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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの夏休み
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ブローウィングの夏休み

【カスアリウス・マッハの夏休み】

「なんですか、この荷物?」

7月18日。

夏休み初日の朝。

自室から出てきたスズメは、マッハの部屋の前に大量に積まれたダンボール箱を見て疑問を口にする。

「ああ、今日から夏休みだからな……」

「またマッハちゃんのアレが始まるのですわね……」

「アレ?」

事情の解らないスズメが首を傾げていると、マッハがダンボールを抱えながら寮へと戻ってきた。

「マッハ先輩、何してるんですか?」

「何って、夏休みの準備なんですよ!」

「夏休みの、準備――?」

スズメの言葉には答えないで、今度は自分の部屋へとダンボール箱を運び始めるマッハ。

「何が入ってるんですかコレ――?」

「んー、ゲームと飲み物と食べ物と色々なんですよ!」

「籠城でもする気なんですか……?」

半ば冗談でそう言ったスズメだったが、あながち間違っても無かった。

「そうなんだよなぁ……マッハちゃんはさ、夏休みになると部屋に引きこもって出てこなくなるんだよ……」

「そうなのですわ……一日中ゲームをしているようで」

「マジに籠城ですか…………アレ、ってことはマッハ先輩! 朝ランは!?」

「あー、夏休みの間はパスしやがるんですよー」

「はぁ……」

「夏休み中は本当に出てこないからなぁマッハちゃん」

「トイレとかってどうしてるんですかね――?」

「それは言うなスズメちゃん……」

重ねて半ば冗談でそう言ったスズメだったが、ツバサのしかめた表情から只ならぬ気配を感じスズメは口を噤む。

「……私、朝ラン行ってきますね!」

「おう、いってらー」

「いってらっしゃいですわ」

とりあえず、今日は一人で日課のランニングをすることにした。


【テレシコワ・チャイカの夏休み】

「そういえば、チャイカ先輩は夏休みどうするんですか?」

ランニングから帰ってきたスズメは、チャイカが用意してくれた朝ごはんを食べながら、そんなことをたずねる。

「ウチは寮に居ますわ。マッハちゃんも心配ですし」

「そうなんですか」

「ええ、実家もカナンなので帰ろうと思えばいつでも帰れますしね」

「そういえば、先輩たちはみんなカナン出身――でしたっけ?」

「マッハちゃんはテューリンゲンの出身だったはずですわ」

テューリンゲン市はカナンの北東ほどに位置する都市の一つで、カナンからの移動時間はさほどかからない。

「それならマッハ先輩も帰ろうと思えばすぐに帰れる距離なんですね」

「中々、帰ることは無いのですけどね……」

はぁ、とため息を吐くチャイカ。

「それじゃあ、チャイカ先輩は夏休みの間は寮に居るんですね!」

「そうですわ」

「それなら、えっとチャイカ先輩に頼みたいことがあるんですけど……」

「頼み、ですの?」

スズメが少し言い難そうにそう切り出す姿を見て、チャイカが首を傾げる。

何か頼みにくいことなのか? 

そう思うチャイカ。

「えっと、夏休みの間に、料理を教えてもらいたいんです……」

少しばかり恥ずかしそうにそう言うスズメに、チャイカは嬉しそうに瞳を輝かせた。

「料理、ですの? 勿論ですわ!」

「本当ですか!?」

快諾してくれたチャイカに、スズメも喜びの声を上げる。

「ええ、ウチもそろそろ後輩に料理を教えたいと思っていた頃なのですわ」

「そうなんですか――?」

「ええ。来年はツバサ先輩が卒業して、ウチが4年生。そして、ウチが卒業したら今度はマッハちゃんがチームリーダーとなるでしょう?」

「ああ……そうですね…………」

ツバサが――そして、チャイカが卒業した後なんて考えた事も無かったスズメ。

チャイカの言葉でその時のことを想像してみると――――微妙な言葉しか声にならない。

「マッハちゃんに料理――は流石に厳しいですし……スズメちゃんがウチの料理を引き継いでくれるのでしたら、ウチも心配せず卒業できますわ!」

「あははは……それじゃあ、チャイカ先輩。料理の指導、お願いします!」

「ええ、任せるのですわ!」


【ワシミヤ・ツバサの夏休み】

「さてと……チャイカ、ごちそうさま!」

「おそまつさまでしたわ」

朝食を食べ終わったツバサは席から立つと、どこかへと出る準備をし出す。

「ツバサ先輩、どこか行くんですか?」

スズメの言葉にツバサが頷く。

「ちょっと頼まれごとされててさ、夏休み中はそれで忙しいんだよな……」

「頼まれごと――?」

「ああ、知り合いが装騎部の部長をしてるんだけど、その部のコーチみたいな」

「ツバサ先輩がコーチですか!」

「ああ、その装騎部は機甲科生が1人もいないしな」

「ああ……そういえば装騎部って沢山あるんでしたね」

何時ぞやの部活動紹介のことを思い出す。

ステラソフィアに結構な数のある装騎部――その中には機甲科が1人もいない装騎部もあるのだろう。

ツバサはそう言った装騎部に顔を出し、色々と指導をしているらしかった。

「スズメちゃんも来るか?」

「私もですか? 確かにツバサ先輩がどんな風に指導してるのか気になりますけど……」

「寧ろ、スズメちゃんならアタシよりもコーチとして相応しそうだけどな」

そう笑うツバサに、スズメも微笑を浮かべながら首を横に振る。

「今日はサリナちゃんたちと宿題をする予定ですから――」

「初日に宿題とか偉いなぁ! そんじゃあ、また今度だな! 行ってくるよ」

ツバサはスズメの頭にポンと手を乗せると、寮室から出て行った。

「ツバサ先輩、行ってらっしゃい!」

「行ってらっしゃいませですわ」


【サエズリ・スズメの夏休み】

「サリナちゃんって宿題は初日に片付けるタイプなんだぁ」

「そういうアナタ達は最後に慌ててやるタイプでしょ……ってもしかしてヒラサカさんも!?」

その言葉に、スズメとイヴァ、それにイザナまで目をそらしたのを見て、サリナが言った。

「宿題って言っても中学の頃よりも少ないし、今日の内に終わらせちゃいましょ!」

「頼りにしてます!」

「頼りにしてるさー!」

「頼りにしてるわ――」

「!?」

それから四人は宿題を始めた。

「アウトノミア宣言をした、歴史上初めて表に出た異能者の女性って何て名前だっけ?」

「えっと――――ジョンガリエーズだっけ?」

「ジョワイユーズ!」

「対チャリオット用として作られた世界初の機甲装騎って何だっけ?」

「ヴァイスブレヒじゃなかったかしら?」

イザナの問いにそう答えたサリナ。

その傍で、

「ブリタイキングダム製の機甲装騎さー! ちなみにヴァイスブレヒっていうのはブリキって意味でいわゆる蔑称みたいなものさー」

「正式名称はアーマードソルジャー・マークワン フォスターですね! 無骨で直線的な見た目からブリキの玩具って呼ばれてたんですよね。マークワンはチャリオットに勝てるほど強くなかったですし」

「だからよー! 魔電力機関プレ・アズルリアクターがチャリオット搭載時よりアズル伝導効率が良くなるという研究結果が出るまでは微妙な扱いだったわけさ」

「最初の内は電動式連弩砲でしたけど、それでもチャリオットの1装填1ショットよりも、連射できる機甲装騎の方が有利になったんですよね! チャリオットは騎使がむき出しですし!」

「であるわけよ! そこから戦闘用だけじゃなくて試合用としても発展していって今の――――」

「わかったわかったから! 全く、スズメちゃんもイヴァちゃんも装騎に関してはピカイチなんだから……」

「で、結局なんて書けばいいのよ……」

「授業ではヴァイスブレヒって習ったからそれで大丈夫よ」

それからしばらく。

「あー、疲れたぁ!」

「一時休憩するさー」

「チャイカ先輩にケーキをおねだりしてこよっと」

「リコにココアおねだりしてくるわ」

「それじゃあ、カトレーン先輩に間食おねだりしてくるさー」

「それはやめなさい」

「冗談さー」

一時休憩として、それぞれの部屋からおやつを持ち寄り、みんなで食べて談笑していると、気付けば1日目は過ぎ去っていた。

宿題はまだ終わっていない。

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