表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの夏休み
123/322

ゲーセンウォー

「ゲームセンターなんて久々に来ましたよー」

「そうなの?」

「サリナちゃんはよく来るの?」

「よく――って訳じゃないけど、たまにソレイユ先輩と行くのよね」

「そうなんだぁ」

「イヴァちゃんはこう言う所よく来てそうだけど――」

「よくくるさー!」

「私は全然だわ」

そんな会話をしながら、騒々しい店内の中でクレーンゲームを見て回る4人。

「わぁ、このぬいぐるみ可愛いね!」

「スズメちゃんやってみるの?」

「やってみる!」

スズメの目に留まったのは、どこか緩い雰囲気を出したトビウオのぬいぐるみだ。

スズメがクレーンゲームの筐体にSIDパッドを翳すと、お金が入りゲームが始まった。

それから、何度か試してみるがなかなかトビウオは取れない。

「あーん、取れないよぉ!」

「スズメ、私に任せなさい」

「――――イザナ、ちゃん!?」

「金ならあるわ!」

「それは悪いよ!!」

トビウオのぬいぐるみ相手に苦戦するスズメに、満を持して1人の少女が声を上げた。

「しょうがないさー。ここはイヴァが力を見せるばーよ!」

そういうと、腕まくりをする振りをしながらイヴァがクレーンゲーム筐体の前に立つ。

そして、筐体へとお金をチャージすると、そっとボタンへと手を伸ばした。

「イヴァちゃん、取れるの?」

「――――イヴァは勝てない勝負はしない主義さ!」

結果――――

「――――――ダメだったさ」

ダメだった。

その後、何度か試した結果、なんとかトビウオぬいぐるみを手に入れたスズメだったが、イザナの財布がすさまじい勢いで削られた。

それから暫く、音ゲーに夢中になるイヴァとサリナをよそに、スズメとイザナは2人でゲームセンターを歩いていた。

「わぁ、アレってもしかして装騎のシミュレーターゲーム!?」

そんな折、スズメが見つけたのはステラソフィアにもある機甲装騎シミュレーターにも似た様相のゲーム筐体。

タイトルはサンクチュアリ・バトル・オンライン。

ソレイユやツバサがハマっているゲームなのだが、スズメはそのことは知らない。

そのゲームの周りには人だかりが出来ていたが、どこか不穏な空気が漂っていた。

「何か空気悪いわね……」

「何があったんだろ?」

スズメは人だかりをくぐり抜けると、SBOの筐体へと近づいた。

その外部ディスプレイには、今行われているゲーム内容が映し出されている。

それは良いのだが――――そのゲーム筐体の後ろで、順番待ちをしていると思しき十数歳程度の少年、少女がどこか浮かない顔で立っていた。

「――――?」

「もしかしてキミもSBOやりたいの?」

不意にそう声をかけてきたのは1人の男性。

ピアスが特徴的な、黒髪を伏せたようなチャラ男だ。

チャラ男は暫く、スズメの顔を見ていたがフッと鼻で笑うと口開いた。

「キミ、弱そうだねぇ……悪いけど、今SBOをプレイしてるのはこのゲーム・ライク カナン店のSBOチャンプなんだよねぇ。キミみたいな弱そうな子が相手じゃあダメだねぇ」

ゲーム・ライク カナン店というのは、このゲームセンターの名前だ。

そして、この人だかりや、順番待ちをしているらしい子達の表情から察するに、そのゲームチャンプだと言うプレイヤーがこの筐体を独占使用しているため、プレイできないことから出来ているようだった。

「へぇ……その人ってそんなに強いんですか」

「当たり前だぜ」

スズメの言葉にそう返したのは、そのチャラ男では無かった。

現れたのは、横に前髪を流したサングラスを掛けた不良のオーラを出している男。

「ムルタさん!」

「――――ムルタ?」

「俺がこの店のゲームチャンプ、ムルタ・リーガルだ」

ムルタ・リーガルと名乗った男は背筋をピンと伸ばし、スズメを見下すように睨みつける。

「ムルタさんはなぁ、この店のゲームチャンプってだけじゃねえんだぞ! 何と、あのリラフィリア機甲学校で実地戦にも出てる実力者なんだぜ!!」

チャラ男の言葉に、リーガルはフンッと鼻を鳴らした。

サングラスの隙間から覗く瞳には、どこか自信が溢れている。

そんな彼らに対して、スズメが言った。

「リラフィリア? ……知らない学校ですね」

これは事実だった。

田舎の出身であるスズメは神都カナンの学校事情には詳しくない。

純粋に自分自身の感想を言ったに過ぎないのだが、彼らに対しては最大限の侮辱へとなった。

「何だってぇ!?」

「オイ、お前――――本気で言ってるんか……?」

明らかにケンカ腰の2人。

「オイ、アマ――そっちのコックピットに乗りな」

リーガルの言葉に、図らずも自分自身が持っていきたかった流れに乗せられたことからスズメはしめたと思う。

「俺がゲームチャンプの、そしてリラフィリアの騎使の実力を見せつけてやんぞ」

「そう言うなら――――是非、見せてください」

そう言うスズメにフンと鼻を鳴らすと、リーガルはコックピットへと乗り込んだ。

スズメもコックピットに乗り込むと、料金をチャージし、ゲームを開始する。

ゲームの筐体内は、機甲装騎のコックピットと全く同じように出来ている。

実際、このサンクチュアリ・バトル・オンラインと言うゲームは、装騎の集団戦闘用シミュレーターを流用しており、マルクト神国の国民総騎使プランの一環として普及させられているのだ。

「対戦申し込み……」

もちろん、オンラインでの集団戦闘以外にも、通常のシミュレーターに近い機能も備わっている。

その数ある機能の内の1つが、対戦機能。

画面に、Regalと言うプレイヤーからの対戦申し込みの通知と対戦の内容が表示されている。

「これを許可すれば良いんですね」

スズメが許可すると、使用装騎の選択画面に入った。

スズメはアブディエル型装騎にウェーブナイフを選択し、対戦開始のボタンを押す。

そして、RegalとPlayer2の対戦が始まった。

「プレイヤー2? 舐めてやがるな……」

スズメが騎使登録をしていない事に、リーガルはそう呟く。

騎使登録をしていれば、ゲームのプレイ戦績などに応じて色々な特典がもらえたりするのだが、スズメは未プレイな上に登録をしないでプレイしているのだった。

リーガルの駆る装騎は、どこか丸みを帯びたデザインで肘や膝に付いた突起物が特徴的な装騎PS-Radラドゥエリエル。

その突起物には隠し武器が仕込まれており、注意が必要だ。

そして、その手に持つのは細身で銃身が滑らかな畳んだ傘のようになっている12mmテインライフル。

その先には、超振動機能を持った銃剣が取り付けられている。

「ゲームチャンプの実力、見せてやるぜ!」

「さぁ、行きますよ!」

その言葉と共に、戦いの幕は上がった。

「アブディエルか――――武装は……ナイフ、だけか? サエズリ・スズメじゃあるまいし!」

「ラドゥエリエルですか――――面白いチョイスですね。トンガってるからでしょうか?」

勿論、意図してやってる訳ではないのだが、スズメの煽りにリーガルの苛立ちはマックス状態。

リーガル・ラドゥエリエルが12mmテインライフルをスズメ・アブディエルに向けて発砲。

その狙いは正確で、伊達にゲームチャンプと言うだけはあった。

「――でも、それだけです」

スズメ・アブディエルはグッと身を屈め、リーガル・ラドゥエリエルの向かって左へと飛び込む。

「速い!?」

相手の銃撃を恐れずに、踏み止まること無く駆けるスズメのアブディエルは速かった。

素早く死角へと飛び込み、ウェーブナイフを一閃――――リーガル・ラドゥエリエルを撃破した。

一瞬の出来事で、何が起こったのか分かっていないようなリーガル。

それは、外で見ていた人々も同じだろう。

「はい、私の勝ちですね」

「もう1回だ!」

敗北にも懲りずにリーガルはそう言った。

「良いですけど――次負けたらちゃんと待ってる人達に譲ってあげてくださいよ?」

「っ――――テメェ、ぶっ倒してやる」

そして、2戦目の幕が上がる。

同じように、スズメ・アブディエルを補足すると同時に、12mmテインライフルを撃ち放つリーガル・ラドゥエリエル。

だが、今度はさっきとは少しばかり違った。

リーガル・ラドゥエリエルは、後ろに下がりながら発砲をしていたのだ。

「退き撃ち、ですか……」

だが、そんな戦い方にスズメが手をこまねく筈も無く、グイグイと距離を縮めていく。

そして、同じようにスズメ・アブディエルはリーガル・ラドゥエリエルの向かって左へと飛び込んだ。

「そう何度も食らうかァ!!」

リーガルはそう叫びながら、膝を曲げながら、その先をスズメ・アブディエルへと向けた。

「――隠しマシンガンっ!」

スズメの言葉通り、ラドゥエリエルの膝の突起物に隙間が出来ると、そこから小口径ではあるが、弾丸が飛び出した。

いち早く察し、身を捻るスズメ・アブディエルだが、リーガル・ラドゥエリエルの肘にある突起物に更に隙間が開き、そこからも弾丸が飛び出してくる。

「うおっとぉ!」

スズメはそう言いながらも、どこか楽し気にリーガル・ラドゥエリエルから距離を取りながら銃弾の雨を回避する。

「ちょこまかと……だけどなァ!!」

不意に、リーガル・ラドゥエリエルが左半身を沈み込ませるような動きを見せた。

左肘の突起物と、左膝の突起物に隙間が現れる。

そして、弾丸が弾き出された。

その銃撃を回避しようとしたその時、リーガル・ラドゥエリエルが右手に持った12mmテインライフルの銃口を向けてくる。

「なるほど」

先ほどの射撃は牽制――――回避した所の隙を狙い、本命の射撃攻撃を加えるという銃火器を多数持っている場合の定石パターン。

「後ろに下がれば被弾、左に避ければ被弾、留まってもダメ――――となれば……」

スズメは、グッと足を踏み込むと、スズメ・アブディエルを――正面から突っ込ませた。

「前から――――やる気かよ」

それは普通であれば予想外の行動――――しかし、それにも動揺せず、正確に正面からくるスズメ・アブディエルへと照準を合わせるリーガル・ラドゥエリエル。

「へぇ、意外と良い腕してるじゃないですか」

12mmテインライフルの銃口から銃弾が発射される刹那、スズメのアブディエルは一瞬相手に背を見せるように体を捻ると跳んだ。

「これは――――」

リーガルが皆まで言うより早く、スズメ・アブディエルのウェーブナイフがリーガル・ラドゥエリエルを一閃した。

「約束です。他の人に譲ってあげてください」

「テメェは――――まさか……」

ざわつく人々の中、リーガルは驚愕の表情だ。

だが、そうでありながら誰もがどこか信じられないような表情も見せている。

「イカサマだ! ぜってぇ、チートっすよ!」

リーガルの取り巻きのチャラ男がそう言っているのも信じられないから、だろう。

その時、

「もう良い? そろそろサリナ達と合流するわよ」

イザナが口を開いた。

「うん、イザナちゃん。今行く!」

「あれは――ヒラサカ・イザナだ!」

「本物のヒラサカ・イザナ――――てことはやっぱりあの子は」

「本物のサエズリ・スズメか……」

ムーンサルト・ストライクを見てもサエズリ・スズメ本人だと半信半疑だった観客達は、イザナの姿を見て本人だと確信しだす。

「えっと、ムルタ・リーガルさんでしたっけ? これからはちゃんと順番待ちしてる人に変わってあげてくださいね」

「――――くっ」

スズメの言葉にリーガルは何も答えなかった。

ただ、そのまま取り巻きのチャラ男を連れて、ゲームセンターを後にしたのみだった。

「ねぇ、イザナちゃん……」

「何?」

「オーラってどうやったら出せるのかな」

一方、スズメはムーンサルト・ストライクを使っても本人だと思われない自分のオーラの無さに少し傷ついていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ