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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
疑惑の実地戦
114/322

デン・ハアグの悪魔

7月2日木曜日。

チーム・ブローウィングの4人は北海沿岸の地デン・ハアグへと来ていた。

「他国から侵入して、更にマルクトの装騎を強奪――――なかなかやる一派だな」

そう呟くツバサ――だが、この情報は間違いだった。

今回の作戦は反シャダイ派――通称“悪魔派”と呼ばれる一派に対する殲滅作戦。

つまり、マルクト国内の反乱分子を抹殺する作戦と言う事なのだが、もちろん、学生たちにその事実は知らされていない。

あくまで、マルクトの装騎を奪い、デン・ハアグに拠点を敷いている他国からの侵入者の殲滅――――そういう体で進められている。

「マルクトの装騎を奪取しているとは言え、ヤツらが用いているのはあくまで民間騎――そう手こずる相手ではあるまい」

「なんか、今までと比べて特に楽そうな任務なんですよ!」

「今まではハプニングも多かった……ああいう作戦ばかりだとさすがに疲労も溜まるだろう」

「つまり、楽な相手を倒すことで士気を上げてもらうと言う事ですわね」

「身も蓋もないことを言うな」

フランがチャイカの言葉に溜息を吐きながらもそう答えた。

「ところで――――!」

「どうしたマッハちゃん? 作戦前だぞ」

「そうですよマッハ先輩! 空気読んでくださいよ!」

「いやいやいやいやいやいやいやいや!! コレはどーいうことでやがりますかァ!!!!」

マッハが言うのは――――そう、自分自身が乗る装騎チリペッパーの姿についてだった。

「なんか、どー考えてもマハのチリペッパーがいつもよりゴテゴテしてやがるんですが、コレはどーいうことでやがりますかぁ!!」

「チリペッパー・カップの極みですよ! 良かったじゃないですか!」

「カップの極み!? ソレが名前でやがるんですかァ!? クッソ、カッコワルイんですよォ!!」

チリペッパーの体に纏われた追加装甲――手足などの要所に行動加速ブースターが備え付けられ、本来のチリペッパーと比べて逞しい印象が見られる。

特に、肩部と胸部に追加された丸みを帯びた漆黒の装甲が、チリペッパーの印象を大きくしていた。

「せめて極とかにしてほしいんですよ! っていうか、それ以前にこんなマッシブなチリペッパーは認めねーんですよォ!!!!」

「マッシブって! 見てください、今のスパローより全然身軽じゃないですか!」

そういうスズメのスパローにも、普段は装備されてない武装が施されていた。

傾斜した追加装甲がスパローの上半身を覆うように備え付けられ、右肩に15mm径の榴弾砲が伸びる。

手足にも、似た意匠の追加装甲が装備されたスパローは、普段の細身のボディと真逆の、重装甲砲撃騎の印象が感じられた。

「あー、ソレがこの前懸賞で当たったていう」

「はい! H型追加装甲、ヘッツァーです!」

F型ファイアフライなどと同じ、装騎共通の追加オプションパーツの1つ、それがヘッツァー。

スズメの戦闘スタイルが高機動騎による奇襲と格闘攻撃であるのは言うまでもないが、今回はたまたま懸賞で当たったので使ってみたかったと言う事でスパローにヘッツァーが装備されていた。

「さすがに作戦開始直前ですし、今更装騎を変更することはできませんわよ」

「そうそう。文句は後からな!」

「グググググ……これは苛めなんですよォ!!」

「――――それでは、作戦開始時刻だ。準備は良いなチーム・ブローウィング」

「「「諒解!」」」

「コンチクショーなんですよォ!!」

「では、作戦開始だ!」

「行くぞ――――GO! ブローウィングGO!!」

ツバサの号令に従い、装騎スーパーセル率いるチーム・ブローウィングの4騎が攻撃目標となる反抗軍の拠点へと駈け出した。

「今回の作戦――スズメちゃんは後方支援ってことになるな」

「はい! ドカーンとやっちゃいますよ!」

「それ以外はいつも通りだ!」

装騎チリペッパー・カップの極みを先頭に、装騎スーパーセルが後を追い、更にその後ろから装騎スパロー・ヘッツァーと装騎スネグーラチカが横に並び進む。

「先制攻撃します!」

スズメの言葉に従い、装騎スパロー・ヘッツァーの15mm榴弾砲が反抗軍の拠点へと狙いを定める。

「行きますわ!」

そして、装騎スネグーラチカもリディニークライフルの銃口を拠点へと向けた。

射撃ストジェリット!」

「魔力、砲撃!」

2つの声と共に放たれる、装騎スパロー・ヘッツァーの榴弾。

そして、装騎スネグーラチカの魔力砲。

その二つが、敵拠点目がけて発射された。

魔力の波と、榴弾により放たれた炎が敵拠点を蹂躙する。

「装騎反応4! 来ますわ!」

こちらの襲撃を察知していのだろう。

その1撃とは間をおかず、4機の機甲装騎が姿を現した。

「敵は――――」

「ジェレミエル型1、アブディエル型1、ラグエル型1、バルディエル型1ですわね。いずれもシアンスティール製の民間騎ですわ」

「結構平均的な組み合わせですね」

「だな――――これくらいなら余裕か。だけど」

「油断大敵、ですわね」

「ガンガン行くんですよォ!!!!」

「今の言葉、マッハちゃんに言ったんだからな!」

「大体分かってやがるんですよッ!!」

「本当かよ!」

装騎チリペッパー・カップの極みは重装甲に見える割に、その機動は軽快。

マッハの走行フォームに合わせて噴出される補助ブースターが絶妙にその動きを加速させる。

ジェレミエル・エネミーとバルディエル・エネミーが機関銃を両手で構えると、突っ込んでくる装騎チリペッパー・カップの極みへと発砲。

だが、その銃撃はチリペッパー・カップの極みの装甲に弾かれる。

「効かねぇーんですよォ!!!!」

マッハの叫び声と共に、チリペッパー・カップの極みがバルディエル・エネミーに向かって蹴りの1撃をお見舞いした。

バルディエル・エネミーは装騎チリペッパー・カップの極みの1撃で、その身をよろけさせる。

だが、そこにアブディエル・エネミーが大型のウェーブブレードで切りかかってきた。

「甘いっ!」

だが、ウェーブブレードが大型だと言う事は、それを振るのに大きな隙が出来る。

そこに装騎スーパーセルが切り込んできた。

装騎スーパーセルが閃かせたチェーンブレードの1撃でアブディエル・エネミーの両腕が切断される。

「マッハちゃん!」

「ぅオララニャーァ!!」

その隙を狙い、装騎チリペッパー・カップの極みがアブディエル・エネミーのコックピットにキックバンカーを打ち付け――――アズルを流し込み破壊した。

目の前にいるアブディエル・エネミーが撃破されバルディエル・エネミーは機関銃を捨て去り、予備の超振動ククリを抜く。

「させません!」

「行きますわよ!」

バルディエル・エネミーが超振動ククリを振り下ろそうとしたその手を、スネグーラチカの狙撃が撃ちぬいた。

そこにスパロー・ヘッツァーの榴弾が弾け、スーパーセルの突きと、チリペッパー・カップの極みのキックブレードがバルディエル・エネミーを完全に沈黙させる。

「!! 新たな装騎反応ですわ!」

「5騎目!? 真打か!」

不意に、破壊された拠点の中から、1騎の機甲装騎が姿を現せた。

細身ながら重厚さも感じられる、バルディエル型装騎にどこか似た印象――――しかし、その姿は細かい所を見るとバルディエル型とは違っている。

「あれは――――PS-M-Z……ザバーニーヤ、魔術騎ですわ!」

「魔術騎だって!?」

チャイカの言葉に、ツバサが驚きの声を上げる。

「と、言う事は魔術使が乗ってるってことですか!?」

「そうなりますわね……それにあの装騎は……」

『軍用騎、か』

通信からフランの声が入る。

「ええ、そうですわ……」

「軍用騎――――!?」

『どういうルートで仕入れたのかは分からんが……』

内部マルクトに横流ししたヤツが居るのか――――?)

ふと脳裏に浮かんだ言葉を、とりあえずフランは保留する。

「軍用騎――って言ってもステラソフィアで使ってるのも軍用騎なんだ」

「油断しなければ十分倒せる相手ですわね。油断しなければ、ですけど」

「分かってやがるんですよォ! ウオラァ!! 行くんですよォッ!!!」

「援護します! 死なない程度にガンガン行っちゃってください!」

装騎チリペッパー・カップの極みがザバーニーヤ・エネミーへと突っ込んで行く。

その後を追うスパロー・ヘッツァー。

そこにジェレミエル・エネミーが機関銃の雨を降らせた。

「ジェレミエル型はアタシに任せろ!」

「お願いします!」

「同じジェレミエル型同士――格の違いを見せてやるさ!!」

装騎スーパーセルは左腕からワイヤーアンカーを射出――――射出されたワイヤーアンカーは回転する敵機関銃に絡められるが、それがツバサの狙いなのは言うまでもないだろう。

「せいっ!」

勢いよく左腕を――そこから伸びるワイヤー――そしてその先にある機関銃を地面に叩き付けるように振り下ろす。

機関銃の銃口が地面へと向き、射撃がズレたその瞬間、装騎スーパーセルは左腕のワイヤーを根本から切り離すと、デュエットブースターにアズルを一気に回す。

「行くぜ――――チャージスラッシュ!!」

その加速を付けたまま、チェーンブレードでジェレミエル・エネミーのコックピットを貫いた。

「マッハちゃんにはスズメちゃんが付いていますし――――ウチは――――」

チャイカはそう呟くと、その銃口をラグエル・エネミーへと向ける。

ラグエル型装騎は情報収集や統制が得意な装騎――――つまり、この反抗軍の頭脳だと推測できた。

「行きますわよ! 魔力銃撃!」

チャイカの声に従い、魔力がリディニークライフルへと集まる。

そして、魔力を纏った弾丸が放たれた。

ラグエル・エネミーは装騎スネグーラチカの魔力銃撃を回避しようとするが、その1撃はラグエル・エネミーの肩を貫く。

「たまにはウチも華々しく戦ってみないといけませんわねっ」

チャイカはそう言いながら、装騎スネグーラチカをラグエル・エネミーへと近づける。

ラグエル・エネミーは手に持った10mmストライダーライフルを撃ち放つが、装騎スネグーラチカはその銃撃を盾サイズに圧縮した魔力障壁で防ぐ。

ラグエル・エネミーの騎使は歯が立たないと理解したのか、後ろに退いてザバーニーヤと共闘しようとするが、それを逃がすチャイカではない。

「逃がさないですわ!」

リディニークライフルの1撃は的確に、ラグエル・エネミーの脚部――そのもっとも弱い関節部分を撃ちぬき、相手の足を止める。

そして、

「魔力剣撃、ですわっ!」

リディニークライフルに纏われた魔力の刃が、ラグエル・エネミーを一閃した。

「オラオラオラオラァ!!」

装騎チリペッパー・カップの極みはザバーニーヤ・エネミーに激しくショットガンの雨を降らせる。

だが、その攻撃は悉く魔力障壁によって防がれた。

「援護射撃!」

そこに装騎スパロー・ヘッツァーの榴弾砲が撃ちこまれる。

その1撃は、ザバーニーヤ・エネミーの足元に――――それは一見無意味にも見える砲撃。

しかし、意味が無い訳ではなかった。

「マッハ先輩!」

マッハがショットガンを撃ちこんだ場所よりも、障壁が薄くなっている足元。

さらに、榴弾の衝撃と炎により足元の地形を崩すことで相手の動きを一瞬止める。

「オラァ!! ぶっ殺しやがるんですよォ!!!!」

マッハの叫び声。

全身の補助ブースターを全開にした超高速移動でザバーニーヤ・エネミーの背後へと回り込む装騎チリペッパー・カップの極み。

そして、その脛部にあるキックレーザーブレードが――――ザバーニーヤ・エネミーを真っ二つにした。

『目標の殲滅を確認した。各自、帰還しろ』

「「「「諒解!」」」」


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