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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
悪魔の名を持つ新型
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苦しい戦い

陸上艇――――それは、機甲装騎の運搬だったり、戦闘支援を目的として運用される大型のエアクッション艇である。

地上、水上、雪上等に関わらず高速で移動できる優秀な兵器ではあるのだが、魔電霊子アズルの性質上、装騎サイズ以上の兵器を動かすには人員への負担が大きい為あくまで機甲装騎の戦闘支援用としてしか扱われない。

今、スズメ達ブローウィングの目の前に現れたのは、何種類かある陸上艇の内の1つ――陸上装騎母艇と呼ばれるタイプの陸上艇だった。

「母艇!! ――――増援、ですか」

スズメの呟きに答えるかのように、装騎母艇の後部ハッチが解放される。

陸上装騎母艇とは、その名前の通り装騎を運搬するためのもの――――その背から6騎のマスティマ連邦製機甲装騎――ARM-07サンドリヨンの姿が現れた。

「6騎増えたか――――」

「たかがサンドリヨン6騎なんですよォ!!」

「たかが6騎――――されど6騎、ですわ」

その性能、その数だけで見るのならばサンドリヨン6騎など造作もない騎数。

ただ、ARM-B1ベルゼビュートに搭乗した奪還チームが思いのほかの実力を持っていること、カスアリウス・マッハの装騎チリペッパーが手負いであること、諜報員の護衛が最重要任務であり、相手からしてもその撃破が第1目的であること。

そういう要素を加味するとすれば……

「どうしてもベルゼビュートは渡せない――――ってことなんですね……」

アラモードは静かにそう言った。

後方から陸上戦闘艇のものと思われる援護射撃がしきりに放たれる。

陸上艇は装騎と比べるとアズルの効率が悪く消耗も激しいとは言え、複数の砲門から放たれる、大口径の弾丸の威力は驚異的。

装騎の装甲こそ貫けないものの、命中すればその強力な衝撃は騎使の体を激しく揺さぶる。

戦闘艇を含めた陸上艇には、射撃時に移動が出来ないという欠点もあるがマルクト装騎と対等かそれ以上の火力を持てるということは欠点を補って余りあるほどの魅力があった。

「撃て撃てぇ!!」

ARM-07サンドリヨン部隊のリーダー格と思しき男の号令と共に、陣形を整えたサンドリヨンがその手に持った霊莢式電磁投射砲カートリッジレールガンを連射する。

ARM-B1ベルゼビュート部隊も、その列に加わり射撃行動に移行した。

その背後からは母艇の援護射撃――――さらにその後方、戦艇の援護射撃と激しい銃撃の雨にブローウィングは晒される。

「魔力、障壁っですわっ!」

その銃撃の大部分は、諜報員が奪取したARM-B1ベルゼビュートを狙った物――その激しい銃撃をチャイカの装騎スネグーラチカが受け止める。

「チャイカ、大丈夫か!?」

「え、ええ……ですがこのままでは……」

「せめて、戦闘艇を破壊できれば良いんですけど……」

「任せなさい」

スズメの呟きに、通信機からそんな言葉が放たれた。

「カラスバ先輩!」

「戦艇は私が仕留めるわ――それまで何とか、持ちこたえなさい」

「諒解っ!」

リンの言葉にツバサが頷く。

「ツバサ先輩!」

そんなツバサに、スズメが言った。

「私がクリティカルドライブでレイ・エッジソードを使います! レイ・エッジソードを盾代わりにしてサンドリヨン、ベルゼビュート部隊に接近して叩きましょう」

「なるほど! 行こうか」

「マハも行くんですよォ!!」

「ダメだ!」

「行くんですよォ!」

「言い争ってる場合じゃないです! サエズリ・スズメ、スパロー行きますっ!」

「仕様が無い……アタシがマッハちゃんを守るしかないか」

装騎スパローの体中から、蒼白い光が漏れる。

アズルリアクターが絶え間なくアズルを造りだし、絶え間なく装騎から漏れる輝き。

「スパロー・レイ・エッジソード!!」

装騎スパローのブレードエッジが展開され、その両腕のブレードにアズルの火花と共に光の剣が形成された。

その輝きをより一層強く輝かせ、レイ・エッジソードを突撃槍のように固定する。

アズルの輝きを両腕に纏い、装騎スパローはマスティマ連邦装騎部隊へと突撃した。

「マルクト騎が“逆折れ”を先頭に突っ込んできます!?」

「あの光はアズル――――アズルを盾にしているのか」

「アレクシ隊長! オレが格闘戦を仕掛けて隊列を崩してみせますよ!!」

「分かった――だが、俺も行くぞ。良いなジョゼ」

「アンタが隊長なんだから好きにすれば良いでしょうが!」

アレクシ=ベルゼビュートとジョゼ=ベルゼビュートがそれぞれ超振動大型ククリと超振動片手半剣を手に前に出る。

「わ、私は!?」

「マノンはこのまま援護射撃を頼む! ルイも作戦通りだ。だが、出来るだけ早く頼むっ」

「はいほーい!」

チーム・ブローウィングと交戦するアレクシ隊とサンドリヨン部隊とは別の場所に、その一騎の姿はあった。

スナイパータイプのカートリッジレールガンを構えたマリーア・ルイのベルゼビュートだ。

その照準は、装騎スネグーラチカが護衛するマルクトが奪取したベルゼビュートに向けられている。

「3、2、1……」

ルイの呟きに合わせるように、不意に、装騎スネグーラチカを砲撃が襲った。

それは、言うまでも無く戦闘艇が放った銃撃の雨嵐。

銃撃に対してベルゼビュートを守ろうと装騎スネグーラチカが魔術障壁を張る。

「そこが狙い目」

魔術障壁の特性として、防御の支点となっている場所から離れれば離れるほど魔力が薄くなり、防御力が下がるという欠点がある。

ルイはそこを狙っていた。

装騎スネグーラチカの魔術障壁は、今間違いなく戦闘艇からの砲撃に魔力を集中させている。

と、なるとその正面以外の障壁は脆く、撃ち抜ける可能性もある。

「本当は真後ろがベストだけど――――」

だが、それはさすがに叶わない。

代わりに、砲撃により出来るだけ魔力が薄くなり、尚且つ、障壁の正面から弾丸を通せる場所を探しスタンバイした。

ベルゼビュートのアズルを全て射撃に回す。

移動も何も考えない。

ただ、照準のその向こうにある“的”ベルゼビュートを射抜く事だけを考える。

戦闘艇の援護射撃が止むより前に――

「不意を突く!」

持てるアズル全てを乗せた弾丸が、ルイ=ベルゼビュートの持つレールガンから放たれた。

チャイカは感じていた。

戦闘艇から放たれる射撃の奇妙な単調さを。

奇妙な違和感。

奇妙な胸騒ぎ。

奇妙な――奇妙なこの感じはすぐに気のせいではないと言う事をチャイカに知らしめた。

「!! これは、ウチの障壁が――――!」

障壁が、綻ぶ。

側面から放たれた弾丸によって、一点に穴が穿たれた。

「まさか――――狙撃!?」

戦闘艇の射撃によって気を反らした状態から、魔力が薄くなっている側面からの狙撃。

その一撃は、的確に――――ベルゼビュートの首元からコックピットブロックを撃ちぬいた。

「くぅ――――っ!!!」

魔力障壁を破られたチャイカの装騎スネグーラチカが、戦闘艇の激しい銃撃に晒される。

そう簡単にセラドニウムの装甲を突き破ることは出来はしない、が、その衝撃はチャイカを揺さぶり、その熱はチャイカを焼いた。

「障壁を――――もう一度……っ」

チャイカがそう呟いた瞬間、装騎スネグーラチカを揺さぶっていた激しい銃撃がピタリとやんだ。

「少し――――遅かったか……」

そう呟くのはカラスバ・リン。

一方、アレクシ隊を初めとしたマスティマ連邦部隊内で通信が飛び交う。

「戦闘艇がやられたか――だが」

「目標は達成しましたよ!」

「撤退だ! 本当は完全にARM-B1を破壊しておきたかったが……これ以上は無理そうだ」

そういうアレクシ隊とサンドリヨン部隊も、ブローウィングとの交戦によって満身創痍の状態だった。

母艇に乗り込むアレクシ隊と残存サンドリヨン部隊。

「先輩、マス連部隊が逃げていっちゃいます!」

「追う必要は無い。アラモード、ブローウィングは先に撤退しなさい」

「先輩は?」

「先に行ってなさいって。私は少し遅れるわ」

「はあ」

撤退するマスティマ連邦部隊を尻目に、チーム・ブローウィングも撤退を始める。

「チャイカ先輩!」

「大丈夫かチャイカ!?」

「大丈夫、ですわ……ですが――」

「とりあえず帰ろう。それからだ」

装騎スーパーセルがボロボロになった装騎スネグーラチカを運び、装騎プティがベルゼビュートを運び、離脱。

そんな戦場の先――――1騎の装騎が静かに何かを待っていた。

「――来たな」

それは、カラスバ・リンの装騎コクヨク。

そして、彼女が見つめる先から向かい来るのは装騎母艇。

「前方に機甲装騎です!」

「ルイか――? いや、違う。あれは!!」

「マルクトの装騎です! 傭兵と戦ってた!!」

「先回りをしていたのか!? 単騎で!?」

騒然となる装騎母艇の内部――それに構わず、装騎コクヨクはブースターを吹かし、その刃を装騎母艇へと――――――突き立てた。

「殲滅目標クリア――――こちらカラスバ。帰還するわ」

静かにそう報告すると、装騎コクヨクはブローウィングへ合流しようとその場を離れる。

その後、仲間と合流しようとしたマリーア・ルイが殲滅された味方部隊と、ただ1人、デュマ・アレクシのベルゼビュートに守られるように残された、半壊状態のベルゼビュート――――その中で気を失うアルノー・ジョゼを発見することになるのはまた別の話。


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