら分かりま――――アレ、この子」
スズメはその猫に見覚えがあった。
何処となくブサイクでふくよかな三毛猫……その首には首輪が付けられており誰かの飼い猫だということが分かる。
「もしかして、フニャト?」
スズメの言葉に返すように、その猫はニャーと鳴いた。
「やっぱりフニャトだぁ! すっかり丸くなっちゃってぇ」
「知り合いか?」
「はい、アレ? それじゃあマリアさんも――」
「フニャト!」
不意にそう投げかけられた声。
そこには、フニャトを探し回っていたのだろう、はぁはぁと息を切らせたサクレ・マリアの姿があった。
「マリアさん!」
「マリアって――――装騎大会デュエル形式戦現役チャンピオンのサクレ・マリアか!?」
驚くミカエラの様子に、まぁ無理もないことではあった。
「スズメちゃん……フニャト、見つけてくれたの?」
「ミカエラ先輩が遊んでくれてましたよ」
「良かった……」
マリアはそう言いながら、フニャトを抱きかかえる。
マリアに抱きかかえられるフニャトの様子はどこか嬉しげで、2人の仲の良さを感じさせた。
話によると、8月の初めにステラソフィア学園都市内で簡単な夏祭りを行うらしく、マリアはそのゲストとして呼ばれたらしかった。
それで、その打ち合わせをする為にこの機甲科校舎に呼ばれたのだが、連れていたフニャトとはぐれてしまい、フニャトを探し回っていたらしい。
スズメとマリアはミカエラと別れると、2人で機甲科の職員室を目指して歩く。
「フニャちんの足の怪我はもう治ったんですか?」
「治った」
「そうなんですか、良かったです……! 今は飼ってるんですね」
「そう」
「フニャちん可愛いニャー」
そんなノリで職員室前まで来たスズメとマリア。
そのまま、スズメは職員室の扉を開く。
「失礼しますニャー!」
思わず口をついてしまった自分自身の言葉に、一瞬スズメは固まる。
「アンタ何バカな事言ってんの?」
そこにウィンターリア・サヤカ先生の手厳しい1言。
「ちょっとネコでテンション上がってて……済みません」
スズメの言葉に応えるように、マリアに抱かれたフニャトがニャーと鳴いた。
「あら、そちらは――」
フニャトの鳴き声に、サヤカ先生はスズメと共に職員室へと入ってきた少女へと気付く。
「サクレ・マリアさんね」
サヤカ先生の言葉にマリアが頷いた。
それから、スズメは帰省の旨を伝えマスドライヴァー・ダーウィーズの使用予約を入れる。
それからマリアとサヤカ先生は夏祭りを控えての簡単な打ち合わせをするらしかったが、
「話はすぐ終わるし、この後サクレさんを案内してあげなさい」
と言うサヤカ先生の言葉で、スズメはマリアにステラソフィアを案内することになったのだった。
「よっ、スズメちゃん」
そんな折、スズメに声をかけてきた女性が1人。
「ソレイユ先輩?」
チーム・バーチャルスター所属の4年生でサリナの先輩、ディアマン・ソレイユだ。
「スズメちゃん、今週末って空いてるか?」
「今週末って日曜ですか? 何かあるんですか?」
「そうそう日曜。その日にデッカイ装騎の大会があんのよ。そんで、そのチームメイトを探しててな。それでスズメちゃんと、出来ればヒラサカ・イザナともう1人――――ん?」
そこで、ソレイユはスズメと一緒に居るマリアの姿に気付く。
「サクレ・マリア……?」
マリアを指さしながら、少し驚いたような表情でスズメに問い掛けるソレイユ。
その表情は、普段のソレイユからは見られないような面白さで、思わずスズメは笑いそうになりがらも首を縦に振りそうだと言う事を伝えた。
「そうだ! サクレ・マリアは日曜空いてるか?」
スズメから事情を聞いたソレイユはそんな事を言い出す。
ソレイユはマリアをその大会に誘うつもりなのだ。
「大人数一斉参加のサバイバル戦の大会?」
「そそ、チームは4人1組。模擬弾を使ったスポーツ大会みたいなもんだな」
ソレイユの言葉にマリアは暫く考え込むような仕草を見せる。
マリアは本来1対1のデュエルゲーム専門の騎使、このようなチームの乱戦ゲームには参加したことは無いし、参加することもない。
だが、マリアは言った。
「分かった」
「えぇぇえええええええええええええ!!!???」
驚くスズメを尻目に、ソレイユが「よっしゃあ」とガッツポーズをする。
「マリアさん、本当に良いんですか!?」
「良い。スズメちゃんも出るでしょ……?」
マリアにそう尋ねられ、ソレイユもスズメを見た。
スズメは、2人の誘いに静かに頷く。
「分かりました! それと、イザナちゃんも誘ってチーム完成ですね!」
「ああ、コレで最強チーム結成だな!!」
「っていうか、ツバサ先輩は誘う気無かったんですか……?」
ふと、スズメは当然の疑問をソレイユへと投げかけた。
「ああ、ツバサはいいよ」
だが、ソレイユはその問いにそう答える。
「どうしてですか」
「ふふ、それはヒミツだ」
そう言うソレイユの表情にはどこか悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。