テレビが来た!
「今、私は国内最高レベルの騎使が集まる女学園。国立ステラソフィア女学園機甲科の校門前に来ていまーす!」
ステラソフィア女学園機甲科校舎前、マイクを手にした1人の女性が、大勢のスタッフに囲まれた中、そんな言葉を発した。
天に向かって伸びる大きなマイクや、彼女に向けられるカメラから何をしているのかは一目でわかる。
そう、今日はこのステラソフィア機甲科にテレビの取材が入る日だった。
リポーターの女性の名はイオ。
最近ぐいぐいと人気度を上げているリポーターだ。
「通称“機甲女学園”と呼ばれるほど装騎に力を入れているこのステラソフィア――――おお、校舎の前で生徒さん達が何かしてますね。組手――でしょうか?」
校門と校舎の前にある開けた広場――そこで、ミルキーブロンドの女子生徒と茶髪の女子生徒が拳を固め向かい合っていた。
2人の間にもう1人、黒髪の女子生徒が胡坐をかきながらその様子を眺めている。
それは一見、これから組手を始めるように見えた。
「機甲装騎だけじゃなく、普段からこうやって体を鍛え――」
「行きます! ニャンニャーキーック!!」
「あまいさーニャンニャー! このスーパー・ヨーカ・イエキを食らうさー!!」
「うわっ、しまった! 超合金ニャオで作られた強靭なニャンアーマーが!? 溶かされてしまいますぅ!!」
悶え苦しむ振りをしながら叫び声を上げるミルキーブロンドの女子生徒の姿に、リポーターのイオは困ったような表情を浮かべカメラの方へと体を向ける。
「え、えっと、今日は学生さんがステラソフィアを案内してくれる――と言う事ですが……」
「イザナちゃん! ここで応援! 応援して!」
「わーにゃんにゃーがんばってー」
「人々の祈りで力が漲ってくる!」
「あ、あいえなぁ!? ニャンニャーの鎧が、修復されていくさ!?」
「ニャンニャーは、負けない! 行きます! スーパーニャオニックねこパーンチ!!!」
「ぐわぁぁあああああああああ!!!!」
「ちょっと2人ともストーップストーップ!」
そこを、金髪の女子生徒が止めるように声を駆けながら、カメラの方へと近づいてきた。
「どうしたのサリナちゃん?」
「テレビ来てるからちょっとストップ」
「テレビだば? 何で?」
「機甲科の取材に決まってるじゃない」
「あっ、本当だ!? え、もしかしてニャオニャンニャーごっこしてるのも――――」
「すみません。いきなりお見苦しい所を……」
「あ、いえ! 貴女が機甲科を案内してくれる学生さんですか?」
「はい。チーム・バーチャルスター1年。エレナ・ロン・サリナです」
「ああ、バーチャルスターの! それで此方の生徒さんたちは――」
「チーム・ミステリオーソ1年。ヒラサカ・イザナよ」
「ち、チーム・ウィリアムバトラー1年……り、リサデル・コン・イヴァさぁ…………」
「チーム・ブローウィング1年の――――サエズリ、スズメです……」
さっきまで元気よくニャオニャンニャーごっこをしていたイヴァとスズメが気まずそうにカメラから目線を外しながら名前を名乗る。
機甲装騎に関わる者であれば、誰しもが聞いたことあるだろう今年のスーパールーキーの名前にスタッフが騒然とした。
どっちかと言うと、そんなスーパールーキー達が校舎前で幼児向けアニメのごっこ遊びをしていたことにだろうが。
名乗り終わった後にも、ソワソワするスズメとイヴァの様子に気付いたイザナ。
「そういえば、さっきのもテレビで放送されんの?」
「すみません……生放送なんですよ」
リポーターのイオの言葉にスズメとイヴァは完全に撃沈した。
仲間との生活にすっかり慣れきっていたスズメとイヴァだが、本質的には人見知りなのだ。
「いえ、ですがほら! 普段見られないステラソフィア生の意外な一面と言いますか! こういう自由な校風からサエズリ・スズメさんやヒラサカ・イザナさんのような自由な戦い方をする騎使が生まれるんでしょうね!」
必死にそうフォローするイオ――しかし、もうすでに彼女のペースはグッチャグチャに壊されていた。
「それでは、校舎を案内しますね」
「はい、お願いします」
サリナはイオ達テレビスタッフを引き連れて校舎の案内へと向かう。
スズメ、イザナ、イヴァの3人も浮かない気分のままサリナと一緒に機甲科を案内することになった。
「先輩から後輩へと技術を受け継ぎ、そして、生徒の個性を尊重することで優秀な騎使を世に送り出していく。それがステラソフィア女学園機甲科がマルクトで最高レベルの機甲科と言われる所以です」
「チューリップ・フランデレン先生、ありがとうございました! 以上、ステラソフィア女学園機甲科からでしたー!」
簡単に校内を案内し終わった後、フラン先生のご高説でその番組は締められた。
番組も終わり、おもむろにフラン先生がスズメの元へと近づいてくる。
「サエズリ・スズメ」
「――――? 何ですか?」
「今日の放送を録画してあるのだが、データは要らないか?」
「え!? 別に必要ないですけど……」
「そうか」
突然のフラン先生の言葉に、イマイチ事情が呑み込めないスズメ。
「て、ていうかどうしたんですか突然」
「いや――――」
スズメの言葉に、だがフラン先生は何も言わない。
そのまま、その場を去るフラン先生の姿を、スズメは首をかしげながら見送った。