諜報員護衛任務
「オマエ達はマスティマ連邦の新型装騎について知ってるか?」
6月25日木曜日。
ブリーフィングルームに集められたチーム・ブローウィングの4人に、チューリップ・フランデレン先生は問いかける。
「新型――――? そういう話は聞いたことないですね」
「そろそろ出てくる頃だとは思っていましたけど……もしかして?」
フランはスズメの言葉に頷いた。
「ああ、そうだ。マスティマ連邦に潜入している諜報員から連絡があった」
フラン先生は、その画面に1つの映像を映し出す。
SDB ARM-B1と言う名称と共に表示されたその装騎はパーツパーツは四角く無骨な印象を与えるが、全体的には独特な丸みを感じさせる不思議なデザインをしていた。
特徴的なのは、胸部に設置されたテレビ画面のようにも見えるカメラだろうか。
マルクトの多くの装騎にあるように、頭部には目のようなものは存在せず、目隠しをされているような装騎だ。
「SDB ARM-B1――言うなればB1装騎とでも呼ぶべきか。マスティマ本国では“ベルゼビュート”の愛称で親しまれている」
「ベルゼビュート――蠅の悪魔の名前ですか……」
「天使の名を持っている我々の装騎に対する皮肉だろう。このベルゼビュートはルシリアーナ帝国のP-3500ベロボーグを輸入して作り上げたマスティマ連邦の独自騎体だな」
「と、言う事はP-3500並の性能があるんですか?」
「カタログスペックでは、P-3500以上と言う報告だが――P-3500の実騎も公表スペックからはやや落ちる部分がある――――まぁ、要警戒対象ではあるな」
「そのベルゼビュートと、今回の実地戦に何か関係がありますの?」
「大アリだ――今回のチーム・ブローウィングの実地戦はマスティマ連邦に潜入した諜報員の護衛となる」
「“潜入した”諜報員の護衛ってことは――――」
「そうだ、本日1700時に諜報員がマス連からARM-B1を奪取し脱出してくる。我々の任務は脱出してきた諜報員を出迎え、マルクト国内まで護衛することだ」
「マスティマの新型装騎を奪取ですかァ!?」
「無茶なことをいたしますわね……」
「今回の任務は、ワタシの代わりにこの方々が同行する」
フラン先生の言葉に促され、2人の人物が姿を見せる。
それは、スズメも見覚えのある人物。
「今回の実地戦、チューリップ・フランデレン騎使団長に代わってチーム・ブローウィングの指揮を執るわ。カナン中央憲兵団憲兵長カラスバ・リン騎使団長よ」
「同じく、情報部所属――アランディナ・モード、上等騎使、です……よろしくお願いしますね」
「カラスバ先輩!? 何で先輩が」
元チーム・ブローウィング1期生で憲兵長を務めるカラスバ・リン。
そして、同じく憲兵に所属するリンの補佐的存在であるアランディナ・モード。
その2人が今回の監督講師代理だった。
「今回の諜報員はカナン憲兵の人員なのよ。だからリーダー自らお迎えに、ね」
「別に自らお迎えに行く必要は無いんですけどねぇ」
「アラモード、余計な事を言うんじゃないの」
「っていうか、なんでわたしまで行くことになっているんですかぁ……わたし情報部ですよ情報部!」
「たまには外に出なさいっていう上司からの気遣いよ」
「そんな気遣い要らないですって!」
「――――カラスバ憲兵長……そろそろ、宜しいでしょうか?」
やや口ごもりながらも、そういうフラン先生に、リンは頷く。
そして、リンが口を開いた。
「それじゃ、各自装騎に搭乗。ブリュッセルのマスドライヴァー基地ロトで作戦時間まで待機。良いわね?」
「「「「諒解!」」」」
「なんですよー!!」