警備隊襲撃
「JUST!! 行くわよアナタ達――――GO! ブローウィングGO!!」
時刻は1700時。
マルクト神国西部――マスティマ連邦との国境線で、カラスバ・リンの言葉に従い、チーム・ブローウィングの4騎が駈け出した。
「まずはマス連の国境警備隊を襲撃――――友軍騎の脱出を支援するわよ」
「諒解!」
国境付近の警備隊は、すでに戦闘態勢に入っている。
国内での出来事(マルクト諜報員によるベルゼビュート奪取)が通達され、脱出に備えていたのだ。
その国境警備隊の装騎へワシミヤ・ツバサの装騎スーパーセルが12mmバーストライフルの炎を吹かす。
「敵襲――ッ!!」
マスティマ連邦の国境警備隊が用いる装騎はSDB ARM-07サンドリヨン。
P-3500が現れた今となっては完全に前時代の装騎ではあるが、それ以前は初めて魔電霊子機関を搭載した画期的な装騎として世界中に認知されていた。
装騎スーパーセルの銃撃を受けた1騎のARM-07サンドリヨンは青白い輝きを吹き出し、炎上する。
「数は――――残り11騎か。余裕ね。そうだろう?」
「先パァイ……ちょっと自信満々過ぎですよぉ――!」
不敵な笑みを浮かべながらそう言うリンに、アラモードが叫んだ。
「そうかしら――? どうなの? ブローウィング」
「モチロン、楽勝で勝って見せますよ」
「リーダーがそう言うのでしたら、ウチもガンバリますわ」
「蹴って蹴って蹴りまくるんですよぉぉおおおおおおおおおおお!!」
「い、行きますっ!」
「それじゃ――各自、殲滅ッ!」
「諒解ッ!!」
カスアリウス・マッハの装騎チリペッパーが先陣を切る。
その高速の機動力で、一気にARM-07サンドリヨンへと接近。
「行くんですよッ! マッハ蹴りッ!!」
そのまま、右足でARM-07サンドリヨンを蹴り上げた。
よろめいた所に、さらに左足の1撃――足の裏に装備されたキックバンカーからアズルを流し込み――ARM-07サンドリヨンを破壊する。
「よっしゃあ、アタシらも負けてられねーな!」
必死に電磁投射砲を撃ってくるARM-07サンドリヨンだが、そのアズル出力ではマルクト装騎の装甲を破るなど不可能だ。
強引に射撃の雨を突破したスーパーセルは、両腕のワイヤーアンカーで2騎のARM-07サンドリヨンを掴みとると、ARM-07サンドリヨン同士をぶつける。
「チャイカ――!」
「承知ですわ! ――魔力、」
瞬間、テレシコワ・チャイカの装騎スネグーラチカが魔力を右腕のスナイパーライフル・リディニークに溜め込み――――解き放った。
「砲撃ッ」
2騎のARM-07サンドリヨンは、魔力の奔流に呑まれ、火を噴き、アズルを噴き、撃破される。
「残りは8、ですわ!」
「サエズリ・スズメ、スパロー行きます!」
サエズリ・スズメの装騎スパローが超振動ナイフを両手に構え、飛び出した。
スパローに狙いを付けられたARM-07サンドリヨンは、超振動サーベルを構える。
その背後に2騎のARM-07サンドリヨンがレールガンを構え、援護射撃を行った。
装騎サンドリヨンのアズル出力、容量ではレールガンを使用した場合の消費アズル量が多すぎる為、移動などの行動ができない。
その為、普通レールガンを運用するのであれば援護射撃する装騎と格闘での一撃を狙う装騎のチームで行動するのが定石。
「でも――まだまだ、ですね」
援護射撃を行うARM-07サンドリヨンだが、その位置がアタッカーに被り過ぎた。
真っ直ぐアタッカーとなるARM-07サンドリヨンへ駆ける装騎スパローへは、アタッカー自身が壁となり――――通らない。
後衛の2騎が、装騎スパローを射撃するのに適切な位置へと移動しようとした瞬間。
「ムーンサルト・ストライク!」
装騎スパローは宙を舞った。
敵の目には、装騎スパローが突如として消え去ったように見えただろう。
装騎スパローのジャンプアタックはマルクト国内では広く認知されている。
その情報は、他国にも入っている可能性はある。
だが――、装騎史上初めて自身の能力による跳躍戦闘を可能とした装騎スパローの機動に――ついて来れるはずはなかった。
「一つっ!」
スズメの言葉に合わせるかのように、スパローのナイフで援護射撃をしていた2騎のARM-07サンドリヨンの内、1騎が破壊される。
そのまま間髪入れずに、撃破したARM-07サンドリヨンのボディを蹴ると跳躍。
「二つっ!!」
もう1騎の援護騎の懐へと飛び込むと、ナイフを振りかざし――突き立てた。
「マッハ先輩!」
「モチロンなんですよォォォオオオオ!! オラオラァッ!!」
一瞬で2騎の援護騎が撃破され、焦りが見えたアタッカーのARM-07サンドリヨン。
そこに、装騎チリペッパーの脛部レーザーブレード――キックブレードが襲い掛かる。
鋭い輝きと切れ味を持ったその一撃は、装騎ARM-07サンドリヨンの装甲を容易く切り裂き、コックピットを真っ二つにした。
敵の数も残り5騎となった所で、連絡が入る。
「――来たわ。チーム・ブローウィング、マルクトの諜報員が来るわ」
「ついでに敵の追っ手もですよぉ!!」
レーダー圏内に一騎のUNKNOWN騎が表示される。
「ベルゼビュートとは通信は出来ない。テレシコワ――魔力探知を」
「諒解ですわ!」
リンの言葉に従い、チャイカは精神を落ち着かせると、魔力の波紋を戦場に往き渡らせた。
その波紋は、レーダーの有効範囲を遥かに超えてチャイカへ“直感として”情報を齎す。
「追っ手の数は?」
「恐らく――5騎ですわ」
「5――? 本当にソレだけか?」
「ええ――ですが……この感じ、P-3500ベロボーグ――それとあのUNKNOWN騎と同じアズルを感じましたわ」
「つまり――」
「追っ手はベロボーグが1騎。他の4騎がベルゼビュートですわ」
「まさか!」
チャイカの言葉に反論したのは、アラモードだ。
「ARM-B1ベルゼビュートは最新型ですよ!? ありえないです!」
「そうかしら? 最終テスト扱いで追撃に出させた、とか?」
「そうだとしたら中々豪胆ですよ!」
「嘘か本当かはすぐ解るでしょアラモード。備え過ぎて悪いことは無いわ。それに、私が引っ掛かるのはARM-B1じゃないわ」
「ええ!? もしかして、たった1騎いるベロボーグが気になるんですか? 確かにバチガイですけど」
「そうよ。たった1騎のP-3500が引っ掛かるわ――――もしかしたら死毒鳥かもね」
「ピトフーイって……あの傭兵ですか!?」
「こちらチーム・ブローウィング! 国境警備隊のサンドリヨン全騎、掃討完了しました!」
「オーケー、それでは各自UNKNOWN騎の援護に。テレシコワは増援の気配を探知しておけ」
「今のところ増援の様子はありませんが――」
「来ないはずは無いな。すぐに保護する」
必死に5騎の装騎の追撃から逃れるUNKNOWN騎。
そこへ接近するチーム・ブローウィングの4騎と、リン、アラモードの2騎。
「あれは――黒い、ベロボーグ!? まさかクイーンの報告にあったヤツか!?」
ツバサが目にしたP-3500ベロボーグは、その騎体を漆黒に染め、後続の装騎を3倍以上に引き離しながらUNKNOWN騎へと肉薄していた。
「間違いないな――黒いベロボーグ……チェルノボーグを操るルシリアーナお抱えの傭兵……」
「ピトフーイのアルジュビェタ!!」
リンの直感が的確したことに、アラモードは驚きを隠せない。
以前のチェンシュトハウへの侵攻戦に於いて、チーム・シーサイドランデブー4年マーキュリアス・クイーンが交戦した傭兵ピシュテツ・チェルノフラヴィー・アルジュビェタ。
彼女が、今回の追撃に参加していた。
「クイーンが苦戦したっていう傭兵か……ちょっと戦ってみたい気もするな」
そう呟くツバサに、
「だが下がれツバサ。ここは――私が出る」
リンがそう言い放つと、自らの装騎――コクヨクのブースターを全開にし、駈け出した。
カラスバ・リンの装騎・黒翼――それは、PS-XSサマエルと呼ばれるタイプの装騎を独自改良したものだ。
PS-XSサマエルとは、マルクト初のアズルリアクター搭載の装騎PS-Lルシフェルの量産化を目指した試作騎。
少数精鋭での他国突破が望まれた当時、過剰なスペックが要求され量産の難しかったルシフェル型の生産性を上げると言うコンセプトで設計された装騎だ。
しかし、複雑で量産には向かないルシフェル型の思想を引きずり過ぎた挙句、軽量な本体に過重量の背部ブースターと言う事で軽量騎とするにはブースターがデッドウェイトとなり、重量騎とするには装甲、フレームが弱過ぎるという欠点を持っている。
加えて、過重量となる背部ブースターによって重心軸が後方へとズレていることが扱い辛さをなお引き立てた。
正直なところ、“欠陥騎”なのだが――それが彼女、カラスバ・リンの愛騎だった。
「アラモード、後輩たちのへの支持をお願いね」
「わ、分かりました! い、一生懸命頑張ります!」
「さて――――噂の傭兵、どんなものなのかしらね……」
リンはそう呟くと、装騎コクヨクが手にした連鎖刃断頭剣が唸りを上げる。
そして、装騎コクヨクの刃がチェルノボーグに振り下ろされた。