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機甲女学園ステラソフィア  作者: 波邇夜須
悪魔の名を持つ新型
107/322

黒鴉と死毒鳥

「単騎でワタシに向かってくる! ――良い獲物だわ」

「待て傭兵! ここは我々の指示に――」

「とか言ってる場合なの? アンタの部下――――突っ込んで行っちゃったけど?」

「くっ――――落ち着けジョゼ! 突出しては確実にやられる――――連携を大事にするんだ!」

先行しようとするジョゼをアレクシが制するのを尻目に、アルジュは自らを狙っているであろう1騎のマルクト騎へと騎体を向けた。

「傭兵! 傭兵アルジュビェタっ!!」

「ワタシは自由に戦うっていう条件でアンタ達と契約結んでんの」

「だが!」

「あー、無線が、相性、悪い――――あー、ザンネンムネン、通信途絶!」

アルジュはそう言うと無線を切断。

「それに、あの装騎――――レアな匂いがプンプンするね。鹵獲できたら最っ高だけど……」

そう呟く間に、アルジュの装騎チェルノボーグとリンの装騎コクヨクは主戦場からややそれた場所で接触する。

間違いなく、互いに一騎打ちをするつもりなのだ。

「さて――――噂の傭兵、どんなものなのかしらね……」

リンの呟きと共に、唸りを上げる連鎖刃断頭剣エグゼキューショナーズチェーンソーが装騎チェルノボーグに振り下ろされた。

ギィィイイイイイイイイン

その1撃を、装騎チェルノボーグはエキスパンダーの様な形状の超振動ウェーブワイヤーで受け止める。

「見た事の無い装騎よね――――ジェレミエル、よりはルシフェルに近い感じか……」

「ふぅん……思いのほかやるじゃない」

最初の1撃はシンプルにして静か。

だが、互いに何かを感じ取っていた。

「でも――ベロボーグじゃあ出力が足りないわね」

リンはそう言いながら、素早く限界ギリギリまでアズルの出力を上げる。

少しでも過剰放出してしまえばバッテリーが切れてしまう程の出力――――その力によってエグゼキューショナーズチェーンソーの唸りが更に大きくなる。

「出力を上げた!? ――――くっ」

それを察したアルジュは、身をかわしながら手に持った超振動エキスパンドワイヤーを手放した。

そのエキスパンドワイヤーは装騎コクヨクの1撃によって、千切れる寸前。

「でも、このままッ!」

アルジュはエキスパンドワイヤーを手放したことにより、勢い余って隙ができる装騎コクヨクに超振動ワイヤーによる一撃を加えようと考えていたのだ。

だが、リンがそう易々と隙を作るはずもない。

振り下ろしたエグゼキューショナーズチェーンソーを素早く突きの形に持っていくと、両手でワイヤーを構える装騎チェルノボーグへとその切っ先を奔らせた。

「うっわ!?」

不意を突かれたアルジュだが、エグゼキューショナーズチェーンソーの切っ先は丸くなっている事も幸い。

ワイヤーに切っ先が当たったことで、装騎コクヨクの1撃は装騎チェルノボーグの脇を抜ける。

「行けるッ!!」

アルジュはそのまま、装騎チェルノボーグを装騎コクヨクの右わきへと飛び込ませた。

そのまま、ワイヤーを用いて装騎コクヨクの胴体を切断するつもりなのだ、が。

「させないっ」

装騎コクヨクはエグゼキューショナーズチェーンソーを握っていた右手を離すと、そのまま右腕で装騎チェルノボーグへ肘打ちをする。

ガツンと激しい衝撃が装騎チェルノボーグを襲う。

装騎コクヨクの肘打ちでよろめく装騎チェルノボーグは――――だが、黙ってやられるはずもない。

「クッソぉ!!」

右手でワイヤーを鞭のように装騎コクヨクの右腕に叩き付け、絡め取る。

「――――ッ!!」

「フッフーン!」

そして、ワイヤーの超振動機能をオンに――――ギギギィィイイイイイイと火花を散らし、装騎チェルノボーグの超振動ワイヤーは装騎コクヨクの右腕を切断した。

「へぇ……想像以上ね」

だが、以外にもリンの表情に焦りは感じられない。

残った左腕で悠然とエグゼキューショナーズチェーンソーを構えると、装騎チェルノボーグから少しの距離を取る。

かと思ったのも1瞬。

バックパックに備えられたブースターを全開にすると、瞬時に装騎チェルノボーグとの間を詰めた。

「なっ――!?」

その緩急に、アルジュはついていけない。

だが、驚異的な直感力も合わせ、正面から一直線に突っ込んでくる装騎コクヨクに――――装騎チェルノボーグは腰に備え付けられた“ナニか”を射出した。

それは、腰側部に取り付けられた単発式のワイヤーダガーガン。

超振動ダガーの柄頭から伸びたワイヤーが、その軌跡を描きながら、装騎コクヨクへと真っ直ぐに向かっていく。

超振動ダガーの剣先が装騎コクヨクを捉えんとした刹那、不意に装騎コクヨクの体が捻られ、アルジュの視線から消えた。

「こんにゃろッ――――!!」

先ほどから中々思い通りに戦えない苛立ちに、アルジュが声を上げる。

そんなアルジュを知ってか知らずか、口元に僅かな笑みを浮かべるリン。

リンが駆ける装騎コクヨクは、ブースターに振り回されるように、グゥン! と回転しながら装騎チェルノボーグの背後へとまわった。

これはクインテットブースターと呼ばれる強力な複数のブースターを持つPS-XSサマエル型をベースとした装騎コクヨクだからこそ出来る、無理矢理な高速駆動。

その代り騎使への負担も大きく、並の騎使であれば即失神ものだ。

「取った――!」

「やられた……ッ!!」

本来であれば、そのまま左手に持ったエグゼキューショナーズチェーンソーをブースターの勢いに乗せたまま振り払えば決着はつく。

だが、リンは――――振り払う左手のエグゼキューショナーズチェーンソーの向きを変えた。

その刃ではなく、腹の部分が装騎チェルノボーグを捉える。

「うっ、がぁ!?」

激しい衝撃が装騎チェルノボーグに叩き付けられる。

その衝撃で、地面に伏す装騎チェルノボーグ、その右腕を踏み付け、背後――――コックピットの真上にエグゼキューショナーズチェーンソーの切っ先を当てると、リンは言った。

「へぇ――噂の傭兵も意外と呆気ないモノね」

「くっ――――何よ。アンタ、わざわざそんなこと言うために平打ちしたのか!?」

その声は、どうやらアルジュにも聞こえているよう――――いや、リンは相手と話をする為にわざと装騎同士を接触させたのだ。

「アナタ、金を払えばどんな組織にもついてくれるの?」

「――――は?」

リンの放った言葉に、アルジュは本気で意味わからないという反応を示す。

「何? 最近はマルクトでも傭兵雇ったりすんの?」

「まさか――――ウチマルクトは外部の人間は信用しないわ。ウチはね」

「だろうね。まぁ、個人的に――――アンタはいけ好かない。コッチからお断り」

「ふん――態度のデカい傭兵ね」

「相手の足元を見るのがワタシの戦い方なものでね」

「そうね――そんなマルクトでは民間騎レベル以下の装騎で軍用騎を――それも単騎で獲るなんて出来る騎使はアナタくらいだもの」

「んで、そんなこと言い出すアンタの意思はナニよ」

リンの行動を不審に思ったアルジュはそう問いかけるが、リンは何も答えない。

暫くの沈黙。

「だぁ、もうッ!」

その空気に耐えかねたように、アルジュは叫び声を上げると、不意に装騎チェルノボーグの右腕をパージ。

そのまま、思いっきり地面を蹴りだし装騎コクヨクの元から飛び出すと、腰部背面に装備された超振動トゥルスを投擲した。

装騎コクヨクがエグゼキューショナーズチェーンソーを用いて投げ放たれたトゥルスを弾いてる間に、装騎チェルノボーグは一気に距離を開ける。

「ダメな時はさっさとトンズラ――――これもワタシの戦い方よっ」

撤退するアルジュの装騎チェルノボーグに、リンは追撃する意思は見せなかった。

ふとリンが目を向けると、強烈な砲撃の閃きが目に入る。

「あれは――装騎じゃないな…………陸艇か」

その言葉通り、レーダーに大型の反応が1つ映った。

それは、増援を乗せてチーム・ブローウィングとアレクシ隊が交戦している地点を目指す陸上装騎母艇だ。

「となると――後方に戦艇か。まぁ、母艇程度ならアイツらでなんとかなるだろう」

リンはそう呟くと、装騎コクヨクのブースターを吹かせ、右腕を喪失した状態でありながら、陸上戦闘艇目指して駈け出した。



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