波状攻撃(ルード・オブ・タイム)
レーダーに映る4つの敵性反応。
それらは、互いに均等な距離を置きながら、スズメたちブローウィングを中心に捉えるように周回する。
一方スズメたちは、それぞれ背中合わせになりながら周囲を警戒する。
「ツバサ先輩……これは非常に不味い、ですよ……何とか突破する方法を考えないと」
「そうだな…………」
ビービービー
不意に、警告音が鳴り響く。
「危ないですわ――!」
何処からともなく木々を裂いて飛んできた弾丸――だが、それはスネグーラチカの魔力障壁で防がれた。
その一瞬、間を置いたタイミングで、先ほど弾丸が飛んできた方とは逆の方から弾が連射される。
「キャッ――!!」
「そこか――!?」
放たれた弾丸はスパローの体を軽く掠めただけだ。
しかし、スーパーセルが撃ち返した弾丸は木々を撃ち抜き、森へと消えていく。
一方から引き付け役となる銃撃を行ったその一瞬後に別の者が銃撃を放つ時間差包囲攻撃。
それがルード・オブ・タイムの正体だった。
それは波のように、時には穏やかに、時には荒く、幾度となくブローウィング3騎を襲ってくる。
ロバーツ・ミカエラの指示によって、タイミングや緩急をコントロールされ、それぞれがタイミングを絶妙にずらしてくる。
「これがルード・オブ・タイム……!」
独特の揺らぎを持って放たれる銃撃をかわし、凌ぎながらスズメがそう呟いた。
「このままだとじわじわと嬲り殺されるだけ……ですわね」
「かと言って下手に動く訳にも――」
鈍る判断力と浪費していく体力に3人の動きは緩慢になりはじめていた。
そんな時、レーダーに映る光点の内、ファーガスの名が記された光点がスズメたちへと近付いて来る。
「――っ来るか!?」
ツバサが警戒したその瞬間、ファーガスとは全く逆の方向からの銃撃を感知。
「逆、ですわ――!」
その弾丸をまたしてもスネグーラチカが魔力障壁で受け止める。
「くっ――この弾丸、凄く、凄く重いですわ…」
浪費した体力と魔力に、強烈な一撃。
なんとか防ぐことができたものの、チャイカの身が持たなくなるのも時間の問題だった。
「あ、あのっ……さっきチャイカさんが受け止めた弾丸――アレって徹甲弾、じゃないんですか?」
「徹甲弾って――見えたのか!?」
「な、何となく……」
「ふむ……」
レーダーを確認し、その動きから、恐らく先の砲撃を放ったであろう装騎を特定する。
PS-Sa1S:Gore-Booth――そう、リサデル・コン・イヴァの装騎ゴア=ブースだ。
「あの1年の装騎は砲撃騎なのか……? でも、それにしては動きも速いし……」
「もしかしたら、ホバー移動ができるのかも……」
開幕時に見た、リサデル・コン・イヴァの装騎ゴア=ブースの姿。
それは、重装甲ながら、ホバー移動で最低限の機動力を確保したPS-Me2メタトロンに似ていた。
ゴア=ブースのベース騎番号はPS-Sa1。
「私の見立てですとゴア=ブースのベース騎の名称はサンダルフォン……」
「サンダルフォンっつーと……」
「メタトロンの兄弟と言われる天使の名前ですわね」
「はい、アレは――メタトロンの兄弟騎、軽量型のメタトロンだと思うんです。おそらく、武器も30mmフォイアゾイレ砲ほどじゃないにしても高火力の長射程武器ですね」
「そういえば、あの装騎背中に組み立て式っぽいヤツ背負ってたな……」
「ええ、恐らくソレの弾ですね。そこで、ちょっと提案があるんですけど」
スパローが撃墜されたチリペッパーの16mmファイティングショットガンを拾いながらそう言った。
ルード・オブ・タイムの銃撃の波――それが弱くなったその隙を見てスーパーセルを先頭に、スネグーラチカとスパローが続き、森の中を駆け抜ける。
目指すのは一点――ゴア=ブースだった。
「あいっ、なんでみんなイヴァに向かってくるば!?」
突如として、ブローウィングの3騎がゴア=ブースに向かって来るのをレーダーで確認したイヴァが困惑の声を上げる。
「イヴァちゃん心配いらんて! ウチらがサポートしたる!」
「は、はいっ」
ゴア=ブースの元へ走るブローウィング3騎を背後から追いかけるように装騎を駆けるウィリアムバトラーの3騎。
「しっかし、ブローウィングは何考えてるんや。ウチらの必殺タクティクス! ルード・オブ・タイム!! はソレが狙いやのは分かってるやろうに……」
そう、ルード・オブ・タイムはただ相手を包囲して緩急をつけた時間差攻撃でチマチマと削っていくだけの技では無い。
彼女らウィリアムバトラーの真の狙いは相手が焦って、あるいは油断して一点突破をかけようとしたその瞬間。
持てる火力を持って、相手を殲滅するのがこの戦法の狙いだ。
その為に、相手を逸らせる餌としての攻撃の緩急を付け、それぞれの装騎達はあらかじめ計算された遠すぎず近すぎずの距離を保って攻撃を行う。
「まだ経験の少ない1年を狙うんは定石。それにルード・オブ・タイムを破りたいんやったら懐に潜り込んで一撃でやれそうな砲撃騎を狙いたいんは当然。――なんはわかるんやけどなぁ」
ブローウィング3騎の進行方向から放たれる弾丸。
それを何度かスネグーラチカの魔力障壁で防ぎながら、着実に距離を縮めていた。
「20mmフュンフトマティ砲をこれだけ受けても大丈夫なんて……ちゅーばーな魔力障壁さ!?」
普通の魔術適性者が使用する魔力障壁であれば、この高威力を誇る20mmフュンフトマティ砲をそう何度も防ぐことはできないだろう。
しかし、それを可能とする所にテレシコワ・チャイカが魔力障壁を得意とするだけはあった。
そうは言っても、やはりフュンフトマティ砲は高威力。
流石にチャイカの魔力にも限界が近づいて来る。
「そ、そろそろ魔力が限界、なのですわ……」
「あと少しだチャイカ! あと、少し――!」
一方、距離を縮められているイヴァには焦りが隠せない。
ゴア=ブースは長身砲を構えながら、近づいて来る3騎に狙いを定める。
「放熱が終わらんさ……うぅ、でーじにりぃ」
PS-Sa1サンダルフォンをベースとしたリサデル・コン・イヴァの装騎ゴア=ブース。
スズメの予測通り、PS-Me2メタトロンを軽量化したような、中級ホバー移動型の砲撃特化騎だった。
カーキ色のベースカラーにアイボリーのアーマーを纏い、まさに砲撃騎と言う見た目。
そして、その手に構えるのは、サンダルフォン固有の武器20mmフュンフトマティ砲。
PS-Me2メタトロンのその長さから「物干し竿」とも揶揄される30mmフォイアゾイレ砲を元に、大幅な軽量化を図ったその武器。
だがしかし、1発1発を発射する度に、ある程度の放熱時間を取らないといけないと言う欠点を抱えていた。
「もうダメやっさ!」
ロングレンジ武器の有効射程を完全に外れた事を確認すると、ゴア=ブースはフュンフマティを投げ出し、予備として腰にマウントされていた10mmストライダーライフルを手にする。
砲撃特化騎と言うものの、PS-Sa1サンダルフォンはそのホバー移動を生かした機動性もあり、中近距離でも十分に使える。
木々の隙間にブローウィングの3騎の姿が垣間見えた。
「ま、負けないばーよ!」
イヴァは自分を鼓舞するように声を上げると、10mmストライダーライフルの引き金を引いた。