表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
ステラソフィアの日常:夢想編
110/322

ステラソフィアRPG!

陽光の勇者の伝説から1000年後、外世界の魔王ヂス・エアルトフの襲来により世界の半分は闇に包まれた。

残った半分の国々は「光域連合」を組織し、闇に沈んだ世界――通称「闇魔郷」の奪還を目指し、戦った。

それが後に言う第1次光魔戦争の始まりであった。

しかし、結果は光域連合の惨敗で終わり、闇魔郷はその領土を更に2/3へと増やす。

魔王の襲来より15年の歳月が経ち、1人の少女が光域連合の本部があるリヒト王国へ足を踏み入れた。

彼女の名は――――

「おお、陽光の勇者の血を引く者、スズメよ。魔王の討伐に力を貸してくれるというのか」

「はい、フラン先せ――フラン王」

「それは有り難い! では、お主を100万615番目の勇者候補生として登録しよう」

「――――は? 100万?」

「陽光の勇者は1000年も前の人物であるからな。その子孫の数も膨大に存在するのだ」

「それでも100万人もいるんですか!? ミリ○ンアーサーですか!!?」

「では勇者候補生スズメよ。世界の勇者候補生と力を合わせ、魔王ヂス・エアルトフから世界を救い神勇者を目指すのだ!」

「ちょ」

かくして勇者候補生スズメの魔王ヂス・エアルトフを討伐する旅が始まったのだった。

「王様からひのきの棒をもらいましたけど――――普段から使ってるナイフの方が使いやすいですね。邪魔」

スズメはひのきの棒を捨てた。

「とりあえず、光域連合の前線部隊と合流しよう……」

リヒト城を出て、光域連合前線基地のある大陸北部へ向かおうとする勇者候補生スズメ。

「ねえ!」

「?」

そんな勇者候補生スズメに1人の少女が声をかけた。

「あなたリヒト城から出てきたわよね。もしかしてあなたも勇者候補生?」

「あなたもってことは――――」

「うん。わたしは勇者候補生番号100万610番。剣士のサリナよ」

「私は勇者候補生番号100万615番のスズメって言います」

「スズメちゃんね。スズメちゃんはこれからどうするつもりなの?」

「北の前線基地に行くつもりですよ」

問いへの答えに剣士サリナは首を傾げる。

「それなら、お城を出てそのまま真っ直ぐ行った方が近いんじゃないかしら」

「えっ? お城の入り口って南向きに作られているのが常識なんじゃないんですか!?」

そう、RPG的に考えて(?)北はお城の向こう側だろうと思っていた勇者候補生スズメは、南に向かって歩いていたのだ。

「そんな常識があるのかどうかは分からないけど……ここのお城、正面は北向きよ」

「そうだったんですか!? うぅ……危なかったです」

「良かったらわたしも一緒に着いて行っていいかしら? 1人だとちょっと心細いし――スズメちゃんのことも心配だしね」

「うぅ……私も1人では心配ですし……お願いします」

剣士のサリナが仲間になった。

勇者候補生スズメと剣士サリナは2人で王都を後にして北の前線基地を目指して歩き始める。

「わー、緑がいっぱい! 正当派ファンタジーって感じですね」

「本当ね……道の脇から湧き出てる紫色のヤツが気になるけど」

「アレって何なんですかね……? ちょっと調べてみ」

「スズメちゃん、ちょっと待っ――」

「うっ!?」

スズメは猛毒におかされた。

「これって毒沼じゃない……」

「な、なんで毒沼が……」

「それは魔王の影響さー」

「「誰!?」」

不意に投げかけられた見知らぬ声に、スズメとサリナは振り向く。

「うぅっ!?」

振り向いた拍子にスズメの体を毒が襲う。

「ひ、HPヒットポイントが……半分くらい抉れ…………」

「ヘタに動いたらだめよー。このクスリを飲むさ」

どこか、魔術使然としたその少女は、勇者候補生スズメに液体が入った瓶を渡した。

それを飲んだ勇者候補生スズメの体がから毒が引いていく。

「助かりました……アナタは」

「わーは銃士のイヴァさ」

「魔術使じゃないのね」

「これはコスプレさ」

「そ、そう……ところで、魔王の影響って……」

「最近、魔王の影響が強くなってきてるのか、その影響でモンスターが凶暴化したり、こういう毒沼がどんどん広がってきてるばーよ」

「って言う理由付けでルートを指定してるだけじゃ……」

「大変ですね! 私たちも頑張らなくちゃ!」

「そ、そうね……」

勇者候補生スズメと剣士サリナの会話を聞いて、銃士イヴァは察した。

「もしかして2人は勇者候補だば?」

「そうですよ!」

「おお!」

予想通りの答えにイヴァは瞳を輝かせる。

「と、言う事は闇魔郷に――――!」

「うん、いくつもりですよ」

「やっぱりさ! イヴァも2人に着いていきたいさー」

「だけど、イヴァちゃんは勇者候補じゃないのよね?」

「そうだけど……でも、クスリの知識もそこそこあるし、レベルも20はあるから序盤だと主力になるさ!」

「レベル20! わたしはまだ15だし……確かに力強いわね! ってアレ、そういえばスズメちゃんってレベルいくつだっけ?」

剣士サリナに話を振られた勇者候補生スズメはビクリと肩を震わせた。

「スズメちゃん――?」

「わ、私のレベルはぁ……そのぉ、えーっと…………1、ですけどぉ?」

「レベル1!?」

そう、この勇者候補生スズメのレベルは1だった。

当然っちゃ当然だが。

「そうなんだ……まぁ、わたし達もいるし大丈夫よ」

「そうさー。レベル上げしながら行けばいいさー」

「うぅ……ばんがります…………」

毒沼に囲まれた一本道を道なりにしばらく歩くと、目の前に突然1匹のモンスターが飛び出してきた。

「わぁ、アレは何?」

「RPGの定番中の定番、スライムさー」

そう、それは半透明でゲル状の体が特徴的な定番モンスター、スライムだ。

「あれくらいならスズメちゃんでも倒せるんじゃない?」

「とりあえず、攻撃してみるさー!」

「う、うん!」

剣士サリナと銃士イヴァに促され、勇者候補生スズメは手に持ったナイフに力を込めると、一思いにナイフを振りかぶった。

753ダメージ!

スライムは倒れた!

「ってスズメちゃんレベルの割に攻撃力過剰に高くない!?」

「だからよ! どういうことだば……?」

「ああ、多分ですけど装備してるナイフの所為――じゃないですかね……?」

「なになに……ZB68、ブルーノ製小刀ヌーシュの傑作でその切れ味はセラドニウムをも軽々と切断する――――ってこれ最強クラスの武器じゃ……」

「えへへ、元々ナイフを集めるのが趣味なもので。魔王討伐と聞いてとっておきの物をもってきちゃいました」

勇者候補生スズメのレベルが上がった!

勇者候補生スズメは、勇者の原石にランクアップした!

「レベルも2に上がりましたよ!」

「やったじゃない!」

「この調子でどんどん行くさー!」

勇者の原石スズメと愉快な仲間達はその後も順調に歩みを進めていく。

「レベルも上がって来たし、称号も“注目の勇者”になったし順調だね」

「そうね。――あ、砦が見えてきたわよ」

「わぁ、本当だ!」

注目の勇者スズメ一行は、無事、北の前線基地にたどり着いた。

「アンタ達も闇魔郷に行く勇者御一行様?」

「そうですけど……」

そう声をかけてきたのは、光域騎士サヤカと言う名の光域連合の甲冑に身を包んだ女性。

光域騎士サヤカは、一枚の紙を取り出すと注目の勇者スズメたちに言った。

「それじゃあ、この紙にパーティーメンバーの氏名を書いて、内容をよく読んでからサインしてね。そうしないと闇魔郷に入れないから」

「は、はぁ……」

「なになに……『勇者候補生及び闇魔郷への渡航希望者に対する被害は全て自己責任とし、国家及び連合に損害賠償の請求などは行わないこと』ってコレ免責事項じゃない」

「闇魔郷に行くのはあくまで自己責任。ボランティア。それが了承できないと入ったらダメなのよ。メンドーなクレーム入れられても困るしね」

「でも、魔王討伐の懸賞金はちゃんと出るのよね?」

「逆に言うと、ソレしか出ないから」

「あはは……とりあえず、名前書いてサインして良いですよね」

「そうね、結局、闇魔郷にはいかないといけないんだし」

「仕方ないさー」

サインを済ませた注目の勇者スズメ、剣士サリナ、銃士イヴァの3人は、ついに闇魔郷へと足を踏み入れた。

「闇魔郷に入ったわね」

気付けば、周囲が夜のような闇に包まれる不気味な世界に3人は居た。

決して朝が来ることの無い夜の世界――それが、闇魔郷。

「闇魔郷に入ったら、まずは入口の町ヴホダに行くのが王道パターンさ」

「そういう場所があるのね」

「そうさー。最初に勇者候補生が闇魔郷に押し入った時に奪還出来た町で、今は勇者候補達の拠点として使われてるわけよ」

「イヴァちゃん詳しいね!」

「この闇魔郷初心者攻略ガイドに載ってたさー」

「そんな本があるのね……」

ガイドブックに従って、入口の町ヴホダを目指す注目の勇者スズメたち。

「おお、これが闇魔郷名物のヒトっぽい木ですか!」

「アレが闇魔郷でよく食べられてる山菜さー!」

「すごーい、あそこに変な生き物がいますよ!」

「ガイドブックに載ってないか見てみるさー!!」

「って2人とも! ピクニックしに来たわけじゃないんだから……!」

「えー、でも楽しまないと損じゃないですかぁ」

「そうさーそうさー!」

「ええ……」

その時だ。

ガサガサガサ!!

と激しい音が一気に近づいてくる。

「スズメちゃん!」

「っ――――!!」

注目の勇者スズメは咄嗟にナイフを構えた。

「Guerrrrrrrrrr!!!!」

茂みの中から飛び出してきたのは、狼のようにも見えるモンスター、ヴルクだ。

ヴルクの牙がスズメを捉えんとする一瞬――注目の勇者スズメのナイフより早く、鋭い一撃がヴルクの体を斬り裂いた。

「ふん――雑魚ね」

ヴルクを斬り裂いた黒髪の少女は、手に持った東洋の趣きを感じさせる曲刀でブンを空を斬ると、その刃を鞘の中に収める。

「あ、ありがとうございます!」

お礼を言う注目の勇者スズメ――しかし、黒髪の少女は冷たい瞳で注目の勇者スズメを一瞥すると言った。

「アナタ達、勇者候補生?」

「そう、ですけど……」

「やっぱり――――いえ、こんな所に来るのは勇者御一行くらい。分っていたわ――フフ、フフフ」

突如、奇妙な笑みを浮かべる黒髪の少女。

その姿に注目の勇者スズメの背筋に悪寒が走った。

嫌な予感――――これは、まずい。

「私は流浪のイザナ――勇者候補生、勝負しなさい!」

そう言うが早く、曲刀を注目の勇者スズメに向かって振り下ろした。

「危ないっ」

流浪のイザナの一撃を辛うじてかわした注目の勇者スズメだが、その後を追いかけ鋭い斬撃が放たれる。

「何なのよこの流浪――問答無用って訳!? それならコッチだってルール無用よ!」

そういうと、剣士サリナもシャムシールを抜くと流浪のイザナに応戦。

「仕方ないさぁ!」

そして、銃士イヴァもジャイロジェットライフルを構えると、その照星を流浪のイザナに合わせた。

「何人でもかかって来なさい! そして、フヒ――武器を頂くのよ!! フフフ」

「うわっ、口元から涎出てる!?」

「刀狩――いや、変態ね!」

「ヘンタイさー!」

「とりあえずイヴァちゃん、援護射撃お願いします!」

「アイマムさー!」

注目の勇者スズメの言葉に従って、銃士イヴァがジャイロジェットライフルから弾丸を発射する。

小型のロケット弾が流浪のイザナ目がけて疾走。

「甘いわ」

「切り払いされたさ!」

「まだよっ!」

ロケット弾を切り払い出来たスキを狙い、剣士サリナがシャムシールを閃かせる。

「流閃斬!!」

流星群の明滅のように――剣士サリナのシャムシールの刃が光の雨を降らせた。

「こんな低レベルの斬撃ッ!」

だがその攻撃は、イザナには効いていないようだ。

しかし、剣士サリナはそれも承知だと言うように口元に笑みを浮かべた。

「アナタ、何を笑って――――はっ!!」

流浪のイザナは何かを察したように振り返る。

するとそこには――銃士イヴァと剣士サリナの攻撃に乗じ、流浪のイザナの背後に回った注目の勇者スズメの姿。

注目の勇者スズメは木の上から流浪のイザナへ飛び掛かり、手にした小刀ヌーシュの一閃が今にも流浪のイザナを捉えんとしていた。

「奇襲スキル!? 姑息な――――でも……見たところ盗賊のアナタが一番レベルが低い! この程度の攻げグハァアアアアア!!??」

CRITICAL ATTACK!!

流浪のイザナを倒した!

レベルアップ!

注目の勇者スズメは“売れっ子勇者”にランクアップした!

「ウィズみたいな即死技使うなんて……やるわね…………流石盗賊」

「私、盗賊じゃありませんよ」

「フフフ、負けたからには仕方ないわ。アナタ達のナカマになってあげる」

「え? どうするサリナちゃん……」

「あたしに聞かないでよ……」

「良い人には見えないさー」

3人はそっと流浪のイザナの表情を伺う。

「仲間になりたそうにコッチを見ています……」

「いやでも答えはNOでしょう」

「わかった」

売れっ子勇者スズメは剣士サリナの言葉に頷くと、流浪のイザナの方へと向き直ると言った。

「あの、イザナ、さん?」

「可愛くイザナちゃん☆って呼んでいいわよ。ナカマなんだから」

「えっと、その、仲間って件だけど――――その」

「何よ?」

「お断りします」

「何言ってるのよ、私達はナカマ、そうでしょう?」

「申し訳ないですけど、御遠慮願いたいんですけど……」

「何言ってるのよ! 私達はナ・カ・マ! そうでしょう?」

「あいやー、コレは“はい”を押すまでシナリオが進まないお約束パターンさ」

「選択肢無いじゃないですかー!!」

残念ながら仕様らしい。

売れっ子勇者スズメは仕方なく、口を開く。

「とりあえず、ヴホダまで行くつもりなんだけど、そこまでは一緒に行きましょうか……」

「諒解したわ。今後ともヨロシク!」

流浪のイザナが仲間になってしまった。

入口の町ヴホダにたどり着いた売れっ子勇者スズメの一行に1人の少女が話しかけてきた。

「貴女達は魔王ヂス・エアルトフ討伐を目指す勇者候補様達ですね」

「そうです。アナタは――」

「わたしは村娘のリコリッタ。貴女達にお知らせがあって来ました!」

「お知らせ、ですか……?」

売れっ子勇者スズメの言葉に村娘リコリッタは頷く。

「ここから先は完全に魔王の領域内で、強力な魔力が漂っています。そこで、勇者候補達に魔王の領域内へ入っても大丈夫かどうかの試験を受けてもらい、その試験をクリアする事でここから先に進むことが出来るようになるんです」

「どんな試験なんですか……?」

「イヴァは筆記苦手さ……」

「いやいや、試験っていうのは言うなればクエストです」

「クエスト――何かを持って来たりすればいいって事かしら?」

「そうです。この町の西にチェルニーレスと言う森があるんですけど、その森で手に入るドラホカムという輝く石を持ってきて欲しいんです」

「分りました! 行こう、サリナちゃん、イヴァちゃん!!」

「…………」

「い、イザナさんも行くの?」

「イザナちゃん」

「イザナちゃんも、行くの?」

「当然じゃない。私達、親友、でしょ?」

「そ、そうだっけ……」

村娘リコリッタからクエストを受けた売れっ子勇者スズメ、剣士サリナ、銃士イヴァ、流浪のイザナの4人は西の森――チェルニーレスへと向かった。

「輝く石――ドラホカムかぁ。見つけても判るかな?」

「まぁ、すぐに判るんじゃないかしら。最初の試験みたいなものだしね」

「イヴァに任せるさー!」

売れっ子勇者スズメ達はドラホカムを探して森の中を練り歩くが中々見つからない。

「私が奇襲ナーイェズトします! サリナちゃんとイザナちゃんで引きつけて、イヴァちゃんは援護!」

「諒解!」

時折現れるモンスターを倒し、レベルを上げながら奥へ、奥へと向かっていく。

「もう結構歩いたよね……」

「そうよね。イヴァちゃん、マップとか無いの?」

剣士サリナの言葉に銃士イヴァは闇魔郷ガイドブックを開いて見てみる。

「ここらへんはまだ未開拓の場所みたいで、マップには載ってないみたいさ」

「スズメ――来るわよ」

何かの気配を察した流浪のイザナがそう警告――その直後、奇妙なモンスターが姿を現した。

滴り落ちる血液が、漆黒のマントを羽織っているようなモンスター。

「あ、あれは血液伯爵フラヴェ・クレフ! 上級の魔族モンスターでここらへんでは出ないはずさ!!」

「どういう事ですか!?」

「どうもこうも無いわ!」

「倒す――――!」

「それじゃあ、いつもの手筈でお願いします!」

有名勇者スズメの言葉に頷くと、剣士サリナ、流浪のイザナがフラヴェ・クレフに切り掛かる。

「コイツ、攻撃が効かない……っ」

「物理耐性?」

「違う――レベルの差よ」

「イヴァが援護するさー!」

その背後から、銃士イヴァがジャイロジェットライフルを撃ち放った。

銃口から放たれた小型ロケット弾がフラヴェ・クレフを捉える。

だが――

「うぅー、あんまり効いてないばーよ!」

「ちょっとアナタ、銃なのにレベル依存ってどういう事よ!」

「ゲームシステムにつっこまれても困るばーよ!」

そんな会話をしている間にも、フラヴェ・クレフが赤黒い液体を腕のように持ち上げた。

「攻撃ね」

「防御態勢よ!」

その腕が、至近距離まで近づいてきていた流浪のイザナと剣士サリナへと叩きつけられる。

「グハッ!!」

「きゃあッ!?」

強烈なダメージが流浪のイザナと剣士サリナを襲う。

そのたった一撃で満身創痍。

「強い――っ」

レベルが、違うわね」

そこへ、奇襲をせんと隠れていた売れっ子勇者スズメが飛び出してきた。

「2人とも――――! これで……決めてみせるッ!」

売れっ子勇者スズメの一撃――――だが、

「ダメっ――あまり効いてないッ」

攻撃の隙をつき、放たれたフラヴェ・クレフの薙ぎ払いが売れっ子勇者スズメを地面に叩きつける。

「あぅっ!」

パーティーは壊滅状態。

「か、回復させるさ!」

1人無事な銃士イヴァがアイテムを使おうと鞄の中を探るが――

「うぅー、使えそうなアイテムが無いさー!」

ここに来るまで何度も戦っていたという事もあり、アイテムも尽きかけていた。

売れっ子勇者スズメ、剣士サリナ、流浪のイザナもそれぞれのアイテムを確認する。

その時、売れっ子勇者スズメが口を開いた。

「何か、私のアイテム欄に変なアイテムがあります……」

「変な、アイテムって?」

剣士サリナの言葉に、売れっ子勇者スズメは奇妙な薬のようなものを取り出す。

「アイテム名は……DBG-MAX。なんでしょうかコレ」

「もうここで死ぬか勝つかしか無いわ――ソレを使いなさい」

流浪のイザナがそう売れっ子勇者スズメに言った。

「でも、変なアイテムだったらどうするつもりよ?」

「そうは言っても、他に打開策なんて無いじゃない」

剣士サリナと流浪のイザナがそんな言い合いをしだす。

その間にも、フラヴェ・クレフが攻撃態勢を整えている――売れっ子勇者スズメは決心した。

「分りました。使います!」

売れっ子勇者スズメはDBG-MAXを使った!

売れっ子勇者スズメのレベルが上がった!

売れっ子勇者スズメは“ファンタジスタ勇者”にランクアップした!

「このアイテムは――――!?」

「あぁぁあああ!! 思い出したさ!!」

「イヴァちゃん?」

突然、叫び声をあげた銃士イヴァに剣士サリナが顔を向けた。

「あのDBG-MAXは、名前の通りデバッグプレイ用にステータスをマックスにするアイテムさ!」

「デバッグ用って」

「アイテム欄から削除しとくの忘れてたさー」

「ファンタジスタ勇者スズメ、行きます!」

ファンタジスタ勇者スズメはそう叫ぶと、フラヴェ・クレフを小刀ヌーシュで一閃。

一撃で撃破した。

「製作者のミスに助けられたわねー」

「普通に忘れてたさ……」

「何はともあれ、先に行くわよ」

「そうだね!」

しかし、一向にドラホカムが見つからないだけではなく、明らかに敵の強さが異常になっていた。

チート状態となったファンタジスタ勇者スズメのおかげでなんとか進めているものの、これは明らかにおかしい事だった。

先へ、先へと進んでいるとファンタジスタ勇者スズメ一行の目の前に巨大なお城――その背中が見えてきた。

「アレ? あの城ってもしかして……」

「あれは魔王城フラトさー!」

「魔王城って言うと――魔王ヂス・エアルトフの、お城!?」

「そうさ! 本当なら魔王ヂス・エアルトフの部下である十二使と十傑と七剣聖、それに四天王に両腕を倒してやっとたどり着けるはずだばーよ!」

「それ全員と戦うはずなの――?」

「多分だけど、私達、変な所をうろつき過ぎてマップの反対から回り込んで来たんだと思うわ」

「なるほど! だから急に敵が強くなったりしたんですね!!」

「なんてガバガバなゲームなのよ」

「とりあえず、勇者を倒して世界を救いましょう!」

「オーッ!!」

セーブしますか?

「はい」

ゲームを中断しますか?

「はい」

お疲れ様でした。電源をお切りください。


「――――何この無情感」

「色々酷いゲームだったわね……イヴァちゃんちょっとこれはね」

「だからよー。もっと調整するさ……」

「て言うかなんで私はあんなキャラなのよ!!」

場所はチーム・ウィリアムバトラーの寮室、リサデル・コン・イヴァの部屋。

スズメ達はイヴァが作ったゲームをプレイしにこの部屋へと集まっていたのだが……。

「とりあえず、今日はここまでで、良いかなぁ……」

「それって積んじゃってやらないパターンさ!」

SIDパッドのアプリを閉じて、そっと床に置くスズメにイヴァがそう言った。

「いやでも、クリアは確実ですし、これはクリアしたようなものですよ! うん!」

「ちゃんと十二使も十傑も七剣聖も四天王も両腕もデータ作りこんだわけよ! ちゃんとプレイして欲しいさ!」

「ねえ、売店で何かおやつ買ってこない?」

「あ、行く行く! イヴァちゃんとイザナちゃんも行こう!」

「もうー。仕方ないさー」

「スズメの分は私が奢って上げるわ」

「ヒラサカさん、スズメちゃんのサイフ根性染みついてるわね……」

そんな休日。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ